とりかえっこ○○

６　　喪失

「…というわけなの」
　ようやく全員がソファに落ち着いたところで、美月はこれまでのいきさつを説明することになった。こうなれば説明せざるをえないだろう。
（あー、面倒なことになっちゃったわね…本当なら今頃、一対一で璃緋都といいことしてるはずなのに…）

「なるほど、するとこの本が原因の可能性がある…というよりも高いわけか」
　テーブルの本を閉じてから、風花が言った。
「…でも、本を読んだだけでこんなのが生えちゃうの？」
　下半身裸にされてしまった美月の『モノ』を見つめながら、澄江が言った。あれから少し時間を置いたものの、美月のほうはまだ元気に勃ち上がってしまっていて、すぐに元に戻りそうもない。
「…」
　璃緋都は顔を背けて絶句している。
「…見るのは初めてではないが、これは…すごいな…」
　風花は興味津々といった面持ちで注目している。
「…この本の効果はある程度理解できなくもないか…おそらくは『情欲』、『性感』を高める…現代でいう『精力増強剤』みたいなものじゃないか？」
「せ、精力増強剤って…マムシドリンクみたいな？」
　風花の言葉に、澄江が質問を返す。
「まぁ、だからといって性転換していいわけではないが…、とりあえず読んだものが望むままに情欲を昂ぶらせてしまう、というのが正解か。だからこそ、澄江は璃緋都に、璃緋都はわたしに欲情していたわけだが」
　言いながら、璃緋都の頭を撫でてやる風花。『気に入っている』と言ったのは嘘ではないようだ。
「でも、わたしには生えなかったわ。何で、美月だけに？」
「それは、澄江は『女として』璃緋都を愛しているからじゃないか？言い方をかえれば、美月のほうは璃緋都と『肉体的な関係を持ちたい』とか『犯してしまいたい』というような方向の願望があって、本の効果がそっち方面に向いてしまった、と推測できなくもない」
「な、なるほど…って、美月、あなたわたしに何しようとしてたのよ…ッ！？」
　さすがに、璃緋都が怒った。
「た、確かに…『好き』って言ってくれるのは…嬉しいは嬉しいけど…でも、ねぇ…」
　彼女の声も何故か弱弱しい。
「…璃緋都…駄目？わたし、入学したときから璃緋都のこと好きなんだよ…？璃緋都は鈍感だからちっとも気づいてくれなかったけど」
「…あ、う…」
（…否定しなきゃ。相手はわたしと同じ女なんだから、否定しなきゃ…でも…）
　自分でもすぐに『嫌』といえないのが不思議だった。『好き』と言われた嬉しさなのかもしれないし、先ほどまでさまざまな人間に抱きつかれていたせいもあるのかもしれない。あるいは、それもあの『本』の仕業なのかもしれない。
「…璃緋都」
「…美月…っ」
　二人が見つめあったところで、風花が割って入った。
「…待て、するならここじゃなくて、寝室のほうがいいだろう。ここだと後始末が大変そうだ」
「ふ、風花さん、すごいこと言いますね」
　澄江が目を見開いて驚いた。

「…ねぇ、璃緋都。本当にいいの？」
　璃緋都用の寝室も、かなりの広さがあった。さすがに隣の部屋よりは広くないものの、大きなベッドのほかに本棚にテーブル、テレビまである。
　寝室にやってきた璃緋都は、美月の顔を見ずに、自分からベッドの上に体を投げていた。
「…」
　璃緋都は何も言わなかった。ただ、『嫌』という顔もしていなかった。ただ顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。
「璃緋都、処女をなくしちゃうんだよ…？」
「…美月はそのつもりだったんでしょ…？どのみちわたしには好きな男なんていないし、今の時代、結婚まで大事に処女を守ってる女のほうが珍しいかもしれないし…」
「わたしが聞きたいのは璃緋都の意見だってば」
　業を煮やしたのか、美月が怒ったように言った。
「…そうね。美月なら、いいのかもしれない」
　ぽつり、と呟いたように出た言葉は、璃緋都自身にも信じられなかった。
「…何を言ってるんだろう、わたしは…きっと、あの本のせい。あの本のせいでわたしまでおかしくなってる…」
「璃緋都…」
　そんな璃緋都が、美月にはいつもの数倍可愛く見えた。彼女は眼鏡をとってテーブルに置いてしまうと、ベッドの璃緋都の隣に寝そべり、思い切り彼女の体を抱きしめていた。
「んっ」
　璃緋都が小さく声を上げた。
（あぁ～、幸せ、夢みたい…）
「璃緋都…あったかい…。服、脱がせる？自分で脱ぐ？」
「馬鹿なこと聞かないでよ」
　美月の質問に、璃緋都がそっけなく答えた。
「じゃあ、脱がせてあげる。覚悟しなさいよ」
「…」
　妙に張り切る美月に、璃緋都は溜息をついていた。
「電気消すね。カーテンも閉めるわね」
　そんな璃緋都をよそに、美月が『準備』をはじめ、やがて部屋が真っ暗になった。

「…で、お前は参加しないのか、澄江？」
　ドアの向こうで璃緋都と美月の会話がぼそぼそと聞こえる中、風花が苦笑しながら澄江に声をかけた。
「参加って…女三人で淫行ってわけにもいかないじゃないですか。そりゃ羨ましいですけど…」
　澄江もこんなときにはしおらしい。
「わたしに殴りかかってきたときの元気はどうした。そのドアの向こうには、無防備な璃緋都がいるというのに」
「…風花さん、面白がってないですか？」
　どこか嬉しそうに言った風花を、澄江の目がじと～っと捉える。それを受けた風花は、
「当たり前だ。こんな面白いことがめったにあるわけがない」
　とニッコリ笑うのだった。
（…そうだ。『いい機会』かもしれない）

「…璃緋都、可愛い！」
　裸になった璃緋都がベッドに横たわる姿を見て、美月が感嘆の声を上げた。
「見つめないでよ。やっぱり恥ずかしい」
　こんなときでも、璃緋都の言葉はやっぱり少ない。もともとが無口なのだからそれは仕方がないのだろうが。

（…わたし、今裸を見られてるんだ…）
　真っ暗な部屋のなか、仰向けになった璃緋都は、天井を見上げながらそんなことを考えていた。胸の鼓動がとても早くて、なかなか収まってくれない。
　相手はどんな男でもない、同じ女である美月である。
　ゆっくりと、美月の手が乳房に触れた。高校生にしては大きい乳房は、美月に触れられても形が崩れず、すぐにまた上を向いた。
「…やわらかい、すごく綺麗…ね、璃緋都。知ってる…？」
　美月が、右手に左乳房を包みつつ、人差し指で先端を優しく刺激していく。
「…こうするとね、おっぱいも勃つんだよ」
「…あっ」
　そうしていると、璃緋都がまた小さく声を上げた。璃緋都の乳首はまだその中に埋まっていたものの、美月に優しく愛撫を重ねられ少しずつ硬くなっていく。
（ああ、璃緋都、可愛い…。こう見ると、璃緋都の顔って、結構幼さがあるんだなぁ…って、まだ十六歳だから当然かぁ）
「ほら、硬くなってきた」
「…っ」
　たまに小さく声を上げたりするものの、璃緋都はまるで抵抗しなかった。全身を緊張させたまま、少し震えていた。
（…これじゃ、璃緋都がマグロねぇ…でも、何で抵抗しないんだろう…？気持ちいいからかな？それとも…）
　美月は少し疑問に感じ始めていた。いくら相手が美月とはいえ、初めての行為なのに全てを受け入れられすぎている気がするのだ。

「ねぇ、璃緋都。あなた、ひょっとして、『何も知らない』の？」
　思わず、美月は本人にそう聞いていた。
「…何も、って？」
「たとえば、自分の体をどうされると気持ちいい、とか、男女のセックスのときどうする、とか」
「…さすがに男女が『何をするか』は知ってるけど、細かいことは知らない」
　璃緋都は正直に首を振った。
「とすると、やっぱり、自分で…したこともないわけ？」
「自分で？」
「ほら、欲求不満になったりすると、自分の手でやっちゃたり、するでしょ？」
　内心『やっぱり』と思ったものの、璃緋都を問いただす美月。予感はほぼ的中しているようだ。
「…知らない、そんなの」
　つまり、璃緋都は『性的快感』や『性行為』についてほぼ何も知らないのだ。自分で自分の体を慰めたことすらないのだ。
「璃緋都。…怖い？」
　美月の質問に、璃緋都は少し時間を置いてからゆっくりとうなずいていた。
「…うん」
「…そう。やっぱり、怖くて体をガチガチにしていたのね。でも大丈夫よ。わたしは、璃緋都が大好きだから。だから、体から力を抜いて」
　美月は、無意識に璃緋都の頭を撫でていた。母親が娘に、あるいは姉が妹にするような、そんな行為だった。
　なぜそうしたかはまったく分からなかった。ただ、璃緋都が『怖がった』理由が『初めてである』とはどうも別のところにあるような気がしてならなかった。
　だからこそ、まずは璃緋都を安心させたかったのである。
　自分が思っていたよりはるかに、璃緋都は子供だった。美月はそれを実感した。撫でている間、まるで抵抗しない璃緋都を見ていると自分まで安心するかのようだった。
　やがて美月は、璃緋都の体を起こしてやると、抱きしめていた。璃緋都は最初びっくりしたかのように体を震わせたものの、やがて自分から美月の背中に腕を回していた。

　自分も服を脱いでから、今度は璃緋都を背中から抱きしめる。いくらなんでも自慰すら経験のない璃緋都にいきなり挿入は無理だ。
（…とはいえ、わたしも自慰で『しか』経験したことないのよね。他人を愛撫したことなんてあるわけないじゃないのよ）
　璃緋都の乳首はすっかり勃っていた。美月は、乳房を右手で揉みほぐしつつ、左手を手探りで足の間へと滑り込ませていく。
「…んっ！」
　不意に、璃緋都から声が上がった。同時に、美月も違和感を覚えた。
（…な、ない…。暗くて気づかなかったけど、まったくない…つ、ツルツルだ…っ！）
　すでに裸にはなっていたが、璃緋都の秘所には、何も守るものがなかった。本来このくらいの年齢にはすでにそこにあるはずのものがなかった。
（剃ったような痕もないわ…本当に無毛なんだ、璃緋都って…まるで赤ちゃんみたいにツルツルだ…）
「あっ、あっ、そ、そんなところ何度も撫でないで、美月」
「あ、ごめん」
　ずっと撫でていたら璃緋都に怒られてしまい、美月が笑った。

（さて、なりは高校生だけど、こうなると璃緋都は少女というより幼女、って考えたほうがいいわけね）
　さすがにそこまで貶めるのはどうかと思うが、美月の結論はそれだった。つまりは『慎重にならざるをえない』ということらしい。
（とすると、どうすればいいかな…）
　…少し考えた後、美月は璃緋都の乳房にそっ、と舌を這わせていた。
「うひゃっ！？」
　璃緋都から信じられないくらい可愛い声が上がるのを無視して、その舌を先端にもっていき、硬くなったそこを下から上へと舐めてやる。
「んんん…っ」
　びくん、と璃緋都の体が震えた。気持ちいいのかくすぐったいのかは分からない。でも、とりあえず怖くはないらしい。
（『うひゃっ』だって、可愛い…っ！このまま全身嘗め尽くしてやろうかしら…って、それじゃ璃緋都を怖がらせるだけね…少しずつ、少しずつ。でも、なんでこんなに怖がるんだろ。わたしなんて、高校に入るちょっと前には自分でやることを覚えてたし…）

「…くっ、なんだか胸がむずがゆいな…今すぐこのドアを開け放って璃緋都を抱きしめてやりたい気分だ…」
「あぁぁ…いいなぁ、いいなぁ…璃緋都、可愛いなぁ…」
　寝室の外では、女二人がドアの近くで耳をそばだてていた。
「…でも、璃緋都が思ったより抵抗しないのはなんでだろう。あの性格だから、美月を振り払うくらいしてもいいと思うんだけど」
　澄江がそう思ったのは、ドアからもれてくる声が本当にわずかだからである。『んっ』とか『うひゃっ』といった、璃緋都の小さな声と、美月が璃緋都に呼びかけるような声だけなのだ。どたばた音がするわけではない。
「…」
「あれ？風花さん、どうかしました？」
「…いや。なんでもない」
（そうか、怖がっているか…まだ早計だっただろうか？）
　ドアの向こうで何が行われているかを気にしつつも、風花は一人物思いに耽っていた。　
「さて、と。わたしたちも聞いているだけでは飽きてきたな…」
「…ですよねぇ…って、何を言わせるんですか！」
　最初は殴りかかったというのに、澄江と風花はすでに打ち解けていた。もともと澄江は誰とも仲良くなれる人間だし、風花は話し方こそ独特だが人当たりはいいのだ。
「では、失礼する」
　澄江が苦笑していると、何を思ったか、風花がいきなりドアを開いて中に滑り込んでいってしまった。澄江もあわてて中に入っていった。

「…えっ？なんで入ってきてるんですか、二人とも！」
　ドアが開く音を聞いて、美月が振り返り、璃緋都が少しだけ体を起こした。想像通り、二人とも裸である。
　璃緋都のほうも美月に愛撫されていたせいか、顔を火照らせていた。
「あまりに焦れったくなってしまってな。それに鍵がかかっていなかった」
　風花の言い方に、澄江が吹き出した。鍵がかかっていなければ入っていいという問題ではない。
「…あ、風花、さん…」
「璃緋都。どうだ？美月は、優しいか？」
「…うん」
　ベッドの上の璃緋都は、驚くほど素直にうなずいた。風花と璃緋都以外の二人が声を上げて驚いたほどだった。
「…それじゃ、続けてわたしが璃緋都にしてもいいか？」
　風花の言葉に、璃緋都はちょっと考えたようなそぶりを見せてからうなずく。

（美月。すまないが、少しだけわたしに任せてほしい。後は任せるから）
（えっ？あ、は、はい）
　服を脱がずにベッドに座る際、風花は美月にそっと耳打ちしていた。

「風花さん？」
　璃緋都は再び仰向けに寝た自分のそばに座った風花に呼びかけていた。風花は黙って彼女の手を握った。そして、璃緋都の体を起こしてやると真正面から抱きしめていた。

（今日は、なんだかいろいろな人に抱きしめられてるなぁ…わたし、そんなに幼く見えるのかな…）
　風花の体の温もりに抱かれながら、璃緋都はそんなことを考えていた。先ほどの美月の言葉からも、自分が他の人から見ればかなり遅れていることは分かったのだが…。
　彼女を抱きしめながら、風花はゆっくりとその足の間へと左手を滑らせていく。璃緋都の体はすでに汗ばんでいた。
「うっ」
　亀裂はまだ、ぴったりと閉じていた。風花の指がそこへと達したとき、璃緋都は小さく声を上げていた。
（…中に入れるのはまだ早いな。美月に愛撫されてるはずなのにまったく濡れていない、か）
　そう思った風花は、璃緋都の亀裂を優しく指で解してやる。
「…あっ、あ…」
　あまった右手で背中をなでてやりつつ左手で愛撫を繰り返す。どうやら璃緋都は頭や背中を撫でられると安心してくれるらしい。
　そのあたりは精神的にまだまだ子供なのかもしれない。
（とはいえ、不感症ではないようで助かる。…このまま背中を撫でていたら、璃緋都が寝てしまいそうだな）
　内心苦笑しつつ、少しだけ秘所を弄る手の動きを激しくしてやる。
「う…あんっ」
　そこでようやく、璃緋都の秘所が水音を立てた。
「あ…やっ」
　身悶える璃緋都を、右手で強く抱きしめてやる。でも左手を動かすのはやめなかった。
　璃緋都の声が少しずつ高まるのを感じた風花は、ようやく体を離し、今度はその豊満な乳房に舌を這わせ始める。
　今度は声は出なかったものの、璃緋都の体がぴくん、と反応した。
（…いかん。かわいい…本来の『目的』を忘れて没頭してしまいそうだ…いや、没頭してしまいたい…）
　いかにも『初めて』という反応を返されるのが楽しくて仕方がないのである。日ごろの『無関心さ』は今の璃緋都にはどこにもない。
　かといって自分から求めてくるような激しさもない。今の璃緋都は期待と不安に押しつぶされそうになりつつ、風花を待っている状態なのだ。

「ねぇ、美月…何か、璃緋都の様子、変じゃない？」
「…うん、わたしも今そう思った…なんでこんなにおとなしいんだろ？可愛くていいけどさ」
　風花が璃緋都を愛撫する様を見ながら、美月や澄江も違和感を感じ始めていた。何かがいつもの璃緋都と違う気がするのだ。
「…感じてるから、とか相手が風花さんだから、とかそういう理由じゃない気がする…」

「…はぁーっ、はぁーっ…」
　十分近くも経ったあと、風花がようやく璃緋都から離れた。いつの間にか璃緋都はまたベッドの上に仰向けに寝ており、その体のすべてがあられもなくさらけ出されていた。
　暗闇に目が慣れた二人は、璃緋都の秘所がすでに溢れていることにもすぐに気がついた。
　そして、璃緋都の目はすでに『いつもの璃緋都』だった。

「…さすがにイったりはしなかったか。まぁ、初めてだから仕方がないか」
　風花が苦笑した。
「…風花さん、上手すぎます…どこでそんなことを覚えたんですか…」
　息も絶え絶えの璃緋都に聞かれ、風花が困った顔をした。が、すぐに元の表情に戻ると、人差し指を口元に当ててこういった。
「企業秘密だ。さて、璃緋都。美月のこと、どう思う？今してしまっていいのか？」
　風花に話を本題に戻されると、璃緋都は表情をこわばらせた。しばらく美月のほうを見ていたが、ちょっと顔を赤く染めてうなずいていた。
「…美月。わたしは初めてだからね」
　返事は、それだけだった。

「…（改めて目前で見ると、やっぱりすごい…男の人ってこういうのをぶら下げてるのか…重くないかな…）」
　本来美月にはないものをまざまざと見せ付けられながら、璃緋都はそんなことを考えていた。
　しばらくの間美月はかかわっていなかったものの、風花と璃緋都のやり取りを見ていたためなのか、硬くなっただけでは足らずに上に反ってしまっていたのである。
「…これ、入るの？」
　璃緋都はためらいがちに尋ねたが、美月も首をかしげてしまった。璃緋都の亀裂は、守るものがないためむき出しになっている。
　目前でじっと見たわけではないが、ぴったりと閉じている上、少なくとも（本来あるはずの）自分の亀裂よりは小さいことは確かである。
　そんな中にこんなモノを突っ込んだらどうなるか…美月はぞっとしないような感覚に襲われていた。
（もともと、わたしはこうなるのが望みだった…璃緋都が好きでたまらなくて、璃緋都と抱き合いたくて仕方がなかった…）
　頭の中でそんなことを考えながら、美月は璃緋都の足を左右に大きく開いてやる。
　璃緋都の亀裂は、風花の愛撫で多少濡れていたものの、どう見ても狭そうだった。
（…璃緋都。今、あなたをわたしのものにしてあげる。優しく奪ってあげる…）
　自分が男だろうと女だろうとどちらでもいい。自分は璃緋都が好きだ。美月はそう結論を下した。

（…硬い。自分で触ってても分かる。こんなの、璃緋都の中に入れたらどうなるんだろう。裂けないかな…痛くないかなぁ…）
　璃緋都の足の間に体を入れつつ、右手で自分のモノを支える。血管が浮き出ているのが分かる。
（女も女で興奮すると膨らむところが下半身にもあるけど、男は倍かそれ以上になるんだなぁ…）
　胸の鼓動が止まらなかった。どうやらそれは、璃緋都も同じようだ。自分は一番大好きな人の処女を奪おうとしているのだ。その想いが昂ぶっていて、心臓の鼓動が収まってくれない。
「…璃緋都…っ！」
　意を決した美月が、硬く強張った先端を、璃緋都の亀裂に当て、そのまま力をこめた。
（…来る…っ！！）
　対する璃緋都は、足の間に来る硬い肌触りを感じると同時に、目を硬く閉じ、両手でシーツを強く掴んで抵抗していた。

　…ずるっ！
「…うわわわわっ！」
「きゃっ！？」
　ところが、いざ挿入！というところで美月のモノが入り口で滑ってしまい、勢いあまった彼女は璃緋都を正面から押しつぶしていた。
「…だ、ダメね…狭すぎて滑っちゃう…相当無理矢理入れないと入らないわ、コレ…」
（ああ、璃緋都のおっぱい柔らかい…）
　どさくさにまぎれて璃緋都の肌（主に胸）の感触を味わうため、美月はわざと起き上がらずにいた。
「美月、いつまで上に乗ってるのよ。重いったら」
　さすがに璃緋都に文句を言われ、内心（ちっ）と思いながら体を起こす。
「…あ～、やっぱりコレ入れるのは無理かなぁ…璃緋都に痛い思いさせたくないし…」
　仰向けの璃緋都の上に四つんばいになった恰好の美月が、溜息混じりに言った。
「…いっそ『逆』ならいいのに」
「…逆？」
　美月の言葉に、璃緋都が聞き返した。
「…うん。わたしが女のまんまで、璃緋都にコレがついてたら、わたしが犯してもらえばすむことなのに…って」
「…さらりとすごいことを言うわね。わたし、そんなものぶら下げたくない」
「わたしだって持ちたくて持ってるわけじゃないわよ～…」

「な、なんだかほほえましいな…やってることはいかがわしいんだが…」
　二人を見ていた風花が苦笑した。ベッドの二人はもう『親友』に戻っていた。相変わらず璃緋都の言葉は少ないのだが…。
「今日は、ここまでみたいね。美月が…萎えちゃってるし、あの様子じゃ」
「そうだな。だが、あの二人にとっても、わたしにとっても貴重な体験が出来た、ということか。だが…」
（…だが、まだ…）

「…あっ、時間…っ！大変、もう帰らなきゃ！」
　ベッドの傍らにおいてあった時計を見て、澄江が声を上げた。いつの間にか夜七時になろうとしている。
「えっ！？すっかり時間忘れてた…っ」
　服を着た美月も声を上げた。
「…あきれた…」
　同じく服を着て（ちゃっかり）私服になった璃緋都がぼそっ、と言った。この二人は後先を考えずにここに来てしまったのである。
　タクシーでも三十分かかるような場所なのだから、これから二人の家へはかなり時間がかかるだろう。
「…ちょっと待ってて」
　ベッドから立ち上がった璃緋都が、寝室から出て行くのを、三人は見送った。

　部屋に戻った璃緋都が電話を取ろうとした直前に、電話が鳴った。
（やれやれ…）
　やはり内心溜息をつきながら受話器をとると、シェフの神奈川仁である。
「お嬢様、夕食になりますので、食堂に…」
「そのことなんですけど、さっきの来客が部屋に泊まるので、四人分だけ持ってきて頂けますか？」
（父さんと母さんが文句言いそうだけど、風花さんはともかく、あの二人をうちの両親に会わせたくない気がするし）
「…はぁ、かしこまりました。三十分あればお持ちできると思います」
「すみません。お願いします」
　神奈川もどうやら、璃緋都と同じことを想像したらしかった。

「すまないな。迷惑をかけるつもりはなかったんだが…」
「！」
　いきなり真後ろで言われた璃緋都が、驚いて飛び上がった。振り返ると、やはり風花である。
「…（い、いつの間に真後ろに…！？）い、いえ、気にしないでください。どうせ神奈川さんだって食べてくれる人が少なくて困ってるだろうし」

「美月、澄江。外線使っていいから、自分の家に電話して親に許可取ってくれる？」
「今、携帯で済ませたわよ」
「わたしも」
　璃緋都の言葉に、美月も澄江も手に持った携帯電話を振ってみせた。

　神奈川仁が持ってきた料理は、名前はよく分からないが、イタリア料理らしかった。璃緋都も食べ飽きた感が強いとはいえ、この人の料理は今でもとても美味しく食べられるのである。美月も澄江も言葉ひとつ出さずにもくもくと食べ続けていたし、風花ですらフォークもナイフも動きが早かった。
「…ああ、羨ましい！」
　テーブルに乗せられた料理すべてを平らげたあと、美月が大げさにお腹をたたきながら言った。
「こんな料理、一生に一度食べられるかどうか分からないから、たっぷり食べちゃったわ！」

「…うわ～、やっぱりホテルみたい。客室まであるなんて」
「…部屋が余ってるのよ。無駄に広い家だから」
　『隣の部屋』に案内された美月たちは、その広さに目を見張った。『ホテルみたい』とはいったものの、実際はそこまで豪奢なつくりではない。
　確かに広いのだが、璃緋都の部屋ほどの『すごい感』はない。もっとも、それは璃緋都の目から見れば、ではあるのだが。
「たぶん子沢山を目指してこんな家にしたんだろうけど、実際生まれたのがわたし一人だったから部屋ばかり余ってるんだと思う」
　璃緋都はそう言ったが、『兄や妹がほしかった』と思うことがある反面、『一人でよかった』と思うこともある。こういう資産家の家は、子供が複数いると後で面倒が起きやすいのも事実なのだ。璃緋都自身財産云々は半ば興味がないものの、近しいもの同士の争いはしたくない。
（わたしの性格じゃ、弟や妹がいたら、そっちが可愛がられるのに嫉妬していただろうし）
　口は少ないが我侭を言わない子供になったのは、一人っ子だったからかもしれない、と璃緋都は思う。
「ベッドは二つあるから汚さないように使って。風花さんは別の部屋に…」
「その必要はないだろう？」
　そう言った璃緋都が風花を振り返ると、彼女は苦笑しながらこう言った。
「わたしは『姉のように璃緋都を優しく抱っこしながら眠る』ことにしようと思う」
「…ぶっ」
　風花を除く三人が吹き出した。冗談で言ったのかと思いきや、目が本気だった。
「さあ、璃緋都、行こうか」
「えっ？あっ、はい」
　ごく自然に手を握られ、璃緋都は言われるままにうなずいてしまった。

あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。

2008.11.1掲載

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