とりかえっこ○○

７　アレは転移する？

（…なんで、風花さんはわたしにこんなに優しいんだろう…）
　お互い『服を着たまま』抱き合うなか、璃緋都はふとそんなことを思った。今自分を優しく抱きしめているのは、自分が憧れる存在である、雪村風花その人である。胸はなぜか自分よりも小さいものの、この人の胸にいると、実の親といるよりも安心できるし、心強い気持ちになれる気がするのだ。
　もちろん、風花と抱き合ったのは今日が初めてである。こんな日が来るとも思っていなかった。
（…風花さん…）

（この子は、わたしを慕ってくれている…わたしにはこの子を守る義務がある。いや、義務だけではない。どうやらわたしも、璃緋都のことを心の底から心配し、気遣っているらしいな…）
　璃緋都には眠っているかのように見えた風花も、実は起きていた。風花のほうは璃緋都が起きているのを知っていた。
　すでに風花の瞳は妹を見る目ではなく、まるで自分の子供を見守る母親のような目だった。

「…あぁ、よく寝た！」
　なんだか瞬く間に朝がやってきた気がするのは、おそらく深く寝ていたせいだろう。
「…って、ここどこ？わたしなんでホテルに泊まってるの？誰かとヤッっちゃったかしら？」
「…ンなわけないでしょ。寝ぼけてないでとっとと起きなさいよ、美月」
　隣のベッドに座った澄江が、眼鏡を手探りで探す美月に声をかけた。
「へっ？あたし、澄江とヤッっちゃったの！？」
　どかっ！と美月の後頭部からいい音が響いた。

「痛いじゃないのよ、何すんのよ～～～」
「…目が覚めたでしょ」
　ようやく眼鏡を見つけて視力と昨晩の記憶を取り戻した美月が、頭を抱えながら言った。
「ほら、学校あるんだからとっとと制服着なさいよ！ここ、璃緋都の家だから相当登校に時間かかるわよ」
「あっ、そうだった！」
　澄江に言われ、美月があわててベッドから飛び起きた。いつもの自分の家ではなく、ここは学校から離れた璃緋都の家なのである。

「そういえば、下着で寝ちゃったんだっけ。制服で寝るわけにもいかない、って」
「わたしとしては璃緋都のパジャマとか貸してくれると嬉しかったけど、サイズ合わないだろうしなぁ…」
　二人とも制服だったうえ、一人っ子であるこの家には璃緋都のものしか服がない。いくら大きな家といえども、パジャマは璃緋都のものしかないのだ。
　美月はともかくとして、背が高い澄江は借りてもサイズが合わないだろう。璃緋都も貸すのを嫌がっていた。おかげで、二人は下着で寝るはめになったのである。
（風花さんには喜んで貸すだろうけど、あの人パジャマよりもスリップとかネグリジェとか着て寝てそうだし、パジャマ姿が想像できないわね。むしろ一糸まとわぬ素っ裸で寝てそう…）
「…とか言ってると、真後ろにいたりするのよね、あの人」
　風花の寝姿を想像していた美月が呟くと、
「よ、よく分かったな…、完全に気配を消したつもりだったんだが…」
　という声がするのだった。心臓が止まりそうになるくらい驚いて振り返ると、そこにいたのはやはり風花なのだった…。

「…あ、おはようございます。ところで、璃緋都は？」
「ああ、おはよう…それよりも美月、どうしたんだ？それは」
　風花に指差された先は、自身の下半身である。つられるようにして見ると、そこにはいつもの自分の姿があるだけだった。
　もっとも、着替え途中なのでまだスカートをはいていないため、白いショーツを履いているだけなのだが。
「何って、別にいつもと変わりない…って、ああーーーーっ！？」
　言われてようやく何のことか分かった美月が、思わず声を上げた。澄江のほうはその声に驚いたようだった。
「…な、ないっ！？昨日あったのがないよッ！？」
　ためしにショーツを下ろしてみると、昨日まで『生えていた』モノの姿がない。指でまさぐっても亀裂があるだけだった。
「…どういうこと？あの本の効果に時間制限がある、ってことなのかな？」
「その可能性もなくはないが…こっちはこっちで不可解なことが起きているんだ。ちょっと来てくれないか？」
　風花に言われ、二人は彼女に従って隣の部屋へ足を踏み入れる。

「…璃緋都、何やってるんだ！？」
　最初に踏み込んだ風花が、璃緋都に飛び掛っていた。『何事か』と思った二人も、後に続いた。
「璃緋都、どうしたの！？」
　風花の右手には、璃緋都から奪い取ったのであろう果物ナイフが握られていた。璃緋都は涙ぐんでいた。
「こ、こんなもの…こんなものついてたら、わたし、生きていけない…」
「…『こんなもの』？」
　床に座り込んでしまった璃緋都の頭を撫でてやりつつ、風花は澄江と美月を見比べる。
「…つまり、そういうことだ。今度は、あろうことか璃緋都に『ついてしまった』んだ」
　今度ばかりは風花も神妙な顔をしていた。目の前の璃緋都はどうやらそれで自殺まで考えたらしかった。
「嘘…まさか、伝染った、ってこと！？」
　美月も声を上げた。先ほど自分についていたモノがなくなっているのに気づいたばかりなので、その考え方は無理もなかった。
　挿入こそできなかったが、美月にあったモノは、璃緋都の秘所に確かに触れた。
（あるいは、それが原因か…？）

「…わたしのがなくなって、璃緋都についた、ってことは、やっぱり伝染った、って考えるべきなのかな？」
　さすがの美月も『見たい』とは言わなかった。自分はまぁ『璃緋都が好き』という理由があったのでよかったものの、璃緋都は相手こそいないものの正常な趣味を持った女子であろう。股間に妙なモノがついているのに気づけば衝動的に自殺に走るのもうなずける話なのかもしれない。
（まぁ、普通は璃緋都みたいな反応するのかもしれないわね。わたしの場合、璃緋都を手にかけることしか考えてなかったわけだし）
　この場合は『自分が異常』だったということを、美月自身もよく理解している。
「でも、あの本がそもそもの原因だとして、『精力増強剤』にたとえた風花さんの話が食い違わないですか？美月ならともかく、璃緋都に伝染る理由が分からない…」
「分からなくもないだろう。この場合、美月の相手がわたしだったら、わたしにできていたのかもしれない」
　澄江の言葉を、風花がさえぎった。璃緋都はようやく落ち着いたらしく、風花の胸でおとなしくしている。
「人はみんな、もちろんわたしも含めて、異性にも同性にも『愛情』を持つものだと思っている。人によって、あるいは対象によってその強さは上下するだろうが。璃緋都の場合でも、『そういう関係になってしまいたい』という女性がいたんじゃないか？」
「風花さんに…」
　風花の話を半ば聞かず、美月は風花の足の間にアレがぶら下がったところを想像してしまっていた。
「…璃緋都、どう思う？誰か同性に恋をした覚えは…ん？」
「…璃緋都？」
　あまりに璃緋都がおとなしすぎるので、風花は彼女の肩を揺さぶってみた。しかし、やっぱり反応がないのでよく見ると…。

「…寝てる」
「…うん。風花さんが言う『そういう関係になりたい同性』が誰だか、一発でわかったわね」
　風花の胸で二度寝している璃緋都を眺めながら、美月と澄江が互いにうなずいた。
「…なるほど」
　風花も苦笑していた。つまりは、そういうことなのだ。

「…ところで、学校！」
「！…すっかり忘れてたッ！？」
　朝っぱらからドタバタしていたので、美月と澄江が自分の部屋に戻ろうとする。お抱えのシェフもなぜか電話をかけてこなかったのである。
「…？二人とも、何で学校へ行く騒ぎをしてるんだ？昨夜璃緋都に聞いた限りでは、創立記念日で休みのはずだが」
「へっ？」
　風花に言われて、二人は顔を見合わせた。
「昨日のうちに、『朝食は遅めになる』ってシェフに連絡を入れていた。それでモーニングコールをしてこなかったんだろう」
　どうやら、二人とも忘れていたらしい。覚えていたのは璃緋都だけだったのである。

「…あなた、璃緋都の様子は如何でしたか？『彼女』に任せておいてよさそうですか？」
　階下の食堂では、璃緋都の両親が朝食をとっていた。シェフの神奈川は璃緋都たちの食事の用意をするために、厨房にいる。
「…昨日の連絡を受けた限りでは、特に問題はないらしい。もともとあまり喋らない娘ではあったが、あれ以来、璃緋都は私たちにも心を閉ざしてしまったきらいがある」
「この場合、変化がないのも問題なのです」
　母親…口縄燈子が言う。普段は割とおっとり型で璃緋都いわく『天然』なところがある彼女だが、璃緋都のこととなると別人のようになる。
「いつになったら、璃緋都は『あのこと』から開放されるのですか？」
「…私たちにも癒せない心の傷を、あの子は負ってしまった…今は、『彼女』に任せるしかない。任せるしか、ないんだ」
　誠吾の言葉は、自分に言い聞かせるかのようだった。その言葉を合図に二人とも席を立ったが、テーブルに置かれた料理はほとんど手付かずの状態だった。

「奥様。『内藤』という方からお電話が入っておりますが」
　食堂から出ようとしたとき、燈子は執事の戸塚鉄彦に呼び止められた。
（内藤…？確か、昨日泊まっていった璃緋都の友達ね。前に父兄参観で見たことがあるわ。どこかのんびり屋そうなところのある気のいい人だったと思うけど…）
「分かりました」
　燈子の言葉に、執事が一礼を返して退去するのを見てから、彼女は電話の元へ急いだ。

『突然のお電話申し訳ございません。そちらにうちの娘がお世話になっているそうで…』
（あら？）
「いえ、こちらこそ日ごろ璃緋都がご迷惑をおかけしていないか心配しておりまして」、と当たり障りのない返事をしながらも、燈子は妙な違和感を覚えていた。
　その後はたわいもない世間話になった。長電話できる身分ではないが、この人との話は楽しく思えるのだ。
　結婚前はともかく、誠吾と結婚して以来、私的な女の友人と疎遠になってしまっていた彼女にとっては、何度も出会ったことがないとはいえ、非常に貴重な存在である。以前父兄参観で一度会ったことがある彼女のことを覚えているのはそのためなのかもしれなかった。
『そちらの璃緋都さんにも、一度はわたし共の家に遊びに来ていただければ、と思っております。何しろうちの娘は家に引っ込みがちなので…』
　財閥の主の妻である燈子に、内藤菜月は如才なく言葉を投げかける。相手を敬ってはいるが、自分を卑下しない人間なのだ。たいていの人間は、燈子の肩書きを聞くと、極端に敬ったり自分を遜ったりする。地位的に仕方がないのかもしれないが、それゆえに『対等の付き合い』がなかったのも事実だ。
　もともと世間話は好きなほうである燈子は、このときばかりは長電話をしてしまうのであった。

「…気のせいかしら…？」
　受話器を置いた後、燈子は先ほどの違和感について考え込んでしまった。
「…あの人、なんだか声が溌剌としていて、まるで若返ったような感じに聞こえたけど…」

「…ああ、可愛い…っ！」
　先ほど風花の胸で眠ってしまった璃緋都を、今度は澄江が抱きしめていた。今澄江が彼女を抱きしめてはいるが、美月、風花と経てようやく澄江の番が回ってきたところである。
（でも、何でだろう…今の璃緋都に違和感がある…普段の『無関心であまり喋らない』璃緋都を知ってるからかな…？）
　澄江も美月も、そこのところには疑問を持っていた。
「さて、そろそろベッドに寝かせてやったほうがいいんじゃないか？あまり抱きしめると骨が砕けてしまうぞ」
「…風花さん、澄江に言うとシャレになってません」
　風花の言葉に、美月が苦笑した。

「んしょ…っと」
　美月と澄江の二人がかりで、璃緋都の体がベッドに横たえられた。璃緋都は身じろぎひとつせずまだ寝入ってしまっている。
「…可愛いなぁ…」
　そんな彼女を見て、美月が呟いた。同時に、璃緋都のスカートに手をかける。
「…こら、美月、どさくさにまぎれて何考えてるのよ」
「だって、見てみたくない？よく寝入っちゃってるし、今なら見られるよ」
「や、やめなさいって、美月…あっ！」
　澄江が止める前に、美月がスカートと下着を一緒に下ろしてしまい、璃緋都の下腹部がベッドの上で晒される。風花はあっけにとられたかのように何も言わなかった。

「…ぷっ」
　璃緋都の細い足の間には、確かに『ついて』いた。先日の美月とそっくり同じ現象である。しかし、それを見たとき、美月は思わず吹き出してしまった。
　いや、美月だけではなく、澄江に、それに風花までが口元を抑えて吹き出した。
「…ち…」
「…ちっちゃ～～いッ！あっははは…」
　やがて、美月と澄江が声を上げて笑い始めた。璃緋都についていたモノは、昨日の美月に比べるとかなり小さかったのである。
「昨日の美月が『すっごい元気に勃ってた』から、璃緋都のが余計にちっちゃく見えるっ！あはは…」
　澄江の言葉に、昨日まで同じモノがついていたのを棚に上げて、美月が腹を抱えて笑い始めた。
「う、う～ん…」
　ところが、あまりに大きな声で笑ったせいか、璃緋都が目を覚ましてしまった。
「…あ、起きた」
「…」
　璃緋都は、自分がなぜベッドの上にいるのか理解できない、という面持ちであたりを見回していたものの、やがて自分の下半身が裸にされているのに気づいた。
「…っ！」
　璃緋都の顔がすごい勢いで真っ赤に染まっていった。耳たぶまで真っ赤にした彼女は、美月と澄江を無言で思いっきりにらみつけていた。
（…こ、怖い…ッ！可愛いけどすごく怖いッ！）
　睨み付けられた二人は、先ほどまでの爆笑を忘れてピタリと動きを止めてしまった。
「…風花さん、この二人、『始末』していいですか？」
「（始末って…）…まぁ、気持ちは分かるが待て。というか、わたしにそんなことを聞くな」

「でも、何でこんなに小さいんだろ？わたしのときはあんなにすごかったのに」
「まぁ、馬並みだったからな…美月と違って、同性に対する愛情がそこまで強いわけじゃないんだろう。美月の場合は『璃緋都一筋』だったから彼女に対してあんな状態になったわけだが」
　璃緋都の足の間をまじまじと見つめながらの疑問に風花が答える。璃緋都は股間を両手で押さえてしまった。まだ怒っているようだ。
　「その疑問を解消する前に、璃緋都の怒りを静めてやらないと、だな。時間は八時ちょうど。シェフの神奈川さんが朝食を用意してくれるのが九時くらい。まだ時間はあるな…」
　時計を見ながら言うと、風花は自分から璃緋都がいるベッドの上に上がっていった。

「璃緋都、ちょっといいか？」
　璃緋都の横に座ってしまった風花が、彼女に声を掛けた。璃緋都は黙っていたものの、拒絶はしない。
（…駄目だよ、風花さん…）
　胸のうちではそう思っているものの、口からは出ていかない。そうこうしてるうちに、風花の左手が背中に回っていく。
「んっ」
　くすぐるように背中を撫でられ、璃緋都の体から一瞬力が抜ける。
「あっ！？」
　その隙に、風花の右手が璃緋都の足を開いてしまった。同時に、この前の美月と比べるとずいぶん小さいモノが姿をあらわした。
（や、やばっ！）
　はっ、とした璃緋都は再び足を閉じようとするものの、その前に風花の右手にモノを包まれてしまった。
（…っ！！）
　瞬間、璃緋都の胸の奥に何かが湧き上がり、息が詰まった。
「…ふむ、確かに小さいな。それにまだ幼い…男の兄弟がいなかったから、小さいのを見るのは初めてだ…どれ」
　璃緋都のモノを右手で包んだままの風花が、そのままベッドから降りてしまった。璃緋都のモノはまるで子供のモノであり、勃っていないのもあるが、完全に皮を被っている。風花はそれを袋ごと優しく揉み解していく。
「あっ、あぁっ…」
　あらぬ快感が突き抜けてしまい、璃緋都が軽くのけぞった。

「でも、何で美月とこんなに大きさが違うんだろう？璃緋都があまりにも幼女っぽい性格してるとか？」
「…あ、あとで、殴るわよ…っ…んっ」
　昨日自分についていたものを思い浮かべながら、美月が風花の手に包まれた璃緋都のものを覗き込む。璃緋都の悪態も凄まじい。
「…な、なかなか勃たないな…」
　しかし、璃緋都の感じっぷりとは裏腹に、風花が戸惑いながら呟いた。
「…自信をなくしそうだ…」
（なんで本当に残念そうな顔をしてるんだろう…あははは…そういえば、風花さんて恋人がいるのかな…自信たっぷりに璃緋都をもてあそんでるし。でも、手つきは結構ぎくしゃくしてるし、慣れてるわけじゃないみたい）
「…う、うう、ごめんなさい、風花さん…」

「わ、わたしにもさせて下さい！」
　突然そう言ったのは、澄江だった。いきなり言われた風花も、思わず手を離してしまった。
「わたしだって、美月と同じで璃緋都が好きですし、昨日何もしてないじゃないですか！」
「そういえばそうだな…ひとつ任せてみるか」
「…あの～、わたしの意見はどうでもいいわけ…？第一、わたしたち集団で何をやってるんだろう…」
　二人の密談がまとまったところで、璃緋都がじと～っと澄江を見つめる。鋭くにらんでいるわけではないものの、戸惑ってはいる。
　朝っぱらからこんなモノがついていた上、裸にされ、風花に触られた上、澄江が『わたしもやりたい』と言ってきているのだから当たり前だ。
「いいじゃない。どうせ休みなんだし。それにわたしは璃緋都にそんなに触ってないし」
　そう言いながら、風花に変わって澄江がベッドの上に上がる。
「さぁ、揉みしだいてあげるわよ～」
　やけに楽しそうに言うので、璃緋都は思わずベッドの上で後ずさってしまった。
「つ、潰さないでよ…っ！？」
「そうよ澄江、手加減しなさいよ！あんたクラスの女子一握力が強いんだから！」
「あ、あんたたちねぇ…！」

（や、やだ…間近で見ると本当に可愛い…）
　『もうズボンかスカートを穿いてしまいたい』といった顔をしている璃緋都を無視して、澄江はゆっくりと彼女のそれを手に包んだ。
（…プニプニしてる…美月のときは分からなかったけど、これ射精とか出来るのかな？いかにも子供のだけど…）
　力をこめないように慎重に、ゆっくりと揉み解しつつ、璃緋都の顔を見る。真横にある璃緋都の顔は、なんともいえない表情だった。
　恥ずかしそうで、でも気持ちよさそうな複雑な表情。『男と女のような関係』を望んでいない、と風花に評価された彼女も、璃緋都の今の顔にはどきり、とさせられた。
　袋を右手で、棒（といっても勃っていないので柔らかいのだが）を左手で包む。
「…璃緋都、どう？」
「どう？…って聞かれても、困る…なんだか妙な感じ。気持ち悪いわけじゃないけど…」
（まぁ、自分が風花さんより上手いなんてひとつも思ってないし、無理もないわね…でも、せっかくの璃緋都の体だし、すぐにあきらめてたまるものですか）
　そう思った澄江は、左手の指を動かし、棒を覆った皮を剥いてしまった。
「ちょっ！？」
　璃緋都も美月も、これには声を上げた。少しだけ赤みを帯びた先端を、澄江は優しくつまんでやる。
「や…やぁ…っ」
　璃緋都が眉をひそめた。
（…ここね？）
　内心ニヤリとした澄江は、さらに『攻撃』を加える。
「や、やめて、それやめて！」
　よほど気持ちいいのか、璃緋都が足をバタつかせ始めた。
「璃緋都、ここ気持ちいいの？」
　指でコリコリと責めてやりつつ、澄江は意地悪く彼女に聞いた。
「ち、違う…っ、気持ちよくなんて、ないから…っ！違うの…っ」
　頭を大きく振って、璃緋都は答えた。
（…素直じゃないわね…）
「ち、違うってば…ッ！」
　そのとき、後ろでなんだかバタバタと誰かが走っていく音がした。しかし、澄江はそれを気にせずに愛撫を続ける。
　璃緋都が感じる場所を見つけたのだから、そうやすやすとやめるわけにもいかない。
　しかし、璃緋都の反応ぶりとは裏腹に、彼女のモノはまるで勃ちあがっていなかった。
「あ…だ、ダメ、我慢…できない…ッ、もうダメ、澄江、やめて、どいて…ッ、あぁ…」
「澄江、どけッ！ついでに二人とも向こうを向けッ！」
　璃緋都が顔を覆ってしまうと同時に、風花が澄江と美月を突き飛ばしていた。

「あ～～～～～～…っ…はぁ…」
　ガサガサ、という音の直後、璃緋都が気が抜けたような声を漏らすのが聞こえた。

「…な、何するんですか風花さん！」
　突き飛ばされてベッドに突っ伏した澄江が起き上がると、璃緋都の目の前に風花がいた。
「う、うぅ…もう死にたい…死んでしまいたい…こんなところを見られるなんて…」
　璃緋都は相変わらず顔を覆っている。風花はベッドに座った璃緋都の股間にビニール袋をあてがっていた。
「…安心しろ。わたし以外は見ていないぞ。そもそも今のは澄江が悪い」
　ビニール袋を璃緋都から離してきつく縛ったあと、風花はトイレへと駆け込んでいった。

「…出たいなら、素直に言えばよかったのに…」
「わたしにもプライドってものがある…っ！やめてって言ったのに…」
　風花が戻ってきた後、璃緋都は怒ったような表情を澄江に向けた。放尿してしまうまで弄られたのだから当然だろう。
「もし風花さんが気づかなかったら、ここ水浸しになってたわ…」
「わたしも詳しいことは分からないが、男性の絶頂とは明らかに違う表情だったから、『もしや』と思ったんだ。
　適当にビニール袋を使ってしまったが、間に合ってよかった」
「…風花さんて、経験あるんですか？」
　唐突に、美月が聞いた。と同時に、空気が凍った。璃緋都も思わず風花のほうを向く。
「え、あ…」
　珍しく、風花の顔が紅潮してしまった。
「『男性の絶頂とは明らかに違う』ってことは、見たことがある、ってことだから…」
「…わ、わたしは二十歳の健全な女だぞ、まったく…」
　頬を人差し指で掻きながら、風花が答えた。
（なんとなく、璃緋都がこの人を好きな理由が分かった気がする…）

「さて、璃緋都」
　時計を見ながら、赤くなったままの風花が璃緋都を見る。
「はい？」
「…そんなものがついたままじゃ落ち着いて外も歩けないだろう。さっさと美月に返してしまえ。早くしないと神奈川さんが朝食を持ってくるぞ」
　やけに楽しそうに言う風花と、戸惑う璃緋都の温度差がとても激しかった。
「か、返されても困るんですけど…でもまぁ、相手が璃緋都ならわたしは一向に構わない…でも、アレ戻されてもなぁ」
「ふふっ、でなければわたしが璃緋都を奪ってしまうぞ？璃緋都の初めての相手がわたしになってしまってもいいのか？」
　おそらくさっき『経験あるんですか？』と聞かれたことを根に持っているのだろう、風花の質問はどこか意地悪っぽさがあった。
「…あの～、だから、わたしの意見は」
「璃緋都、この際あんた覚悟しなさい。わたしは覚悟したわ。璃緋都に奪われるならそれが戻ってきてもいい。本望よ！」
　璃緋都が意見を述べる前に、美月が結論を出してしまった。その瞳はなぜか燃えていた。
　そして、美月のその大げさな物言いに、璃緋都も澄江も吹き出してしまうのだった。

あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。

2008.11.5掲載

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