とりかえっこ○○

蔵人一文字 作
３４　四人のそれから

　コンコン、とドアがノックされ、璃緋都は反射的に『どうぞ』と応えた。誰が入ってくるのかはよく分かっている。
「璃緋都、おはよう」
「うん、おはよう」
　入ってきた澄江と美月の顔を見回す。

　学校のほうはまだ休んでいる。とはいえ、もう数日したらまた登校を始める気でいた。いつまでも休んではいられない。
　今でも、時々は夢に見る。血だまりの中のあのときの自分。自分に襲い掛かる何か。
「…なんだか、逆にさびしくなっちゃったわね。あんなにいっぱいいたのに、いきなり人が少なくなっちゃった」
　美月がそういうのは当然で、数日前はこの部屋にかなりの人数が集まっていたのである。
　美月や澄江を始め、風花、聖架、弓華、真夜、菜月…女ばかりがぞろぞろと。
「ここ、あんたの家じゃないんですけどね」
　澄江がそうこぼしたが、おそらくは同じことを考えていたのだろう。

「…璃緋都、大丈夫？少しは落ち着いた？」
「…なんとか、ね」
　…と澄江たちが璃緋都を心配するのは、実は璃緋都がつい昨日、長い眠りから覚めたためである。
　あの事件の直後…本を破った直後、璃緋都は破いたページを手に昏倒し、ずっと眠っていた。
　破いたページは風花の手で回収され、破らないように大切に璃緋都の部屋に保管されている。
「あのあと、ずっと寝ていたって聞いてびっくりしてる」
「そうだよ、死んだように動かないから心配してたのよ？まったく…」
　美月の言い方に、璃緋都が頭を掻いた。そういう言い方ではあるが、心配されていることは分かっている。
「…いろいろなことがいっぺんにありすぎて、頭の中身を整理する余裕もなかったけど…でも、過去に起こったことは全部思い出したし、わたし自身、それを背負って生きる義務がある…前も言ったけど、彦にいや、わたしを助けてくれた人たちに怒られないためにも」
　やっとベッドから身を起こした璃緋都は、二人の顔を見回した。

『璃緋都、目が覚めたんだね。そろそろここから出してくれないかな』
「！？」
　三人が一度に絶句して、周囲を見回した。この部屋には、三人以外誰もいない。
「だ、誰！？」
　璃緋都も思わずベッドから飛び起きた。
『おーい、もう俺のことを忘れちゃったのか、ここは暗いから早く出してくれないかー』
「！」
　そういわれてあわててベッドから降りようとした璃緋都が、あわて過ぎたせいか、ベッドから転げ落ち、どすん、という大きな音が響いた。
「いった・・・ぁ…っ」
「璃緋都っ！」
　差し伸べられた手を取りつつ起き上がり、そばにある棚の引き出しを開く。そこには、ビニール袋に入れられた、あの本のページが入れられている。
『助かったよ、璃緋都。大丈夫？ハデに落ちたみたいだけど』
「大丈夫。ちょっと痛いけど…」
　ビニール袋からページを慎重に取り出し、ベッドの上に広げる。
「…喋ってるわね、本のページが」
「えぇ」
　澄江も美月も目を合わせてうなずきあっている。
『君の機転のお陰で、消滅せずに済んだんじゃないか』
「あっ、そういえば」
　言われた澄江がぽん、と手を叩いた。
「そういえば、あのとき澄江にひっぱたかれたわね」
「なんですって！」
　弁明の前に、美月が澄江を睨みつける。
「ほらほら、怒ってないから大丈夫よ、それより彦にいに怒られるよ？」

　そう、あの時『徳永』に貫かれた本に宿っていた神楽都志彦は、璃緋都によって破られたページの中にいるのである。
　もっとも、それを知ったのは三人ともつい今しがたなのだが…。
「…よかった、無事だったんだね、彦にい」
『無事っていうか、すでに死んでるんだけどね』
　言いながら、『都志彦』が苦笑する。確かにその通りだ。普通に考えれば彼はもう死んでいて、あの時、本当にこの世に別れを告げていたはずなのだ。
「…ね、都志彦さん、このページちょうど三枚あるんだけど、前わたしと、璃緋都のお母さんがやったみたいに、ページさえあれば行き来できるの？」
『うん、本の大元はなくなったけど、近くにさえあれば行き来はできるかな』
「それなら、三人で一枚ずつページを持ちましょうか。あの本の効力が残ってるかもしれないし」
「あ、あんたねぇ…」
　何をたくらんでいるか分かった璃緋都が、頬を染めた。
『…まぁ、間接的に俺が意識のどこかにいるような感じになるから、璃緋都が壊れない程度に頼むよ』
「否定してよ！？」
『ほら、俺はこんな体だから璃緋都と直接交わることはできないし、この二人のどちらかを通してなら…』
「なっ！？」
　驚く璃緋都と、ニヤリとする二人。


「…で、結局こうなるわけ…」
　あっという間にベッドの上で下着姿にされた璃緋都が、海よりも深い溜息をついた。
「もう慣れたでしょ。散々今まで色々な女性に弄ばれてきたんだし」
「その言い方やめてよ、第一全部わたしの意志関係なく…んっ」
　愚痴を言う璃緋都の唇を、美月が早々と塞いだ。
「じゃ、わたしはこっちを…」
　美月の顔で視界が塞がった璃緋都の足の間に、澄江が手を滑り込ませる。
「んんんっ！？」
（あ〜、結局また一方的なわけね…）
「んっ…」
（ちょっと、舌入れないでよ…）
　差し込まれてきた舌が自分の舌を絡めとり、器用に舐めてくる。澄江の手も璃緋都の下腹部を優しく撫でている。
　二つの感触が交じり合うのを、璃緋都は目を閉じて受け入れていく。
「ふふっ、嫌がってた割には、結構気持ちよさそうにしてる」
　下半身担当の澄江が、璃緋都の体が時折びくん、と反応するのを見ながら言った。
（…そういえば、わたし本当に女ばかり相手にしてるわね…澄江も美月もそうだけど…。
　風花さんや聖架さん、弓華さんは恋人がいるみたいだったし、真夜さんはもう結婚してたけど、どうしてこうわたしは女ばかり…前に夢の中で彦にいとヤっちゃったときは、本当は風花さんが相手みたいだったし…。
　…ってやめて、気持ちいい、気持ちいいから舌を絡めないで…っ！）
「んーっ、んーっ！」
　必死に抵抗する璃緋都の口の中を、美月は執拗に、激しく犯していく。

　さすがに、璃緋都の抵抗は激しい。いつの間にか下着の中にまで手を入れてしまっていた澄江は、璃緋都が必死のままばたつかせる足やヒザの一撃を受けないように警戒しつつの愛撫となっていた。
「こら、暴れないの！初めてじゃないんだから」
「んはっ…だ、だって…ぇ」
　やっと口を離された璃緋都の目はもう倒錯している。
「さて、璃緋都はもうばっちり濡れてるわよ！都志彦くん、どっちの体がいい！？」
『俺は璃緋都の傍が一番いい』
（というか、僕に聞かないで欲しいんだけど…）
「ひ、彦にいのバカぁ…」
「じゃあ璃緋都、どっちに入れたい？」
　都志彦の返事を聞いた美月が、璃緋都に迫る。いや、澄江も一緒になって迫る。
「ちょ、ちょっと…！…って彦にい！駄目、生やしちゃ駄目っ！」
　あわてて股間を押さえる璃緋都。しかし、時はすでに遅い。
「んあぁぁ、膨らんでくるッ！？」
（『我ながら不便な体だなぁ…助けを求めたのは俺なんだけど、まさかこの二人が、ここまで璃緋都一筋だとは思わなかった…でも、このページを離れれば、俺は本当の意味で死ぬことになるし、しばらくは我慢するしかないかな…。どう足掻いても俺と璃緋都はもう結婚なんて出来るわけがないんだし、…月並みな言い方になるけど、璃緋都に俺以外の信頼できる男が出来れば…そのとき、俺の必要はなくなる』）

　今のところ、璃緋都はまだ自分が必要だ…と都志彦は思っている。しかし、別れはいつの日かきっと来る。
　自分は死んでいて、璃緋都は生きているのだから。

「あれ？前のときより大きくない？」
　さりげなく璃緋都の下着を下ろしてしまってから、澄江と美月が目を見張った。
「本当だ。前は本当に小さくて可愛かったのに」
「うんうん。風花さんとしてたときは、すごい大きさで格差を見せ付けられたものだけど…、これって、わたしたちのこともそれなりに対象として認めてくれた、ってことなのかな、璃緋都？」
「わたしに聞かないでよ！」
　璃緋都のほうは大きく頭を振った。

（それにしても彦にい、人格だけページに行ってくれればよかったのに、なんでこの能力まで持ってくるのよ…）
（『それは俺の能力じゃない、一緒についてきたんだ、断じて俺がやってるんじゃない』）
　美月と澄江、二人に『モノ』をいいように舐め取られつつ、璃緋都は都志彦に愚痴をこぼす。
（『しかし、いずれ璃緋都が普通の恋愛ができるようになるか、まずはそれがすごく心配になってきたよ俺』）
（同感…）
「んくッ！」
　二人して激しく舐めるので、璃緋都のほうは耐え切れずに絶頂し、先端が勢いよく液体を吐いた。
　そのお陰で我にかえってしまった璃緋都は、顔面に白濁を浴びつつもまだ先端を舐めている二人に驚いた。
「ちょっと、いつまで舐めてるのよ、汚いからやめてよ、やめ…んっ」
　反論するも途中から気持ちよくなってしまい、またしても璃緋都は声を上げる。いつの間にか棒の部分が手で扱かれ、璃緋都の快感をさらに煽っている。
「…璃緋都、いっぱい出したね…」
「…うん、まだ硬い」
　二人はもう興奮状態にあるようだ。今ここでとめようとしても、終わるまでは決して止めようとしないだろう。


　数回の『あいこ』の末、先発に決定したのは澄江だった。自らが出した『グー』を呆然と眺める美月を尻目に、澄江が璃緋都をベッドに押し倒す。
（あぁまったく、朝っぱらから何やってんのよわたしは…っ！）
「璃緋都〜、さぁ可愛がってあげるからね〜」
「い、痛くしないでよ…っ！？」
　長身の澄江がのしかかるのを見て、璃緋都は思わずそう言った。
「大丈夫大丈夫、あたしと璃緋都の仲じゃないの」
　そういいつつ、裸になってしまった澄江が璃緋都に馬乗りになった。
（…って、何もしないで入れる気なの？）
　前戯もなしにいきなりモノを入れようとする澄江。しかし、璃緋都の不安とは裏腹に、もう澄江のほうは完全に準備が出来ているようで、にゅるり、とほぼ抵抗なく潜りこんでいった。
「んんっ…！」
　快感に震えたのは璃緋都のほうだった。
「ほら、まだ全部入ってないわよ、出さないでね」
　ゆっくりと腰を沈めながら、澄江の手が璃緋都の胸へ伸びていく。
「…羨ましいわね、このおっぱいの張りっぷり。もぎ取って自分に付け足したいくらい」
「恐ろしいこと言わないでよ…んはっ」
　膣内の締め付けと、胸に対する手の愛撫が混ざり、璃緋都に複雑な快感が襲い掛かる。言っていることはどこか恐ろしいが、澄江の指の動きはゆっくりと優しく、いたわる様に璃緋都の乳房を揉み解している。
「ん…璃緋都、前よりずっと大きくて、気持ちいい…」
（前に風花さんが言ってた通りなら…璃緋都が誰かと『ヤりたい』って思えば思うほど、これは大きいモノになるはず…。
　だから、前よりはわたしに心を許してくれているのね、可愛い璃緋都）
　澄江のほうはそんなことを思いながら、自分に突き立った璃緋都のモノを味わうがごとく、ゆっくりと体を上下させる。
（あぁぁ、き、気持ちいい…どうしてこんなに気持ちいいのよ、女同士なのに、女同士なのに…っ！）
「あんっ」
　不意に硬くなった乳首を摘まれ、大きな声が上がる。何度か交接を経験しているとはいえ、璃緋都のほうは慣れているわけでもなく、澄江にされるがままの状態である。身長が段違いの澄江が相手だから、というのもあるかもしれないが。

　澄江が璃緋都の上で体を動かす動作を、美月はやや欲求不満、といった目で見ていた。
　二人がベッドの上で時折熱く抱擁を交わすのを見て、美月自身も興奮しつつあり、
（早く終わらせてわたしの番にしてよ、澄江）
　と、待ちくたびれていた。

　が、不意に思い立った彼女は、ベッドに歩み寄ると、今まさに抱き合っている二人の脚の間に陣取る。二人は夢中で気づいていない。
（…すごいわね、こんなに塗らして、溢れさせて…）
　上半身だけベッドの上に乗せ、二人の股間、結合点をまじまじと見る。璃緋都のモノが動いているのではなく、総じて澄江の体が上下に動いているのがよく分かる。
　そんな中、美月は澄江のお尻を両手で鷲掴みにして璃緋都のモノに押し付ける。
「んぁっ！？」
　さすがに驚いたのか、澄江のほうが声を上げた。同時にモノが食い込み、璃緋都の体までが震える。
「こ、こら美月、やめなさい、終わるまでは手を出さないって…」
「問答無用！」
　そう言い放った美月は、澄江に食い込んでいる璃緋都のモノを人差し指と親指で挟み、ゆっくりと上下させる。
「ちょっ、み、美月、やめて、それ駄目っ…！」
　余計に興奮したらしい澄江が、さらに体を加速させる。ぐじゅぐじゅ、という嫌な音が小さく響いた。

「んんあぁっ！？」
　二人して同時に声を上げ、達してしまい、澄江が力を失ったかのように璃緋都の上に倒れこみ、璃緋都の両腕がその背中を包んだ。

「…はい、今日はここまでね…頼むから一日一回にさせて、気分的に滅入るから…すごく…」
　体を拭いたあと、璃緋都は何度目かの大きな大きな溜息をついた。こう体をいいようにされたのではたまらない。
「えー、わたしの番だと思ってたのに」
「はいはい後で後で…もう服着るわよ…」
　あからさまに愚痴をこぼす美月を尻目に、璃緋都は服を着替えてしまった。

「大体、あなたたちなんでわたしが恋愛の対象なわけ？まともに男と恋愛すればいいのに」
　今までしようとも思わなかった質問ではあるが、考えてみれば第一の疑問がそれでなくてはならない。
「今更それを言う？それとも璃緋都、うちの学校によさそうな男いると思う？」
「昔から女の子しか恋愛対象にしなかったわけじゃないんでしょ？」
　そういわれた美月も澄江も、腕を組んで、首をかしげ、かなり真剣に考えているようだった。
（どうやら、本当に男子と恋愛したことがないみたいね、この二人）
　璃緋都は改めて溜息をつく。心底打ち解けたとは思えるが、溜息の回数まで増えてしまった気がした。
（なんていうか、ありがたい反面すごいことに巻き込まれたわね、わたし…。自分自身は案外普通の恋愛していたのに）
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2012.5.16掲載
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