（３）

　金曜日の夜。柴田雅樹の携帯電話が鳴った。
「もしもし、お兄ちゃん？」
　侑加の声だった。
「明日はお仕事あるの？」
「いや。今月の原稿はもうあがったから」
「じゃあアシさんたちもいないのね」
「ああ、今週はこないよ」
「明日、部屋にいってもいい？」
「それはかまわないが……」
　柴田は重い気持ちのまま電話を切った。
　寝室のベッドに横たわり、片手で顔を覆う。ついにくるべきときがきたのかもしれない。この数日間、頭の隅から離れなかった懸念が現実になろうとしている。
　元姪の娘に悪戯を働いたのは月曜日のことだった。女子高生の前で生の勃起を握り、自慰を見せつけ、精液まで漏出したのである。激情から生じた出来心の行為ではあったし、彼女にも豆粒ほどの責任はあった。だが、何を言っても結局は言い逃れにすぎない。あの行為が猥褻罪に当たることに違いはなかった。
　彼自身も罪の重さは感じているし、罰を受けてしかるべきだと思う。大人として責任を取らなくてはならない。柴田は、上掛けにくるまって眠れない一夜をすごした。
　翌朝。約束の時刻よりも三十分ほど遅れて侑加はやってきた。
　柴田は少しばかり安堵した。彼女がひとりきりだったからだ。そのいっぽうで、これから彼女の両親に引きあわされるのではないか、という不安もある。
　いや、その危険性は低いだろう。制服以外ではめったにスカートを履かない娘が、今日に限ってミニの白いワンピースを着ていたのだ。珍しく薄化粧までしている。
　年頃の少女がそんな姿で男の部屋を訪れる動機といえば、思い当たるものなどひとつしかない。柴田は複雑な心境のまま、漫画本のある寝室ではなく仕事部屋に侑加を通した。先日、彼女に悪戯を働いた場所である。
「お兄ちゃん、これ」
　紙袋を柴田にさしだしてくる。中身は少女向けのファッション誌だ。
「この前話してた雑誌だね」
「うん、プチヒメ」
「ありがとう、助かるよ」
　黒髪から甘い香りが漂ってくる。この芳香も、普段の彼女にはないものだった。風呂あがりだと容易に見当がつく。
　紙袋を机の上に置き、柴田は、アシスタント用のキャスター椅子を引いた。
「とりあえず座りなよ」
　無言で頷き、侑加は椅子に腰かけた。折りたたんだ薄手のジャケットを膝に乗せ、しきりに指で触る。どこか落ち着きのない感じだった。彼女の注意が机上に向けられているのも、目の動きでわかった。
「コーヒーと紅茶、どっちがいい？」
「ううん、いらない」
「なら、オレンジジュースでも飲む？」
　俯き加減で首を左右に振る。それから、横目でふたたび机の上を盗み見た。何かを探しているのだ。
　彼女が何を見たがっているのか、思案する必要などなかった。ほんの少しのためらいのあと、彼は、静かな口調でつぶやいた。
「首輪なら引きだしのなかだよ」
「え」
「この前のつづきがしたいんだろう？　そのためにきたんだろう？」
　否定をさせるための質問だから、つい直球の言葉になった。優しい脅迫である。そうすれば、臆した彼女が思いなおすのでは、と考えていた。
　けれども侑加は否定を口にしない。下を向いて黙るだけだった。そして、その沈黙こそが肯定の明確な意思表示となった。
　ふう、と柴田はため息をついた。
　この娘が何を考えているのか、柴田には手に取るように理解することができた。おそらく彼女は、相当の覚悟を持ってこの部屋を訪れたのだろう。柴田の性犯罪を罰するための覚悟ではない。もしそうなら、保護者か警官を同行させているはずだった。
　悪戯の先にある行為を望んでいるから、ひとりでやってきたのだ。性交を望んでいるから、お洒落をしてきたのだ。それに、たぶん彼女は処女に違いない。彼女の表情に、化粧や服装に、生娘特有の不安と期待があらわれている。
「なあ、侑加ちゃん」
　仕事机の椅子に座り、俯く少女の顔を覗きこんだ。
「……まず最初に、この前のことを謝らせてくれ。いくら夢中になっていたとはいえ、軽はずみなことできみを傷つけてしまった」
　侑加は顔をあげた。もとが美形の娘だから、薄化粧がゾクリとするほど似合う。まっすぐな目で見つめられると、それだけで誘惑されているような気分になる。
「本当にすまないと思ってる。ごめん、悪かった」
「ううん、いいの。わたしにだって責任はあるんだし」
「いや、侑加ちゃんは悪くない。それよりも、重要なのはこれからだ」
　特別な意味をこめるために、やや間を置いてから口を開いた。
「きみがここにきた勇気は認めるし、その理由も理解してるつもりだ。でもね、きみの期待にこたえることはできない」
「どういうこと？」
「だからね……うーん、なんて言ったらいいのかなあ」
　柴田は言葉に窮した。処女を捨てたい、セックスをしたいと願う侑加の意志はおそらく本物だろう。少なくとも彼女自身はそう思っているはずだ。
　だが、それは本当の心ではない。たぶん彼女は、はじめて接した性戯に心を乱しているのだ。それを恋心だと錯覚しているだけなのだ。
　そのことを侑加に諭したほうがいいのだろうか。いや、子供の彼女がそのような理屈で納得するとは思えない。むしろ逆効果だろう。では、どうすればいいのか。
「お兄ちゃん、わたしのこと嫌い？」
　途方に暮れる柴田の前で、侑加は唐突に口を開いた。
「わたしじゃだめなの？」
「いや、だめとかそういう問題じゃなくて」
「……わたしは、お兄ちゃんにならバージンあげてもいいって思ってる」
　真摯な顔の女子高生が口にしたその言葉は、男にとって甘い毒薬だった。
　すぐに侑加は美貌を俯かせた。年のわりには大人びた顔立ちである。が、冷たい印象なだけの端正さではない。性に奔放なＯＬや女子大生の色気とも違う。
　特に魅力的なのが彼女の目だった。ぱっちりと丸く大きく、それでいて、子供離れした力のある双眸。表情次第で女にもなるし、幼女にもなる。上目づかいで意味を含んだ微笑を浮かべたときなどは、洋服を着たヌードモデルと同じ顔になる。
　化粧や服装でがらりと雰囲気が変わるのは、この年頃の少女独特のものだ。美形の娘ほどその落差も大きい。そんな元姪が、彼よりもひとまわり以上も年下の子供が、自分を抱いてほしいと迫っている。
　柴田は言葉を失った。これは、まったく予想外の展開だった。美しい女子高生の裸身を眺め、乳房や尻を弄び、処女の淫裂にペニスを突き入れることができる。その僥倖が今こうして目の前にある。
　三十三歳の独身男にとって、これ以上においしい話などない。客観的に見れば確かにそうだった。
　が、実際には幸運であると同時に重荷でもあった。軽い悪戯とはわけが違うのだ。ましてや、以前は姪と呼んでいた近親者の娘である。
　いくら血の繋がりはないとはいえ、人道に反する行為に変わりはない。柴田にはとてつもない罪と責任が科せられることになる。そのことを彼女は理解していないのだ。
「なあ、侑加ちゃん……」
　柴田は、じっと彼女を見た。やっぱりこんなことはいけない、思いなおしたほうがいい。そう諭すつもりで口を開いたはずだった。
　なのに、言葉が出てこない。喉の奥に何かが詰まっているような感じだった。その理由は、誰より彼自身が理解している。
　未練があるのだ。最高の料理を目の前にしながら、指を咥えて耐えるしかないこの状況がつらいのだ。女子高生の肉体がどのような味と感触なのか、性交中にどんな声を発するのか、膣の緊縮感はどんなふうなのか。男として並々ならぬ興味があるのだ。
　できることなら貪ってみたい。この少女をペニスの虜にして、整った顔立ちに湯気だつほどの精液を塗りつけてみたい。だが、それをすれば彼の社会的な地位が危うくなる。
「お兄ちゃん……」
　侑加は顔を起こした。常に何かを訴えたがっているような丸い目がうるんでいる。それは、十六歳の無防備な心を映す鏡である。
　その目を見た瞬間、柴田のなかで何かが壊れた。背筋に稲妻が走った。
　一度だけ喉を鳴らしたあと、彼は口を開いた。
「本当にいいのかい？」
　揺れる心が、そのままかすれた声音になった。
「この前みたいなお遊びとはわけが違うんだよ」
「うん」
「恥ずかしい思いだってたくさんしなくちゃならない、それでもいいのかい？」
「……我慢する」
「じゃあ、我慢できないくらい痛いことは？」
「え」
「処女を失うってのはそういうものなんだ。そして、男は一度はじめたら後戻りも中断もできない。たとえ侑加ちゃんが泣いて拒んだとしてもね」
　侑加は黙った。
「それがいやなら、考えなおしたほうがいい」
「わたしは」
　ヘアピンの前髪を触りながらつぶやいた。それが困窮したときの彼女の癖だということを、柴田は知っている。
「……わたしは、お兄ちゃんが相手なら平気」
「本気なんだね？」
「うん」
「なら、侑加ちゃんの覚悟を確かめさせてもらおうか」
　意味深な台詞とともに柴田は机の下へと手を伸ばした。引きだしから黒い首輪と手枷を取りだし、机の上にそっと置く。
　息を呑んで淫具を注視する侑加の前で、柴田は、わざと低い口調で命じた。
「これをつけてあげるから、服を脱いで裸になりなさい。今すぐにだ」

　　☆

　キャスター椅子を揺らして侑加は立ちあがった。
　ジャケットを机の上に乗せ、狼狽の視線を柴田に注いでから、背中に手をまわした。そのワンピースはリズリサというブランドの服で、きのう、学校の帰りに駅ビルのショップで買ってきたものだ。
　胸元に飾りのリボンがついている。
「侑加は美形だから、少し甘めのほうがかえって似合うのよねえ」
　そんな隆美のアドバイスに背中を押され、熟考の末に購入を決意したのだった。
　ファスナーをさげて、肩紐に指をかける。そこで、不意に動きが止まった。
「怖いかい？」
　柴田は、椅子に深く腰かけたまま少女を見あげた。
「無理しなくてもいいんだよ」
「うん。でも……」
　侑加は躊躇した。以前から嫌いではなかった相手である。処女をあげてもかまわないと思う。いや、彼でなくてはだめなのだ。
　夏休みが終わり、すでにクラスの女子の半数以上が初体験をすませている。自分だけが取り残されたくない。この機会を逃したくない。そんな、十六歳の処女特有の焦りが彼女にはあった。はやる気持ちがあった。
　軽率な行動だということは自分でも理解している。わかってはいるが、奔走する激情を無視できるほど彼女は大人ではない。いいと思う。柴田になら身体を許してもいいと思う。だが、処女を捨てるには裸を見せなくてはならない。
　それはごく当然なことなのだが、その当たり前のことが、年頃の娘には壁だった。それに、もっと別の不安もある。
　侑加は、机の上の首輪に視線を落とした。
「裸になって、それをつけるの？」
「ああ、そのための道具だからね」
「ちょっと怖い」
「なら、やめるかい？」
　意地悪な言いかただった。
「……侑加ちゃんも気づいているだろうけど、僕はね、そういう趣味の男なんだ」
「お兄ちゃん、ＳＭやったことあるの？」
「僕にとってはそれがセックスの一部なんだよ。きみが抱かれようとしているのはそういう変態趣味の男なんだ」
「別に、お兄ちゃんは変態なんかじゃ……」
「立派な変態さ。女子高生の前で自慰をしてしまうくらいなんだから」
　事実だから返す言葉が見つからない。
「侑加ちゃんだって、それを承知でここにきたのだろう？」
「わたしは……」
「それとも、普通にやってほしいかい？」
　侑加は視線を横にそむけた。性経験のない少女には酷な質問だった。肯定をしても否定をしても、結局は彼女が恥ずかしい思いをすることになる。
　普段の柴田なら決してこんな言いかたはしないはずだった。明らかに苛められている。そこまで考えたところで、侑加は、やっと彼の真意に気づいた。
　行為はすでにはじまっていたのだ、この言葉苛めがＳＭプレイそのものなのだ。また同時に、それは彼女がひそかに望んでいたものでもあった。
　ＳＭってどんな感じなんだろう。知りたい、もっと知りたい……。
　柴田に首輪を巻かれたあの日以来、ずっと心のなかで繰りかえしていた渇望である。だが、夢想と現実は別だった。
　実際に裸を見せるのは恥ずかしい。裸で首輪や枷を巻かれるのは、もっと恥ずかしくて怖い。けれども、それをしなくては先へと進めない。処女を捨て、大人の女に変貌することができない。
　混乱のなかで指が動いた。
　ワンピースの紐が肩から外れる。たったのそれだけで、ポリエステル素材の着衣が重力に従って床に落ちた。
「あ……」
　キャミソールやレギンスなど身につけていないから、もう下着だけの裸身である。石鹸の匂いと緊張に包まれた雪白の肌が揺れる。
　生クリームを固めて作ったような肉体を飾る下着は、アイボリーともレモンゴールドとも取れるような光沢である。きのうワンピースとともに新調したものだ。おかげで今月のアルバイト代がほどんどなくなった。侑加は、左右の手で胸と股間を隠した。
　柴田は、その手を退けるよう命じたりはしなかった。かわりに別のことを侑加に告げた。
「ブラジャーも取るんだ」
「え、でも」
　咄嗟に口を開こうとしたものの、柴田の目線がそれを許さなかった。
　眼鏡の奥の強い目に見据えられ、まず侑加は、パンティに添えた右手を胸元へと移した。そうやって幼い膨らみを両手で隠し、ブラを取るために柴田に背中を向けた。
「だめだよ、こっちを向いたまま脱ぐんだ」
「でも、そんなの」
「どのみち見られるんだ、同じだろう？」
　侑加は、渋々と柴田のほうに向きなおった。
　前屈みの姿勢で背中に手をまわす。身体つきは子供そのものなのに、そういう仕草だと妙に色っぽさがきわだつ。そして肢体の揺らめきと同時に、化粧や石鹸とは異なる匂いがあたりにひろがりはじめた。彼女本来の体臭である。その匂いは大人の女ほど濃厚な甘さではないが、子供特有の青臭さでもない。
　魅惑的な音をたててブラのホックが外れた。肩紐が左右の肘まで落ちる。
　侑加は、半脱ぎのブラジャーを胸元に両手をまわして隠した。羞恥に燃える処女そのものの姿である。もしくは、隠すふりをした挑発の媚態だ。柴田の喉が動いた。
「ブラを取って、手をどかしてごらん」
　今度ははっきりとそう告げた。
　侑加は、こまかいレース刺繍の入ったブラジャーを片手でそっと床に置いた。桃色の乳首が一瞬だけ顔を覗かせ、またすぐに細腕の下に隠される。色白のわりに乳輪の色素は濃くはない。薄めの紅茶を地肌の内側に溶かしたような色あいだった。
　もっと目に焼きつけたくなって、柴田は、ふたたび手をどかすよう命じた。
「だめ、やっぱり恥ずかしい」
　けれども柴田が黙ったままでいると、彼女は腰をモゾモゾと揺らして恥じらってから、右手を横へと退けた。
　すぐに左手も胸元から離れ、最後は、男に言われるがままに両手を背中へとまわし、美貌を横にそむけた。控えめなサイズの乳房である。
　侑加は何度も口で息をした。
　心臓が早鐘のように動いている。恥ずかしい。あたかも従順な奴隷のように、男の言いなりとなって裸身をさらしている。見られているのではなく、見せびらかしている。だが何より怖いのは、彼を失望させてしまったかもしれない、という不安である。
　男とは大きな乳房の女を好むものだ。そういった少女特有の思いこみが彼女のなかにあった。クラスの男子だってみんなそうだし、彼らが愛読しているグラビア雑誌の娘にしても、みな巨乳の女ばかりなのだ。ならば、柴田もそうではないのか。落胆した彼が行為を中止すると言いだすのではないか。
　しかし、実際には逆だった。十六歳の未成熟な乳房を目の当たりにして、彼自身にとっても予想外の劣情が柴田の内部に生じていた。
　わたしだって女なんです、もう子供じゃないんです。そんなことを臆しながら主張しているかのような、初々しい肉肌の膨らみ。けれども、洋服越しに想像していたよりは量感があった。小動物に似た愛らしさがあった。
　さんざんにじらされたあとの視姦なだけに、喜びも感動も大きい。彼は、ロリータコンプレックスと呼ばれる男たちの心理をはじめて理解した。
「綺麗だ」
「え」
「……すっごく綺麗だよ、侑加ちゃんの身体」
　本心が言葉になった。
「僕、ドキドキしてきたよ」
「そんなの嘘」
「嘘じゃない。ワンピース姿も綺麗だったが、これはもっと上だ」
「でも、わたし……ぜんぜん色っぽくないし、胸だって小さいし」
　不機嫌そうに口を尖らせる。処女だから、性的な賞賛を浴びたことのない子供だから、どう対応していいかわからないのだ。
「大人っぽいとか子供っぽいとか、そういうのは関係ない。僕はただ正直な感想を言ったまでだ」
「でも」
「本当に綺麗だよ、まるで天使みたいだ」
　侑加の頬が赤らんだ。十六歳の少女にとって、その言葉は、乾いた砂漠をうるおす清水だった。
「僕、ますます侑加ちゃんがほしくなってきたよ」
　机の上の首輪を手にして、柴田は椅子から立ちあがった。
「首輪、つけるのね」
「怖いかい？」
「……少し」
「思いなおすのなら今のうちだよ」
　神妙な顔で最後通告をする。躊躇があるのは彼も同じだった。
　ＳＭに入口はあるが出口はない。ある作家の台詞である。そのような倒錯性の泥沼に、処女の高校生を引きずりこもうとしている。だが、罪の意識ばかりではない。
　侑加は下を向いたまま黙っている。彼女の肌は白い。まるで内側から発光しているかのような輝きと透明感がある。しかも、聖性だけがきわだつ白さである。
　普通ここまで色白だと、かえって病的な印象が濃くなるものだが、侑加にはそれがない。彼女が美形の娘だからだ。ならば、首輪の黒もきっと似合うに違いない。
　多くのＳＭ愛好家と同様、彼もまた、女の肉体を芸術的視点から捉える傾向がある。首輪を巻いた侑加の裸身を見てみたい。性欲の裏側にそういった純粋な気持ちがあった。男として、サディストとして、その光景を直視してみたい。
「これをつけたら後戻りはできないぞ」
「うん」
「首輪をつけてもいいんだね？」
　顔立ちと身体つきがアンバランスな娘は小さく頷いた。
　柴田もそれ以上の忠告はせず、黙って彼女に手を伸ばした。首筋にかかる黒髪を背中に払い、鎖のついた革枷を巻きつけ、留め具をかける。侑加の長い睫毛が小刻みに震えた。
　彼はさらに、対の手枷を彼女の両手首に巻きつけた。こちらはあらかじめ鎖を外してあるから、これだけなら拘束具としての意味はない。ただの飾りである。その淫具に本来の役割を与えるために、柴田は、首輪のフックに左右の手枷をそれぞれ繋ぎ止めた。肘を支点に両腕が折りたたまれて、首の後ろでがっちり固定された形になる。
「ああン……」
　侑加は短く喘いだ。もはや肌を隠すことはもちろん、男に何をされても抗えない状況だった。ワンピース姿のときの子供っぽさも、すっかりと湮滅している。
　性的な捕食を待つばかりとなった女子高生の裸身を、柴田は感動の目で鑑賞した。手足の先までじっくりと眺めた。
「何を言えばいいのか、わかってるよね？」
　ようやくわれにかえって、柴田は丸椅子に座りなおした。首輪の掴み輪を手首に巻きつける。
「言ってごらん」
「は、はい」
　すぐにパンティ一枚の娘は従った。足幅をかすかにひろげて、胸を張り、はやくもうるみきった目で男を見据える。先日、彼に教わった服従のポーズである。
　しかし、この前とはまるきり状況が違う。裸なのだ、乳房もパンティの股間も全部見られているのだ。冗談半分の悪ふざけではなく、男に性交をねだるための姿態なのだ。
　軽い眩暈に襲われながら、侑加は赤い唇を開いた。
「侑加にエッチなことしてください……教えてください」
「いやらしいことがしたいんだね？」
「お、お願いします」
　裸で拘束された姿では、いやでも弱腰な口ぶりになる。知己のはずの元叔父が彼女の知らない独裁者に思えた。
「お願いします、か。いい返事だね。でも、七十点といったところかな」
「え」
「人に何かを頼みたいなら、それなりの代価が必要だろう？」
　彼の言葉の意味がすぐにはわからなかった。
「侑加は僕に何をくれるんだい？」
「それは、わ、わたしの身体を」
「ああ、もちろん身体ももらうさ。けど、もっと大切なものがあるじゃないか」
「あ……」
「言いなさい」
　少女の眉間に悲しげなしわが浮かんだ。裸身の震えが首輪の鎖にも伝わる。
「わたしの処女、お兄ちゃんにあげます」
　半べそをかいて謝罪をする幼児の口調だった。
「……処女も身体も全部あげます。お兄ちゃんにあげます。お願いです……わ、わたしとセックスしてくださいッ」
　その単語を口にしたとたん、不意に彼女はパンティの腰を後ろに引いた。密接した左右の太腿がモゾモゾと擦れる。
　恥ずかしさに耐えかねての動作ではない。もっとほかの理由があった。処女の淫裂から熱液が溢れだしてきたから、そのことが自分でもわかったから、腰を悶えさせずにいられなかったのだ。