第１話 新婚時代

　結婚して二年。妻の敦子は、Ｎ美大の卒業生です。
　油絵が専門だそうで、テーマは人物。それも一貫してヌードでした。
　文学部を出た、ごく普通のサラリーマンの私では、妻の考えることが少々、分からないときがあります。一応、専門は心理学だったのですが、芸術家の心理などというものは、しょせん一般人とは、別世界なのかも知れません。
　折からの不況で、妻が勤めていた会社は退職金も払えずにつぶれてしまいました。
　私と、まだつきあってもいない在学中、前島写真館でバイトしていた妻は、田舎に帰るのがイヤで、また前島写真館でバイトをしながら、次の就職先を探していたそうなのです。
　あ、前島写真館というのは、私が「たっちゃん」と呼んでいる幼なじみの前島達也、彼の実家でもあります。
　たっちゃんのお父さんに、私は小さいときから可愛がられていたのですが「見合いというほどでもないが」と紹介してもらったのがなれそめでした。
　写真見ただけでも、キレイな人だなと思いましたが、実際に逢ってみて、驚きました。
　さらりとしたストレートの黒髪が、たおやかな肩までかかっています。首筋がほっそりしていて、小振りの顔。
　顔立ちは、理知的で、特徴的なのが、きりりとして力強く、ぱっちりした瞳を持っています。かといって、けっして高慢な感じはみじんもありません。むしろ、穏やかで、朗らかに良く笑う様子は、素直に育てられた田舎のお嬢様そのもの、と言ったところです。
　いくら、芸術を勉強していても、本人のファッションそのものは、それほど都会的に洗練されないのも、逆におかしな感じがしたものです。
　ただ、ナチュラルメークに近いとはいえ、顔立ちそのものが整っているため、見るものをハッとさせるだけの華やいだ雰囲気を持っているのは確かです。
　そんな妻を目の前にして、さすがに写真館でバイトをする子はキレイだなあと見当違いの感心をしたものです。
　まあ、容貌は写真の通りで、さすがに写真館のおじさんが撮った写真だと思いましたが、写真にはないものがありました。
　それは、細い身体の割には、全体のラインから放出される、女性の魅力に輝いていることです。
　フェロモンというものを初めて実感しました。
　香水とも違う、オトコをグッとさせる「香り」。
　思春期の女の子、それも、まだ処女のオンナだけが出せる「匂い」というものもありますが、それよりは、もっと成熟しつつあるオトナの「何か」なのです。
　結婚後に知ったことですが妻は香水をつけない主義なのです。ですから、私を引きつけた、その「何か」は、まさに、フェロモンとしか言いようがありません。
　その上、いざ、喋ってみると、芸術家にありがちな、現実離れしたところもありません。いえ、茶目っ気こそたっぷりと持っているものの、むしろ、私以上に合理主義、能率主義者だったのです。
　私に否があるわけもなく、間もなく、結婚することになりました。
　まあ、大学までも出ている年齢ですから、当たり前のこととはいえ、バージンじゃなかったことは少々心残りではありましたが、もちろん口に出すことはできません。結婚相手の過去に嫉妬しても仕方のないことですから。ただ、妻に言わせると、つきあったことのある男性は一人だけだそうです。
　セックスの時に、ひどく恥ずかしがり屋だとわかって、確かに、男性経験があまりないのかなと思わせるものがありました。これだけの女性が、この年まで、男性経験が一人だけというのは、逆に驚くべきことなのかもしれません。
　驚いたと言えば、妻の実家です。結婚して二年も経とうというのに、いまだに実家の妻の部屋はそのままでした。田舎のこととはいえ、広い家だからできることでしょう。
　大学時代の絵が全部取ってあります。結婚前に住んでいた妻の小さなアパートにも置ききれない分をそうしていたように、結婚を機に、すべて実家に送ったそうです。
　広々とした部屋だけに、かなり大量の作品がきちんと保管されています。
　私の実家は、駅前にある小さな書店ですから、とてもこんなマネはできません。もちろん新居の小さな賃貸アパートは、新婚の二人にふさわしい慎ましいものですから、妻が作品を持ってくることなどできませんでした。
　実を言えば、妻の作品など見せてもらったことなどなかったのです。
　今年のお盆にも、妻の実家へと二人で帰省しました。
　妻の両親は、とても人当たりもよく、やさしい人達です。一人娘をさらってしまうことになった私のことも気に入ってくれ、そのくせ、あれこれと世話を焼くより、私たちの自由にさせてくれます。
　だから、多少の挨拶回りのあとは、のんびりと過ごしました。
　妻の実家で過ごす三日目の晩、両親は結婚式に呼ばれたとか。田舎の結婚式は、夜通し飲むのがしきたりだそうです。
　ですから、夫婦水入らずで妻の実家、という、なにやらヘンな感じの晩でした。
　夜も更け、手持ちぶさたです。
「ね、一度くらい見せてよ」　
　ムリヤリねだって、妻の作品を見せてもらうことにしました。
　まあ、どうせ、絵のことなど分かるわけはないのですが、別に何かする予定というのもありませんから。
「あんまり気が進まないなあ」
　渋々、といった風情で、妻は部屋に入れてくれました。
「すっごいね。上手だね」
　絵などわかりもしないくせに、口先だけで褒めちぎりながら、私は目を丸くしていたのです。
　油絵に、水彩、鉛筆でデッサンしただけのもの。　
　何十枚もの絵は、すべてヌードと言っても過言ではありませんでした。驚くことに、妻自身のヌードもありました。
　芸術などに疎い私には、絵のなんたるかなんてちっとも分かりません。ただ、全てが写実的な絵だけに、ヌードの魅力は十分伝わってきます。
「君のヌードまであるなんて」
「ああ、モデル代って高いのよ。だから、みんなで交代なの」
「え？みんなで交代って、だって男の学生もいたんでしょ？」
「当然よ。何なの？　…あ、分かったぁ。エッチ！」
「なんだよ。何にも言ってないよ」
「あなたが思ってるような見方をする人なんていないわ」
　まだ、新妻の初々しさの残る表情で、柳眉を逆立てて見せます。ただ、本気で怒っているわけでもなさそうです。
「そもそも人間の身体って、この世で、もっとも美しいのよ。神様が作ったって、ホント思えるもの」
　妻が、私に聞かせるでもなく。何かを確かめるように、語りました。
　どうなんでしょうか。
　芸術に疎い私には、どうなのかわかりませんが、同じゼミの十数人もが、それも、男の子も混じって、妻の身体を見たことがあることだけは事実です。
　本当に、「芸術のため」なら、同級生のヌードを見ても興奮しないものなのでしょうか。
　芸術家とは、同級生にヌードを見せても平気なものなのでしょうか。セックスの時に、身体を見ようとすると極端に恥じらうクセに、モデルをするのは平気なんて。
　これが芸術家というヤツなんでしょうか。
　私には、妻のそんなところはわかりません。
　あれ？
　気がついてみると、絵のモデルは、圧倒的に女性だったのです。
「男の子は？」
「そうね、先生が常日頃おっしゃってらしたのが、女性美の追究ってことだから、指名されるのは圧倒的に女子だったかな」
　それって、差別じゃ…
　すでに老人の域に入りかけていたという教授も、やはり、男の裸より、女の裸を見たかったのでしょうか。私は、その教授のスケベ心を疑ったのですが、さすがにそれを口にするのははばかられました。
「あら、男の子も少しはあったわよ。それに、女の子も、ほぼ順番だったし」
「ほぼ…　ねぇ」
「ちょっとだけ、お気に入りもいたけどね」
　気になることを、イタズラな眼で見上げながら、チラッと妻はほのめかします。
　「ナチュラルメーク」といいながら、普段は化粧のけの字もありません。
　だから、今は、あの見合いの時のような、華やかな美しさはありませんが、豊かな表情はそれなりに魅力的です。特に、こんなイタズラな表情の眼は、ぞくっとする色気を持っていたりします。
「どうやって、自分を描くわけ？」
「友達に写真を撮っておいてもらうの。それを後で自分で描くの」
「だって、これじゃあ、無修正じゃん。写真屋さんだって、こんなの困るだろ。デジカメにしたって、まだ質が良くないしね」
　大半のポーズにヘアが描かれていました。こんなものを現像してくれるとは思えませんでした。
「だから、前島さんの所でバイトさせてもらったの。いわば、趣味と実益ってとこよね。あら、一挙両得ってやつかしら。ふふ」
　あっけらかんと妻が笑います。
「その写真はないの？」
　一瞬妻の顔が曇った気がしました。なにか、いけないことを聞いてしまったのでしょうか。妻の口調がやや硬くなります。
「そういうのって、素材に過ぎないから、書き終わったら捨ててしまったわ」
　残念。
　ショボンとなってしまった私を見て妻がクスリと笑います。
「ダメよ、あったとしても、そんなエッチな眼で見る人には見せられないもの」
　夫婦なのに。
「恥ずかしいもの。そ〜んなエッチな眼で見られるのはイヤ」
　そんな、エッチ、エッチって。
　なんだか落ち込みそうです。
　あれ？　
　私はふと思いつきました。
「ちょっと待ってよ、じゃあ、たっちゃんの所で現像したんでしょ」
「ええ、教わりながらだけど」
「教わりながらって、じゃ、おじさんは、その写真見たんだ」
「前島さんは、芸術家よ、真剣に教えてくれたもの」
　ガーン。おじさん、そりゃないよ。
　結婚式に来てくれたおじさんが、華やかなウエディングドレスの下の、新妻の身体を全て知っていたなんて。
　妻とキャンドルサービスをしたときに、ちょうど、おじさんの横から火をつけたのを覚えています。
　大きくカットされた胸元が、鎖骨から胸の膨らみの裾野まで覗く大胆なデザインのドレス。ちょっと刺激的すぎるかなと二人で笑いながらきめたあのドレス。
　その時だって、婚約して、既に、妻の躯を知っていたとはいえ、恥ずかしがる妻の主張を受け入れて、毎度、闇の中のベッドインでは、しっかり見つめることなどできません。
　だから、すぐ横の妻のドレス姿に、必要以上にドキドキしていました。
　それなのに、ニコニコして、キャンドルに火を付ける妻を至近距離で見つめていたあの目は、ドレスの下の妻の胸を透視していたも同然だったなんて。
　妻の乳首も、アソコも、おじさんは知っていた！
　実は、妻は、今でも、絶対に明るいところで裸を見せようとしません。嫌がるのでめったにないけれど、一緒にフロに入るのも電気を消さないとダメ。
　その上、セックスをするときも、昼からするなんてもってのほか。夜、部屋を真っ暗にしないとダメ。
　いまだ、明るいところでじっくりと妻のヌードを見たことがないのです。
　そ、それなのに…
　そこで、ふと、もっと恐ろしいことに気づきました。確か、留学前のたっちゃんは、妻がバイトしていた頃、確かに父親の写真館で手伝いのようなことをしていたはずでした。
『あの、ひょっとして』
　私は恐る恐る、妻に聞きます。
「まさかさ、たっちゃんも、あの、そのぉ」
　私が言いにくそうに尋ねると、妻はたちどころにぴしゃりと言います。
「写真をお願いしたのは、お父様の方だけよ」
　なんだか、当たり前じゃないのと言いたげで、怒気さえ浮かんでいます。ここでケンカをするのは得策ではありません。新婚生活で学んだのは「芸術に関することに妻はシビア」です。しかも、この硬い表情は、怒り出す一歩手前と言ったところ。そんなに怒らなくても良さそうなものですが。
　妻の怒気の矛先をかえるためには、話題を変えるにしかずです。でも、何で、こんなことで起こられなければならないでしょう。いくぶん理不尽な気がします。
　ハァと気づかれないように小さなため息をつきながら、ふと見ると、そこには、少し感じの違うキャンバスが見えました。
　何気なく、サッと目に付いたそれを取り出します。
　妻を描いた絵です。ただ、なんとなく、他とは雰囲気が違う気がしました。
「この絵、なんか違わない？」
「ああ、それ？すごい、わかるんだ。あのね、それは、わたしが描いたんじゃないの」　
　なぜだか、せかすように、私の手から取り上げてしまいます。
「これ、私が描いたんじゃないもの、見なくてもいいでしょ。たまたま、気に入って、その人からもらったものなんだもの」
　しかし、私はしっかり見てしまいました。
　妻のポーズは、やや前屈み。片足を広げる形で台に乗せ、台に乗せた片膝に両手を当てた、挑発的なものです。
　妻の表情が何とも言えず、色香が漂っている気がしました。あるいは、興奮しているようにも見えます。
　もちろん、妻は、そんなことはないと否定するでしょう。
　あっさりと妻に取り上げられてしまいましたが、その絵には、他の絵にはない不思議な色気が感じられた気がしました。
　その絵は、正面から描かれていましたが、硬そうな乳房も、そして、ヘアも、はっきりと描かれています。
　教室で描くときは、いつも、モデルをぐるりと取り囲んでいたそうです。
　当然、後ろからのポーズを描いた人間もいるはずなのです。
　前屈みで足を広げたこのポーズ。
　後ろからのぞき込めば、秘所はすっかり見えていたはずです。いえ、この足の開き方なら、秘唇がうっすら開いてしまっていてもおかしくありません。
　そんなことを瞬時に思い浮かべてしまった私は、ズボンの中で硬くなったものを、妻に悟られぬように、そっと向きを変えます。
　だって、絵を見て勃起した、なんて、まさに「エッチな目」です。こんなことがバレれば、妻は怒るに決まっていますから。
　そう言えば、妻のヘアは元々薄い方ですが、どの絵でも、私の知っている妻のヘアの形よりずいぶん細くなっています。
　なんで？
「そりゃ、人様に見せるんだもの。女の子同士で少しは研究したわよ」
　人の身体は美しい、芸術のため、などと言っても、やはり、大勢に見られることは、それなりに、ドキドキしたのではないでしょうか。
「普通よ」
　と言いつつも、さりげなく聞き出せば、エステに行ったりもしたようです。
　だからでしょう。
　絵の中の彼女は、それなりに手入れをしたのだろうなと思わせる部分がわかります。
　こうやってヘアの手入れをすれば、ヘアの奥にある秘唇も後ろから、もろに見えていたはずです。
　私は、妻が大勢の人間に囲まれながら、こんなポーズを取っているところを想像していました。
　なぜだか、胸が押しつぶされるような息苦しさを感じます。それでいて、大きくなった怒張がさらにムクムクと大きくなってしまい、苦しいほどです。
「ね」
　明かりが煌々と点いたままの、かつての妻の部屋の中で、その本人を抱き寄せて、キスをします。
　絶対嫌がるだろうと思いきや、妻は素直に抱き寄せられ、私の腕の中でしんなりとした様子です。口には出しませんが、いつものことを考えると、驚き以外にありません。
　そのまま妻の胸に手を伸ばします。
「ああん。もう、エッチなんだからあ、だめぇ、実家では。帰ってから。ね、あなた」
　そう言いながらも、妻は、私の腕をふりほどくでもなく、そっと押さえるだけです。
「いいじゃないの。誰も今日は帰ってこないんだろ」
「そうだけど。なんか、あん、もう、だめだって」
　誰が聞いているわけでもないのに、自然に、声を潜めるように囁きます。
　その間にも、私の手は着々と妻のブラウスのボタンを外していきます。
　一方で、妻にキスを繰り返し、片手は、豊かなヒップを繰り返し撫で上げていきました。最近分かったのですが、ヒップへの、こういう愛撫に妻はひどく弱いのです。
　案の定、ダメと良いながらも、膝ががくがくしている様子がはっきりとわかります。
　なんだか、いつになく妻の反応が敏感でした。やはり、普段とシチュエーションが違うせいでしょうか。やはり、自分が育った部屋というのは、何か特別なのでしょうか。
　それとも、芸術作品とはいえ、明るいところで自分のヌードをじっくりと見られたのです。恥ずかしがり屋の妻に、それが影響してるのでしょうか。
　いつもなら、私が挿入したあとでないと嫌がる、舌を絡めるキスも、積極的に応えてきます。
　私が調子に乗って、妻のスカートのホックを外し、ストンと落としたときでした。
　ファサッという布地の落ちる音が妻をハッと我に返らせてしまったようです。
「お願い、あなた、ここではいや、あっちで、ね、せめて、あっちでお布団をちゃんと敷きましょ」
　ブラウスを脱がされることに抵抗しながら、妻がだだっ子に言い聞かせるように、それでいて必死の眼差しで懇願します。
「ね、お願い。恥ずかしいから、ここではいやなの。お願い、ね、あっちで。お布団の中でしましょ」
　だ〜め、たまには君の身体を見せてよ。ボクは旦那さんだよ。
　妻の「ダメ」が、いつもよりも弱々しく、ここは、多少押しを強くしても妻は怒り出さない気がしたのです。結婚以来、いえ、付き合いだしてから初めて、妻の拒否を押し切って、私の趣味を通すことに踏み切っていました。
「ダメなの、お願い。ね、お願いよ。あなた」
　いつになく、必死にすがるような口調の妻の懇願を無視して、のブラのホックまでは外しましたが、妻はと言えば、必死の様子でブラを抱えるように押さえています。
「じゃあ、あっちで、電気つけてしようか」
　そのまま抱きしめると、ほのかな甘い匂いが鼻腔を刺激します。妻のいつもの匂いでした。
「それは嫌なの。お願い、恥ずかしくて」
　押さえる腕の中で、白い乳房がフルフルと揺れています。
「じゃあ、ここでしちゃおうかなあ」
　耳を柔らかく甘噛みすると、あん、とうなじを反らすように反応します。
「それだけは。お願いします、許して」
　妻のこんな弱々しい表情は初めてです。それだけで、私の怒張はカチンカチンに硬くなってしまうのです。
　しかし、結局、妻の懇願に負けてしまいました。我ながらヘタレだと思います。
「じゃ行こうか」
　ホッとしたのか、ブラジャーを押さえる力が、すっと抜けます。
　パッとそのタイミングで、ブラを引きはがして、パンティー一つにした妻を抱っこしてしまいました。
　まだ二十八歳になったばかりの妻の腹には、たるみ一つありません。
　恥ずかしさの余りでしょう。妻の細い指がしっかりと私の腕に食い込んで離しません。顔を首に埋めたままの妻を、私はひょいと抱えて、客間に運びます。
　恥ずかしさのあまりでしょうか、妻は私の首に顔を埋め、ガチガチになっています。
　胸を隠すことを忘れて、いや恥ずかしくて、私にすがりつくことで隠したつもりだったのでしょう。妻の白い胸の先が尖り、プルプルと小刻みに揺れます。
　敷き布団だけ、押し入れから引き落とすように出すと、部屋の片隅で体育座りのように膝を抱える妻を、布団に横たえたのです。
「ね、灯り、消してください。恥ずかしくて」
　恥ずかしさのためでしょう。顔を横に向けたまま、胸を両手でかき抱くように押さえながら、懸命に訴えます
　高校生の穿くようなワンポイントの入った白い下着姿の下半身は、恥ずかしさのためでしょう、足をしきりにくねらせています。
「さっき約束したろ」
「だって、明るいと、恥ずかしいもの、あ、いや」
　そんなやりとりをしながら、私は妻の白いパンティーをサッと取り去ってしまいました。
　胸を隠しただけの妻は、なぜかそれ以上抵抗をしません。ひょっとしたら、妻なりに、あきらめが付いたのでしょうか。
　煌々と灯りをつけたままの布団の上には、妻の白い裸体が横たわっています。身につけるものをすべて奪われると、恥ずかしげに、両腕で懸命に身体を隠そうとします。
　結婚２年目にして、妻の生まれたままの姿をじっくりと見つめる機会が訪れたのです。その姿を見ただけで、私のモノはいきり立ってしまいます。恥ずかしながら、女体に初めて接する高校生のように、興奮状態になってしまったのです。
「だめえ、見ちゃ、いやあ」
　腕を身体に巻き付けるようにしながら、布団の上で懸命に身を縮めていました。妻の抗議の声も、甘えるような、ひどく男の嗜虐心をくすぐるような、そんな魅力を含んでいます。もはや、頭の中がショートしていました。
　結婚２年目にもなる男が、妻に対して、こんなに興奮するなどあり得ることなのかはわかりませんが、目の前のヌードは、世の中の常識も、世間の常も、全部吹き飛ばして、私を一匹のオトコにしていました。
　むしり取るように、自分の服を脱ぎ去ります。
　消え入りたげに、細い顔を横に向け目をしっかりと結んでいました。全力で着ているものを脱ぎ捨てながら、その間も、しっかりと、妻の恥じらいのポーズを見ていたのです。
　トランクスが、怒張に引っかかって、脱ぎにくいほどでした。
　脱ぎ去ったトランクスを肩越しに投げ捨てると、裸で横たわる、妻の細い身体に跪きました。
　ここからは、勢いではいけません。自分をひたすらなだめながら、そっと、胸を押さえている細く白い、二の腕にキスをします。身体を隠している腕には、思った以上に力が込められて、強ばっていました。
「あん」
ほんのちょっとしたキスでしたが、思ったより感じているようです。
　つつーっと、舌先で肩のあたりまで、ゆっくりと舐めあげていきます。
「ああ！あん、あん、あん」
　妻の甲高い嬌声が漏れてきます。
　あれほど、ガチガチだった腕から自然に力が抜けてきました。
　肩まで上がった舌を、そのまま、つっと移動して、妻の柔らかい唇をスルスルっと上の唇からそっと舐めていきます。
「あぁ」
　私の舌に舐められながら、妻の唇がそっと広げられます。まるで私の舌を誘うように。
　もちろん、そのまま、唇を吸い、舌をそっと差し込むと、今まで知らなかった力強さで、舌を絡めてきます。
「む、む、むぐ、む」
　貪るようにキスをしていると、私の背中に、妻の細い手が回されてきました。細い指先がすがるように、あてられます。
　そっと、唇をはがして、顔ごと妻の胸に移動すれば、もう、妻は隠すこともしません。
　蛍光灯の下で初めてじっくりと見る、Ｃカップの妻の乳首は、ピンクと言っていいような薄い色でした。
　その乳首の回りを、レロレロと舌を使うと、それだけで、ため息ともつかない甘い声が、妻の唇から漏れてくるのです。
　乳首に舌を使いながら、そっと、手を当て、やわらかな膨らみを揉みしだきます。
　Ｃカップの胸は、やわらかな弾力を掌に返しならすっぽりと包み込めます。
　先端のクリッとした硬さが、はっきりと分かるのです。
　今日の妻は、今までで、最高に感じやすくなっていました。
　胸を揉むのも早々に、手が、妻の秘部に伸びます。今の妻は、ヘアの手入れなどすることもありませんので、ついさっきまでパンティーに押さえられていたやや濃い茂みが、黒々として、肌にペッタリとくっついています。
　指先で秘所を探ると、いつもとは大違いでした。
　わ、すごい。
「いやあ、言わないでぇ」
　妻が甘えたような啼き声を出します。
　私が思わず口に出してしまうほど、妻の秘所はトロトロと秘蜜が溢れかえっていたのです。もちろん、ぬかるみを指でたどると、妻の反応も隠しきれないほど強くなります。
「あん、あぁ、あうぅ」
　入り口をヌルリとかき回すだけで、妻の可愛らしい唇から、愛らしい悲鳴が漏れてきます。その声を聞くだけで、こわばった怒張が、もう、たまりません。
　私の怒張は痛いほどにこわばっていたのです。
　体勢を一気に入れ替えると、妻の両足をカエルのように広げ、のしかかります。
「え？あ、もう、ああん、あっ、あっ、あっ、あんん、だっめぇ」
　秘唇はもう濡れそぼっていて、手を添えなくても自然に滑って、ごく自然に入り口に到達します。
　私は、トロリと濡れた妻の秘所に一気に差し込んでいきました。
　中は熱くなっていました。
　よく濡れた、やわらかな美肉が、私の根本をやわやわと締め付けます。
　私の怒張は、人並みだと思うのですが、カリ首の部分が人様より少々段差があるようで、今まで付き合った女の子は、みんながほめてくれたものです。
　その張り出した部分を妻の熱くなった美肉にこすりつけるように動くと、妻は、今までになく、あえぎ声が出てきます。
　妻の軟らかい美肉が、キュウッと締まってきます。私は、左手一本で上半身を支えながら、右手で妻の乳首を交互に捻りあげます。
　腰を動かしたまま、少しだけ力を入れて、コリコリした乳首をつまむと、噴きこぼれるような妻のか細い声が漏れてきます。
「あ、ああ、あなた、あぁ、もう、恥ずかしい、だめ、あぁ」
　顔を振り立て、目を閉じたまま、妻の声は、だんだんと大きくなっていきます。
　一方で、妻の締め付けがキュンキュンと幾たびもケイレンするように強く締め付けては、緩み、締め付けては緩み、という動きを見せます。　
　どうやら、妻は、何度も小さなオーガズムに達しているようです。
　そして、幾度めかのケイレンだったのでしょうか。突然、妻の腰が、私を乗せたまま大きく左右に動いたのです。
　まるで商売女のような動きに驚きつつも、左右に腰を動かす度に、私のカリは妻の肉ヒダにこすれ、腰をとろかすような快感を送ってきます。
　どうやら、妻の無意識の仕草のようです。こうやって動くことで、クリトリスが私との間でこすれるのでしょう。
　うねるような妻の腰の動きは、二人に決定的な快感を送り込んだのです。
「あ、あなた、きちゃう、どうしよう、だめなの、あう、あ、ああ、あ！だめえ！」　私は妻の一番深いところに届きました。先端が途中までの美肉とは違った、コリっとした子宮口に当たります。
「あ、あ、あ、いく、いくぅ！」
　私を乗せたまま、大きく妻がブリッヂを作り、大きく息を吸い込みながら、しばし、妻の呼吸が止まりました。硬直したまま、そのくせ、肉ヒダだけが痙攣したようにヒクヒクと私をとらえています。
　私も、こらえていた欲望を妻の奥深くめがけて、思いっきり放出しました。妻も、そのしぶきを浴びて、さらに深く達したようでした。　
　美肉にぎゅうっととらえられたままの、心地よい放出です。
　この瞬間、時間が止まったように妻と私は結びついていました。
　ふぅ〜
　再び息を吐き出しながら、妻の身体からゆっくりと力が抜けていきました。　
　はあはあ、と荒い呼吸で、目をしっかりと閉じたままです。
　可愛かったよ。
「恥ずかしい」
　消え入りたげな仕草で、横を向いたまま、顔を隠すのです。
　私は、荒い呼吸のまま、両腕で上体をそらして、妻の乳首の上空で、妻の身体を見下ろします。
　上を向いていても、形はそれほど崩れず、キレイなお椀型をしています。その先端の乳首もツンと硬くなって、いかにもオトコの唇を誘っているように見えます。
「ああん、もう。エッチなんだから」
「でも感じたでしょ」
　イヤイヤをするように、私の背中に手を伸ばし、招き寄せようと誘ってきます。こんな明るいところでじっくり見られるのが恥ずかしいのでしょう。
　そんな仕草がかわいらしく、また、初めて灯りの下でじっくり見る妻の裸に、私の怒張に早くも力が蘇ってきたのです。
「あなた、今日、危ないんだけど」
　良いじゃないか、そろそろウチに赤ちゃんが来てもさ。
　妻の唇が私を誘い、ごく自然に深いキスをします。珍しく妻から舌を絡めてきます。
　舌を絡みつかせているうちに、私の怒張はギンギンと自己主張を始めていました。
　キスしたまま、おもむろに、怒張の先で妻の入り口を探し当て、するりと入れてしまいます。
「む、むぐぅ、むっ」
　びっくりしたように妻がキスしたまま目を開けました。
　顔を離すと、一度奥まで入れてから、ゆっくりと途中まで抜き出して、また、一気に埋め込みます。
「あぁ！」
　思わず声を出してしまったのを恥じらうように妻は、自分の手で口を覆います。
　ゆっくりと、再び動き始めました。
「あぁ、またぁ、なんで。もう、いっぱい、あ、あ」
　妻が切れ切れの声で抗議しますが、逝ったばかりの敏感な身体です。抗議もものかは、あっという間に、快感の波に溺れ始めます、
　声だけはガマンしようとしているようですが、大きいままの私が動けば、そういつまでも我慢できるものでもありません。
「あ、あん、もう、やめて、ああ」
　やめちゃって良いのかな？
　私は腰を動かしながら妻の耳に囁きます。
「エッチぃ、イジワルなんだからあ」　
　それに、子どもができるんだったら、今のうちにたくさんしておかないとね。子どもがお腹の中でビックリするといけないから。
　そんな馬鹿なことを言いながら二度目に突入していったのです。
　まだ、結婚したばかりと言うこともあったせいでしょうか。
　その日は、三度にわたって妻を求めてしまいました。妻もいつになく興奮していたような気がしました。

　三度目が終わったときには深夜になっていたのです。
　さすがに私も疲れて知らないうちに寝むりこんでしまったようです。妻は、いつの間に起きていたのでしょうか。いつものパジャマを着て、隣で安らかな寝息を立ていました。
　部屋の明かりが消えています。
　暗い部屋を照らす月明かりに、妻の幸せそうな寝顔が見えます。何度と達したオーガズムに、妻も疲れたのでしょう。深く眠っているようです。
　ふと思い立って、こっそりと妻の部屋に忍び込みました。
　さっき、妻が隠すように置いた絵。
　妻の挑発的なポーズ。周りとは違う雰囲気のキャンバス。
　見れば見るほど、不思議な絵でした。
　そもそも、誰が書いたのでしょうか。Ｔとだけイニシャルが入っていました。
　妻の描いた絵に比べれば、素人目には相当ヘタなのではないかと思います。
　それでも、モデルをしてる妻の表情からは、懸命に無表情を装いながら、興奮を押し隠すのに失敗してるような、そんないやらしさが伝わってくる気がします。
　こんな表情を妻は大勢の前でしていたのでしょうか。
　まさか。
　そう、まさか、妻は、この絵を描いた男の前でだけ、その男のためにだけ、ポーズを取ったのでは、そんな疑問を持つことを止めることはできませんでした。
　だとすると。
　このＴが。
　この絵を描いたＴこそが、妻のバージンにありついて、そして、オンナの絶頂を教え込んだ人間ではなかったのか。
　暗い嫉妬が奔流のように湧き上がってくる自分をもてあましていました。
　さすがに、三度にわたる放出で、私の怒張はピクリともしませんでしたが、じっくり見るほどに、似ていると思います。
　そう。さっき結婚以来、初めて応じた灯りの下でのセックス。
　私のモノが入る、ほんの直前に見せた、恥じらいと興奮の表情。
　あの時の表情に似ている。そんな気がしたのです。