とりかえっこ○○

蔵人一文字 作
５　　もう一人の強敵

　午後五時の十分前、そろそろ『お嬢様』が出てくるであろう時間に、いつもどおりに黒い車が停まっていた。
　今朝方は璃緋都が急に『歩いていく』と降りてしまったのだが、時間をつぶしたこともあって特にお叱りなどは受けなかった。
「…分かっていたことだが、璃緋都の両親はわたしの父と同じくらい親バカなのか…」
　しかし、今日の『迎え』はいつもとは違った。ある一人の女性が後部座席に乗っていたのである。
「貴女の父親…先代の社長が親バカ？」
　運転手が意外そうに言うので、彼女は思わず苦笑してしまった。

「あ、来ましたよ、『お嬢様』が」
　運転手に言われて窓の外へ目をやると、確かに校舎のほうから璃緋都が歩いてきていた。
「ふむ…それじゃ、隠れよう」
「え？」
　運転手が彼女の言葉に振り返ると、そこには誰もいなかった。…のではなく、彼女は後部座席に寝そべってしまっていた。
　確かに、こうすれば外からは見えない。しかし、後部座席の窓にはすでにスモークがかかってはいるのだが。
（やれやれ、型破りな女社長だなぁ…）
　運転手もこれには苦笑していた。

「それじゃ、また明日ー」
　美月と澄江を見送ってから、璃緋都はいつものように、すでに来ていた迎えの車のドアを開けようと取っ手に手をかけ、ゆっくりと引く。
（…あれ？）
　ドアが思いのほか軽く開いたかと思うと、突然
「わっ！！」
　と見覚えのある女性が飛び出してきた。
「きゃあああっ！？」
　突然のことに驚いた璃緋都は、後ろに飛び上がって尻餅をついていた。

「あっはははははは…」
「ふ…風花さん、どうしてここに！？」
　犯人…雪村風花の手を借りて体を起こしながら、予想しなかった人物の姿に璃緋都が声を上げた。
「ふふっ…可愛い妹分の姿を見たかったものだからな。驚かせてすまなかった」
　風花のほうはいつもの調子である。
「でも、うちの車で…。今日来るなら、家に電話でももらえれば…」
「…そんな些細なことで学校を休ませるわけにもいかないだろう？」
　璃緋都が言いかけると、風花の指に鼻先を指された。
「さっ、些細なことなんかじゃ…って、立ち話もなんですから…」
「それもそうだな。運転手さんを待たせてもいけない」
　そう言った風花が、まず璃緋都を先に乗せてから、自分もやはりどこか優雅に乗り込む。
（…風花さん、やっぱり社長なんだなぁ…年下で『妹分』と言い切った割には、取引先の娘を先に乗せるんだもん）
　とはいえ、これは風花が社長だからではなく、風花が純粋に璃緋都に気を遣っているだけである。


（…ちょ、ちょっと、誰よあれ…！璃緋都の車に乗り込んでるなんて…。おまけに、璃緋都にあんなに親しそうに話していた上、璃緋都があんなにうれしそうに…っ！）
　学校の外壁に隠れて見ていたのは、内藤美月だった。璃緋都を迎えた車には、謎の女が乗り込んでいたのである。
（こうしちゃいられないわ。あの車はいつもの迎えの車だから、璃緋都の家に行くに決まってる！なんとかして追いかけなくちゃ！）


（あの女、只者じゃないわね…。璃緋都の気持ちをあそこまで解きほぐして会話ができるなんて。しかも美女だし、胸も結構ある。ここは何者か突き止めて対策を練らないと…）
　たまたま通りかかったタクシーを止めて追跡しようとしていたのは、熊田澄江である。彼女も、あの車に女性が乗り込んでいたのを見たのである。
「前の黒い車についていってくれる？わたしの知り合いなんだけど、車が豪華すぎて恐れ多くて乗れないの」
「はは…確かにあの車じゃあねぇ」
　タクシーの運転手は特に気にするでもなく了解してくれた。しかし、行き先を指定し終えた澄江の隣に、誰かがいきなり飛び込んできた。
「…便乗するわよ、澄江っ！」
　その声に横を向くと、美月である。
　互いの恋敵（？）とともに行動することになった彼女らを乗せた車は、つかず離れずで黒い車を追跡し始めた。
　もちろん、運転している人間にはそんなつもりは一切ないのだが。
（…澄江。璃緋都の家、結構遠いけど、料金は折半にしとくわよ）
（…了解。何も考えずタクシー止めちゃったけど、助かったわ）

（あれ？でも何で澄江が璃緋都を乗せた車を追う必要があるわけ？）
　美月は腕を組んで考える。そういえば、別に澄江が璃緋都を追う理由はないのだ。


　それから三十分足らずで、車は無事に口縄邸にたどりついた。
「それじゃ、まずは父さんに…」
「いや、社長には悪いが、わたしのほうが非番、プライベートでここに来ているからな。いきなり訪ねていっては却って迷惑だろう」
「へ？プライベートで、って…休みの日に、わざわざわたしの家に来てくれた、ってことですか？」
「一応、母君には了解をとっているよ」
　そういえば璃緋都も、この時間に父がいるかどうかは把握していない。むしろ出かけている可能性も高いだろう。
　駐車場へ戻る車を見送ってから、二人は門をくぐる。
「でも、なんでわざわざわたしの学校まで？待っていてもらえれば…」
「さっきも言っただろう。可愛い妹分に会いに来た、って。璃緋都は自分のことを卑下しているようだが、わたしは純粋に璃緋都のことを気に入っているんだぞ？」
　当惑する璃緋都とは対称的に、風花は笑顔で質問に答えた。
「…そして、それはきっとそこの壁に隠れてる二人も同じじゃないかな？」
「…えっ！？」
　風花の言葉に、璃緋都は思わずさっきくぐったばかりの門を見た。もちろん、誰の姿もない。
「…ほら、出てこないか。別にとって食ったりも通報したりもしないぞ？」
「べ、別に誰も…」
　戸惑ってしまった璃緋都が、門と風花の姿を見比べる。そうしていたところで、壁の向こうからは誰も出てこない。静まり返っている。
（なるほど、隠れてやり過ごすつもりか、それなら…）
　ちょっと考えた風花が、璃緋都に向かってこう言った。
「…どうやら気のせいか。それなら…」
「…それなら？」
「堂々と、こういうことができるな…ッ！」
　きょとん、としていた璃緋都の後ろに一瞬で回ると、風花はその体を後ろから抱きしめていた。左手は腰に、右手は胸に回す。
　そのあまりのすばやさに、璃緋都は声一つ出せなかった。
　その直後、門の影から二つの人影が声を上げながら飛び出した。
「あーーーっ！」
「こらーーーっ！」
　ところが、あまりに突然のことだったのか、小さいほうが足をもつれさせて地面に突っ伏すと、もう一人の背が高いほうもそれにかぶさるように倒れてしまった。
「ふげっ！…澄江、早く退いて、重い、重いってばッ！」
「こら貴女、いつまで璃緋都に抱きついてるのよ、離しなさいよ！」
　押しつぶされている少女の懇願も聞かず彼女に覆いかぶさったまま、『澄江』が風花を指差して怒鳴る。
「…ほら、いた」
　それを見た風花が、半ばあきれたように言った。が、それでも璃緋都の体は離していなかった。

「美月、澄江、こんなところまで来て何をしてるの？」
　風花に抱きすくめられたまま、璃緋都が驚きの声を上げた。学校が終わって夕方だというのに、車でも三十分かかるようなこの場所にいるのだから無理もない。
　ようやく体勢を立て直した二人は、言葉に詰まってしまっていた。まさかこんなに勘が鋭い女性だとは思っていなかったのだ。
「…この二人、璃緋都の知り合いなのか。…まぁ、同じ制服だから当たり前か。わたしたちが車に乗り込んだ直後から、タクシーを使って尾行していた」
「…そ、そこから気づいてたの！？」
　美月が驚きの声を上げた。と同時に、風花がようやく璃緋都の体を離す。どういうわけか、璃緋都が座り込んでしまった。
「…只者じゃない…けどね…ッ！」
「澄江！？」
　瞬間、澄江の足が地面を蹴った。
「璃緋都に手を出すのは許さないッ！」
「ちょっと澄江、暴力は…」
　璃緋都と美月が止めに入ろうとするが、澄江の拳はすでに風花に向いていた。
「風花さん！」
　璃緋都の声が響いた。

「…えっ」
　一瞬の後、澄江の体が宙に浮いていた。女性とはいえ背が高い澄江の体が、空中で回転すると、そのまますとん、と落ちていった。
「な、何が起こったの？何で澄江が座り込んでるの？」
　美月には何が起きたかよく分からなかった・
（…すごい…殴りかかって伸びきった澄江の右腕を跳ね上げて足を払った…）
　璃緋都には、何があったのかすぐに分かった。
「…剣は捨てたが、この程度なら今でもできるんだ。手荒な真似をしてすまない」
　
　風花が澄江を助け起こすのを見ながら、璃緋都は胸が熱くなるのを感じていた。発端は、風花に抱きしめられたときだ。
（…わたし、どうかしてるのかな…今風花さんに抱きしめられたとき…すごく、幸せだった…）
「…さて、璃緋都」
「…はい？」
　しばらくぼーっとしていた璃緋都だったが、風花に声をかけられてやっと我に帰った。
「この二人、どうする？」
「…ついてきてしまった以上、追い返すわけにもいかないし…」
　璃緋都は、大きく溜息をついた。

「…ふーん、居間が二階にあるなんて、さすが豪邸は違うわね〜」
　本当に物珍しそうに見回しながら、澄江が言った。
「ちょっと澄江、リビングって言いなさいよ。これだけ大きい家だと、リビングも階ごとに必要になるんでしょ。来客も多いだろうし」
　三人が通されたのは、三十畳くらいありそうな広い部屋だった。テーブルが置いてあり、数人が座れるようになっている他、本棚、食器棚に流し台まである。床には絨毯がしかれていた。テーブルの奥には二つ扉がある。
「…二人とも何か誤解してる。リビングは下にあるだけで十分よ。ここはわたしの部屋」
「…へぇ、ここが璃緋都の部屋なんだ…」
　美月も澄江も『ふーん』とばかりにうなずいたものの、すぐに顔を見合わせて声を上げた。
「部屋ッ！？こんな広いのが璃緋都一人だけの部屋ですって！？下手なホテルより豪華じゃないのよッ！？」
「…だから逆に窮屈してる…ちなみに向こうの二つのドアは、寝室とトイレ。なぜかバスルームだけは別の場所にあるんだけど…」
　璃緋都は知らないが、バスルームが別の場所にあるのは、両親が極端な親バカだからである。
　つまり、部屋ごとに風呂があると『スキンシップの場が減る』というのが原因だ。実際今でも、璃緋都が入浴中に母親が堂々と入ってきたりする。
　本人は迷惑しているが…。
「…これはさすがに驚いたな…」
　風花も苦笑している。彼女は社長だが、会社の規模では口縄財閥に遠く及ばないのである。
「何か飲みますか？」
　璃緋都が風花に訪ねると、彼女は少し考えた後で、
「…まさか現役女子高生の前で酒を呑むわけにもいかないからな。そっちの二人と同じものでいい」
　そういわれた璃緋都が、二人に顔を向ける。
「…えっと…な、何でもいい、かな…」
「う、うん、わたしも…」
　二人とも恐縮しきってしまっていて、言葉を濁してしまっていたのだが、璃緋都はテーブルに据え付けてあった電話の受話器を取ると、
「…あ、璃緋都ですけど…ちょっと来客があるので、適当に何か飲み物をお願いします」
『えっ！？お嬢様に来客ですか！只今お持ちいたします！』
（いかにも来客が珍しそうに言わないでよ…何か悲しい気持ちになるでしょ…）
　電話の先は例の『お抱えのシェフ』である。

「さて、璃緋都以外はわたしを知らないだろうから、一応自己紹介しておかないとか」
　部屋に置かれたソファー（！）に全員が座ったのを確認してから、風花が言った。
「わたしは雪村風花。こう見えてもＹＴＣ…雪村トレーディングコーポレーションの社長をしている。璃緋都とは友人の間柄だ。経営上の関係で口縄財閥に世話になっていることもあって、璃緋都とも懇意にしている」
「社長…」
　風花の言葉を受けて、美月たちがあらためて彼女をまじまじと見つめる。どう見ても若すぎる社長なのだから仕方がない。
（考えてみれば、年のわりにずいぶんと堂々としてるし、話し方もちょっと特殊ね…でも割と親しみやすい人っぽいけど…）
　あの璃緋都が風花には心を開いているらしいので、それは理解できる。
（…でも、璃緋都がべったりしているのだけは許せない…わたしだってまだ抱きしめたりしたことがないのに）
　美月がひそかに嫉妬の炎を燃やしているのだが、当の璃緋都はまるで気づいていない。

　互いの自己紹介を終えたところで、ドアがノックされた。さっき頼んだ飲み物が届いたのだろう。
「どうぞ」
　そう考えた璃緋都は、ドアの外に呼びかけた。
「失礼いたします。お飲み物をお持ちしました」
　まさに『シェフ』という姿をしたシェフが、飲み物を乗せたトレーを、ワゴンから取り上げ、一礼しつつ部屋に入ってくる。
（…ホテルだわ、こうなると）
（羨ましいけど、確かに落ち着かないわね、これ…）
　なんだか恐縮しきってしまっている美月たちとは裏腹に、風花は堂々としている。このあたりはさすが社長なのだろう。
「…飲み物だけでよかったのに」
　続いてテーブルに載せられていく物を見ながら、璃緋都がぼやいた。
「はは…そう仰らず召し上がって下さい。奥様からの申しつけで焼いていた、『紅茶のシフォンケーキ』です。少し多めに作ってしまったもので…」
　テーブルの上では、焼きあがったばかりのケーキが美味しそうな匂いを立てていた。

「…美味しい！」
　一口を口に放り込んだとたん、澄江が声を上げた。美月もその横で目をぱちぱちさせている。璃緋都は黙々と口に運んでいる。
「神奈川さんは、フランス、イタリア、インドといった国で料理の修業をしてきた、って聞いてるけど、パティシエの修行もしてたらしいから…」
「なるほど…しかし、自分で店を開いてもよさそうだが」
「そのあたりはよく知らないですけど…うちの父さんに何か恩があるとか」
　風花もその腕を認めたらしく、スプーンの動きが早い。
「でも璃緋都、その割には『飲み物だけでよかったのに』なんていってたわね。何で？こんなすごいケーキとか毎日食べられるんだよ？」
「…太るでしょ…ッ！」
　美月が言いかけると、璃緋都が彼女を睨みつけた。
「な、なるほど」
　さすがの美月も、今の剣幕にはたじろいだようだった。璃緋都は璃緋都なりに気を遣っているのだ。
「ふふっ…だが、璃緋都の場合は食べても太らない体質じゃないのか？まぁ、その点についてはわたしも同じようなものだが」
　風花の場合は、外に見せない気苦労が多いせいで太るに太れない、というのが正解かもしれないのだが。
「…ウェストは増えないけど…」
「…バストに全部くるわけね、羨ましい…」
「そういえば璃緋都、前よりも胸が大きくなってる気がするな。まったく、贅沢な悩みだ…わたしも聖架までとは言わないが、もう少し大きければ見栄えがいいんだが」
「風花さん、そんな数日で胸が大きくなるわけがないです。それにわたしが聖架さんレベルにたどり着くのはどうやっても無理だと思います…」
　聖架を知っている璃緋都は、彼女のことを思い浮かべながら反論した。

（…どう思う？）
　和気藹々としている風花と璃緋都を交互に見ながら、美月が澄江に小声で話しかける。
（…そうね。璃緋都がこんなに誰かと打ち解けているところなんて見たことがないわね、悔しいけど…）
（わたしもそう思う。たぶん、この風花という人は、璃緋都が憧れてる人みたいだし…これは強敵が現れたわ）

（あのさ、ひょっとして…）
　そこで初めて、美月が澄江に聞いた。
（…あなたも、璃緋都のこと、狙ってる…？）
（…『も』ということは、美月もやっぱり、ね…）
　お互い同じ相手を、ということで趣味をなじりあうこともせず、二人はただうなだれた…。


　目の前の風花と璃緋都が話し込んでいるのをよそに、美月が鞄を開けた。重そうに取り出されたのは、あの『本』だった。
「…ん？美月、何その本。ずいぶんと重そうね」
「え？あ、うん。道端で拾ったんだけど、何がなんだかぜんぜん読めなくて。璃緋都なら読めるかなーっ、て」
　昨晩、両親の寝室にあったものをこっそりと持ち出してきたものである。『行為』に没頭していた二人は、寝室に鍵を掛けずに眠っていたうえ、美月の侵入にも気づかなかったので、持ち出すのは容易だった。
（昨日のお母さんに何かが起こった…そして、わたしの体がこんな風になったのがこの本のせいかは分からないけど、もしそうならここで何かが起こる…そんな気がする。璃緋都に読ませたら、何が起こるんだろう…？）

「…何これ…ぜんぜん読めない…でも、まともな本じゃなさそう」
　適当なページを開いて、本をテーブルに置く。しかし、璃緋都の返答もやはりそれだった。
「風花さんは…」
「…知らない文字だな。英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語でもヘブライ語でもないし、もっと昔の文字か？」
　風花も首をかしげた。仕事上外国の人間とも付き合いが多い風花は、先ほど挙げた言葉を読めるし、話すこともできるのだ。
「風花さんにも読めない文字かぁ…」
　璃緋都が風花を見つめる。

（…あれ？何だろう…この感じ…胸が、熱い…？）
　風花を見つめていた璃緋都は、不意に未知の感覚に襲われていた。先ほど抱きしめられてから胸が熱くなっていたものの、いきなりその熱さが増した気がしたのである。
「…璃緋都…」
　そんな璃緋都に向かって、さっきまで本に視線を投げていた澄江がねっとりと呟いた。
「…？どうした、璃緋都？…えっ？な、何だ、この感じは…」
　そして、何故か風花までもが胸を押さえてしまった。

（みんな、何かおかしい…って、わたしも…勃ってきてる…っ）
　今まで忘れていたのだが、美月のほうも下半身に異常が起きはじめていた。何が起こったのかはわからないが、何かが起きている。
　そこにいる誰もがそう思っていた。
「…んっ！」
　突然、風花が璃緋都を抱きしめた。と同時に、璃緋都もまた風花の体を抱きしめていた。
「あーっ！」
　その光景に、思わず澄江と美月が指を指しつつ立ち上がっていた。
「ちょっと、璃緋都、一体何を…っ！？」
「…え…？わたし、何を…何を、風花さんと…？」
　璃緋都も璃緋都で、自分が今何をしているのか分からないらしく、風花の胸で半ば放心状態になっている。
「…可愛いな、璃緋都…」
　風花の目もどこかとろん、としている。さっきまでの威風堂々とした姿ではない。
「…み、美月、何か二人とも様子が変よ？一体…」
「わ、わたしにだって分からないわよ！とにかく、二人を何とかしなきゃ…っ！」
　…と二人を止めようとして、彼女は思わず再びソファーに座り込んでしまっていた。
（や、やばっ…今立ち上がったら、勃ってるのがバレる…というより、ついてるのがバレる…っ）
　彼女の股間のモノは、限界まで勃ちあがってしまっていたのである。

　美月が動けずにいると、今度は澄江が、璃緋都をはさんで風花の反対側に座りこむと、背中側から璃緋都を抱きしめていた。
「…えっ？す、澄江、何？」
「…璃緋都、大好き、璃緋都ぉ…」
　戸惑う璃緋都をよそに、澄江が彼女の背中に頬を押し付ける。
「ああ、璃緋都、あったかい…幸せ…」

（わ、わたし、何をやってるんだろう…？風花さんに抱きしめられてて、抱きついていて、澄江に抱きつかれて…あぁ、体が熱くて、変になる…）
「そ、それならわたしも…っ」
　誰かに顔をつかまれ、璃緋都は横を向かされた。その目の前にあった美月が、彼女の唇を優しく奪っていく。
「んっ…？んんーっ！？」
　不意打ちされた璃緋都は、唇をふさがれたまま喘いだものの、前後から抱きつかれているため動くことができない。
（あぁ〜〜〜、わ、わたし璃緋都とキスしちゃった…！！璃緋都の初めてのキスはわたしのものなんだ…ッ！）
　女同士でキスをしながら、美月は悦に浸っていた。
「…こら、美月。いつまでやってるんだ…。次はわたしの番だぞ、璃緋都」
「んっ、んんっ…」
　今度は風花が璃緋都の顔を自分に向けると、その唇を奪っていく。
「んぁ…っ」
（…あれ？今度は風花さん…うぁっ、し、舌入れられちゃった…すごい、絡み付いてくる…っ！女同士のキスなのに、こんなに気持ちいいなんて…）
　目をしっかりと閉じて風花の唇と舌を受け入れつつ、互いの唾液を交換しあう。
「…あ、ずるい、風花さん…わたしは唇をつけただけなのに…そんなに深くキスするなんて」
　そういわれた風花が、やっと唇を離した。
「ふふ…勉強不足だな。しかし、ここにいる人間はみんな璃緋都が好きなのか」
「うん、大好き…こうやって抱きしめてるだけでも幸せ…」
「す、澄江ぇっ、胸揉んじゃだめぇ…っ」
　後ろから抱きついている澄江が、璃緋都の乳房をゆっくりと揉み解していく。
「あっ、あっ、ああっ…」
　揉まれている璃緋都の体から、どんどん力が抜けていく。
「璃緋都…すっごく気持ちよさそう…」

（…これって、やっぱりあの本のせいなの…？ううん、そんなことはどうでもいい。わたし、今、璃緋都の心を掴んでる…っ）
　美月も澄江も、ほぼ同じことを考えていた。そんな中、風花がひとつの異変に気づいて、声を上げるのだった。
「…わっ！？み、美月、どうしたんだ？スカートがおかしなことになってるぞ！？」
「…あっ」
　風花に言われ、美月が下半身を見たときにはもう遅かった。勃ち上がって下着からはみ出してしまったモノが、彼女のスカートを大きく押し上げていたのである。
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2008.10.25掲載
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