６．

　日曜日、梨香と会う約束をしていた恵太郎は、疲れた全身を励ましながら、店の前まで来ていた。
　店に入ろうとした恵太郎は、とんでもない事に気がついた。
（「いけない。約束をしていたのは彩ちゃんだった。・・間違えた・・」）
　疲れて寝過ごした恵太郎は、ぼんやりとした頭のまま、相手を間違えて、ここまで来てしまったのだ。
（「どうしよう。まさかここまで来て、このまま引き返す訳にはいかないし・・」）
困った恵太郎は、一応、梨香には挨拶だけをして、急いで彩の元へ向かう事にした。今ならまだ、少し遅れるだけで間に合うかもしれない。
　店に入った恵太郎は、いつものようにケーキを買い、梨香には今日はケーキを買いに来ただけなんだ、と告げて急いで店を出た。
　ところが梨香の方は、恵太郎の異変に敏感に気がついていた。
（「おかしいわ。いつも私が家にいる時間を確認して帰るのに・・それに、なにか待ちあわせがあるみたいに急いで。」）
　恵太郎の行動を不審に思った梨香は、その日は仕事を早めに切り上げて、恵太郎に会いに行くことにした。

　その日の夕方、梨香は恵太郎の家の前の目立たない場所で、彼が帰ってくるのを待っていた。
　今までは、二人が会う時の約束として、梨香の方からは恵太郎に会いに行かないことになっていた。
　それは、自分と高校生の恵太郎が、深い関係にある事が周囲に知れるとまずいからで、最初に梨香が決めた事だった。
　だけど今回だけは特別だわ、梨香は今、そう思っていた。
　やがて、家の前に人影が現われる。
　梨香は、恵太郎が一人で帰ってくると思っていたが、その人影は男女のペアだった。
（「やっぱり・・」）思いがけないところで、恵太郎の知らない一面を見た梨香は、彼らに見つからないように身を隠した。
　二人は、仲良く手を繋ぎながら、こちらにむかって歩いてくる。
　顔が判るくらいまで近づいた二人をよく見ようと、梨香が瞳を凝らす。すると・・
（「えっ？・・まさか？・・中学生？！」）
　よく見ると恵太郎の相手の女性は、彼よりも明らかに若い、中学生と思われる女の子だった。
　梨香は恵太郎の相手にびっくりしていた。もしこれが浮気なら、相手はどんな素敵な女性なのか、見てみたい思っていたのだ。

　二人は家の前に到着すると、恵太郎だけが家の中に入って行った。
　一旦、家の中に入った恵太郎は、すぐに何かを手に持って出てくる。
　そのまま、その箱のようなものを相手の女の子に手渡した。
　女の子はその場で封を開け、中を確認すると、嬉しそうに恵太郎に抱きつく。
　どうやら、バレンタインのお返しのプレゼントのようだ。
　この時、梨香は、過去一度も、恵太郎から何かを貰ったことがない事を、思い出していた。
　しばらくすると恵太郎は、女の子を送るために、彼女と一緒にそこから歩き去った。

　残された梨香は、その場で凍りついたように動けなくなっていた。
　梨香は恵太郎よりかなり年上だったが、恵太郎との付き合いは真剣そのもので、他に恋人もいなかった。
　当然、恵太郎の気持ちも同じで、てっきり自分に夢中だと思い込んでいた。
（「私はなんなの？、ただのセックスフレンド？」）
（「性欲の処理は私にやらせて、本当に好きなのは、あの可憐な女の子という訳・・冗談じゃないわ。」）
　相手の女の子がかわいい中学生だった事で、美人で自尊心の強い梨香の嫉妬心に火が点いてしまった
。
　梨香の心の中で、悔しさがめらめらと燃え上がり、その美しい顔が、みるみる鬼の形相に変わってゆく。

　それから何日間かかけて、放課後の恵太郎の行動を調べた梨香は、彩の自宅と学校の場所を突き止め、さらに二人の関係をじっくりと観察していった。
　梨香から見た恵太郎は、彩の事をとても大切に扱っているようだった。
　明らかに処女だと判る彩のため、彩の嫌がることは彼女には要求せず、恵太郎のやりたい事も我慢しているように思えた。
　二人の行動から、恵太郎の心が明らかに彩に傾いていると感じた梨香は、次の行動を起こす事にした。
　ある日、中学の正門前で彩の事を待った梨香は、恵太郎の友人だと言って彼女に話しかける。
　それから、話があると言って、彩を近くの喫茶店に誘った梨香は、そこで梨香と恵太郎の関係を彼女に暴露した。
「恵太郎とは、毎週、私の自宅で会って、彼の精液を飲んであげる関係なの。」梨香は自信たっぷりに彩にそう告げた。
「う、嘘です！、先輩はそんな人じゃありません。嘘を言わないで下さい！」驚きで眼を一杯に見開いた彩は、それでも頑強に梨香の言葉を否定して、その内容を信じようとしなかった。
「信じないのは勝手だけど、これは真実よ。なんなら、自分の眼で確かめてみたら？」梨香は彩を揶揄うように、誘いをかける。
「ええ、いいですよ。」彩は青白い顔で、気丈にもこの誘いを受ける。
「本気？、後で後悔するわよ。」梨香は薄笑いを浮かべながら、畳み掛ける。
「構いません。」
「そう。・・わかったわ。それじゃ、今度、恵太郎が家に来る時に、事前にあなたに私の家の場所とその時間を教えるから、見に来て。玄関の鍵は開けておくから。」梨香はそう言って、彩を自分の部屋に招待する。
　こうやって梨香は、恵太郎の実態を暴露する残酷な見世物に、無理矢理、彩を誘き寄せる事に成功した。

　その日、梨香は、恵太郎がいつもと同じように店にやって来てから、自分のアパートの場所と二人が部屋にいる時間を、メールで彩に教えた。
　降り出した雨に濡れる歩道を見つめながら、梨香は（「みてなさい。恵太郎が誰のものか教えてやる。」）と、もう一度心の中で決意を固めていた。

７．

　恵太郎は思わず、ごくりと生唾を飲み込んだ。
　白の下着の上に、大きめの白のＹシャツを羽織っただけの梨香が、濡れてしまった恵太郎の服を乾かすために、それをハンガーに掛けて、部屋にぶる下げている。
　梨香が手を上に伸ばす度に、シャツの下裾からショーツの股間部分がチラッ、チラッと覗き、大きく開けた胸元から、白のブラに挟まれた豊かな胸の谷間が顔を出す。
　既に梨香の羽織っているＹシャツは、恵太郎の服に触れてべたべたに湿り、透き通ったその生地を通して、見事に括れた彼女のウェストや、白の下着のラインが浮き彫りになっていた。
　雨に降られ、濡れてしまった髪をタオルで拭いていた恵太郎は、その手を止めて、自分の股間に手を伸ばす。
　それから、既にテントを張っているズボンのファスナーを下に降ろすと、中から熱くなった自分自身を取り出した。
　梨香は、彼女の身体を眺めながら、楽しむようにゆっくりと自分のペニスを扱く恵太郎の姿に気づくと、
「あら、もう熱り勃っちゃったの？・・飲んであげましょうか？」と言いながら、長い舌を顎の先までぬらりと伸ばす。
　さらに、「それとも、このままストリップを楽しむ？」と、Ｙシャツの裾の脇の部分を、ゆっくりと腰骨の上までたくし上げてみせた。
　ハァ、ハァと大きく息を荒げた恵太郎が、丸見えになった梨香の長い脚を眺めながら、ゆっくりと彼女に近づく。
　待ち受けた梨香は、彼の胸に掌を押し当てて、恵太郎の歩みをやんわりと押し止めると、「焦らないで・・もう保たないでしょ？、一度抜いてあげる。」と言って、彼の足元にしゃがみ込んだ。
「あうっ！・・あぁ、梨香ッ・・それッ、堪らない・・おおぉーーっ」
　ブラを外し、胸の谷間にペニスを挟み込んだまま、恵太郎の下半身に抱きつき、彼の胸を舐め上げながら身体を上下させる梨香に、思わず恵太郎が、歓喜の悲鳴をあげた・・

　傘を差した彩は、教えられた梨香のアパートを見上げていた。
　しばらくそのまま、考え事をするようにその場に佇んでいた彩だったが、やがて意を決したように梨香の部屋に向かって歩きだす。
　ドアの前に立った彩は、傘を畳み、教えられた名前と表札を確認した。
　中からは、男女の喘ぎ声らしき音がきこえてくる。
　彩は思い切ってドアを開けると中に飛び込み、いきなり部屋の奥を覗き込んだ。
　彩の眼に飛び込んできたのは、仰向けに寝て大きく股を開き、恵太郎の首に腕を絡めた梨香と、その上に覆い被さって、夢中で腰を振る恵太郎の姿だった。
「！？・・先輩・・」言葉を無くし、そのまま凍りつく彩。
　物音に気がつき、後ろを振り向いた恵太郎の眼と、驚愕に見開かれた彩の眼がぴったりと合った。
「えっ？・・あ、彩ちゃん？・・なぜ・・」
「いやあぁーーっ！！」次の瞬間、彩は悲鳴をあげながら、そこから駆け出していた。
「あっ、彩ちゃん、待って！、彩ちゃん！」恵太郎はすぐに、ベッドから駆け降りて彩の後を追うとするが、梨香が両脚でしっかりと恵太郎の腰を挟み込んで、自分から離れる事を許さない。
「待って！、そんな恰好でどこに行くつもり、恵太郎。・・あの子は誰？、教えて。」恵太郎を問い詰める梨香。
　頭が混乱して、まだなにが起きたのかよく解らない恵太郎は、しどろもどろの口調で、「あ、あぁ・・後輩なんだ・・学校の・・でも、なぜ・・ここに？」と、答える。
「あの子の事が好きなの？」低い声で、さらに質問をする梨香。
「い、いや・・ただの友達さ。」おどおどした表情で答える恵太郎。
「ふうーーん、そうなの。・・でも、なぜただの友達が、わざわざ恵太郎のセックスを覗きに来て、ショックを受けたように逃げ出すのかしら？」梨香は意地悪く、恵太郎の困る顔を覗き込みながら、そう言った。
「・・さあ、それは、なぜだか解らない。」考え込む恵太郎。
　この時恵太郎は、梨香の態度の不自然さに気がついた。
「・・なんで梨香はそんなに落着いてるの？、いきなり他人が自分の部屋に踏み込んできたんだ。普通はもっと驚くだろ。」
「そ、それは・・」慌てる梨香。
「・・もしかして、彩ちゃんがここに来る事を知っていたのか？・・」
「そんな訳無いでしょ！、あの子とは、今日初めて会ったのよ。」
「嘘だ・・もしかして・・梨香が、僕がここにいる事を彩ちゃんに教えたの。そうなの？・・なぜ？・・なんでそんな酷い事をするの！」
「酷いのはどっちよ！、私を愛してるって言ったくせに。・・本当に愛してるのはあの子なんでしょう？、わかってるんだから！！」
　いつの間にか梨香は、涙を流しながら、半狂乱になっていた。
　この時になって初めて恵太郎は、梨香の激しい気性を知った。いままで彼女の美しい容姿に夢中になって、その事に全く気がつかなかったのだ。
「聞いて梨香。彩ちゃんの事を好きなのは事実だけど、梨香の事を愛してるって言ったのは嘘じゃないんだ。本当だよ。信じて。」恵太郎は、梨香の事を宥めるように静かな声で、彼女に話しかける。
　だが梨香は、「じゃ、なぜ彼女の事を抱かないの？、あの子とセックスをしないのは、彼女の事を大切にしてるからでょう。・・私みたいに汚してしまうのが惜しいからだわ！」と、凄い剣幕で食って掛かった。
　胸の中にある真実を衝かれた恵太郎は、思わず黙ってしまう。
「やっぱり図星みたいね。私と付合ってるのは、すきな時に抱けて、すきなだけ射精をさせてくれるからでしょう？。・・身体が欲しいだけなんだわ。」
「それは違うよ、梨香。」恵太郎は口ではそう言ったが、心の中では梨香の言った通りなのがわかっていた。
「なによ、その顔・・嘘でもいいから、それらしい顔をしてよ！！」
「梨香・・」
「うぅうっ・・屑・・大嫌い・・ううっ・・出ていって。」梨香は俯いて涙を流しながら、恵太郎を出口の方に押しやった。
「・・・」恵太郎はどうしたらいいか、わからずに、無言のまま玄関にむかう。
「さっさと出ていって！」
　恵太郎は素っ裸のまま部屋の外に追い出され、その顔に彼の服が投げつけられた。
　梨香の部屋の前で、凍えながら服を着る恵太郎。
　しばらくすると、部屋の中から梨香の泣き声が聞こえてきた。

８．

　その頃、彩は、雨に濡れながら、まるで夢遊病者のように、あてども無く夜の町を彷徨い歩いていた。
「・・先輩・・なぜ？・・本当は私の事好きじゃなかったの？・・からかっただけなの・・どうして？・・」
　譫言のように何かを呟きながら、虚ろな瞳で、ただ、よろよろと歩く彩の足は、そのまま夜の繁華街へと向かっていた。

「私を買ってくれませんか？」
　自暴自棄になっていた彩は、はっきりしない意識のまま、偶々、そこを通りかかった中年の男に、声をかけていた。
　いつまでも頭の中に残る、恵太郎と梨香の絡み合った裸体と、獣のようなその声を早く忘れてしまいたかった。
「えっ？・・いいのかい？、本当に？」
　声をかけられた男は、明らかに中学生とわかる幼い美少女の、この信じられない言葉に、目を丸くしている。
　それから彩は、無言のまま、この男に付いてラブホテルの中に入っていった。

　狭く、けばけばしいホテルの一室で、彩はベッドに座らされ、男の手で濡れた服を脱がされていた。
　男の手が彩の身体の上をゆっくりと動き、その服を一枚づつ剥がしてゆく。
　それでもまだ、彩の眼は虚ろなままで、意識はどこか他の場所を彷徨っていた。
　やがて、上着を脱がされ下着姿になった彩の、その天使のような汚れのない素肌を見た中年の男は、もうどうにも我慢が出来なくなり、急いで立ち上がると、その場で自分の服を脱ぎ始めた。
　すぐに彩の眼の前に、男の醜く膨れ上がった下っ腹と、その下の真っ黒な下腹部から、上に向かってそそり勃っている、長くグロテスクなペニスが曝される。
　これを見た彩は、ハッと我に返り、怯えたように後退りを始めた。
「い、いや！・・ごめんなさい。許して下さい・・お願い、帰して下さい・・やめて・・助けて・・いや！、いやあぁーーっ！」
　彩が悲鳴をあげる。だが男の方は、もう制御が効かなくなっていた。
　そのまま、うずくまる彩に飛び掛かると、片手で彩の両手を上に挙げた状態で固定する。そして、もう一方の手で彩の口を塞ぐと、その重たい身体で彩の上に伸し掛かった。
　豚のように醜く太った巨体で、彩の華奢な体を覆い尽くした男は、酒とニンニクの匂いがするその口で、彩の小さな唇を塞ぐ。
　それから空いた手を下腹部に伸ばし、彩が恵太郎に見せる為に穿いていた、ピンク色のかわいいショーツを、手荒く足首まで引き下げる。
　さらに、彩の細い両脚を無理矢理に左右に押し開いて、その間に自分の腰を強引に割り込ませた。
「んぐんっーーっ！・・んん゛ーーう゛ぅーーッ・・お゛っぐうぅーーーっ！」
　男がその腰を大きく刳ると同時に、塞がれたままの彩の口から、断末魔の動物のような凄まじい絶叫が鳴り響いた。
　あまりの痛さに、大きく口を開けたまま、震えながら硬直する彩の身体の上で、男は夢中になって彩の口に吸い付き、その腰を振っている。
　毛むくじゃらの中年男に伸し掛かられた、彩の細く白い裸体は、ベッドの中に深く沈みこみ、男がその腰を激しく上下させる度に、その小さな裸体は、男の腕の中でまるでゴム鞠のように大きく弾んだ
。
　やがて、繰り返し何度も襲ってくる激痛の中で、彩の意識は段々と薄れてゆく・・

「おっ、おうぅーーっ！・・あっ、あぁ・・ハッ、ハッ、はあぁ〜」
　男は満足そうに、彩の小さな乳房を揉みしだきながら、その口の中に最後の射精をした。
　気を失ったままの彩の口から、男の精液が溢れだし、細い首まで流れ落ちている。
　彩が横たわるベッドのシーツは、所々、彼女の鮮血で赤く染まっていた。
「さてと・・時間かな。」男は名残惜しそうに立ち上がると、スボンを穿く。
　それから、一万円札を二枚出すとそれを机の上に置きながら、「こんなに興奮したのは生まれて初めてだ。まるで天使みたいだったよ、ありがとう。」と、彩に礼を言った。

　男が立ち去ってからも暫くは、彩は気を失ったままだったが、やがてうっすらとその眼を開ける。
「うっ・・ゲボッ、ゲボッ・・ううぅ・・げぇえーーッ！」すぐに彩は、口の中の精液の生臭さに噎せ返り、胃の中のものを戻してしまう。
　下半身は痺れたように感覚が無く、股の間からはどろどろした精液が流れ出していた。
　汚れた身体のまま、呆然と座り込む彩の頬に、自然と涙が流れ落ちる。
　しばらくして、よろよろと立ち上がった彩は、部屋のドアを開け、外に出たところでバタッと倒れ、そこで再び気を失ってしまう。

９．

　あれ以降、彩と連絡が取れなくなった恵太郎は、あの後、彩がどうなったのかは露程も知らずに、そのまま普段通りの生活をしていた。
　あの出来事があってから、梨香の勤める店にも顔を出していない。
　もう一度会って梨香に謝りたいとも思ったが、彼女の言葉が耳の奥に残ってしまっている恵太郎は、梨香に会うのがとても恐かった。

　恵太郎は久しぶりに、アルバイトに行くことにした。僅かでも気分転換になるだろうと思ったのだ。
　久しぶりに明美に会った恵太郎は、懐かしそうに彼女に声をかけた。
　梨香と別れ、彩とも連絡がつかない今、何もかも忘れて明美の胸に顔を埋めて、彼女に甘えたかった。
　ところが、久しぶりに会った明美の態度は、ひどく素っ気なかった。
「ごめんなさい。今日は早く帰らないといけないの。悪いけど、送ってあげられないわ。」
（「どうしたんだろう。こんな事初めてだ。」）
　期待をしていただけに、とても落胆した恵太郎は、翌日、学校で、この事を進に話した。
　すると、進から思いがけない事を打ち明けられる。
　このところ毎日のように進は、放課後に明美と密会を重ねているというのだ。
　土曜日に３人で会ってから、進の身体に夢中になってしまった明美は、彼女の方から進に連絡をしてきて、毎日、何処かで会っては２、３時間セックスを楽しんでいると言う。
　進が言うには、彼のペニスは形、大きさ共に申し分がなくて、時間や回数などは、今までに出会った男の中でも、最高だと言われたらしい。
　恵太郎は、親友の喜ぶこの姿に、どう返事をしたらいいのか分からなくなって、ただ「おめでとう。」と、だけ伝えた。
　結局、恵太郎は捨てられて、進が後釜に選ばれたのだ。

　それから暫くは、静かに過ごしていた恵太郎だったが、一週間を過ぎても彩からなんの連絡も無いので、さすがに彼女の事が心配になり、一度、彩の家を訪ねてみることにした。
　応対に出た彩の母親から、話があると言われて応接間に通された恵太郎は、そこで、あの日、彩の身に起きた出来事を聞かされる。
　途中から顔面蒼白になった恵太郎は、あまりの事に言葉も出なくなっていた。
　やっとのことで、「今、彩ちゃんはどうしているんですか？」と、尋ねた恵太郎に対して、彩の母親は、
「売春の罪で補導された彩は、精神的に大きなショックを受けていて、しばらく入院が必要だと言われて・・。今は精神科に入院しています。」と、暗く沈みこむような声で説明する。
　それから、原因についてなにか思い当たることはないか？、と尋ねられた恵太郎は、しばらく黙り込んだ後、口吃りながらも正直に、恵太郎と梨香との関係、あの日、その前にあった事、などを母親に話した。
　黙って恵太郎の話を聞いていた母親は、最後に、
「真面目だった娘の人生は、あなたと出会った事で台無しになりました。もう二度と、彩には会わないでください。」と、静かだが威嚇を込めた声で、きつく恵太郎に言い渡した。

　真っ青な顔のまま家に戻った恵太郎は、そのまま食事も摂らずに部屋に閉じ籠って、一晩中、涙を流していた。
　今までの事を思い出し、考え込む恵太郎には、その中のなにがいけなかったのか、はっきりとは分からなかった。
　たぶん全てを一遍に得ようとした事が、一番いけなかったのだろう。
　でも、年下の女の子を好きになる幸福感と、綺麗なお姉さんに憧れる高揚感、それに大人の女性に教わるセックスの快楽を、同時に望む事はそんなにいけない事だろうか？
　恵太郎は、それは若い時だけの特権のようなものだと、思っていた。

　恵太郎は、ついこの前まで手の中にあった、天国の日々を思い起こしていた。
　一緒にいるだけで胸がときめいた、彩ちゃんの事。
　見蕩れてしまうほど美しかった、梨香の事。
　包み込むように抱いてくれた、明美さんの事。
　そのどれもが今は、幻のように消えてしまっていた。

　恵太郎は、これから先、身をもって知る事になるだろう。
　長い一生の中で、そんな夢のような期間は、ほんの一瞬に過ぎないという事を・・

完