SCENE 21

　翌朝、先に目を覚ましたのは卓也だった。
　自分が妙子らのベッドに寝ている経緯をよく覚えていない。
　あわてて飛び起き部屋の外へ出る。嘘のように身体が軽い。
「おばさん。妙子おばさん」
　廊下で呼んでも返事はない。
　リビングへ入ると妙子が目を覚ましたところだった。
「ごめんね。俺、ベッド占領しちゃったみたい‥‥」
「おはよう、卓也君。ちがうのよ。わたしがあそこへ寝かしたの」
「俺‥‥よく覚えていないんだ‥‥どうしてだろう‥‥」
「まだ具合が悪かったのよ、きっと。まだ休んでなきゃだめよ」
　やはり、夕べのことは何にも覚えていないのだ。少し安堵し、少し残念だと思う妙子だった。
「熱は？」
　そう言いながら卓也の額に手をあてる。
「大丈夫みたいね。お腹はすいてる？」
「うん。もう元気だよ」
　卓也の笑顔を見て胸がキュンとなる。
「じゃあ、用意してあげる」
　キッチンに向かう妙子の後ろ姿、スエットパンツに包まれた丸くてよく動くヒップを卓也は眺めていた。

SCENE 22

「妙子おばさん。安藤が見舞いに来るって。どうしよう」
　食事を終え自分の部屋に戻った卓也が携帯を片手に降りてきた。
「具合はどうなの？」
「もう平気みたいだけど‥‥」
「だったら来てもらえばいいじゃない。勉強会も延期になっちゃったし、ちゃんと説明しなくっちゃ」
「じゃあ、そうするよ」
　携帯のキーを打ちはじめる卓也。
　その姿を見て心にチクリと突き刺さるものを妙子は感じていた。
「それはそうと、何で俺、叔父さんのパジャマ着てるの？」
「夕べ、わたしが着替えさせたのよ。それも覚えてないの？」
「うん‥‥」
「もし大丈夫なら、お風呂に入った方がいいわよ。ガールフレンドが来るのに汗臭いままじゃ失礼でしょ」
「ちぇっ、まだ言ってら。そんなんじゃないったら」
　実際、熟睡の効果は劇的だった。病み上がりで身体に違和感はあるものの、自分でももう大丈夫だと思えるほど調子はいい。
「もう、明日から学校行けそうなんだけどなぁ」
「だめだめ。薬で気分がいいだけよ。お医者さんから三日間は安静にって言われているんだから」
　そんなことを話しているうちに卓也の携帯が鳴った。
「安藤からメールだ‥‥学校が終わったらすぐ来るって」
「とにかく、お昼までは寝てなさい」
「はーい」
　卓也が倒れてから狂ってしまった歯車が、ゆっくりと元に戻っていくような感じだったが、妙子の心には澱のように卓也に対する気持ちがわだかまっていた。心のどこかで卓也を男として意識してしまっているのだ。

SCENE 23

「思ってたより元気でよかった。すっごく心配したんだから」
　夕方に恵美子がやってきた。卓也の顔を見るなりそう言った。学校から直接来たみたいで制服のままだ。
「勉強会、延期になっちゃって悪いな」
「そんなこと‥‥もう大丈夫なの？」
「うん。熱出してからのことはあんまり覚えていないんだけど、今日はぜんぜん調子いいよ。熱も平熱に戻ったし」
「どれどれ」
　恵美子がふざけて卓也の額に手をあてる。
「おふくろみたいなことすんなよ」
　言った瞬間、では妙子はどうなんだろうと思った卓也だった。
「看病したかったのに‥‥」
　母親の話題が出たので恵美子がシュンとなる。
「あのねえ、俺たちは受験生なの。気持ちはうれしいけど‥‥」
　そのときドアがノックされた。飲み物とお菓子が乗ったトレイを持って妙子が入ってくる。
「安藤さん。ごめんね。せっかく今日から勉強会はじめるつもりだったのに」
「いえ、いいんです。それより三上くん、どうなんですか？」
「お医者さんに三日間は安静って言われてるのよ。どうやら、このまま夏休みに入っちゃうそうね」
「だったら、わたしが明日も学校のことを伝えに来ます」
　その言い方に、この娘が卓也に思いを寄せているのだと理解した妙子だった。それでも断る理由はない。
「そうしてくれると助かるわ」
　妙子は笑って答えたが、心のどこかでジェラシーみたいなものが沸きあがってくるのを感じていた。
　結局、勉強会は二日後の終業式の午後からはじめることになった。妙子は、揃える参考書や過去問題を教え、卓也の体調に響くからと早々に恵美子を帰してしまった。我ながら大人気ないと思いながら、感情の制御ができなかったのだ。
　その日も卓也は睡眠導入剤の力を借りてぐっすりと眠った。

SCENE 24

　翌日、卓也は絶好調だった。
　いくら高熱を出したとはいえ、三日目ともなれば寝ているのも飽きる。それに睡眠も十分だし、あの日から出してもいない。朝起きたときなどギンギンになって痛いほどだった。
　朝食を終え、部屋で寝ていると妙子がやってきて「買い物に行ってくるけど昼には戻る」と告げた。
　卓也は我慢できずに階下へ降りランドリーボックスを開ける。しかし、洗濯は終わっていて中身は空だった。
　がっかりした。それでも出したいという欲望は収まらない。しかたなく使用前のものでもいいと思い、寝室へ入っていく。
　タンスの中から、あの白いシルクのショーツを見つけ、匂いを嗅ぎながらパジャマのズボンを下ろす。そのときだった。突然ドアが開き妙子が入ってきたのだ。もう妙子は買い物に出かけたものだと勘違いしていたのだ。
「わぁっ！」
　卓也は泣き声とも叫びともつかない声を上げた。
　事態が掴めていない妙子は固まっている。
　おしまいだと卓也は思った。
「ごめんなさい‥‥妙子おばさん。おれ‥‥妙子おばさんが来てから‥‥妙子おばさんのことしか考えられなくなって‥‥おれ、変態になっちゃったんだ‥‥我慢ができなくて毎日、毎日、妙子おばさんの下着でオナニーしてたんだ‥‥何回も、何回も‥‥自分でも分からないんだ‥‥どうしてこんな変態になっちゃったのか‥‥」
　それは血の出るような叫びだった。
　妙子はまだ固まっている。
「こいつが‥‥こいつが悪いんだ‥‥どうしても我慢できなくなっちゃうんだ！」
　そう叫びながら、卓也はまだ勃起しているペニスをものすごい勢いで殴りはじめた。
　その光景を見て、恵美子は無意識に駆け寄り卓也を抱きしめて行為をやめさせた。
「やめてっ！　卓也君。あなたは変態なんかじゃない！　男の子なら我慢できなくて当たり前なの。わたしがもっと気をつければよかったのよ。だから、やめてっ！」
「これで、もうおしまいだぁ‥‥妙子おばさんにも会えなくなっちゃう‥‥」
　卓也がへたり込む。
「そんなことないから‥‥わたしはここにいるから」
　妙子も必死だった。
　もしここで卓也が第二の女性を失ってしまったらどうなるか分からない。それ以上に、妙子自身が卓也の気持ちに衝撃を受けていた。
「だって‥‥また俺は我慢できなくなっちゃうに決まってるんだ‥‥そしたら‥‥」
「卓也君、毎日してたの？」
　卓也は泣きながらうなずく。
「何度やってもここのモヤモヤが取れないんだ‥‥」
「可哀想に‥‥」
　妙子は卓也の傍らに寄り添い、自然な動作で半ば萎えたものを手のひらに包んで、しごきはじめた。
「た‥‥たえこおばさん‥‥」
　妙子の意外な行動に卓也はうろたえた。しかし、その慈愛に満ちた手のひらの感触に陶然となる。
　まるで別の生き物のように蘇っていくペニス。
　卓也のものは逞しく信じられないくらい硬かった。サイズだって静雄のものよりひとまわり大きく太い。これが欲しいと妙子は本気で思った。そんな想いも手伝って気持ちを込めて愛撫する。
　屹立はますます硬度を増す。
「だ‥‥だめだ‥‥出ちゃうよ‥‥」
　限界を悟り卓也が遠慮がちに言う。
「いいのよ。出して」
　耳元で優しくささやかれたとき、卓也は思いきり噴出した。
　ビュッ、ビュッ、と二回に分けて精液が勢いよく飛び出した。
　こんな幸せはないと思った。

SCENE 25

　しばらくの間、妙子は卓也の肩を抱いたままでいた。
「卓也君、約束して。毎日何回も自分でするのは身体に毒よ。どうしても我慢ができなくなったときだけ、わたしが今みたいにしてあげる。そんなことばっかり考えていたら勉強だってできなくなっちゃう。だから、分かったわね？」
「ほ、ほんとに‥‥」
「それから、わたしの下着を使うのはやめて。女にとってはものすごく恥ずかしいことなのよ。約束して」
「うん‥‥」
　ちょっぴり残念だったが卓也は素直にうなずく。
「もうひとつ、一番大切なこと‥‥」
「なに？」
「これは二人だけの秘密。誰にも言っちゃだめよ」
「もちろん‥‥誰にもいわないよ‥‥妙子おばさん‥‥ありがとう‥‥」
　そう言って卓也は立ち上がり寝室から出て行った。