第１１話

　僕は溜息をつき、側にあったダイニングチェアを引いて腰掛けた。祥子は床に座ったまま、頭をたれ、手で涙を拭いながら鼻をすすっている。重い空気が漂う中で床の上に転がっているバイブレーターが卑猥な音をたてながら暴れている。バイブレーターを手にとり動きを止めた。
　どうしようか？このまま立ち去ろうか？それとも仕切りなおすか？こんなときは黙って立ち去るのが紳士であるのだろうが、何度も何度も妄想の中で抱いてきた祥子の肉体に心残りがある。
　愛とひょんなキッカケから性的関係にいたったが、本当は愛よりも祥子とセックスしたかった。この機会を逃したら２度と祥子と交わることができないような気がする。
　祥子は椅子に座っている僕に出て行けとは言っていない。それに、ショートパンツの上からであるが、確かに祥子の女唇は湿っていた。身体は快楽を求めている。僕は沈黙の中で後者を選択し、祥子の出方を待った。
「ごっ……ごめんなさい……私が悪かったのに……」
　祥子の囁きによって沈黙が破かれた。
「落ち着いたようだね」
　僕は極めて優しく落ち着いた声でのべた。祥子は顔をあげ、僕を見つめた。
「本当に、ごめんなさい。突然だったから、つい興奮しちゃって……」
「いいんだよ。僕の方こそ乱暴してしまって悪かったよ。でもね、これから言うことを真剣に受け止めて欲しいんだ。愛さんとはなりゆきで肉体関係になってしまったが、実はね、奥さん、いや、祥子さん。僕はずっと君に憧れていたんだよ」
「えっ……」
　祥子の頬に恥じらいの色が浮かんだ。僕は続けた。
「祥子さんは大人の女性だし、男の生理現象についてわかっていると思うから、はっきりと言うよ。実は、夕べ興奮して眠れなかったんだ。何度も何度も空想の中で交わっていた祥子さんが僕のあそこを擦ってきたんだ。僕にとっては堪らなかったよ。それに、僕の眼に焼きついた祥子さんのパンティ……触ったときの感触……思い出して何度、１人寂しく寝ている君の元に行こうと思ったことか。ベッドに横たわりながらたった一枚の壁がこんなに厚いんことに苛立ったよ。早く、朝になれ。早く祥子さんを慰めなければいけない。それで、今日、ここにきたんだ」
「北村さん……」
「でも、もう仕方がないよな。もう、諦めるよ。祥子さんのことを考えずに自分本位で行動してまったんだ。当然の結果だよね」
　僕は心とは裏腹に紳士的に振る舞い椅子から立ち上がって帰るそぶりをした。
「ちょっと、待ってください。北村さん、帰らないでください。昨日は酔ったせいで大胆になってしまいましたが、私、北村さんのところにお邪魔するたびに素敵な方だなと思ってました。でも、浮気は……主人はあっちの方は淡白なんですが、普段は優しい人なんで……」
「迷っているんだね。僕も浮気することに迷ったよ。でも、昨日、愛さんと肉体関係を持ったら吹っ切れたよ。なんたって、お互いに欲求不満なんだし、犯罪を犯すわけでもない。二人だけの秘密にしておけば何の問題もないとは思わないかい？」
「でも……」
「祥子さん、君だって疼く肉体を抑えきれないで、オナニーしているんだろ。満たされない快楽を求めて愛さんに慰めてもらっていたたんだろっ。愛さんが君から離れた今、誰が君の肉体を慰めるんだい。１人でするのかい。寂しいな……。たった、一度限りの人生なんだ。我慢しているうちにあっという間によぼよぼの年寄りになってしまう。これを満たさないで人生を終えるのはつまらないと思わないかい？もっと自分に正直になってご覧よ。ほらっ、僕は祥子さんを思ってこんなになっている」
　僕は椅子から立ち上がり、服を脱ぎ始めた。赤いチェックのパンツを膝まで下ろすと、肉棒からは愛と僕の体液が混ざり合った生臭い香りが漂った。
　祥子は唇を半開きにしながら、力を失っている肉棒を見つめている。跪く祥子の側に近づいた。祥子は生臭い香りを感じたのか、一瞬、顔をゆがめた。
「よく見てごらん。これが祥子さんが想像していた僕のチンポだよ」
　更に一歩近づいた。目前に近づけられた肉の塊によってか、祥子の呼吸が荒くなってきた。吐息が肉棒の先端を擽り急激に血液が海綿体に巡り始めた。弱弱しく垂れていた小さな肉棒が膨らみを増し、たちまち血管を浮き上がらせた。
「あっ、あぁぁ……」
　溜息をもらす祥子の手をとり、肉棒に触れさせた。祥子はピクッとし、手を引っ込めた。
「どうしたんだい。祥子さん、君が本当に欲しいのはこれなんだろ。好きにしてもいいんだよ」
　祥子は喉を鳴らし、肉棒に引き寄せられるようゆっくりと手を添えてきた。
「あぁっ、すごい……硬い……」
　祥子は品定めをするかのように何度も肉棒を握ってきた。
「やっと、素直になったね……次は、祥子さんが全てを曝け出す番だ」
　祥子の手を肉棒から剥がすと祥子は名残り惜しそうな顔で僕を見上げた。祥子の脇の下に手をいれ、身体を起こした。細い肉体はなんなく持ち上がった。スカイブルーのティーシャツを捲り上げると愛よりは小さいが椀型の形のよい乳房があらわれた。桜色の乳輪とその中央にある乳首は硬く尖っていた。ティーシャツを首から抜いた。
「綺麗だ……僕が想像していたより、ずっと美しいオッパイだ」
「やっ、恥ずかしい……」
　しゃがみ込んで白のショートパンツに手をかけると祥子が僕の手首を掴んだ。
「ここまで、きてしまったんだ。もう後戻りはできないよ」
「ちっ、違うんです。一つだけ、約束してほしいんです」
「なんだい？」
「しゅっ、主人には絶対に内緒にしてください……」
　当たり前のことを聞くものだ。こんなこと、旦那に話せるわけがないじゃないか。でも、祥子がそれで納得してくるのであればそれでいい。
「約束するよ。君のご主人にばれたら僕も大変だ。それに、僕も妻に知られるわけにはいかない。家庭は壊したくないという気持ちは一緒だよ」
　ショートパンツをゆっくりと膝までおろすと、清楚な雰囲気とは裏腹の情熱的な真紅のショーツがあらわれた。網目の間からは繊毛が覗いている。ショーツの縁に指をかけ下げていく。女唇に触れていた布あては女の蜜によって濡れていた。ショーツを足首まで下ろした。祥子はショーツを足首から抜いた。
「これで、お互いにもうなにも隠す物はないよ」
　僕は立ち上がり、祥子の肉体を上から下へと舐めるように視線を動かした。首筋を隠すくらいのショートカットのサラサラとした栗色の髪、二重の黒目の大きな瞳、ピンク色に染まった濡れた薄い唇、適度に窪んだ鎖骨、ツンと上を向いた乳房、無駄な脂肪のついていなお腹、女らしさを強調するしなやかな腰のくびれ、ほとんど縮れ毛のない逆三角形の繊毛、適度に肉のついた白い太股、キュッと締まった脚の首、全てが美しかった。
「やっ、やっぱり。恥ずかしい。そ、そんなに、見つめないでください……」
　祥子は娘のように恥ずかしがって腕をクロスさせ手の平で胸を覆った。
「隠さないで。こんなに綺麗な体を隠すなんて、勿体無い。もっと、よく見せて」
　祥子の両手を優しく剥がした。
「まるで女神のようだ……」
　歯の浮くような台詞に祥子は頬をたちまち赤く染まらせた。処女のように震えている祥子の肩をつかみ唇を重ねた。舌を挿入しようとしたが、唇は固く閉ざされている。仕方が無く舌先で唇を舐めていると閉ざされていた狭間が開いていった。僕の舌が口内に入ると意を決したのか祥子は積極的に舌が絡めてきた。唇をそっと離すと互いの唾液が糸をひき、中央で途切れた。
「お上手ですね。こんなキス初めて……」
「もう一度しようか？」
　祥子はコクリと頷いた。再び舌を絡ませあいながらフローリングの床の上に倒れこんだ。

つづく