１０．

　地下倉庫は、古い資料の保管庫となっている。
　普段はめったに出入りはなく、あたりには湿っぽい香りが漂っていた。
　スチール棚に載せきれないダンボール箱が、あちこちに積み上げられている。目的の箇所も同様だった。外書きで売り上げ表の箱を探すが、目的の箱は下のほうに押しつぶされるようにあった。
「うわぁ、これは大変だわ……仕方ない、がんばって始めるとしますか」
　落胆を打ち消すように声に出し、作業に取り掛かった。
　靴を脱いで脚立に登り、箱を持ってみる。
「うう、重い…」
　予想以上に重かったが、１番上の箱をなんとか両手に持ち、後ろ足で脚立を降りかけた、その時。
「危なっかしいなぁ。私が持ちましょう」すぐ後ろで、山根の声がした。
「きゃっ！」突然の声に驚き、麻里子はバランスを崩してしまった。
「おっと、危ない！」山根は慌てて、箱と麻里子を支えた。
「山根さん。もう、びっくりしたじゃないですか」
　ほっとしながらも、咎めるように麻里子は言った。
「ああ、こりゃすみませんでしたね。さ、箱をもらいましょう」
　大柄な山根は、軽々と箱を持ち、空いているスペースに置きに行った。
　首をひねり、脚立の上から眺めていた麻里子は、「あっ！」っと声を上げた。山根は、下半身に何も着けていなかったのだ。床に箱を置き、ゆっくりと戻ってくる山根の手は、自分自身を握っていた。
「ああ、うそ…」
　麻里子の目は、山根の手元を見つめる。小刻みに動く手の中の山根自身は、存在を誇示していた。
　人気のない地下倉庫に、股間を漲らせた山根。
「そろそろ限界じゃないですか？　これ欲しいでしょ」
「や、山根さん、私、そんなこと望んでないわ。勝手なこと言わないで下さい」
「上の口と下の口は、違うこと言うからなあ。奥さんが不満なままだと、私も落ち着かないもんでね」
　脚立まで来た山根は、無言で麻里子のスカートのホックに手を掛ける。
「いやっ！　本当よ。わかって…」
　山根の手を掃おうとしたが、足下がグラつき両手で脚立にしがみついた。その隙にホックは外され、足元にストンと落ちた。
　精一杯の抵抗をしたが、不安定な足下が災いして、脚立からなかなか手が離せない。ストッキングとパンティもやすやすと下げられてしまった。
「ああっ、いやっ。山根さん、やめて！」
　山根の目の前に、ぷるんと震える尻があった。麻里子の腰を両手で支え、白い尻に顔をうずめた。
「んん…ん」熱い吐息が股間にかかり、鼻から息が漏れる。
「あんなに悦んでいたじゃないですか。また、気持ち良くさせてあげますから」
　山根の舌が尻を這い、麻里子の息づかいが荒くなる。
「んっ…や、やめて。思い違いしてる…欲しくなんかない…んん」
　チロチロと蠢く舌は、尻の割れ目を舐めまわし、手はそわそわと内股を擦る。
「ぅ、ぁ…」麻里子の腰がもじもじと動いた。
　熱くなりつつある“女”に抗い、麻里子は必死で自分を律した。
（いけない、だめよ）
　太ももを上下していた山根の指先が股間で止まり、湿り気の中を掻き分け、１点に留まった。肉厚の指先がクリトリスを転がす。
「ううっ、んっんっ」脚立をつかむ手に力が入る。下唇をきつく噛み締め、耐える麻里子だったが、
「くぅうっ、あぁ…いやぁ…」押さえきれずに、喘いでしまった。（だめだめ、しっかりして！）
「ほら、ツンとしてきた」強弱をつけ、指先でねっとりと弄ぶ。
「だめっ、ぁあ…あ」
　くちゅくちゅくちゅ…二人の荒い息遣い以外の音がし始めた。愛撫を続ける山根の手が、麻里子の漏らす蜜で、次第に覆われていった。
「奥さん、もう欲しいでしょ？　さ、私につかまって、こっちを向いて」
「あぁ…やめて。いけないわ、ねえ…」拒否する声は弱々しかった。
「たまらんのでしょうが、こんなに濡らして。大丈夫、内鍵を閉めておきましたから」
「そんな、勝手な…んぁぁ……欲しくなんてな…いっ！　あああっ！」
　ちゅぷっ…山根の太い指が、秘穴に挿入された。麻里子は弾かれたように仰け反り、尻がきゅっと引き締まった。
「ほらほら、やっぱりこっちの口は正直だ、私のモノが欲しいってねだってますよ。強情にしてると、指でイカせちゃいますよ、んん？」言葉と指で麻里子を刺激する。
　先ほど見た、漲った山根自身が麻里子の脳裏に浮かぶ。それを待ち望むように、秘穴の疼きは燃え盛り、どうしようもなくなっていた。奥が火のように熱い。
「…ん、だめ…ぁ…はぁぁ…うんんぁ…」
　腰がリズムを刻み、足がわなわなと震え出した。
　変化を感じ取った山根は、麻里子を抱きかかえ、適当な高さのダンボール箱を見つけて座った。
　横抱きに膝に乗せた麻里子を覗き込むと、ほんのり汗ばみ目を潤ませていた。
　足元の衣類を抜き取り、麻里子をこちら向きにまたがせる。山根の先端が麻里子の濡れた部分に当たり、「はぁっ！　んん」麻里子が小さく跳ねた。
「そのまま腰を落として」
　山根の言葉に、意思を裏切る体が、欲するモノを沈め始めた。眉根を寄せ、薄く口を開けている麻里子の秘穴が、山根を呑み込んでいく。
「ああぁ、んぁぁ…あ…」麻里子の中が、熱いもので満たされ、思わず山根にしがみついた。
「ああ、奥さん、いいですよ…ほら、締め付けてくる」
「んああ、あっあぁぁ」さらに奥へ導こうと、麻里子が動く。
「…いいですよ。そう、自分で動いてみて」
「あぁっ、うんんぁぁ…はぅっ、ああぁ」
　快感の波を受け止めながら、腰を振り続けている。
　そんな麻里子の反応は、山根を満足させた。
「奥さん…いい体だ。ああ、たまらない」麻里子をぎゅっと抱きしめ、下から突き上げた。
「ああっ！　いっ、いっ！　あっ、ぁああ」さらに強くしがみつく。

　その時、麻里子の喘ぎに混じり、ドアの向こうからかすかに声が聞こえた。
「……さ〜ん、奥さ〜ん！」だんだん大きくなってくる。「電話で〜す」夏美の声だった。
　抱き合う二人の動きが止まった。
「奥さ〜ん、電話ですよ〜！　あれ、鍵かかってる」ドアノブがガチャガチャ動いた。
　麻里子が息を呑んだ。ドア１枚を隔てて夏美がいる。
　そんな状況に、胸の鼓動が早くなってきた。それが秘穴に伝わり、勝手に脈動を続けてしまっていた。
「ん…はぁぁ…」
「うぉお…」
　肉壁の動きに山根がにやりとし、苦しそうな麻里子から目を離さずに、夏美に向かって大声で答えた。
「お、間違えて鍵かけちゃったかな」
「も〜、専務ったらぁ。あのぉ、奥さんに電話なんですけどぉ…」
「ほら、返事して。変に思われますよ」
　くちびるを噛み締めて、苦悶の表情で快感を耐えている麻里子に、山根がひそひそ声で言った。
　その言葉に、必死に口を開こうとするが、「……ぁん……あぁ」喘いでしまい、まともに声が出ない。山根が、麻里子を小突いた。
「奥さん、さあ早く」
「……ぁ…ぁぁ…あ、あの…な、夏美ちゃ…んぁ…」
　後の言葉が続かず、大きく息を吸い込んだ。ごくりと唾を飲み、急いで言葉を繋げた。
「…んぐぅぅ………あ、後でかけ…ぁ…かけなおすから…ぁ」
　なんとか声を出せたことにほっとし、力が抜けたように山根の肩にもたれかかった。
「あれ、奥さん、大丈夫ですかぁ？」麻里子の様子を心配して、夏美が聞く。
「ああ、今、重いの持ってて大変なんだよ。番号聞いといてあげてよ」
　代わりに山根が答えた。
「は〜い、わかりました。じゃあ、掛けなおすって言っておきますね」夏美の足音が遠ざかって行く。

　ふーっと麻里子は安堵の息を漏らした。緊張が解けたと同時に、我が身を振り返る。肉欲に、僅かに理性が勝った。
　山根の肩に頭を預け、首に手からめ、山根にまたがってペニスを含み込んでいる自分に、羞恥と嫌悪が増し、山根から離れようと腰を浮かせた。
「ほらほら、もう行っちゃったから。さあ、続きをやろうじゃないですか」
　その腰を山根が押さえ込んだ。
「あっ、うぅ……やめて。だめ」
　山根を突き放そうと腕を伸ばすが、弱々しい力しか入らなかった。
「大丈夫。こんなじじいとなんて、思ってもいませんよ」
「ち、違う。だめなの。ああ、お願い」
　そんな言葉とは裏腹に、山根を収めている麻里子の中は、山根を離すまいと吸い付いている。
「おあずけが辛かったかな？　あんな動きさせちゃって。ヒヤヒヤもんでしたよ」
　ニヤリと笑い、山根が腰を一振りした。
「あうっ、う…」
　麻里子がうめき、続きを乞うように秘穴が山根を締め付ける。
「ちゃんとつかまってて下さいよ」山根は麻里子の尻を抱え、ゆっくりと立ち上がった。
「な、何を…」
　足が宙を蹴り、不安になって、首に廻した麻里子の手に力が入る。
　山根が麻里子を突き上げた。
「やぁっ、ああっ…」
　仰け反る麻里子の足は、奥への衝撃をしっかり受け止めようと、山根に絡みついた。
　それを催促と受け取り、数回突き込む。
「あぁっ！　うぅっ、あっああぁっ」
「奥さんの中に全部入ってますよ」結合部を見下ろしながら、山根が言った。
「これだと、よく見える…ほ〜ら、しっかり咥え込んでますよ」
「…いや…あぁ」顔を赤らめた麻里子の秘穴が、きゅっと締まる。
「おっ、いい！　下の口は正直だな、はは」そう言って、腰を左右に振った。
「くううっ、はぁぁぁ」
　奥の壁を刺激され、麻里子も自らリズムを刻み出した。それに応えるように、山根がゆっくりと麻里子を突き上げる。
「んぁあ…あぁっ……お、奥が…ぁあ…」苦しげな表情の麻里子がうめいた。
「奥がどうなんです？　え？」突き続ける。
「あ…すごい……あぁ、すごい、の…ああぅ」麻里子の腰も、それに合わせた。
　山根の突き上げが強さを増す。突かれるたびに、麻里子が跳ね上がった。
「あああっ！　んっあっぁぁ！　あ…すご、いっ…ああっ」
　たまらずに山根の首にかじりついた麻里子の腰は、突き上げに応えるように、自らも情熱的に動く。
　歓喜の波は突然やってきた。
「やあっ…あああっ、だめっ！　あぁっ」
　山根が大きく突き上げる。
「んくぅっ！　あぁっ、いくぅぅぅ……ああっあああああっ！　くぅ、ぁぁぁ…」
　山根にしがみついた麻里子の体が、びくびくっと波を打った。

　頂点に達し、脱力した麻里子を、前回以上の後悔がよぎった。
　しかし、そんな心とは裏腹に、体は深く満たされていた。