（５）

　淫裂に亀頭をあてがい、腰に力をこめようとした矢先、侑加の尻が前へと逃げた。ふたたび下半身を進めようとすると、今度は横に揺らめいた。
「大丈夫だから、もう少し力を抜いて」
「う、うん」
　ほとんど嗚咽に近い声だった。
　口では気丈なふりを装ってはいるが、やはり不安なのだろう。丸椅子に預けた腕が小刻みに震えている。白い背中もかすかに上下している。
　柴田にしても、優しくしてやりたいという気持ちはあった。ベッドの上で手順を踏んだ愛撫を与え、甘い言葉のひとつでもささやき、女にとって生涯一度きりの儀式を淡い色に演出してやりたい。女子高生との倒錯プレイに心酔するいっぽうで、男としてのそういった責任感も常に心の隅にあった。数分前までは確かにそうだった。
　だが、今は頭で何かを考える余裕などないし、状況でもない。こうして処女の淫裂が目の前にあるのだ、ペニスを密着させているのだ。
　もはや言葉など不要だった。彼は、小さな膣口に亀頭を押しこんだ。
「ンあ……ゥ」
　侑加の口から声が出た。情交時の女独特の呻きである。けれども、最初の一瞬だけだった。
「痛ッ……ンンゥ、やだ、嘘……だめッ、痛い痛い、いたーいッ！」
　首輪と手枷だけの裸身が揺れた。きしみながら暴れた。
　まだ亀頭の半分も収まってはいない。どれだけ力をこめても、押しこもうとしても、まるで入っていかないのだ。そして、侑加が狂乱の声を飛ばしはじめる。
「痛い、無理ッ、こんなの無理ーッ！」
　錯乱しているのは柴田も同じだった。亀頭は確かに膣口を捉えているし、愛液の分泌量だってじゅうぶんだ。むしろ濡れすぎなほどである。
　なのに、入らない。硬い岩に挑んでいるような感じだった。柴田は、半ばやけになって突き入れた。
「だめえ、痛いのォ。いい、もういいッ、お兄ちゃんやめてェ」
「我慢するんだ、侑加ちゃん。あと少しだから」
「いやいやッ、絶対にいやー！」
　数度目の打ちこみで、ようやく亀頭が埋まった。
　いっそう派手に泣き叫びながら、侑加は身体を起こそうとする。その拍子に、丸椅子が音をたてて床にころがった。逃げたがっている革枷の手が仮眠室のカーテンを強く握る。前へ這おうとする彼女の尻を、柴田は腰を進めて追った。
　ミリ単位で男茎が埋まりはじめる。しかし、快感はない。勃起を無理に捻られているような痛みだけがあった。その痛みが、逆に理性的な思考を彼から奪っていた。
　カーテンがブチブチッ、と音をたててレールから外れる。床にひろがった布地の上で、侑加はまた泣き叫んだ。もはや完全な強姦の様相である。
「ひいンッ、痛ーいッ！」
　ふたたび大声を発した矢先、侑加の声がやんだ。
　痛さのあまり失神したのかと気をめぐらせる余裕など柴田にはなかった。勃起に、何かメリメリッとした手ごたえを感じたのだ。はじめて味わう挿入感だった。
　窮屈すぎる肉穴であるから、茎をろくに前後させることもできない。まるで壊れたネジだった。それでもなんとか腰を引き、突き入れる。ウウッ、と侑加は呻いた。
　半分ほど引き抜いた勃起に赤い線が付着している。女の経血は黒ずんだ色だというが、これはもっと鮮やかな、ロゼカラーに近い朱だった。感動に息を詰まらせながら、柴田は腰を打ちつけた。男茎が、少女の体内にすっぽりと埋まった。
「入ったよ」
　カーテンに顔を埋めて泣きながら、侑加は、首を小さく横に振った。ふたりとも肩で息をしている。
「あと少しだけ我慢してくれるかい？」
「ン、ンうう……ッ」
「な、頼むよ」
　しばらくの沈黙のあと、今度は小さく頷いた。
　すぐに柴田は、慎重な動作で腰を前後に揺らしはじめる。この拷問を一刻もはやく終わらせるために、彼自身が楽しむために、繰りかえし突き入れた。
　男根の出入りする淫裂から赤い何かが見え隠れしている。蝶の羽にも似ているし、紐の切れ端のようでもあった。破れた処女膜の残骸である。出血の量も多くなってはいるが、ダラダラと噴出するほどではない。滲む程度である。
　結合部でグチャグチャと音をたてる白濁と赤の粘液を見おろしながら、柴田は、強い眩暈に襲われた。性交特有の快感はない。ただ勃起が痛むだけである。むしろ、加虐的な興奮のほうが強かった。
　女子高生の処女をバックスタイルで奪う、首輪や手枷をかけて犯すという、異様な状況。はじめて女の裸身に縄を巻きつけたときも、指名困難な高級ＳＭ嬢とプレイをともにしたときも、これほどの陶酔感と征服感はなかった。
　侑加は、もはや大声をあげたりはしなかった。床のカーテンに顔の半分ほどを埋めて耐えている。柴田は、それを鏡越しに覗き見た。
　まるで注射を打たれた子供のようだった。いや、もともとが十六歳の子供なのだ。その子供にペニスを挿入している。突き入れている。
「あと少し、あと少しだから」
「うん、平気……もう大丈夫」
　言葉とは裏腹の苦しげな声で侑加はつぶやいた。
「痛いけど、最初よりは楽になってきた」
「僕のがアソコに挟まってるの、わかる？」
「うん。なかでズンズンッて動いてる……なんかすごい」
「何が動いてるんだい？」
「おっきくて硬いもの」
「それじゃあわからないよ、ちゃんと言って」
「……オ、オチン×ン」
　勃起の滑りが徐々によくなってきた。苦痛の奥から快美の白熱が湧いてくる。女子高生の尻に埋まったペニスが蕩けそうになる。
「もっと言ってみて、繰りかえし何度も言うんだ。そうすれば、苦しいのだって忘れられるはずだから」
「ンンゥ……」
「さあ」
「オ、オチン×ン、オチン×ン……ッッ」
　挿送の途中だから、ひどく歪んだ声になっている。性交中毒の色情女と同じ声である。
　美少女のそんな淫声を耳にしては、男として黙ってなどいられない。柴田は、汗ばんで滑る細腰を両手で掴みなおして、勃起の組み入れを深くした。
「うああ、だ、だめ……ェ」
　牝猫のポーズで侑加は呻いた。女の柔さと少女の硬さが中和した白臀が揺れる。
　柴田は、そこに腰を打ちつけた。パンパンと突き入れた。侑加は苦悶の表情を浮かべたが、手加減や酌量をする暇などなかった。
「ウウウ……オチン×ン……ッあン、オチン×ンオチン×ンッ！　お、お兄ちゃんのオチン×ンが奥に当たってるーゥ！」
「侑加のオマ×コも気持ちいいよ、最高のオマ×コだ」
「あンだめ、そんなの言っちゃだめェ……あ、あ、あ……ッはああン」
「だすよ、侑加のなかでだすよッ」
　腰の振り幅をひときわ大きくして、白濁の弾丸を撃ちこんだ。
「アアーッ！」
　侑加は、床のカーテンを強く捻りあげた。左右の手枷を繋ぐ鎖がピンと伸びきり、身体の震えとともに乾いた音をたてる。
　柴田はそっと身体を離した。苦悶の声を一度だけもらして、侑加の尻が丸く蠢いた。淫裂から抜いた勃起には、紅白の色が混交した恥液がベットリと付着している。
　それをティッシュで拭いながら、尻の谷間の膣溝を覗きこんだ。
　破瓜の朱と粘液で染まり、かすかに口を開けてはいるものの、形状自体は挿入前の慎ましさをほぼ保ったままだった。だが、中身の肉体はもはや子供ではない。作りもののような縦筋の淫裂も、手のひらにすっぽりと収まる乳房も、小悪魔そのものの尻も、すべてが男を受け入れられる身体になったのだ。女になったのだ。
　柴田は、彼女の頭に手を乗せた。
「よくがんばったね、偉いぞ」
　焦点の曖昧な目で男を見あげる少女の顔に、普段の凛々しさや端整さはなかった。涙と汗でクシャクシャになっている。目尻には新たな雫が滲んでいる。
　女にそのような顔をされては、男の取るべき行動などひとつしかない。柴田は、黙って彼女の頭を引き寄せた。
　少女の肩がピクンと震える。そして次の瞬間、侑加は突然に声をあげて大泣きをはじめた。男の胸に顔を埋めて、ワンワンと泣いた。
「本当によくがんばった……本当に」
　柴田は、少女の背中をそっと撫でた。行為のあとの女に必要以上に優しく接するのは、飴と鞭を使いこなすＳＭ愛好者の癖である。しかし、今はそれだけじゃない。子供をいたわる父親の心境もあるし、それ以上の情愛だって感じている。
　まずいな、本気になってしまいそうだ……。
　自分のなかに芽生えはじめた新しい感情に気づいて、柴田は自嘲気味に笑った。

　　☆

　何か物音が聞こえたような気がして、侑加は重い瞼を開いた。
　ベッドから上体を起こして、目元を手で擦る。入浴後に少しばかり横になっていたのだが、いつの間にか眠ってしまったようだ。読みかけの少女漫画と携帯電話が枕元に落ちている。
　サイドテーブルの上には別の携帯があった。着信を知らせるランプが点滅している。
　伸ばしかけた手を途中で引っこめて、侑加は、ふたたびベッドに横になった。上掛けを肩まで引きあげ、身を丸める。
　わたし、とうとうしちゃったんだ……お兄ちゃんとエッチしたんだ……。
　湯あがりの頬がぼうっと赤らんだ。
　じっとしていても腰のあたりがムズムズとする。股にもまだ何かが挟まっている感覚がある。性夢ではない。男の指舌の余韻が、勃起の太さが、まだ身体の内外に残っている。
　指が自然と股間に伸びた。
　パンティの上からそっと触れてみる。まだ少しばかりの痛みがあったが、声をあげるほどではない。むしろ、その鈍痛が誇らしく思えた。
　この肉体が大人の女になったという証しだから、嬉しい。自然と笑みがこぼれそうになる。それをこらえると、かわりに熱い吐息が口からこぼれた。
「お兄ちゃん……」
　自分にだけ聞こえるような声でつぶやいた。
　あれほどの苦痛を強いられたというのに、淫裂がもう硬いものをほしがっている。ほしがって濡れている。また痛い思いをするかもしれないという不安もあった。だが、十六歳の好奇心はそれをはるかにうわまわっている。
　無限にひろがる大人の世界を見てみたい。もっと知りたい。何より、今はそれが可能な肉体なのだ。もはや性交で痛むだけではなく、快感だって見出せる肉体なのだ。ならば、挿入がほしい。
　指で淫裂を上下に擦ると、その欲求がいちだんと大きなものになった。上掛けの奥に隠れた唇が半開きになる。声が出そうになる。
　下着の内側に指を潜らせようとしたとき、扉の外で音がした。そこではじめて、ここが自分の部屋ではないことを思いだした。
　バスタオルを腰に巻いた柴田が部屋に入ってくる。コップをふたつ手にしている。
「オレンジジュースでよかったかい？」
「うん、ありがと」
　ベッドの端に腰かけて、コップを受け取る。彼女が身につけているのは、太腿までを覆う男物のワイシャツだった。ボタンをとめても乳房の半分が露呈する。前屈みになれば乳首まで見える。
「さっきケータイ鳴ってたよ」
「ん？　そうか」
　サイドテーブルの携帯を取りあげ、柴田はソファに座りこんだ。
　その様子を丸い目で眺めながら、侑加はコップに口をつけた。ノンアルコールのオレンジジュースのはずなのに、不思議と彼女の知らない美酒の味がした。見慣れたはずの室内の風景も、カーテンの隙間から覗く街並も、高い空までひどく新鮮なものに見える。何もかもが新しい世界だった。
「ああ、里美ちゃんか」
　そう言って柴田は携帯を耳に当てた。丸く大きな尻を持つ女性編集者の顔が侑加の頭に浮かんだ。
「あれ、どうしたんだろう。出ないや」
　コップを机の上に置き、彼は携帯を右手に持ちかえた。
　すぐに伝言サービスのアナウンス音声が流れはじめた。視界の隅に白い何かが見えたのは、そのときだった。
　見ると、侑加が足元に跪いていた。いつの間にかワイシャツを脱ぎ捨てている。
　驚きながらも彼が膝を開くと、パンティ一枚の娘は、自分から腿のあいだに裸身を割りこませてきた。白い指でバスタオルを外し、男茎を握る。
　柴田は苦笑した。
「ついさっきまで処女だったくせに」
「うん、さっきまではね」
　侑加は上目づかいに男を見あげた。前髪をおろしているせいか、普段よりも幼く見える。
「でも、今は違うわ。もう子供じゃないんだもん。わたし、もう女だもん。だからね、お兄ちゃん。もう何をしても平気だよ。どんなエッチなことだってできるの。こんなことだって……」
　すぐさま彼女は立ちあがり、パンティの腰紐に両手をかけた。彼のすぐ眼前で、レモンゴールド色の下着が腿を滑り、足首から外れる。
　乳房や股間を隠そうともせず、すぐに色白の娘は裸身を沈ませた。勃起を咥えるのかと思ったが、そうではなかった。なんと、彼の乳首に舌を押しつけてきたのだ。
「ああ、侑加……！」
　少女の予想外の積極性に、柴田の身体が揺れた。携帯が右手からこぼれて、ソファの上に落ちる。彼は、その手を鼻先で揺れる黒髪に埋めた。
　小さな舌は胸板や首筋にも這いあがってきた。仔猫に舐められている感じだった。自然と少女の顔が接近し、男の膝にまたがる形になる。視線が言葉となって、互いの両腕を相手の頭に巻きつけた。
「侑加にはＳＭの素質があるのかもしれないな」
　十センチほどの距離で見つめながらつぶやいた。
「もっと苛めたくなってきたよ」
「うん。お兄ちゃんならいい」
「ひどいことだってするかもしれないぞ？」
「それでもいいの」
　密接した少女の尻が揺れる。淫裂からもれだした愛液が彼の太腿を濡らした。
「お兄ちゃんだから……ううん、ご主人様だからいいの。いいんです」
　柴田は、相対する元姪の顔をじっと見つめた。美形の娘だと改めて思った。きっと男子から人気があるに違いない。その女子高生が、彼の性的奴隷になると宣告している。
「セックスでもＳＭでもかまいません、侑加にいろんなこと教えてください」
「何をしてもいいのかい？」
「全部ご主人様の好きにしていいんです」
「じゃあ、侑加が今やりたいことを言ってごらん」
「え、わたしは……」
　侑加の首がのけぞった。柴田の指が乳房を揉みはじめたのだった。
「ご、ご主人様の、ほしいです……オチン×ンがほしいんです……入れてほしいの」
　恥じらいの顔で大胆なことを言って、全裸の娘は自分から唇を重ねてきた。柴田は、オレンジジュースの味がする舌を口に含み、強く吸った。

　　☆

　暗がりに響いていた携帯の音が途切れた。
　もとはボーリング場だった廃屋の一角である。ビニールシートや壁のあちこちに穴が開いていて、かすかな陽光が射しこんではいるが、あたりは昼間だというのに薄暗い。
　荒廃した地面の上に女が横たわっている。
　黒い影がユラリと動いて、女の足元に落ちた携帯電話を拾いあげた。気合いとともに両手でへし折り、ふたつの鉄塊と化したそれを無造作に投げ捨てる。明らかに男の力技である。
　地面にはオフィスバッグの中身が散乱していた。財布に手帳、化粧品。Ｂ４サイズの茶封筒からは白い書類がはみだしている。漫画の原稿である。それを革靴の足で踏みつけたまま、男はコンクリートの床に膝をつき、うつ伏せに倒れた女の下半身に手を伸ばした。
　スカートのスリットを力まかせに引き裂き、腰の上へと捲りあげる。
　女は指一本も動かさない。白いブラウスも泥土や埃で汚れているから、まるで変死体の様相だった。ココアカラーのパンティもすぐに太腿までおろされ、生白い尻が、卑猥な幻影のように暗がりのなかに浮かびあがる。見事な尻だった。
「フフフッ、やっと見つけた……」
　丸い臀丘をうっとりと撫でまわしたあと、男は、無精髭の顔をそこに押しつけた。
　意味不明のひとりごとをブツブツとつぶやきながら、何度も頬擦りを繰りかえし、伸ばした舌で尻じゅうを舐めまわす。突然に高笑いの声を飛ばしたりもする。単なる性犯罪者とは別の異常さがあった。
　赤い舌は肛門にも伸びてきた。
　女の口からウーン、と呻きがこぼれる。だが、それ以上の身じろぎはしなかった。倒れたさいに打ったのか、それとも乱闘の傷跡なのか、こめかみに薄く血が滲んでいる。
「ああッ、これだよ、この尻だ……いったいどこにいってたんだい？　捜したんだよ。ずっときみのことを捜してたんだ……この尻がほしかったんだ」
　歪みきった口調でそんなことを言うと、男は左右の臀丘を両手でこじ開け、谷奥の肛門に吸いついた。
「あんな刺青女、僕の妻じゃあない。この尻だ、この尻こそ本物だ……」
　繁華街の中心部のはずなのに、壁の外からは物音ひとつ聞こえない。
　枯れ草に似た匂いがあたりにひろがりはじめる。男がズボンの下で精液を漏出したのだ。挿入どころかペニスを取りだすことも握ることもせず、彼は、白臀を涎の妖光に染めあげ、肛門に舌をねじこみ、ただひたすらに女の尻に専心した。
「もう離さないよ……真穂は僕のものだ、この尻は僕だけのものだッ……」
　肩を揺らして高笑いをした拍子に、壁穴から射しこんだ陽光が男の顔を照らした。それは、小泉侑加のよく知っている元隣人の顔だった。