６

　月曜日になり、明彦と麻里子は一緒に出勤した。
　会社が苦しくなってからは、少しでも助けになるかと、麻里子は雑務を手伝っている

「あ、おはようございます」就業時間前にもかかわらず、専務の山根がいた。
　先代からの社員の山根は、数年前に還暦を迎えた初老の温和な男である。
「おはよう。山根さん早いね〜」
「おはようございます。今、コーヒーを淹れますね」
　麻里子は事務所の隅にある、給湯室に向かった。
「すみませんね、奥さん・・・も〜、社長、のんきに早いねじゃないですよ。どうでしたか、出資の件は？」
　山根に問われ、明彦は連絡を忘れていた事に気付いた。
（うっかりしてた・・・まあ、それどころじゃなかったからな・・）
かって言った。
「寝ないで待っててね。あれ、してあげるからさ、ふふ」
　一瞬、何を言っているのかと、あっけにとられた。
（ばか、こんなところで大声で・・・・酔っ払いすぎよ、もう・・）
　他の客の、好奇の視線から逃れるように、麻里子は足早に店を出た。

「社長、あれって、夜の事でしょ？・・・・やだなぁ、あてられちゃいましたよ」
　山根は酔った顔で笑った。
「うちなんか、女房の更年期から、すっかりご無沙汰なんですから」
「ん？　ああ、あれね・・・そうだな、普通のあれじゃないって事だけ言っとくよ、はは」
　明彦は昨日もバイブを使った。面白いように何回も登りつめる妻を見て、すっかりバイブに夢中になっていた。
「ふ〜ん、普通じゃない・・・・よくわかりませんが。何なんですか？　おしえて下さいよ」
「そんな、言えないよー、夫婦の事だからさ。でもねぇ、これがすごいんだよな〜」と言いながら、明彦は妻の姿態を思い出してニヤついた。
「あー、１人でニヤニヤしちゃって。ねえ、おしえて下さいよ、そこまで言ったんなら。ね、少しだけでも」
　しばらく押し問答が続いたが、酔った勢いもあって、明彦は押しきられて話してしまった。
「へぇ、バイブねぇ。そんなにすごいんですか・・・へぇ」感心したように山根は言った。
「ああ、最近、手に入れたんだけどさ、すごくいいんだよ。スイッチなんて入れちゃったらさ・・・もう大変だよ」
「へえぇ・・・・」
　２人は別々の頭で、同じ想像をした。
「ね、社長。これから帰って、それ、するんですよね？　ねえ、私に見学さてくれませんかね？　このまま帰ったって、寂しく寝るだけなんですから」
「えっ、それはだめだよ。そんなの見せられるわけないでしょう。山根さんも、いい年してすごい事言うねぇ」
「ちょっとだけ、部屋の外から覗くだけでいいですから。ね、お願いしますよ」
「そんな無理無理。何度頼まれてもだ〜め！」
　頑と断わりながらも、酔いのせいなのか、明彦の口元は嬉しげにほころんでいた。

　やっと１人になれて、麻里子はほっとしていた。
　束の間の安らぎだが、昨日は明彦がぴったりと一緒だったし、会社では誰かしらいたので、１人だけの空間がうれしかった。
　昨日、夫の操るバイブで何回も達し、快感に喘いでしまった。
　拒否はするのだが、言葉とは裏腹な体の反応に、夫は聞く耳を持たない。
　実際、愛撫で火を点けられてしまった体は、どうしようもなくなってしまう。
　湧き上がった欲望は、自分では抑え込むことができなくなってしまっていた。
　嫌悪しながらも、バイブを差し込まれて、頂点を求めて悦ぶ自分が情けなかった。
　明彦は、今夜も使うと言っていた・・・・麻里子は、重い気分でシャワーを浴び、寝支度をした。
　膝丈の薄いネグリジェ・・・・体の輪郭や、乳首、パンティラインなどが、透けて見える。
　結婚後、初めてのプレゼントがセクシーなネグリジェだった。
　遠まわしに、女性のパジャマ姿は好みではないことを告げられ、以来このスタイルをしている。
　改めて、自分の格好にため息をついた。
　まだ、夫は帰って来ない。深酒した時の常で、空腹を訴える。
　麻里子は、ダイニングで簡単な夜食を用意して待っていた。

　チャイムが鳴った。
　インターフォンから、夫の酔った声が聞こえる。
　麻里子は玄関まで迎えに行き、ドアを開けた。
「お帰りなさい。ずいぶん飲んだみた・・・・・はっ！」息を呑む。
　明彦の後ろに、山根がいたのだった。
　夫だけと思っていた麻里子は、自分のスタイルに気付き、慌てた。
　自分を抱くように、体を隠しながら、「山根さんもご一緒だったんですね。あ、あの、ちょっと着替えてきますね」
　早口でそう言うと、麻里子は小走りに寝室へ逃げ込んだ。
（やだ〜、恥ずかしい。見られちゃった・・・・もう、明彦さんたら、連絡くらいくれればいいのに）
　落ち着かない気分で、着替える服を選び出した時、背後に気配を感じた。
　ハンガーを手にしたまま、首を振り向けると、明彦がいた。
「あなた、ご一緒なんだったらせめて連絡を・・・・・あっ」
　明彦は、背後から妻に抱きつき、胸を揉みしだいた。
「だめよ。あなた、酔ってる・・・山根さんがいるのに」
「大丈夫、山根さんは帰ったよ。麻里子、しよ」
「帰ったって・・・・飲みに寄られたんじゃないの？」
　明彦は、腑に落ちない表情の妻からハンガーを奪い、ベッドに寝かせた。
「僕を送ってくれただけだよ。そんなことはいいから、さ」
「あなた、そんな急かさないで・・・・お夜食があるの、先に食べて」気をそごうと麻里子が言った。
　明彦は、妻を黙らせるようにキスをし、薄いネグリジェの上から、秘部に触れた。
「うっ・・んんん・・・」酒臭いキスに、麻里子は顔をそむける。
「ねぇ、お夜食、冷めちゃう・・・・んん・・」
「ああ、後で食べるよ」そう言って、ネグリジェに手を差し入れ、パンティを抜き取った。
　足を開かせ、ネグリジェの裾を片手で持ち上げ、もう一方の手を侵入させる。
　秘部を撫でまわしていた指が、妻の１番敏感な箇所であるクリトリスで留まり、その一点を擦る。
「・・・ん・・んんぁ・・・はぁぁ・・・・」
　潤み始めた蜜を塗りつけ、擦ったり摘んだり押したりと、しつこく責めた。
「あっ・・・あぅっ・・はぁああ・・・・あうあああ・・」
　目を閉じ、せつない表情で愛撫を受ける麻里子の腰は、小さく揺れている。
　しばらくして、妻の十分な濡れを確認した明彦は、秘部の手をバイブに移した。
　カチっと音をさせ、スイッチを入れた。機械音が唸る。
　その音で、まぶたを開けた麻里子は、夫に目を向けた。
　明彦の手にあるものが、生き物のように首を振る。
　改めて、しげしげとバイブを眺めている夫・・・それに、性急すぎる愛撫・・・・・
　スイッチを切り、明彦は酔った目で妻を見返す。
　麻里子は、明彦の動作に違和を感じた。
「あなた何か変よ、どうしたの？」
　無言で、ネグリジェの裾から覗き込み、明彦はバイブを秘穴にあてがった。
「変よ、どうしたの？・・・ねえ、あなた、電気消して・・・・・・・あっううっ」
　明彦に押し出されたバイブが、チュプチュプと音をたて、呑み込まれる。
「ううっ・・はぁぁ・・・ああっ・・・・あぁぁ・・・・・」
「このままで大丈夫、見えないようにしてるから」
「な・・なに？・・ああう・・・な、何を言って・・るの？・・んんああ・・・」
「え・・・あ、ああ、何でもないよ」
　明彦はバイブを、妻の奥深くに沈め、いきなりスイッチを入れた。
「きゃあっ・・やあああっ・・・やっ・・・・・・・ぁあああ・・・」
　モーター音を響かせ、スイングする先端が、まだそれを望まない麻里子の奥を掻き回す。
「い・・いや・・・あうああっ・・と、とめて・・・・ああっ・・いやぁ」
　悲鳴に似た声をあげ、襲い来る衝撃から逃れようと、腰を浮かす。
「やあぁ・・・あああ・・・・んあああああ・・・あんんぁぁ・・」

　程なくして、その声は、甘い声音に変わってきた。
　腰は、先ほどとは明らかに違う、艶めかしいリズムを取りだす。
　明彦は、開け放したままのドアを、振り向いた。
　ほの暗い廊下には・・・・・山根の興奮した目があった。