とりかえっこ○○

３　父帰る

「ど…どうして…」
　意気揚々と登校した美月は、そろい踏みしたクラスメイトを見回して絶句した。

　そう、肝心の人物…璃緋都がどう見回してもいないのである。
（どうして、璃緋都がいないのよ…っ！？）

　璃緋都が休みと知った後、美月はすぐに焦燥感に駆られた。すっかり忘れていたが、今いる状況が非常に危険なのである。
　今は萎えたとはいえ、美月の足の間には、他人に見せられないものがぶら下がっているのである。
（冗談じゃないわよ…こんなものがついてるって誰かにバレたら、人生終わるわ！）
　そもそもこんなものがついている原因が分からない。さっきまでの美月は、
『女ゆえに璃緋都に告白できない自分の願いがかなったんだ』くらいにしか思っていなかったものの、いざ冷静になってみると不可解なことだらけなのである。

「美月、どうしたの？様子が変よ？」
（ぎくっ）
　休み時間になっても席を立たない美月がよほど不思議だったのだろうか、ついに澄江が声をかけてきた。
「べ、別になんでもないわよ」
「でもさ、いつもならパーッとどっかに行っちゃうのに、でなきゃ璃緋都にまとわりついてるのに、今日はまったく動かないし。まぁ、璃緋都は今日休んでるけど」
（め、目ざとい…。さてはこいつ、わたしが璃緋都のことをどう思ってるか、感づいてるな…）
　実際、感づかないほうがおかしいことではある。

（くぅ～、トイレ行きた～い…でも、でも席を立つの怖い…）
　実はさっきからこれを我慢しているのである。トイレにさえ着いてしまえば個室なので問題はないのだが、そこまで歩く姿が他人の目に留まるのが怖いのである。
　今は萎えているが、勃ってしまったらまずい。先日の夜の勃ち具合を見ると、すぐに収まりそうもないし、制服のスカートくらいなら押し上げてしまいかねない。
（自分の欲求不満っぷりが嫌になるぅ～！）

「たっ、ただいまぁ～っ、と、トイレっ！」
　結局、学校にいる間ずっとトイレを我慢していた美月は、帰宅後靴を放り投げてトイレへ駆け込んでいた。
「はぁ～…至福…でも、やっぱりついてるのよね。いったい何が原因でこうなったのかしら、コレ」
　自分の股に居座ってしまっている『モノ』の先端から吐き出される液体を見下ろして妙な気分になりながら、美月はつぶやいた。
「それにしても…璃緋都。わたしが何を考えているか悟ったかのように休むとは…只者じゃない…」
　実質、ただの偶然である。
（ひょっとすると、このわたしの股間についている『コレ』も、璃緋都への欲望の賜物…？ってそんなわけないわよね。もともとわたしがそういう体質だったとか？…もっとありえないわよね。じゃあなんで…？）
「美月ー、早く出なさい！いったいいつまでトイレに入ってるの！」
　…どうやら、母もトイレに入りにきたらしい。美月はあわてて下着にモノを押し込むとトイレから飛び出した。

（変ねぇ…）
　トイレから出てきて夕食をとるなり、すぐに自分の部屋に飛び込んでしまった娘を見て、母菜月は首をかしげた。
　どうも、昨日からの様子がおかしい気がする。
（また、何か思い立って小説でも書いてるのかしら？）
　自分の娘がいわゆる『文学少女』なのは知っている。中学生のときには作文で賞をとってもいるし、今だって方々に投稿しては佳作や優秀賞をもらって商品やら賞金やらもらっているので、母親としては助かっているところもある。
（ただ、怪しげな小説書かなきゃいいんだけど…）

「ふーぅ、とりあえず明日の璃緋都は確保っ！」
　携帯電話で璃緋都に電話をかけたあと、美月はベッドの上に体を投げた。
（さすがに今日は疲れたわね…でも、ちゃんと服着て寝ないと、万が一寝坊したらお母さんにバレる…！）
　疲れた、といってもトイレに行った以外は教室の椅子に座っていただけである。

「さて、寝ようかしら…あれ？」
　ベッドにもぐりこんだとき、美月はあることに気づいた。
「…あの本、どこに置いたっけ？確かベッドの近くに投げた気がするんだけど…ないわね」
　ベッドに寝転がったまま首を回してあたりを探す。けれども、あの妙な本の姿はない。
「ま、いいか…朝寝ぼけてベッドの下にでも蹴飛ばしたのかもしれないし、そのうち見つかるわね…ふわぁ～」
　適当に切り上げてしまった彼女は、大あくびをして枕に顔をうずめた。

「…美月ったら、もう寝ちゃったの？変な子ねぇ…、まだ九時にもなっていないのに」
　夜食に用意しておいた鍋焼きうどんを持っていこうとしたら、二階の電気が消えていた。呼びかけても返事はない。
「まぁいいか、わたしが食べればすむことだし…」
　そうつぶやいて、菜月は鍋をテーブルに置いた。そのとき、ドアベルが軽快な音を立てた。

（こんな時間に誰かしら…）
　首をかしげながらドアに向かうものの、彼女がたどり着く前にドアは向こうから開いてしまった。
「…ただいま」
「あなた！」
　ドアの向こうから現れたのは、出張で二ヶ月ほど家を空けていた夫、内藤弥太郎だった。
「どうしたの？帰りは明日って言ってたのに」
　心底驚いた菜月は、玄関に座って靴を脱ぎだした夫にそう言った。
「ちょっと驚かせてやろうと思ってね。それに、一日でも早く家に帰りたかったというのもあるな」

　菜月と弥太郎は、いわゆる幼馴染である。三歳のときに弥太郎の家族が引っ越してきて、そのまま同じ進路を歩いてきた。
　のんびりおっとり型である菜月に対し、弥太郎のほうは活発さはないが、子供のころから冷静で頭の切れる人間だった。
　誰が見ても似合わない二人であったものの、弥太郎のほうはかなり早くから菜月のことを気にかけていたのか、彼女にだけはとても優しかった。
　その代わりにといっていいのか分からないが、ほかの女性に対してはほとんど興味を示さず、『見た目はよくても愛想がない』印象を受けているようだ。
「…美月、もう寝てるのか。残念だな」
　ちょっと遅い夕食をとりながら、弥太郎がつぶやいた。妻に見られながらの食事も久しぶりであるからか、いつもよりも長く時間をかけて食べているように思えた。
　そして、菜月もそんな夫がそばにいるのがとてもうれしかった。

（…えっ？）
　一瞬、菜月の体を何かが襲った。自分の心臓が高鳴る音にも思えた。
　自分が作った手料理を口に入れる夫・弥太郎の姿を見ていたら、胸が熱くなってきたのである。
「…どうかしたのか？」
　夫の声に、はっ、とわれに返った菜月は、すぐに首を横に振った。
「…なんでもない」
「…君がそんな風に言葉を濁してから『なんでもない』と答えるのは、昔から『何かある』ときだったと思うが」
「またそういう言い方するのね、意地悪」
「君は、分かりやすいからね」
　そう言った夫の声は、とても優しかった。

　ごく自然に、二人は寝所をともにしていた。久しぶりの逢瀬だったからではない。
　弥太郎が今の菜月の状態を『見破った』からである。
　菜月は自分の体の熱をとめられなかった。精一杯平静に振舞おうとしているし、自分でも上手く保っていたと思う。普通の人が見れば分からなかったろう、と思う。
　それでも夫は彼女の状態変化に気づいていた。
（…なんで？…なんでこんなに体が熱いの？まるで十五年も二十年も若返ったみたいに、体が熱い…っ）
「…あっ！？」
　こんなとき、菜月は自分から飛び込んでいける性格ではないし、弥太郎もそれをよく分かっていた。
　だから、弥太郎の腕が彼女を抱きしめていた。
（や、やだ…この人こんなに積極的だったかしら…っ？そうじゃなくて、わたしがもたついているからで…）
　年甲斐もなく、菜月は慌てふためいた。年甲斐もなく、といっても彼女はまだ三十六歳である。
「…あなた…弥太郎…っ」
　細い腕が、夫の背中に食い込んだ。

　ベッドに、菜月の体が押し倒された。百五十センチもない小柄な体がベッドの上で軽く跳ねた。
「…っ！」
「菜月」
　自分の上で四つんばいになった夫が、自分の名前を呼んだ。
「何しろ久しぶりだからね。少し乱暴になるかもしれない」
　菜月は、目を背けず、まっすぐに夫の目を見ながらゆっくりとうなずいた。部屋の明かりはすぐに消された。

「…珍しいな」
　久しぶりに見た妻の裸は、少しも色あせてはいなかった。羞恥と心の昂ぶりに汗ばんだ肌は、むしろ以前より彼女を艶やかに見せていた。
「何が珍しいの？」
「君のほうが、最初から『やる気』になってる」
「こらっ！」
　夫が馬鹿正直に言うものだから、菜月は思わず吹き出してしまった。確かに菜月のその部分はもう十分に準備が整っていた。まだ脱がせていない下着の上からでもそこが溢れているのは一目瞭然だった。
「…でも、ちゃんと最初から手順を踏んで」
　菜月の腕が弥太郎の腕をつかみ、横に寝ることを促した。弥太郎のほうは言われるがままに、菜月の横に寝ると彼女の方に体を向けた。
「もう、すぐにしてもいい状態みたいだが」
「いいの。最初からして。わたしの体がそう求めてる」
　菜月のほうは仰向けのまま、夫の指を求めていた。

「んぅっ…あっ…」
（ああ、わたしの体がおかしくなっている…確かに弥太郎に抱かれるのは久しぶりだけど、でもいつもとは違う…なんでこんなに体が熱いの？何かほかに原因があるとしか思えない…っ）
　下着の中に手が入り込み、すでに熟れた場所を愛撫する。人差し指が体内に入り込むたび、菜月は小さく声を上げた。
「あっ…あぁっ！」
　ゆっくりと乳房を揉まれる感触。いつの間にか胸には覆うものがなく、すでに夫の前にさらけ出されていた。先端はすでに勃っている。
（なんだか…わたし一人で発情してる…）
　まるで全身が性感帯になってしまったかのようだった。夫のなすことすべてが快感へと形を変えて自分へと襲い掛かってきていた。
「きゃ…うっ」
　突然乳首をつままれ、菜月の声がまた高まった。
「ち、ちくびぃ、だめぇ…」
「若いな、菜月」
　目の前で夫が苦笑しているのを見て、菜月は初めて顔を背けていた。
「…弥太郎…弥太郎も、わたしの体で…」
「…ああ、そろそろいいか？」
「うん」
　二人が最初に交わったのは、実は結婚初夜である。『幼馴染』というあまりに早い出会いをしてしまった彼らは、恋人としての付き合いはほとんどなかった。弥太郎のほうは（冷静を装ってはいたが）菜月に対して早くから『女性』を意識していたが、菜月のほうは『いつか結婚するんだろうなぁ』とうっすらと思っていたものである。
「…大きい、ね」
　菜月はすでに、十五年前の彼女に戻っていた。
「久しぶりだからね。…君の中に入りたがっている」
「ふふっ…これを入れられたら、わたし、壊れてしまうかも」
　数ヶ月ぶりに見る夫のものは、前よりも硬く大きく勃っているように見えた。
「ゆっくり入れて…とても、あなたが欲しい」
「私も、数ヶ月ぶりに君を味わう身だ。できるだけ長くいたいものだな」
　がちがちに固まった先端が、濡れた秘所に当てられた。
　ぐちゅっ、という淫らな音を立て、先ほど指でやさしく解された入り口をこじ開けつつ、弥太郎が妻の中へ入っていった。
「ああっ…あっ…はぁ…っ！」
　弥太郎のものは、固いまま菜月の奥まで一気に貫いた。一瞬、菜月の背中がベッドから跳ねた。
「くっ…狭い…っ！？」
　弥太郎のほうも、子供を産んだことがある人妻のものとは思えぬ締め付けに喘いだ。
「ひゃあああぁぁんっ！」
　菜月のほうは一瞬で絶頂に達し、体を痙攣させていた。
（…な、なんてこと…っ、イッちゃった…入れられただけで…イッちゃった…ぁ）
　長い髪が艶かしく揺れた。

「…えっ！？」
　愉悦に浸っていた菜月の足を、弥太郎がつかんでさらに左右に広げた。彼はまだ絶頂に達したわけではなく、イッたばかりの妻の体の中で雄雄しく立ち上がっているのである。
「菜月っ！」
　大きく腰を引き、そして再び奥まで一気に貫く。内部に溢れていた愛液が外へと吐き出されていく。
「きゃあっ！」
　弥太郎が激しく腰を動かすたびに、菜月の膣内からぐしゅ、ぐしゅという水音が溢れた。
「ま…待って、まだ…まだイッたばかりで…ひゃっ！」
　声をかけても、弥太郎は動きを止めてくれなかった。その姿は、いつもの冷静な夫ではなかった。
「あ…は、激しい…っ」
　夫の体が覆いかぶさってくるのを、両腕で抱きしめる。
　揺れる乳房をわしづかみにされる。一切の抵抗を許さない体勢だ。

　ただ前後に動かれているだけでも気持ちいいのに、夫の動きは画一的ではない。回すように、抉るように、いちいち変化をつけて来るうえ、その動きはさらに加速していく。速度を上げた二人の行為の激しさに、ベッドが軋んで音を立てた。
「菜月！」
　夫の声とともに、硬く勃ちあがったものが強く奥に追突した。
「くあぁ…っ、し、子宮口にめり込むぅ…っ」
　びくん、とまた菜月の体が跳ねた。その両腕は夫の背中を抱きしめたままだった。

　奥に突き当てたまま、弥太郎は今まで数ヶ月たまったぶんすべてを彼女の中に放出していた。
『モノ』にたまりにたまった欲望を吐き出すたびに、びくん、と自分自身が脈打ったものの、射精が終わるまで、彼は体を離さずいつまでも菜月の中にいた。
（ああっ…出てる、出てる…っ、さっき二回目イッたばかりなのに、射精でまたイッちゃう…。確かに二、三ヶ月してなかったけど、こんなに出るなんて…）
「や、弥太郎…早く、早く抜いて…でないと子宮が破れる…っ」
　菜月がようやく声を出した直後、彼女はもう一度絶頂に達していた。

　ようやく体が離されても、菜月は快感のあまりに足を閉じることができず、夫の前に裸体を晒していた。
　その裸身は三十代半ばとは思えないほど滑らかな曲線を描いており、絶頂の余韻にびくんびくんと何度も痙攣している。
　精液が濃い上出された量も多かったので、大きく広げられた足の間から覗く亀裂からは、大量の白濁が溢れていた。
「…ふふっ…すごい…弥太郎も、まだまだ若いのね」
　うれしそうに言う妻の裸を眺めながら、夫は無言で返していた。照れている証拠だ。
「…それに、あれだけ出したのにまだ満足できていないみたい」
　そう言った菜月は、ゆっくりと体を起こすと、ベッドに腰掛けた夫のモノをやさしく両手で包んでいた。
「菜月…今日は妙に大胆じゃないか」
「当たり前よ」
　弥太郎に言われると、隣に座った菜月は『ふふっ』と微笑んで言った。
「…今日は、そばにいてくれなかった分…犯してもらうつもりでいるんですもの」
　両手で包んだモノは、さすがに少しやわらかくなっていたものの、少し愛撫を加えてやるとまた元気に勃ちあがっていた。
　それを確認した菜月は、再び夫をゆっくりと押し倒すと、今度は自分がその上に跨った。
「…今度は、わたしが上よ」
　その言葉に、弥太郎は苦笑していた。二ヶ月という歳月は、こんなにも妻を大胆にしてしまったのだろうか、あるいは飢えさせてしまったのだろうか。
　どの道、今夜は彼女の思うままにさせてやろう…弥太郎はそう思っていた。自分も二ヶ月も妻に会えなかった身だ。もし妻が抱きついてこなければ、彼のほうが妻を抱きしめていただろう。この際、美月がすでに寝入っていたのは好都合といえただろう。
「はぁっ…！」
　思い切り足を広げた妻が、自分のモノの上へと着地する。つい先ほど大量に射精したばかりだというのに、いきなり射精してしまいそうになるのを弥太郎は必死にこらえていた。反対に、菜月のほうはやはりいきなり絶頂に達してしまったらしく、自身の体内に弥太郎のモノを深々と埋め込んだままびくびくと体を震わせていた。
「あっ…ああっ…うれしい…弥太郎、あなた…」
　自分から激しく体を上下させ、腰を前後させる。自分が気持ちいいように、愛する人も気持ちよくなってくれるように。

（ああ、気持ちいい…、この体が疼くの、感じるの…感じたがってるの…一体なぜ…？確かに二ヶ月も逢えなかった人だけど…こんなに体が熱くなるなんて）
　数度目の絶頂を迎えつつも、体は止められず未だに上下運動を繰り返す。まるで何かに憑かれたかのようだった。
「あなた…大好き、好き、好き、好きよ…大好き…っ、あぁぁ～～～っ！」
　腰を掴まれ、身動きが取れなくなったところに夫のほうから突き上げられ、妻は身悶えた。
　再び子宮いっぱいに精液を打ち込まれた彼女は上を向いて激しく声を上げると、そのまま力を失い、夫の体へと倒れこんでいた。

（うわあぁ～～～、すごい声が聞こえたから何かと思ってきてみれば…）
　ドアの向こうで起こった一部始終を隙間から覗き込んでいた美月は、その場から一歩も動かずに床に座り込んでいた。
　寝入っていたと思われていた美月だったが、目覚めてこの寝室まで来ていたのである。というよりも、あの菜月の声で目覚めない人間はいないだろう。
　なんといっても一つ屋根の下なのだ。
（なんていうか、大人のセックス、って感じぃ～？わたしもああやって生まれたのね…ってそれどころじゃないわ）
　そこまで考えた美月は、音を立てないように立ち上がると足早に自分の部屋へと駆け戻っていた。
（なんで、お母さんたちの寝室にあの本があったの…？ベッドの下あたりに見えたけど…お母さん、読んだのかな？もっとも、何が書いてあるか分からなくてあんな場所に投げたんだろうけど）
　そのあたりは美月とそっくりな性格をしている。
　部屋に戻った美月は、ベッドにもぐりこむと思いきや、学習机につくとペンとノートを取り出した。
（…明日の参考にさせてもらうわよ、お母さん！）
　その笑みには、どこか悪魔的なものがあった。

あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。

2008.10.18掲載

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