第２話

　まめに拭き掃除しているのだろう、透明なガラス窓の向こう側に、物干し竿にはバスタオルやシャツ、洗濯ハンガーからぶらさがる小さな布が所狭しと干されていた。靴下、ハンカチ、男物のトランクス、その中に１枚、目的の布切れがあった。花のプリント柄の紺のパンティがお揃いのブラジャーと共にさやかな風でなびいている。

　窓を開くとベランダ用のサンダルがあったが、それを穿かずに靴下のままベランダに出た。ゴクリと喉を鳴らし、奥さんの下半身に密着していたものに手を伸ばした。柔らかい。そっと、布切れに鼻を近づけた。当然ながらそこからは生々しい女の匂いはせず、洗剤の香りしか放っていない。中心部を裏返しにしてみるとオリモノの汚れであろう、白い染みが薄っすらと残っている。
　もっと、別のものも見たい。その布から手を離し、部屋にあがり窓を閉めた。まだ、洗っていないパンティを拝見したいが、洗濯ものが干されている状況からして、それは諦めるしかない。

　寝室に入った。このマンションの部屋は収納する場所が決まっている。収納ボックスの扉開いた。その場にしゃがみ込んで７段ある引き出しの一番を手前に引いた。綺麗に並べられた色とりどりの下着が目の中に飛び込んできた。赤、黒、水色、黄色・・・。セクシーなパンティを手に取り、次々とフローリングの床に並べた。
（この奥さん、すごい下着つけてるんだな〜。こんなの着けさせて、一発やりたいな〜）
　目の前にある官能的な布切れの誘惑によって冷静さは失われ、床に並べた数点のパンティから、赤のスケスケパンティーだけ床に残し、残りを引き出しの中に戻していると何か硬いものが手に触れた。それを確かめる為に、引きぬかずにいた生理用の大きいパンティを横にずらした。その硬いものは、白いプラスチックのケースだった。興味津々に蓋を開いくと、一見してバイブレーターとわかるものであっだった。まさか、こんな物まであるとは思わなかった。見てはいけない奥さんの裏の顔を発見してしまったことが更に心臓の鼓動を早めた。
　バイブを手にとり、スゥイッチを入れてみた。本体は竿の中心から円を描くようにクネクネとイヤラシイ動きをし、根元から伸びる親指大くらいの竿は小刻みにブルブルと振動している。
　これで旦那にされているのか、いや、もしかしたら欲求不満で自らをこいつで慰めているのかもしれない。そんな奥さんを想像すると、もう爆発しそうなほど肉棒が脈打っている。やっとの思いでバイブを元に戻し、黒い布切れをポケットにしまいリビングルームへ戻った。

　ソファに腰掛、壁にかかっている時計を見た。奥さんが出かけてから２０分位経っていた。
　まだ、時間はある。奥さんのパンティをおかずにしながら、肉棒を扱き射精させるには有り余るほどの時間があった。後はその後始末をどうするかだ。たっぷりと吐き出された精液が付着したパンティをどうするかだ。そのまま家に持ち帰り、ブレーカーを接続したことへの報酬として頂いちゃうか。洗濯をし、再び奥さんの家にあがる口実を探し出し、こっそりと返しておくか。そのことは後から、ゆっくりと考えれば良い。チャンスはまた有るはずだ。
　今はスゥエットの前部を膨らましている肉棒を鎮めることが最優先だ。そうでもしなければ帰宅してきた奥さんに襲い掛かってしまいまそうだ。それ程、興奮は高まっていた。
　そうしない為にも、これは必要な行為なんだ。自分を納得させて、ポケットの中からパンティを取り出し、スゥエットの前部だけめくった。解放された肉棒は、先ほどオナニーを途中で中断されたことに怒っているかのように硬くなり、亀頭部を先走りの液で光らせながらピクッピクッと脈打っている。
　もう、限界だった。極度の興奮状態に耐え切れずにパンティを肉棒にあてがい、静かに目を閉じ奥さんの乱れた姿を想像しながら、その手を動かし始めた。
（ああっ、奥さん、こんな助平なパンティを穿いて旦那を誘惑しているんだね……。股を開いて、上から中心部を擦られて濡らしているんだ……）
　先端部から滲み出る淫水がパンティを濡らしていく。

　何時の間にか、玄関の扉が開く音に耳を傾けることも忘れ、自慰に集中していた。
「ただいま〜」
　奥さんの声がした。まただ。射精感が高まり、肉棒を握り締めた手をあと２、３回上下に動かせばという時だった。

　こんな姿を見られたら大変なことだ。変態的な行為に怒り、吼え、叩き出されるかもしれない。ご近所の噂になり、すぐに妻の耳にもはいるだろう。離婚、家庭崩壊。更に、ここには住んではいられないであろう。破滅だ…。
　もし、奥さんが自分のパンティを肉棒に巻きつけ恍惚の表情で自慰している俺を見て、別の反応をしめしてきたらどうだろう。唇を濡らし、鼻息を荒くしながら淫らな部分を湿らして肉棒へ吸い寄せられるように唇を被せてくる。まさに、理想的である。
　もしかしたら、俺と肉体関係になることを望んでるかもしれない。
　そんな可能性もないわけではないが、悪い方向へいった場合の代償はあまりにも大きい。
　理性を取り戻し、即座にスゥエットの前部を元に戻した。パンティを元に戻す時間などない、肉棒を隠すことで手一杯だ。
　肉棒の硬さは急激には鎮まらない。先走りの液で汚れた手の平からは生臭い雄の香りが発しているはずだ。
　リビング・ダイニングルームと廊下を遮る扉のすりガラスの向こう側に奥さんの影が写し出された。
　心臓が漠々と鼓動する。
　ガチャリ。扉は開かれた。
「ただいま〜。買ってきました。これでいいかしら？」
　他の商品に脇目を触れることなく目的のものを購入して急ぎ足で戻ってきたのであろう、奥さんの頬はピンク色にほんのりと染まっていた。。
「はっ、早かったですね……」
　乱れている呼吸を押さえ込もうとしたことによって、可笑しな声色を発した。
　奥さんはそれには応えず、唖然としながら俺を見つめた。視線の先はまだ、硬さの残るスゥエットの膨らみへと注がれている。
　視線を下に落とすとスェエットと腹の間から黒い布の一片がはみ出していた。
（や、やばい！）

つづく