第９話

　
　ようやく、自分の家に戻ることができた僕は、すぐに、キッチンの横についているガス給湯器の運転ボタンを押し、温度を４１度に設定した。密林のように生い茂っている陰毛に精子と蜜汁が混ざり合ったものが乾き、３人で飲んでいる時から痒くてたまらなかったので、早くその不快な感覚から解放されたかったのだ。
　僕以外に誰もいないので、すぐに汗臭い衣類を床に脱ぎ捨てた。男女が交わった後に漂う特有の匂いが性器からする。
　浴室にはいり、レバーをシャワーにずらし蛇口の栓を開いた。シャワーノズルのボタンを押すと、多数の細い穴から勢いよくお湯が放出された。水の温度を手のひらで確かめた。丁度よい温度だ。スポンジにお湯をかけ、ボディシャンプーをたっぷりと染みこませ、泡だたせた。体中を擦り、泡をシャワーで洗い流した。体臭はたちまちフローラル系の香りに隠された。
　風呂場から出て、バスタオルで全身を拭き、全裸のまま寝室へ向かった。クローゼットを開き、引き出しから洗剤の匂いが漂う下着を身につけ、ダイニングルームへ行った。
　冷蔵庫から５００mlスポーツ飲料をとりだし、一続きになっているリビングルームのソファにドスッと座り、蓋を開けゴクゴクと半分位、飲んだ。センターテーブルにおいてあったタバコを手に取り、お気に入りのオイルライターで火をともした。普段は一時間に一本は吸っている。愛のところに訪問してから大分、時が過ぎていた。数時間ぶりに吸い込む煙は格段に美味く感じた。
　背もたれに寄りかかりながら、さっきまでのことを考えた。なんてラッキーな日だったんだろう。愛は僕の妄想の中で思っていたより、遥かに淫乱な女だった。あんなに激しく僕のチンポを求めてきた。明日も来るといった。彼女のことだ、また、何度も求めて来るんだろう。思い浮かべると自然に頬の筋肉が緩んでくる。
　タバコを灰皿に押しつけて消した。祥子の行為について考えた。正直言って、驚いた。僕は彼女をセックス嫌いな淡白な女だと思っていた。妄想の世界での彼女は僕に犯される泣き叫ぶ女であった。まさか、自ら僕を挑発してくるなんて……。
　アルコールで虚ろになっている頭の中でそんなことを考えているうちに何時の間にか睡魔に襲われた。
　目覚めると何時の間にか強い太陽の光から優しい月の光に変わっていた。喉がカラカラに乾いている。月明かりに照らされたセンターテーブルの上には飲みかけのドリンクがある。それを手にとり、ゴクゴクと喉を鳴らしながら全てを飲み干した。
　いったい、何時なんだと思い、目を擦りながら部屋の電気をつけた。壁にかけてある時計は午後七時をまわっていた。ソファの上で３時間くらい寝てしまったようだ。
　外の空気が吸いたくなり、ベランダ越しの窓を開いた。ベランダから半身を出し、左右を見た。領域を区別する仕切り版の隙間から愛の部屋から発する明かりが洗濯物のないハンガーを照らしているのが見える。一方、祥子の方からは光が見えなが、目を凝らしてみるとタオルと共に彼女の下着がそよ風によって揺れていた。
　僕は、今、二人が何をしているのか想像した。愛は淫乱な女から普通の主婦の顔に戻り、家族とともに食事をしているのであろう。祥子はどうしているんだろう。旦那は出張中で３日間は帰宅しないとのことだった。おそらく、僕と一緒で、今ごろアルコールに誘引された睡魔によって寝ているのであろう。
　窓の側で、目覚めの一服をしながら祥子が言ったことを思いだした。
『よろしかったら、何かお手伝いしましょうか』
　僕は１人寂しくしている祥子を食事に誘ってみようと思った。財布の中には妻が残していった１万円しかないが、カードがある。僕の支出を管理している妻が、また明細を見て文句をいうだろうが、言い訳は考えてある。電話機のメモリーに記憶されている電話帳から祥子の番号を検索した。すぐに液晶ディスプレイに表示された番号に電話をかけた。１０コール、でない……、そのまま切るのが惜しくて待った。一分くらいしたころ、留守番電話の機械的な女の声のメッセージが耳にはいった。
（だめだな……）
　僕は落胆しながら、そっと受話器を置いた。もしかしたら、寝ているではなく、外出しているかもしれない。気を取り直して、服を身につけて近所の中華料理屋に向かった。
　空腹を満たし、家に戻った。祥子が気になり、再びベランダから様子を伺ったが、先ほどと何も変わっていない。僕は六畳ほどの書斎にこもって、いつもなら日中に行う仕事を始めた。

　翌日、期待していた通り、愛はやってきた。僕の前に現れた愛は、上下水色のスーツをビシッと身につけていた。昨日とは別人のように、キャリアウーマンといった雰囲気をかもだしている。そんな姿は好きだ。数ヶ月前、サラリーマンをしていたときは、取引先の気の強いキャリアウーマンと交わっているところを想像しながら勃起していたものだ。大分、香水の匂いが強い。愛は玄関の扉を閉めるなり、何も言わずに、僕の手に首を回し、熱い接吻をしてきた。パンプスを脱ぐこともなく、その場にしゃがみこんでズボンとトランクスをずりさげ、まだ完全に硬くなっていない肉棒にむしゃぶりついてきた。完全肉棒が立つとすぐにパンプスを脱ぎすて、僕を押し倒し、スカートを腰までめくって上に跨ってきた。驚いたことに、スカートの下にはなにもつけておらず、最初から潤っていたであろう、膣の中に肉棒がスムーズに入り込んだ。愛はエクスタシーを求め激しく腰を動かした。僕も愛の積極的な行為に応え、下から激しく突き上げた。結合してから、５分も経っていなかっただろう、愛が歓喜の声をあげると同時に僕も同時に愛の体内の中で果てた。　官能の余韻につかる間もなく愛は腰をあげ、流れ出てくる精子をハンドバッグから出したテッシュペーパーで拭い取り、それを床に置き、新たな紙を抜き丁寧に四つに折った。　僕はその行動に戸惑い、言葉を失っていた。祥子が再び、カバンの中に手をいれた。手にしたものはスーツと同色の水色のショーツだった。それを開き、右足から履き始めた。　膝まであげたところで履くのを止めた。なにをするんだろうとジーと見つめていると、恥じらいも無く、ショーツのちょうど陰部があたるところに折りたたんだ紙をあて、左右の縁を掴み一気に上まであげた。
「もう、北村さんったら、昨日、三度も出しているのに凄い量をだすんだもん。本当に強いのね」
「どうしたんだい？もうおしまいかい？」
「ごめんね。昨日、電話あったこと覚えてるわよね。今日は無理だといったんだけど、先方がどうしても今日じゃなければダメだと言うんで……」
「仕方が無いよ。仕事が第一だ。それに僕たちは割り切った関係だろ」
　僕は愛の言葉を遮り、淡々といった。
「あっ、寂しいな。そんな、言い方……そうよね。お互いに大人だから」
　愛は一瞬寂しそうな顔を見せ、何かを言いかけたが、ニコッと微笑み明るく言い直した。
「スカート、皺になったかしら……」
「大丈夫。おかしくないよ。ところで、明日はどうなんだい？」
「ごめん。明日はカルチャーセンターで講習があるの。あさってなら１０時から３時までは大丈夫よ」
「わかった」
　愛がチラチラと左腕につけたカルチェの時計に視線を送っていたので、もう時間がないのだろう思い余計なことを言うことは止めた。
「じゃあ、いくね」
　愛は僕に背をむけて玄関のドアノブに手をかけながら、くるりと振り返った。
「ねえ、祥子さんのこと気になる？」
「まあね」
「やっばりね。昨日、私が部屋に戻ったとき、二人とも様子がおかしかったわ。でもあの娘はダメよ。あの娘は、私に……あっ、でてきた」
　愛は言いかけた言葉を止めて、股間を抑えた。どうやら、残りの精子が流れてきたらしい。愛は恥じらいも無く、再びショーツを膝まで下ろして、新しく折りたたんだテッシュに差し替えた。
「それに、なんだい。いいかけた事を途中で止めるなんて良くないよ」
「いいわ。時間がないから手短に言うね。実は、昨日、あの娘、私に慰めてもらいにきたのよ。詳しい話はあさってするわ」
　愛はショーツをあげながら早口で喋り終え、僕の唇に軽くキスをして扉の向こうに去っていた。
　下半身を剥き出しにしたままの僕は愛が拭いさったテッシュと衣類を拾い上げてリビングルームへ向かった。トランクスを履き、ソファに深く腰掛けた。今日も、昨日のように三度は放出しようと意気込んでいた。そのために、昨日、食事がえりに購入した精力ドリンクも飲んだ。一度だけでは満足しない肉棒がトランクスの全部を膨らませている。膨らみの先端部は残った精子が流れ、丸い染みを作っている。タバコに火をつけ、煙を曇らせながら、愛の熟れた肉体とまだ見ぬ祥子の若い肉体が絡み合っているところを想像してみた。肉棒が脈打っているのがわかる。
　愛の告白は衝撃的だった。どういう過程があったのかは聞くことができなかったが、それはあさってには解るだろう。
　愛は落ちた。次は祥子の番だ。彼女は確かに僕を求めている。昨日の行為からすると、彼女も男に愛されることに飢えており、愛との関係には満たされていないハズだ。だからこそ、僕を誘惑してきたんだ。祥子の肉体を味わいたい。そうすれば、僕の妄想は現実に近づく。愛と祥子の二人の女を並べて酒池肉林の世界を楽しむ世界。二人の女を同時に相手する。僕にとっては夢のような世界であった。僕は脈打つ肉棒を感じながら、ジーンズを履いて、肉棒から放つイヤラシイ芳香を消すことなく祥子のところに向かった。

つづく