２．過去再生

　麗子は医大を卒業してから、優秀な医者であった父の推薦もあり大学病院の外科医のポストに就いた。
　真面目で気さくな性格だった彼女は、看護婦や患者たちの評判もよく頼りになる存在だった。
　一方、その生真面目さから、大病院特有の賄賂や派閥の争いには全く興味を示さなかった。
　むしろ、そんな風潮に嫌気さえ感じていた。
　そう．．．都会の病院では医療を人助けでなく、ビジネスとして考える医者も少なくない。
　だから、一部の堕落した医者にとって麗子の存在は鼻につくものだった。
　また、病院内で5本の指に入る美貌の持ち主であった麗子に言い寄って来る男たちも多く、若い医師たちはもちろん、不倫目的の中年医師・外科病棟の患者たちも例外ではなかった。
　特に患者たちは診察のたびに、白衣の上から舐め回すように淫靡な目を向けてくる。
　だが、そんな男たちをまったく相手にせず、見下していた。

　個室703号の飯村もそんなうちの一人だった。
　飯村は不動産業を営んでおり、金に物言わせては度々アプローチしてきた。
「ねえ、先生私が退院したらお礼に食事でもどうです？」
　禿げかかった頭部からポマードの独特の臭いと中年の加齢臭を漂わせながら麗子に話しかけてきた。
「いいイタリア料理の店、知ってるんですよ。どうです？」
「ごめんなさい、最近カロリー控えてるから私。」
　さらりとかわされてしまう。
「だからスタイルいいんですね。」
「お世辞なんて言わないで下さい。」
「いやいや、ほんと、みんな噂してますよ．．．へへへ」
　飯村はいやらしい笑い方をしながら、舐めるように麗子の体を見ていた。
「ところで、いつもベッドの周りは清潔にしていてくださいね。衛生上よくありませんから。」
　麗子は話をそらすように、散らばった雑誌や紙くずを見ながら語りかけた。
「んっも〜ここにも落ちてるじゃないですか。」
　丸まったティッシュを拾い上げたときだった。
　くしゃくしゃの中から、とろ〜っと何か白い粘液が垂れてきたのだ。
　それがなんなのか、すぐにわかった。
　とっさにティッシュを床に投げ捨て、飯村に怒りをあらわした。
「きゃ、やだ！．．．そんなもの自分で捨ててください！」
「こりゃ、失礼。私も最近たまっちゃってね。」
　飯村はベッドから立ち上がり、それを摘んでゴミ箱へ投げ入れた。
　麗子は耳を赤くして急いで病室から出て行ってしまった。
　昨日、ベッドの中で一物をしごいていた。
　彼女を思いながらオナニーにふけっていたのだ。
　そしてまた、頭の中で淫らな妄想を描いていく。
（まったくイイ女だ、なんとか私のものにしたい．．．）
　再び、手を股間に持っていった。　
（あぁ〜これをぶち込みたい〜）
　徐々にベッドがきしみ始めていく。
（ギシ、ギシ、ギシ、ギシ）
「いつか犯ってやる、犯してやる．．．うっ、うっ、うおっ！」
　シーツに欲望の証を撒き散らした。

　外科病棟には、若い患者も多かった。　
　学校の部活で怪我した高校生や大学生が特に大勢いた。
　もちろん、欲求の塊である彼らにとって、麗子や若いナースは絶好の的だった。
　ほぼ毎日、オカズにして欲求を解消していた。
　７０8号室の牧野隆もそうだった。
　隆は、柔道で有名な大学の生徒で試合中にひどい肩脱臼をして、入院していた。
　彼も毎晩、欲求の矛先を麗子にぶつけていた。
（ああ〜あんな先生と犯りてえなぁ）
　ベッドの上で右手でビンビンにいきり勃った肉棒をしごきながらオナニーにふけっていた。
　すでに、肩は完治していた。
（あの先生、どんな体してんのかな．．．たまんねえな、むしゃぶりつきてえ）
　右手の上下運動を加速させていった。
　数分後、両手からこぼれおちるほどの白濁液を噴出させていた。

　その日、当直だった麗子は自分の部屋で見回りの準備を整えると、静まり返った夜の院内巡回へ出て行った。
　いつものように各病室を廻って、棟のはずれにある708号室までやってきた。
　大型のスライド扉を横に引いていく。
　８つあるベッドは、全てカーテンが引かれ皆寝静まっていると思われた。
　だが、一番奥のカーテンから光が漏れていた。
　麗子は淫界に足を踏み入れようとしていた。
　この部屋が、その始まりだった．．．