| ２５ 夢か幻か ２ 『高柳宗馬』…テレビに出ていた、殺害された男の顔に、璃緋都は確かに覚えがあった。 何故覚えがあったのか、それを思い出したとき、璃緋都は激しく動揺した。 『犯人は二人いた』のである。この男は、璃緋都の『後ろ』を最初に担当したのだ。 最愛の人以外に誰も侵入したことのなかった璃緋都の体を無理矢理にこじ開け、己の欲望のままに汚しつくした男の一人なのだ。 この人物が殺害されたことと自分が関係あるのかどうかは分からないが、『自分を陵辱した犯人だ』ということは間違いない。そう思ったとき、璃緋都は『恥も外聞もあるものか』と、久瀬警部に電話をかけていたのである。 「…あ、あははは…」 取り乱したままの璃緋都が久瀬警部への電話を切ったあと、璃緋都は力なく自嘲めいた笑みを浮かべた。 「璃緋都」 それを見た美月、澄江、風花がほぼ同時に声をかけていた。どう見てもショックを隠しきれていない顔だったのである。 思い出したくもないことを思い出したのだから当然だろう。一人だと思っていたのに、自分を汚したのが二人だったと分かったのだから。 「…だ、大丈夫です。もう、終わったことですから」 そう言ったものの、璃緋都のその言葉には力がまったく入っていなかった。 「璃緋都、無理をするんじゃない」 全員が全員、璃緋都の顔を見ていた。喋ったのは風花だけだったが、全員が同じような顔で璃緋都を見ている。 「…泣きたければ、泣くんだ。でなければ、お前が潰れてしまうぞ」 「そうよ璃緋都。わたしは、ただ傍にいたいから地人の近くにいるんじゃないんだからね。わたしの胸を使って、むしろ顔を押し付けて泣いていい…あ痛っ！」 美月の言葉が終わらないうちに、風花・菜月・澄江の拳が彼女の後頭部に襲い掛かった。 「…彦にい、ごめんね…わたし…汚れてる…」 テーブルの上の本を見つめた璃緋都は、風花の言葉を受けてかは分からないが、涙ぐんでいた。 一度気の抜けた璃緋都は、涙をもう抑えることができず、風花の胸に倒れ掛かっていく。 「うわあああああっ…あぁぁっ…！！」 とても悲痛な泣き声だった。璃緋都の体を受け持った風花は、彼女を強く抱き締めていた。 状況がめまぐるしく動いたせいで誰も気にとめていなかったものの、今の璃緋都は、以前の璃緋都が廃人同様になったのと同じ悲しみをその体にもう一度受け止めた形なのだ。 （…よく今まで我慢できていたものだ） 今の璃緋都の心情を考えると、風花はいたたまれなくなっていた。自分のことのように悲しかった。 「…そうか、あれが犯人か」 やがて、泣き疲れて眠ってしまった璃緋都を風花が寝室に連れて行くのを見送りつつ、澄江が呟いた。 「…生きていれば、あたしが殺してやったのに…！」 「物騒なことを言うもんじゃないの」 眉を吊り上げて怒る澄江を、美月が言葉で諫めた。 「…それに、あれは『犯人の一人』というだけであって、もう一人誰かがいる…」 「…そういえば、あの国会議員…徳永さんて言ったかしら、何回か前の選挙で初当選した若い議員よね」 思い出したように菜月が言った。 『お前が泣くことはないんだよ…。お前が謝ることはないんだ』 不意に誰かに呼ばれた気がして、璃緋都は目を覚ました。 ベッドの上にいた。 （…そうか、わたし、泣いたまま寝ちゃって…ここには、風花さんが連れてきてくれたのかな） 我ながら情けない、と思いもするし、『ああなって当然だ』とも思った。 （もう、絶対に泣かない、って決めたのに、大勢の目の前で泣いちゃった） 『思い出さなくてはいけない』と思った反面、今になって少しずつ後悔している面もある。 （でも、誰かに守られなければ生きていけない今のままじゃ…わたしはどういう道にも進めない。たとえ事件を忘れていたとしても、わたしは死んだようなものだった。だから、わたしは…今は泣くかもしれないけど、後悔は…したくない） 『強いな、璃緋都は』 「え？」 自分の心を見透かすかしたかのような声が、璃緋都の耳に…いや、胸に響いた。 （ベッドの横に…わたしの傍に誰かがいる…） そう思った璃緋都は、仰向けに寝たまま顔を横に向けていた。 信じられない顔があった。 「…ひ…彦…にい…！？」 『久しぶりだね』 璃緋都の驚きの声に、『少年』は、本当に懐かしそうに言った。そこには、璃緋都のよく知る『神楽都志彦』の姿が当時となんら変わらぬまま存在していたのである。 「…な、なんで…？彦にいは…あの時…それはまぁ、わたしが直接見たわけじゃないけど…」 『そんなことはどうでもいいじゃないか。俺は今、ここにいるんだから』 璃緋都が『幽霊か』と思った瞬間、都志彦の手が璃緋都の手を少し強めに握った。 （彦にい…暖かい…） 生きた人間の、懐かしい感触があった。 「…彦にい、ごめんね…わたし、ずっと謝りたかった。わたしのせいで、彦にいは死んでしまった…」 『謝るのは…俺のほうだよ。あの時、璃緋都を守ってやることができなかった上に…』 都志彦は、そこで一旦言葉を切った。彼自身も悲しげな顔をしたものの、璃緋都にはそれを見せようとはせずに顔を背けた。 『…璃緋都に、ずっと辛い思いをさせることになってしまったんだから』 「彦にい…」 『でも、こうやってやっと璃緋都に会うことができた。嬉しいよ』 「わたしも、嬉しい」 璃緋都は、素直にそう言っていた。 （これが夢でも幻でもどうでもいい。わたしは今、彦にいと話をしている…） 『なあ璃緋都』 「なあに？」 寝そべったままの璃緋都が、都志彦に返事を返す。このあたりは、幼いころからの受け答えそのままだった。 『…璃緋都のこと、また抱いていいかな？あの時みたいに』 「…えっ？」 一瞬、都志彦が何を言いたいのかよく分からなかった。 『…分かりやすく、『エッチしたい』って言ったほうがいいかい？』 「…やめてよ、もう」 直接言われてしまった璃緋都が、顔を真っ赤に染めてしまった。昔から、都志彦は璃緋都をからかう癖があったものである。 『冗談で言ってるんじゃないよ。俺、今璃緋都とエッチしたい』 「…嘘。わたし、汚れてる…彦にいが抱きたいような昔のわたしじゃない」 『それはお前の思い込みだろ。もし璃緋都の体が汚れているのなら、俺が俺のものとして塗り替えてやる。清めてやる。 たとえ何があっても、俺にとって璃緋都は璃緋都のままだ。俺が死んだ後の璃緋都だって…璃緋都のままなんだ』 「でも」 都志彦の言葉は、璃緋都の胸を打った。璃緋都が陵辱されたことがある身だからといって、美月や澄江が自分を避けたわけではない。 むしろ、もっと親身になってくれている感がある。今都志彦が言ったことと同じだ。 「…でも…」 『どうしても嫌なら、それでいいよ。俺は嫌がる璃緋都を抱きたくない。『俺のものになってくれる』って言ってくれた璃緋都を抱きたい』 「どうしてそう、ストレートに言うのよ」 『璃緋都が鈍いから分かりやすく言ってるんだろう』 当時、二人は中学生である。今目の前にいる都志彦は、まさに中学生のときのままだ。 言動自体は中学生のそれではなく、もっと大人になってから言う台詞であるべきなのだが…。 「…わたしで、いいのかな」 『俺は…『お前が好きだ』って言ったはずだよ』 首をかしげた璃緋都に、都志彦が言葉を投げる。その一言一言が、胸のうちへと吸い込まれていく。 「…うん」 少し考えたのちに、璃緋都はやっとうなずいた。ここにいるのは、神楽都志彦そのものなのだ。 もっとも、この状況が夢なのか幻なのか現実なのか。璃緋都本人にはまだ決めかねていたのだが。 周りを見れば、紛れもない自分の寝室であり、紛れもない自分のベッドの上である。 （これ…夢なの？それとも現実？…夢なら、何が起こってもいいわ…今、目の前に彦にいがいる、それは間違いない） 幼馴染、慕っていた兄貴分、そして『彼女』から『恋人』へ。それほど慕っていながらも、告白を受け体を結んだその日に永遠の別れを迎えてしまった二人。恋人の死に目にすら会えなかった璃緋都。そして、つい先日まで都志彦の存在すら忘れていた璃緋都。 （わたしは…ずっと彦にいのことを忘れていたんだ。あんなに好きだったのに） そんなことを考えていたら、都志彦の体が上にきたのだった。 「んっ…っ！」 まず都志彦の手に触れたのは、璃緋都のその大き目の胸だった。服の上から両手を使って優しく、手のひら全体を使って揉む。 『…前より、もっと大きくなった？璃緋都』 「やめてよ、もう」 大きさと感触を確かめるように揉み解す動きと、都志彦の言い方に、璃緋都が頬を膨らませた。 『小さい頃はさ、璃緋都がこんなに大きくなるなんて、夢にも思っていなかったな。もちろん、俺自身も大人になることなんてまったく考えていなかった。璃緋都も俺も小さいままで行くんだと思ってた』 都志彦の顔が、璃緋都の胸に着地する。服の上からやんわりと両方の胸を揉み解しつつ、鼻先はその間に埋まっていった。 『『あの頃がよかった』なんて馬鹿なことは言うつもりはないけどね。俺は、今の璃緋都も昔の璃緋都もどっちも好きだから』 「彦にい…んっ」 璃緋都の上に四つんばいになった形の都志彦が、顔を上げてから唇を重ねてきた。 （…あぁ、暖かい） 唇の感触が直接伝わっていく。あの時から変わらない味。ここにいるのは間違いなく、死んだはずの神楽都志彦そのものだ。 璃緋都は改めてそれを確認するのだった。 （…なんていうか…） 唇を重ねながら、璃緋都の頭の中につい先日あったことが浮かんできた。 （ここのところ、女性ばかりにいいようにされていた気がするから、なんだか新鮮に感じるのは何でだろう…） 美月、菜月、澄江、風花、実の母燈子…実にこれだけの女性が璃緋都の肌に触れている。 もっとも、燈子以外は璃緋都が『男役』だったのだが。 『…璃緋都、服、脱がすよ』 「うん」 唇が離れたあと、都志彦は璃緋都に一言断ってから服に手をかけた。 （…っ） 脱がされていく最中、一瞬だけ『あのときのこと』が頭に浮かんだ。都志彦とのときではなく、その直後。 暴漢二人に襲われ、服を引き破られたときのこと。 自然と息が上がった。興奮しているのではない。体が震えていた。 「…ひ、彦にい…」 『怖いんだね』 氷室に消された記憶は、もう既に蘇っている。彼女の脳裏にある恐怖が、まだ心の奥底にあるのだ。 『服を脱がされる』。その動作が怖いのだ。 「う、うん…」 かといって自分で脱ぐ気にもなれない。璃緋都は固く目を閉じていたが、やがてその頭を都志彦がそっと撫でていた。 直後、璃緋都の体が強く抱き締められていた。 （んっ…） 痛いくらいに強く抱き締められた璃緋都は、小さく声を上げそうになったものの抵抗はしなかった。 （そうだ…あのときの二人なら、こんなに優しくない。優しく抱き締めてくれるわけない…。あのときの二人が、こんなに優しいわけがない…） 必死に胸のうちを落ち着かせようとする。目の前にいるのは、あのときの二人のどちらでもない。最愛の人、神楽都志彦である。 結ばれた直後に永遠の別れを告げてしまった想い人なのだ。 「…彦にい…」 ようやくそれを理解した璃緋都は、自分から都志彦の背中に手を回して抱き締め返していた。 『じゃあ、服を脱がさないでしようか』 そういわれた璃緋都から、ようやく微笑がもれた。 「結局、するんだね」 『じゃあ、ここでやめておく？』 「嫌。わたしも、彦にいと…したい」 スカートを捲り上げられた璃緋都は、顔を真っ赤にして横を向いていた。二回目であるはずなのに、慣れていない自分の顔を直で見せたくなかった。 （また子供扱いされるから） 幼い頃からの癖である。 都志彦のほうは、昔からの璃緋都の性格をよく解っている。そのため、彼女の顔を確かめたりはせずに、その脚をゆっくりと広げた。 『璃緋都、少し…女っぽくなった？』 「当たり前でしょ」 『大きくなったの、胸だけだと思ってたけど、太腿とかすごく色っぽくなってる』 「直視しないでよ…んっ」 文句を言った璃緋都を、都志彦の指が遮った。下着の上から亀裂をなぞっているのである。 「あっ、あぁっ」 『ただ触れられているだけ』なのに、璃緋都は声を上げた。恥ずかしさと懐かしさ、嬉しさと、そして少しの恐怖。 それらが胸のうちで混ざった複雑な感情が、こういう声を璃緋都に上げさせていた。 『なんだ、綺麗じゃないか璃緋都』 いつのまにか下着を横にずらされ、都志彦はあらわになった璃緋都の秘所を眺めていた。それに気づいた璃緋都は、 「きゃあぁーーっ！」 というすごい声を上げていた。 『そ、そんなに驚くことないじゃないか』 「…ご、ごめん。いつの間にか見てるんだもん…」 『…でも、本当綺麗だ。誰にも触れられたことがないみたいに』 「そんなところいつまでも眺めてないでよ」 『それもそうか。じゃあ』 顔を上げた璃緋都をよそに、都志彦は顔を璃緋都の脚の間へと埋めていった。 「ひああぁっ！？」 顔を上げていた璃緋都が、がくん、と力を失って後ろに倒れこんだ。 「だ、駄目っ、舐めないで、舐めちゃ駄目」 好き放題に秘所を舐められた璃緋都は、もう一度体を起こして都志彦の頭を両手ではがしにかかる。 しかし、それでも都志彦は舌による刺激をやめてくれない。 「あっ、やっ、そ、そこ駄目ぇ…」 次第に璃緋都の声が熱を帯びていく。 「うっ…くうっ…」 快感と恐怖。二つの感情が混ざる。相手は都志彦だとわかっているのに、あの時…自分が二人の男に汚されたときのことがフラッシュバックしてくる。そのせいで、いまひとつ没頭できない。 気がつくと、自分の体が都志彦を跳ね除けようとしているのが分かる。気持ちいいのに、嬉しいのに…でも怖い。 「彦にい…っ」 都志彦は、愛撫をやめてくれない。それどころか、璃緋都の太腿を大きく広げて、舌を大きく動かしてくる。 「はぁっ…」 亀裂をなぞられているだけなのに、なんという快感だろうか。以前美月や澄江に、そして風花や自分の母にも体を愛撫されたことはあるのだが（女ばかりだが）、ここまで気持ちよかっただろうか。 （…ううっ…） 気持ちいいのに頭痛がする。前に同じことをされた気がする。大好きな都志彦に？それとも、自分を犯した二人組に？ 『璃緋都、落ち着いて。俺に全部任せて。痛くしないし、絶対に怖くないから』 知らずのうちに、体が震えていた。都志彦はすでにそれに気づいていたらしく、顔をあげて璃緋都を力づける。 「う、うん…」 もとより性的な知識などほとんどない彼女は、都志彦にすべて任せるしかない。 「…ねぇ、彦にい、わたしの体…どうなってる？裂けてる？広がってる？」 『どっちでもないよ。ぴったり閉じてる。綺麗な璃緋都だ』 璃緋都の質問に答えた都志彦が、再び璃緋都の秘所にキスを繰り返す。その雨を受けるたびに、璃緋都の口から声が漏れた。 （わ、わたし…綺麗って言われた…ぴったり閉じてるって言われた…） 舐められ唇をつけられる快感に息を荒らげつつも、璃緋都はそんなことを考えていた。 やはり自分は…理由は分からないが処女に戻ってしまっていたらしい。前にも、美月に生えたモノを、受け入れられなかったことがある。 『璃緋都、そろそろ入れてもいいかな？大分濡れてきた』 「えっ？わたし、濡れてたの？」 快感に没頭していた璃緋都は、自分の準備ができてきたことにまったく気づかずにいた。 『うん、ほら、音立ててる』 「んぁっ」 質問に対して、都志彦は指を璃緋都の中に、ほんの少しだけ入れて中をかき混ぜた。 ほんの指先が入った程度なのに、璃緋都のそこはくちゅ、という音を立てていた。 「…うん、本当だ…彦にい、またわたしの中に来てくれる？」 『…もちろん。俺、最初からそのつもりだ。いよいよ、『本番』ってヤツだからな』 「どこでそんな言葉を覚えたのよ」 ついに璃緋都の下着が脱がされ、その下腹部があらわにされた。都志彦のほうも自分のモノをズボンから取り出すと、璃緋都の秘所にあてがう。 （来るっ…！） 璃緋都はそう思って、目を固く閉じた。『あの時』は確か、痛かった。中学生のとき、都志彦に初挿入されたときは、あまりの痛さに苦悶の声を上げたものである。 しかし、都志彦のほうはすぐに挿入せず、モノの先端で璃緋都の亀裂を優しくなぞるように愛撫しはじめた。 「…ひ、彦にいっ、入れるなら早くして」 『悪い悪い。璃緋都が可愛いから、悪戯したくなったんだ』 都志彦にそういわれた璃緋都が、頬を膨らませた。美月や澄江には絶対に見せない表情だ。 裏を返せば、都志彦は璃緋都がそういう表情を見せられる唯一の人間だった、といえる。 （わたしたち…あの事件さえ起こらなければ、高校も一緒に通っていて…いつか結婚したのかもしれない） 自分の狭い門を押し広げられる感触に貫かれたとき、璃緋都はふとそんなことを思った。 「うくぅ…っ！？」 都志彦のモノが、璃緋都の膣の浅いところへ侵入した。それとともに、彼女の体を激痛も貫いていった。 「や、やぁっ…や、やめ…っ！」 同時に、『あの事件』のときのことも頭にフラッシュバックしていく。氷室によって消されていた記憶の一つ一つが、都志彦によって少しずつより鮮明にされていく。 『璃緋都、目を開けるんだ』 激痛に固く目を閉じ、恐怖に震える璃緋都に、都志彦が言葉を投げかける。 『よく目で見て、目の前に誰がいるのか見るんだ』 「…目で、見る…？」 自分の中にある異物感。それは、あのときにも感じたことがあるものだ。それも、同じ日に何度も何度も。 自分の『初めての日』の幸福は、その後の無残な事件によって恐怖へと塗り替えられている。 そのせいで、璃緋都は今の状況を『怖い』と受け止めてしまうのだ。 「…彦にい…」 言われて、やっと璃緋都は目を開けた。そこには、あの男たちではない。紛れもなく都志彦がいる。 自分の中に突き立っているものは、間違いなく都志彦のものなのだ。 「彦にい、彦にいだ…」 『そうだよ。他の誰でもない。だから、安心して』 先ほどまで震えていた璃緋都を、都志彦は優しく諭す。同時に、少しずつ深いところを目指して進んでいく。 璃緋都のほうが痛みに顔をゆがめたものの、先ほどのような震えは見せない。目を開いて、都志彦の顔をじっと見つめている。 まるで、自分を犯しているのが誰かを確かめるかのように。 頬を涙が伝った。痛みと、それに反した嬉しさと幸福感。自分を初めて『犯した』人との再度の交接。 「うくっ…！」 膣の強い抵抗の中、都志彦のモノがついに璃緋都の最奥へと突入していった。 （嘘…っ、わたし、本当に処女に戻ってる…何で…！？何が起こっているの…！？） 目の前に都志彦がいるというだけでも非現実的なのに、今の状況はどう捉えればいいのだろうか。 いくら璃緋都の記憶を消した氷室でも、そこまでのことはできないだろう。 『ほら、璃緋都の一番奥に入ったよ。璃緋都の中、すごく狭い。でも、濡れてて気持ちいい』 「…本当？わたしのなか、気持ちいい？」 もう恐怖は消えていた。それでも痛みがまだあるため、璃緋都の両手はそれに耐えるかのようにシーツを掴んでいる。 『あぁ。最高』 「…わたしのほうは、気持ちよくなるのにもう少しかかりそう」 都志彦の言葉に、璃緋都が恥ずかしそうに言った。 『時間はあるから、ゆっくりやればいいさ。俺も、まだまだ璃緋都の中にいたい』 「もう…」 その言い方に、璃緋都はまた照れたような微笑を浮かべた。 璃緋都のほうは『もう少しかかる』と言ったものの、都志彦がゆっくりと責め立てていると、彼女は案外早く快感に誘われていった。 都志彦のやり方が上手かったのか、自分が敏感なのかは、璃緋都自身にもよく分からなかった。 「あっ、うっ…ひ、彦にい、気持ちよく…なってきた…っ」 体内に打ち込まれた堅くて太い楔。先ほどまでは痛かったはずなのに、今では膣奥を突き上げられると快感に導かれていく。 （体が…アソコの中が熱い…っ！あのときの美月も澄江も、こんなに気持ちよかったの…！？） 自分の体が自分のものでないように感じる。 （彦にいが、体の中にいるのが分かる…わたしの中に、彦にいがいるのが…っ） ずっと会いたかった相手。初めての人。そして、悲劇的な別れを告げてしまった大切な人。 自分の中にいるのは、まさにその人なのだ。 （なんだろう、何か来る…何か、来ちゃう…っ！） 『璃緋都、もうイきそうなのかい？』 「イく？イくって何…きゃうっ！？彦にい、激し…っ、激しすぎる…っ！」 璃緋都が絶頂近いことを察した都志彦が、突き上げの速度を上げる。一撃一撃が奥深くに追突し、璃緋都を快感に震わせる。 『璃緋都、中に出していい？俺ももうすぐ出そう』 「…ひぇっ！？あ、赤ちゃんできちゃう…っ」 『中に出す』という言葉を聞いた璃緋都は、さすがに脚をばたつかせた。今の状況が夢か幻かは分からないが、さすがに中に出されるのはまずい、と本能的に思ったのである。 『…ごめん、もう遅い、出る』 「ええっ！？」 『もう遅い』と言いつつ、都志彦は璃緋都の腰を両手で強く掴み引き寄せ、さらに一番奥まで突き上げて腰を止めた。 確実に膣…いや、璃緋都の子宮の中に射精するためだ。 どくん、と熱いものが奔ったとたん、璃緋都は大きく背中をのけぞらせていた。 「きゃああぁぁっ！？あ、熱い、熱いっ！？」 『あぁ、璃緋都、気持ちいい』 射精しながら都志彦が快感の感想を漏らす。璃緋都のほうはもはや『妊娠』の文字を気にすることもできず、今度は快感で脚をばたつかせていた。 |
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| 2009.10.3掲載 |
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