５

　夜になって、やっと明彦が帰ってきた。手に紙袋を提げている。
「おかえりなさい。あら、なにを買ってきたの？」麻里子は、努めて明るく言った。
「え？　ああ、ちょっとね。それと食事はいらないから」明彦はそっけなく言って、自室にこもってしまった。
　仕方なく麻里子は、一人で夕食を済ませ、所在無くテレビを見てから、風呂に入った。
　風呂から上がると、リビングに明彦がいた。ビールを飲んでいる。
「ああ、寝る前にちょっと、ビール付き合ってくれないかな？」
　自分を避けていると思っていた明彦が、誘ってくれた・・・・
　麻里子は、喜んで応じた。
　あれこれと他愛もない話をする夫に、麻里子は笑顔で相槌を打った。
（よかった、ご機嫌が直ったみたい。おへそを曲げると、なかなか直らないんだもの）
　明彦の気を悪くしないように、勧められるまま飲み、ほっとした気持ちと酔いで、麻里子はすっかり気分が良くなった。
　その様子を見ていた明彦は、麻里子の隣に移動し、片手で妻を抱き寄せた。
「明彦さん・・・」麻里子は、自らも寄り添った。
　風呂上りのいい香りが、ネグリジェに包まれた体から漂う。
　いつもと変わらぬ香りなのだが、今日は明彦の感にさわった。
　いきなり妻の胸をぎゅっと掴んだ。形のいい胸が醜く歪む。
「痛いっ・・・・」麻里子は驚き、身をよじった。
　明彦は、妻をソファに押し倒し、覆いかぶさる。
　がむしゃらにキスをし、パンティに手を入れ、乱暴にまさぐった。
「んんぐ・・・・あ、あなた、やめて・・痛いわ・・・」
　いつになく乱暴な明彦に、麻里子は抗議の声を上げた。
　それを無視し、明彦はネグリジェをたくし上げ、乳首を吸った。
　秘部の手は、荒々しく動き続ける。
「いや・・あなた・・・・ベッドに行きましょう。ね、ここじゃ嫌よ」
　何とか中断させようと麻里子は言ったが、聞き入れられなかった。
　乱暴な愛撫なのだが、昨日の感覚が甦り、麻里子は体が熱くなるのを感じた。
「あなた、いやよ・・・・ああ・・あ・・・」
　明彦の手は、熱い湿り気を感じ、次第にそれは、小さく音をたてるまでになった。
「あああ・・・んんふぅ・・・・んん」妻の声音も変わった。
　剥ぎ取るようにパンティを脱がせ、秘部に舌を這わせた。
「ああっ・・・んああ・・・・うぅ・・」
　次々と溢れ出る蜜に興奮し、明彦は夢中で舌を使った。
「ううう・・・・はぁんんん・・・い・・あああん・・・」
　このまま、登りつめさせようと思っていた時、意外な言葉を妻が言った。
「あなた・・きて・・・おねが・い・・・ああ・・」
　明彦は驚いた。今まで１度も、麻里子から挿入を望んだ事はなかったからだ。
　妻の秘穴は、明彦を向かえ入れたがるかのように、ひくついていた。
　明彦は、急いでズボンとトランクスを脱いだ。
　すでに大きくなっていたペニスに、妻の手が伸びた。
「ああ・・・」手で数回擦り、自ら秘穴にあてがった。「お願い・・早く・・・・」
　初めての妻の行動に戸惑いながらも、明彦は、蜜が溢れ出る口に挿し込んだ。
「ああっ・・・・・あきひ・こ・・さん・・」
「うっ・・・あああ・・」
　妻の中は、明彦を歓喜で迎え入れ、艶めかしく蠢く。
「ああ・・・まりこ・・・・すごいよ・・」明彦が動き出す。
「あん・・・・あああ」麻里子も、しがみついて腰を合わせる。
「ううっ・・・・ああ・・」
「んんん・・あ・・・もっと・・・ああ」麻里子の腰は、貪欲に快感を求める。
　麻里子の中では、絡みつく肉壁が、ペニスに刺激を与え続けた。
　刺激に答えるように、明彦は腰を激しく打ち付ける。
　かつてない妻のセックスに、「ああっ・・・いくよ・・・・・くっ」・・・・・・
明彦は、果てた。

「麻里子、すごく良かったよ」そう言って妻を見た。
　いつもならやさしく微笑む顔があるのだが、目の前にあるのは、不満を露わにした妻の顔だった。
　明彦の満足した表情が、途端に曇る。
　夫の変化に気が付いた麻里子は、あわてて笑顔になり「・・私もよかったわ・・・」と取り繕った。
　だが、憮然とした明彦は、無言で妻から体を離し、リビングを出て行ってしまった。
　ひとり取り残された麻里子は、深く失望していた。
　倉橋によって自分が変わった今、以前と違い、明彦のペニスで快感を得られるものと、期待をしていたのだ。
　しかし、結合は変わりなく、やり場のない欲求が不満となって残った。
　以前とは比べものにならない程、大きい不満・・・・体は熱くたぎったままだった。
その上、明彦を怒らせてしまった・・・・・
（もう・・・どうしたらいいの・・・）泣きそうな気持ちで身を整え、呆然とソファに座っていた。

　ふいに明彦が戻ってきて、麻里子の隣に座った。
　夫が戻った事が意外で、麻里子はどきりとした。
「あ、明彦さん・・・私、あの・・・・・あうっ」
　明彦は無言で、妻の股間に手を滑り込ませた。
　欲求が収まっていない麻里子の体は、すぐに反応を返す。
「なんだ、下着、着けちゃったんだ」
「ああん・・・あ・・」
　愛撫を続ける明彦のもう一方の手には、長い棒状の物が握られている。
　それを見た麻里子の目が、怯えた。
「ああこれ、麻里子だって知ってるでしょ？　バイブ」
「知ってるけど・・・んああ・・」
　バイブは下品なピンク色をして、明彦の手元でグロテスクにそびえていた。
　麻里子は、友人同士での旅行の時、ふざけた友人の発案で、アダルトビデオを見たことがあった。
　バイブが登場し、女優が苦しそうにのたうっていたのを、処女だった麻里子は、恐怖に感じたのだった。
　今でも、その認識は変わっていない。
「君にいいと思ってさ。今日、買ってきたんだ」愛撫の手を休ませずに言う。
「ああ・・・いや、そんなもの・・怖いわ・・・」
「う〜ん、試してみないとわからないよ。ねえ、そうでしょ？」
「あぅ・・・いや、絶対にいや・・・あ」
「そんな事言って、欲しいんじゃない？　こんなに濡れてるよ」
「ああん・・ち、ちがうの・・・これは・・・・・・ああ」
　明彦は麻里子をソファに横たえ、パンティを脱がせた。
「ね、ほんとにいやよ。お願い・・・あなた」
　かまわず、麻里子の腰の下にクッションを敷き、右膝をソファの背に掛け、左足を床に降ろした。
「いや・・・・ねえ、いやよ・・・」
　股間をせり出し、大きく開かれた妻の秘部は、たっぷりと濡れて光っていた。
「お願いよ、あなた、やめて・・・・・・うあっ！」
　ぐちゅっと音をさせて、バイブの先端が呑み込まれた。
　ひんやりと冷たい感触が、秘穴に伝わる。
「ああああっ・・・いやあ・・・・んああ」明彦は、ゆっくりとバイブを侵入させる。
「うう・・はぁぁぁ・・・・い・・いや・・・」
「吸い込まれるみたい・・・・どんどん入っていくよ」
「くっあぁぁ・・・や・・・あああんんんん」
「全部入っちゃった・・・麻里子すごいね」
「いっいやぁ・・・あああ・・・うううぁ」
　膣の奥を刺激され、先ほどの溜まっていた麻里子の欲求が、はけ口を求める。
「んんんあ・・・・ぁああ」麻里子の腰は、運動を始めた。
　腰に敷かれたクッションの弾力を利用して、リズミカルに腰が踊る。
　大きく足を広げた格好でのそれは、明彦を興奮させた。
（麻里子・・・・まるで別人のようだ・・・）
「ううああ・・・・くぁぁんんん・・・ああああ」
　明彦は、すっかり呑み込まれているバイブを膣口まで引き抜き、深く突き立てた。
　ぬちゅぬちゅと音がする。「うっ！・・・ひ・・ああああん・・・」
　ぬちゃ、くちゅ「はああん・・・すご・いっ・・・んんあ」
　じゅぽ、じゅぷ「あん・・・やぁ・・・い・・・はんんああ」
　いやらしい水音と、麻里子の艶かしい声が、リビングに場違いに漂う。
「麻里子、気に入ったみたいだね。すごいよ」
「んん・・・いっ・・やぁぁ・・・・はあんん」
　明彦の目に、むき出しになった花芯が目に入った。ぷっくりとしている。
　親指で擦りあげた。
「やぁっああ！」麻里子の体が、びくびくっと波打つ。
　右手でバイブを出し入れし、左手で膨らんだクリトリスを刺激する。
「いやぁ・・・だめぇっ・・・・イっちゃううぅ・・・・・」
「麻里子、いけ！」バイブを数回、深く突き立てる。
「うっ・・いやっあっあああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
　クッションを弾ませ、腰を大きくバウンドさせて、麻里子は登りつめた。

（女って、本当にこんなになるのか・・・・・）
　道具を使ったとはいえ、明彦は、実際に深い絶頂を目にするのは、初めてだった。
　そのままの姿勢でぐったりしている妻を見て、驚きと満足を感じた。
「すごいよ、すごかった。麻里子は、よかったの？」興奮ぎみに聞く。
「・・・ええ・・よかった・わ」夫の望む返事をしたが、言葉とは反対で、あんな醜い器具に、犯された自分が惨めだった。
　しかも、体は歓喜し、挙句に果ててしまった・・・・・思わず涙があふれてきた。
「そうか、そんなによかったんだ」明彦は、その涙を勘違いした。
　抜き取ったバイブには、見た事のない妻の濃い蜜が、たっぷり付いている。
「す、すごい！・・・・本当によかったんだね。僕もうれしいよ！」
　たまらなくうれしくなり、妻を起こして強く抱きしめた。
　抱きしめながら、明彦は語り出した。
　前からバイブが気になっていた事。自分のプライドが邪魔していた事。思い切って買ってみた事。予想以上に麻里子が悦んだ事・・・・・
「店の人に相談して、１番ソフトなのを買ったんだ。それで、こんなになるなんて。もっとハードなやつだと、どうなっちゃうんだろうね？」うきうきと話す。
「・・・・・あなた・・・シャワーを浴びたいの」
　涙の止まらない麻里子は、一人になりたくて言った。
「そうだな。一緒に浴びようか」
　妻の気持ちに気付かずに、明彦は、バスルームへと麻里子の手を引いた。
　麻里子は、断る言い訳が見つからず、諦めて明彦に従った。
　２人でシャワーを済ませ、麻里子のベッドに一緒に入った。
　抱きしめられ、夫の胸に顔をうずめる麻里子は、依然泣いているのか、はなをぐずつかせている。
「そんなによかったのか。明日は日曜日だし、たくさん使ってあげるからね」
　妻を抱きしめる手に力を込めて、満足げに明彦は言った。