４

　翌日の午後、麻里子は倉橋と別れた。
　自宅近くまで、倉橋が車で送ってくれたのだった。

　家までのわずかな帰り道、明彦にどんな顔で接したらいいのか、麻里子は迷っていた。　自分を取引に使って、他人に抱かせたのは明彦だが、先ほどまでの事を思うと、罪悪感を感じずにはいられなかった。
　あの後・・・・３回目の絶頂を迎えた後も、２人は寝る間も惜しみ、抱き合ったのだった。
　麻里子は数え切れないほど登りつめ、倉橋に驚愕と満足とを与えた。
　麻里子の秘穴には、まだ倉橋が入っているようだった。
　ほんの少し前迄、倉橋を迎え入れていたのだから、無理はないかもしれない。
　秘部がまだ、熱く火照っているのを感じながら、ドアを開けた。

「ただいま・・・・」声をかけてみたが、応答はなかった。
　リビングに入っていくと、明彦がいた。
　お互い顔を合わせるのを避けるように、しばらく気まずい沈黙があった。
　先に口を開いたのは、明彦だった。
「麻里子、すまない！　許してくれ。　出資の条件だったんだ・・・・君の幸せと、会社のことを考えたら・・・あれしかなかったんだ。本当にすまない」
　ソファから降り、床に手をついてしきりに謝る夫に、
「あなた、そんなことまでして・・・・・事情は聞きました。悩み抜いた末の決断だと思っています。私も会社のためと思って覚悟しましたから」と、麻里子は気を遣った。
「セックスが苦手な君だから・・さぞかし辛かったろうと思って・・・」
「え？　ああ・・ええ・・・そ、それほどでも・・・・紳士的な人だったから。佐々原さんはすぐに帰してくれましたし」
「そうなのか。じゃ、あまりひどい事はなかったんだね？」
「・・・・ええ」
　明彦は、妻の言葉に少しだけ安心した。（倉橋は約束を守ってくれたのか・・・）
「そっか・・・じゃあ、風呂入れば？　もっと早く帰ってくると思ったから、もう冷めちゃったけど。今、熱くしてくるよ」
「え、あ・・・・す、すみません。でも、お風呂はホテルでゆっくり入ってきたわ。それより、すごく眠いの。少し休んでいいかしら？」
「ん、ああ、そうか・・・安心して、ゆっくり寝るといいよ。ぐっすりなんて眠れなかっただろうから」

　夜になっても麻里子は目覚めなかった。
　起こして食事を摂らせようと思ったが、すやすやと眠っている寝顔を見て、思いとどまった。
　ツインベッドの片側に腰をかけ、軽い寝息をたてている妻をしばらく見つめていた。
（辛かったのは当たり前なのに、僕を責めもしないで・・・・）
　おとなしく従順な妻に、こんな強さがあったのかと思うと意外だったが、今はそれに感謝した。
　しかし、毛布に被われた体に目を移すと、どうしても昨日の事を想像してしまう。
　何があって、何をされて、妻はどんな反応をしたのか・・・・・・
　すぐにでも起こして、聞き出したい衝動が湧き上がってくる。
（ばか！　何考えてるんだ！　たいへんな思いをしたっていうのに）
　明彦は、衝動を振り払うように、寝室を出て行った。

　深夜、なかなか深い眠りを得られないでいた明彦は、麻里子のうめき声で目が覚めた。　耳を澄ますと、息遣いも荒い。（具合が悪いのか？）
　心配になった明彦は、妻のベッドに歩み寄り、ベッドサイドのスタンドを点けた。
　灯りに照らされた寝顔は、苦しそうな表情だった。
　妻を起こそうとした手が、途中で止まった。
「あ・・あん・・・」妻の寝言が聞こえたからだ。
　体に目をやると、薄明かりの中、毛布の中央がもぞもぞと動いている。
　明彦は、そっと毛布をめくって、息を呑んだ。
　麻里子は、わずかに足を開き、ゆっくりと腰を揺すっていたのだった。
　薄いネグリジェが波を打っている。
「うそだろ？　何なんだ、これは」
（麻里子はセックスの夢を見ているのか？・・・・そんな・・信じられない・・・）
　事態が呑み込めず、こねるように動く腰を、ただ見つめ続ける。
　妻の驚く行為は、明彦をさらに不安にさせた。
　とにかく起こさなくては・・・そう思った明彦の耳に、「あ・・・くらは・・・さ・・ん・・」かすかに聞こえた。
「なんだと、倉橋？　昨日抱かれた男を、夢に見ているのか？・・・」
　明彦は、部屋の電気を点け、妻のネグリジェをめくり上げた。
　淡いピンクのパンティは、シルクの薄い生地が蜜で張り付き、割れ目を浮き出している。
「だめ・・・あ・・・」吐息混じりの寝言を吐き、麻里子は腰を揺らし続ける。
　シミが、尻のほうまで広がっていく。
　妻が身につけているのは、明彦の見た事のない高級そうなパンティだった。
（これは、倉橋が・・・・・・・くそっ、麻里子に何をしたんだ？！）
　不安は、嫉妬に変わった。
　思わず明彦は、パンティの喰い込んだ割れ目に指を突き立てた。
　くちゅっ・・・・いやらしい音がして、蜜が滲み出す。
　こんなに濡れている妻は、見た事がない。
「はああん・・・」麻里子の悩ましい声がした。
　寝言なのか、明彦の指に反応したのかは、わからない。
　明彦はパンティを脱がし、両ももを大きく開いて、秘部を覗き込んだ。
　妻の秘部は、昨日から丸１日経った今も、痕跡がしっかりと残っていた。
（こんなになる迄って、いったい・・・・・）
　そう考えると、他人に抱かれるという、異常な事を強いられたといっても、この熟睡ぶりが気になってきた。
（昨日は寝ていないのだろうか？　寝かせてもらえないほど、可愛がられたのか？）
　セックス嫌いだと思っていた妻は、夜通し何回も貫かれ、なお且つ、それを夢に見てよがっているのか・・・・
「何をされたんだ？！　麻里子！」
　衝動に駆られた明彦は、嫉妬で怒張したペニスを、濡れそぼった妻の秘穴に突きたてた。
　倉橋の感覚を忘れさせるように・・・・
「起きろ！」
「ううっ・・はあああん・・・あああん・・・」麻里子の声が、明らかに変わった。
「おお・・こ、これはなんだ？　中が違う・・・麻里子と違う・・あああ」
　倉橋によって目覚めさせられた麻里子の中の感触に、明彦はたまらずピストンを始めた。
「ああん・・・あああっ・・・・・」麻里子の腰が、明彦に連動する。
「くっ・・麻里子・・・どうしたんだ・・」
「ああん・・・・う・・はああああ・・」
　かつてない妻の反応に、小さな困惑を感じたが、かまわず麻里子は明彦にしがみついてきた。
「・・あああ・・・やんっ・・あっあっ」
「信じられない・・・ああ、すごいよ・・」
「んっ・・あふぅ・・・・・突いて・・ああ」
　明彦は、さらに激しく腰を使った。
　ぴったりと合わせるように、麻里子の腰も激しく動く。
「ああ、まりこぉぉ」明彦は、精一杯深く突き立てる。
「ふあぁん・・・・奥を突いて・・・ああん・・・きてぇ」
　懸命に明彦は突き上げる。
「奥まで欲しいの・・・くらはしさん・・・ああ」
「えっ！！　倉橋！？　倉橋だと？・・・」明彦は殴られたような衝撃を受けた。
　とたんに意欲が萎える。
「ああ・・・じらさないで・・・・・・おねがいよ・・・はぁああ」
　あっけにとられている明彦を体から吐き出し、麻里子の体は動き続ける。

　麻里子は目覚める事なく、夢の中の倉橋と交わっていたのだった。
　見た事もない妻の痴態を、明彦は呆然と見下ろしていた。
　危惧していた事になったのか・・・・妻の体は、女の喜びを知ってしまったのか・・・　明白な答えを知りながら、僅かに残す否定の思いに、すがりついた。

　麻里子が目覚めると、いつもは寝坊の明彦がいない。
　時計を見たら、午前１１時過ぎだった。
（いやだ、こんな時間まで寝ちゃった・・・・・）
　寝すぎて重い頭を起こし立ち上がったが、ふと気が付くとパンティをはいていなかった。
　不思議に思いながらベッドを探すと、丸まったパンティが見つかった。
　汚してしまったパンティの代わりにと、倉橋がホテルのショップで買ってくれたものである。
　手に取って驚いた。柔らかいはずのシルクが、ごわついているのである。
　シーツにも、丸くシミの跡があった。
（・・・私が寝ている間に、明彦さんが何かしたのかしら・・・・）
　何回かあった事だ。寝ている麻里子に、明彦は時々悪戯をした。
　麻里子が目を覚ますと、ばつが悪そうにやめてしまうのだが。
　昨日は深く寝入っていて、気が付かなかったのだろうか。
（でも、こんなになるなんて・・・・）
　釈然としないまま、麻里子はシャワーを浴び、着替えた。

　リビングに行くと、ソファに座る明彦の後姿があった。
「あなた、ごめんなさい。いいかげん寝すぎちゃった。今、お食事作りますね」
「ああ、起きたのか。ぐっすり寝てたから、起こさなかったよ、今日は土曜日だしね。食事は適当に済ませたから」
「そう・・・それは、すみませんでした」
「僕は、これから出かけてくるよ。帰りは夜になると思う」
　そう言って、１度も麻里子と目を合わせずに、明彦は出掛けて行った。
「明彦さん・・・・・」残された麻里子は、複雑な思いでたたずんでいた。
（・・・気難しいところがある人だし、第一、昨日の事がある・・・ぎくしゃくするのは仕方ないか）
　一人きりになり、頭に浮かぶのは・・・・・倉橋とのセックスだった。
　ベッドはもちろん、バスルームでも、ルームサービスの朝食を食べる時でさえ、食事を中断してまで、抱かれた。
　倉橋のペニスは、疲れを知らないかのように精力的だったが、
「いつもはこんなじゃないんだ。麻里子さんのせいなんだ」と言われ、女であることが誇らしくなった。
　今も思い出して、体の芯が熱い。
　倉橋のやさしいセックスは、明彦の自分本位なものとは、明らかに違った。
　巧みな愛撫は、麻里子を快感の渦に呑み込ませ、結合は、それをも遥かに超える快感をもたらせた。
（男の人のモノがあんなにすごいなんて・・・倉橋さんが特別なのかしら？）　
　比べると、倉橋のモノは明彦のより立派だった。口に含んだ時も、それは歴然だった。　倉橋はたくさんの賞賛の言葉を、麻里子に贈ってくれた。
　麻里子の気分を乗せるためのお世辞だとは思ったが、倉橋の反応を見ると、素直に信じてしまった。
　女の扉を開いた・・・・そう言っていた。本当の女になったのだと・・・・
　我を忘れるほどの喜びを得られるようになった自分が、心底うれしかった。
　昨日の記憶が、次々と甦る・・・・・
　着替えたばかりのパンティを、濡らしてしまっているのを感じたが、甘美な回想は止まらなかった。