第３話 　罪と罰　

「お先に失礼します」
「気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
　礼儀正しくお辞儀をしながら、玲未ちゃんが、駅へと消えていきます。
　確か隣の駅のそばに住んでいるはずです。
　遅くなってもかまいませんという言葉に甘えて、９時過ぎまでお願いしてしまいました。まだまだ、甘えんぼの翔太は、寝かしつけるまでいろいろと手間がかかるのです。
　私が寝かしつけるまで玲未ちゃんは、いつものようにニコニコしながら店に立ってくれたのです。
　全く、そのつもりもなかったのに、どうどうと？胸にタッチしてしまっているせいで、玲未ちゃんの顔を見るのはドキドキでした。
　それなのに、玲未ちゃんも、さっきのことを意識しているのかいないのか。気のせいか、いつもよりも、目が合わない気がします。たまに目が合うと、顔を赤くして目をそらす気がするのも、私の思いこみかもしれません。かといって、あからさまに私を避けるというわけでもなく、むしろ、客の来ない合間に、普段にもまして饒舌なほど話しかけてきました。
　ひょっとして、偶然だということを分かってくれて、気にしないことにしたのかもしれません。いつもより話しかけてくるのは、玲未ちゃんなりに、私に気を遣わせまいとした結果かもしれないのです。
　きっと、そうです。
　なんといっても、育ちの良さから来る、人の善意を信じるタイプのようですから。
　だとすれば、ヘンに謝りすぎるより、そっとしておいた方が良いのでしょう。玲未ちゃんの気配りを無にしてはいけません。
　玲未ちゃんは気にしてない。そう思うと、現金なもので、手の中に残った、若さの詰まった、手に余るほどの大きさの胸の硬質な柔らかさを思い出さずにはいられません。あのまま握りしめてしまえば、な〜んて、そんなできもしないことを思い浮かべずにはいられません。
　同時に、あのニットの中に詰まった、まだ見たこともない玲未ちゃんのブラを思い浮かべてしまいます。頭に浮かべた玲未ちゃんの下着姿から、ゆっくりと、胸を覆う布地を剥がしてしまいます。手が触れてしまった感触から、想像する玲未ちゃんの巨乳は、何とも、いやらしい姿で頭の中に浮かんでいます。
『あの胸に触っちゃったんだモンね』
　偶然のこととはいえ、やはり、男としてニヤつかずにいられません。妻も、決して小さくはないと思いますが、あれだけの胸には、触れたこともありませんでした。
『それにしても、ちょっと遅くないかな』
　玲未ちゃんの胸にすっかり心を奪われていましたが、妻がまだ帰らないのが急に気になりました。さすがに遅すぎます。
　すぐ近所なのですから、店じまいをしてから、そろそろ、様子を見に行こうかと思い始めた頃でした。
「ただいま」
　裏口で小さな声がします。
　妻でした。心なしか、声が疲れているようです。
　お帰りと声をかけようとしたとき、ちょうど電車から降りたばかりの客達が、最後の波のように来たところでした。
　この時間帯の降客は駅前書店の大事な収入源です。
　ですから、妻の様子を気にかけつつも、十時のシャッターを下ろすまで、ついそのままにしてしまったのです。
　小さな店は、住居と一体化しています。探すともなくうかがうと、風呂に入っているようでした。別にたいした意味もなく、お帰りと声を掛けようと狭い脱衣場をのぞき込んだときでした。
『へぇ〜』
　驚きました。いえ、妻が風呂に入っていることではありません。
　見かけない下着を見つけてしまったからです。
　我が家の脱衣所には、当たり前のように洗濯物を入れるカゴがあります。
　ちょっとしたイタズラ心を起こして、妻の下着を見ようとしたのが、そもそもの間違いだったのかもしれません。
　しっかり者の妻らしく、ベージュのブラウスの下に隠すようにして、それはありました。
　普段は着心地と値段、そればかりを優先させる妻です。
「だって、人様に見せることなんてないでしょ」
　確かにそうなですが…
　妻の下着に色気を感じることなどなくなって久しく、最近は妻の下着をしげしげと見ることなどありません。見たことのない下着が一枚くらいあるのは当たり前なのかもしれません。
　しかし、その下着には、凝った刺繍とレースがふんだんに使われた、いかにも高価そうなブラとパンティのセットだったのです。妻らしくなく、色気というものが漂っていました。
　こんなものを持っていたなんて。
『あれ？』
　ふと思いつき、探しました。
『ない』
　ストッキングが見あたりません。
　そんなはずは。
　会社員生活をしていたとき、スーツ姿のＯＬが、ストッキングを履かずに生足だったことなんてあったでしょうか。
　そもそも、そんなことを気にかけたこともないのですが、遠い過去のことのように、今の私にはぽっかりと空白地帯ができて、何も思い出せませんでした。
　驚きは、それだけではありません。いえ、驚きの核心は妻のパンティーにあったのです。
『こ、これは、何だ？』
　跡などと言う生やさしいものではなく、パンティーのその部分は、やや白っぽい粘液がべったりと付いているのです。
『まさか、濡れた跡？』
　一瞬、まさか、と思いました。そして、次に、もっと悪い想像が浮かんだのです。
　くんくんと匂いを嗅いでみて、ホッとしました。
　あの独特の、栗の花のような匂いはせず、妻のいつもの匂いだけでした。ただ、最近では感じたことのないほど、熟れたオンナの匂いが強く漂っていました。
　ホッとすると同時に、ではなぜ？　とも思いました。
　そしてその時、私は不意に勃起してしまっていることに気づきました。
　妻が他所で濡らしてきた跡を見て、勃起してしまったのです。
　目の前にある妻の下着と自分の勃起。困惑するばかりだったのです。
　妻がもうすぐ出てきます。いえ、たとえ、出てこなかったとしても、すくなくともシャワーが止まれば私の気配を察するはずです。
　妻が浮気する。
　その可能性を考えたことなど一度だってなかったのです。そもそも、妻が自分からセックスをしたがることなんて、あろうはずがありません。
　おまけに、今日はたっちゃんの所に行くと言っていたのです。ウソなら、すぐにばれるようなことを言うはずがありません。
　それに、相手がたっちゃんなら、まさか、という思いもあります。
　第一、春佳さんもいるはずの場所です。全く、考えられません。
　立ちつくしながらも、フロ場の様子をうかがっていました。
　浮気を疑って妻の下着を点検しているなどという行為は、妻に知られれば軽蔑されるような気がします。
　ベッタリと妻の白い粘液が付いた下着。
　それは、そのまま浮気を意味するようには、どうしても取れません。
　しかし、なぜという疑問は消せないのです。
　妻に問いただすのか、否か。
　逡巡した時間は、わずかでしたが、その深刻な疑惑に、私の怒張は再び、しおしおと力を失っています。
　シャワーが止まり、妻が上がる気配を見せたのです。
　私はとっさに、のんびりした声で、中の妻によびかけます。
「お疲れさん。どうだった？俺も一緒に入ろうかな」
　妻の返答を待たずに、私も脱ぎ始めました。
　本屋というのは、意外にホコリまみれになる仕事です。一日の終わりには、紙の出す埃が髪の毛の中まで入り込んでいます。その、ホコリまみれの裸で戸を開けると、待っていたかのように妻が出てくるところとでした。
「あ、あなた。ごめん、先、入っちゃった」
　そう言って、すれ違いながら、ごく自然に前を隠すのです。
　なぜだか分かりませんが、その隠し方に、久しぶりに微妙な興奮を覚えてしまったのです。なんだか、見慣れたはずの妻の身体に、オンナを感じたのです。
　なあ、今日どう？
「え、いったい、何よ」
　妻は私の興奮に気づいたのか気づかなかったのか。素っ気なくそう言うと、身体に素早くタオルを巻き付け、出て行ってしまいました。裸で追いかけるのもヘンです。
　しかし、妻がタオルを巻きつける一瞬に、しっかりと、見てしまいました。
　妻は、いつの間にか、アンダーヘアの形をきれいに整えていたのです。
　いつもの通りのやり方だとすると、翔太をプールに連れて行くときなどに水着のラインからはみ出ている毛を一本ずつ抜いているはずです。しかし、私の知っている限り、あれほど細く、小さな茂みにしたことなどありません。
　ビキニラインというのでしょうか。どんな小さなビキニを着たとしても、今の妻ならはみ出すことはないのではないか、そう思えるほどです。あの細い形にするのには相当時間がかかったはずでした。
　ついこの間、セックスをした時には、子育て中の主婦らしく、自然そのままの形だったような気がします。すると、妻は、短い間に、今日のためにわざわざ整えたのでしょうか。
　手伝いに行くくらいで、なぜ、そんな必要があるのでしょうか。
　妻に問いただしてみても「オンナはそういうものなの」と言い張られてしまえば、追及のすべはありません。
　結局、腹の中のもやもやが消せないまま、寝室に行くと、妻はぐっすりと寝ていました。
　そして、この日のことは、その後も、触れる勇気が出ないままだったのです。

「こんにちは」
　さわやかな声が店に響きます。
　翌日の午後、バイトでもないのに、玲未ちゃんがやってきました。
　彼女が店先に現れるだけで、パッと明るくなる気がします。そして、フローラルのほのかな甘くさわやか香りが漂います。
　香水はつけないようですから、きっとシャンプーと彼女自身の匂いに違いありません。
　昨日はどうも。
「ありがとう」と「ごめんね」という意味を込めたのですが、玲未ちゃんは、いいえと答えただけでした。
　実は、玲未ちゃんに働いてもらうようになって、特別待遇をつけたのです。
　本の扱い方を知っている子でした。そして読書家です。だから、彼女が暇なときにうちの在庫、どれでも読みに来て、というものでした。
　もちろん、良い本は自分で買わないと気の済まない子でしたが、読書家の玲未ちゃんは、本当にあらゆる本を読むのです。中には、一度読めばそれで良いという本や雑誌もありましたから、この待遇は、ことのほか喜んでもらえたのです。
　ネットで本がいくらでも買える時代にも、本に囲まれることがうれしいと感じるのが、玲未ちゃんでした。
　ですから、今日も、大学の帰りに寄ったのでしょう。
「いつもありがとうございます」
「それはこっちのセリフ。いっつもムリを聞いてもらってさ」
「いえ、そんな」
「ま、ゆっくりしてってよ。今、ウチのが、ちょうど翔太を連れて買い物に行ったんだ。二時間くらいは静かだと思うよ」
「そうなんですか。翔ちゃん、あいたかったけどな。じゃ、すみません、少し読ませてください」
「うん、じゃ、奥で」
　翔太は玲未ちゃんが大好きですから、仕事中じゃなければ離れません。
　たまたま、隣の大きな駅のデパートまで買い物に出かけているので、玲未ちゃんは、いつもよりじっくりとできるでしょう。
　私はふと、返品の雑誌の段ボールを、奥に置いたままにしていたのを思い出しました。
　ちょうど良い、玲未ちゃん、段ボールの中の本、好きなの持って行って良いよ。
　本当はいけないことなのですが、私なりに、経理を勉強していますから、その程度なら、経費で簡単に処理できます。
「わぁ、ありがとうございます、社長さん」
「雑誌くらいしか入ってないけどね」
　狭い通路を私とすれ違います。
『あぁ、なんて良い子なんだ』
　感動してしまいました。
　一瞬、玲未ちゃんは、私に背中を向く方向に肩が動いたのです。確かに、それを見ました。何しろ、昨日、同じシュチエーションで、胸を触られる結果になってしまったばかりです。女の子の本能として、胸をかばって背中を向けてすれ違うのが当然です。それなのに、次の瞬間、一度動いた肩をわざわざ逆方向にターンさせて、胸を私の方に向ける形ですれ違ってくれたのです。
　あまにも、意外な動きだったので、私には、玲未ちゃんが、胸を突き出したようにすら見えました。なにしろ、玲未ちゃんとすれ違いざまに、衝突を避けるべく、両手を上げていたとしたら、その胸の通過した位置は、確実に、胸に接触したはずの距離でしたから、その瞬間は、手を上げていない自分を悔やんだくらいです。
　そんな、さもしい私と違い、玲未ちゃんは気を遣ってくれたのでしょう。おそらく、背中を向けると、昨日の件で、あのことを気にさせてしまうと。
　本能の動きに逆らって、無理矢理に、こっちを向いてくれたのかと思うと感動するしかなったのです。
　もちろん、手を出すつもりもないけれど、そんな優しくて、かわいらしい女の子と、誰もいない一軒の店の中で二人っきりでいるって思うのは、なんだかワクワクしてしまうのは、いけないことかもしれませんが、するなというのが無理というものでした。
　玲未ちゃんが通り抜けた通路には、ほのかに甘く、さわやかな香りが残っていました。
　しばらく、残り香を楽しみながら、うきうきして客を待っているしばしの間、昨日の妻の疑惑を忘れることができました。
『あ！』
　忘れていました。
　こんな小さな書店でも、いえ、小さな書店だからこそ、やはり、アダルト向けの本は、需要がそれなりにあります。
　今日は、売れ残ったその手の雑誌も、段ボールに入れていたのです。
　しかも、間が悪いことに、ＳＭものが中心のはずです。
　玲未ちゃんも、真面目で童顔とはいえ、成人した女子大生ですから、問題はないといえばないのですが、やはり、ああいうものを見ると気分も悪いでしょう。
　かといって、大騒ぎして段ボールから抜き出してみせるのも、なんだかオトナ扱いをしてないみたいです。
　この間も、高校生と間違えられて補導されそうになったと怒っていたくらいです。もし、ヘンに気を遣えば、玲未ちゃんのプライドを傷つけかねません。
　かといって、あんなの見せるのもなあ。
　結局、そっと様子を見にいくことにしました。
『さりげなく、話しかけながら段ボールから抜き出して、どかしてしまえばいい』
　近寄っていく自分の姿が、マジックミラーに映ります。
　もし、向こうから見ていたらヘンですから、ここは堂々と歩きます。
　扉を開けるときだけ、そーっと、静かに。もちろん、こそこそしていてはいけません。
　開けたとたんに不振げな玲未ちゃんと目を合わせるなんてことはごめんです。
　十センチほど開けて覗くと、玲未ちゃんは、むこうを向いた事務机に座っていました。
　ほっ。良かった、気づいてない。
　さりげなく近寄って、とマジックミラーの扉をさらに広げた時でした。
　玲未ちゃんが持っている本が目に飛び込んできたのです。
『え？』
　そうなのです。私が、どけようと思っていた、そのＳＭ雑誌だったのです。
　ドキリとしたまま、身体が動かなくなってしまいました。
　よく見ると、左手で本を持ったまま、右手は、今日も着てきてくれた、薄手のサマーニットの上から、あの豊かな膨らみをまさぐっているのです。
　私は唖然としたまま、見つめてしまいました。
　もちろん、のぞき見などする気はなかったのです。しかし、玲未ちゃんの秘めやかな行為を目撃してしまい、動くに動けませんでした。
　よく見ると、開いたページでは、ＯＬ風の女性が、服の上から縛られています。
　ただし、ブラウスは広げられ、ブラジャーはペロリと降ろされ、むき出しの乳房の上と下をロープが走って、絞り出すようになっています。
　腕を後ろでくくられた女性は必然的に、グッと胸を突き出したポーズになります。まるで、ロープにはさまれるように乳房が突き出た状態です。
　突き出した胸は無骨な手によって変形するほどに揉まれているところです。
　イスに浅く腰掛けたまま、片手で胸をまさぐりながら、玲未ちゃんはグッと、のけぞって、まさに、雑誌の中のモデルよろしく、胸を突き出すポーズを取ります。
　のけぞった頭は、ほとんど水平に近くなり、丸っこいメガネだけが顔から浮き上がって見えます。
　メガネの奥で、ギュッと、目を閉じているのがわかります。
　どうやら、写真の女性と自分の姿を重ねているのでしょう。
「あぁ」
　どうやら思わず声が出てしまったようです。
　あわてたようにのけぞったまま目を開け、左右を見回します。
「！」
　人間というのは、あまりにも思いがけないことがあると、動けなくなる場合があるようです。
　のけぞって、逆さのまま開いた玲未ちゃんの目は、私に釘付けになったまま、ピタリと止まってしまったのです。
　目がまん丸というのは、こういうことを言うのだと思います。逆さまになったままの眼鏡の奥で、玲未ちゃんの真面目そうな瞳が、大きく見開かれたまま、口がＯの字に開いて硬直していました。
　つかの間、時が止まります。
　私はとっさに、覚悟を決めました。
　玲未ちゃんのように真面目な子が、こんな恥ずかしい場面を、しかも、こんなおじさんに見られたら、この後どうなってしまうか分かりません。
　自暴自棄になられても困りますが、そうでなくても、もうバイトには来てくれなくなるでしょう。
『ひょっとして』
　それに、私には、思い当たることがありました。
　小さい頃から良い子として期待され、本人もそうでいようとするあまり、自分の内面にある、ごく小さな誤りをそのままにしておけないという若者の話。
　そういう若者が、このままではいけないと「弱い自分を罰してくれる存在」というものを求めてしまう。
　カルトにはまっていく若者がその典型です。
　こうなっては覚悟を決めるしかありません。玲未ちゃんにやめられると困るというより、がっかりなのです。
『やるしかない』
　驚愕して、逆さまになったままの見開いた目を見つめながら、私は近づきます。
「玲未ちゃん、まじめな女子大生なのに、こんな趣味なんだ」
「違うんです、これは、違うの、私、あの」
　私の言葉に反応してようやく呪縛が解けたんでしょう。身体をとっさに起こすと、イスの上で膝を抱えるようにして丸くなります。
　机の上には、そのままになったページが開かれていました。
　そっと、イスの後ろに立って、玲未ちゃんの肩を両手で押さえます。
　髪の毛から、甘い匂いが立ち上っていました。ひどく、甘く、そのくせさわやかな色気を思わせて、私の中の、凶暴なオトコが目覚めていました。
「こういうの、好き？」
　耳元まで口を持って行って、囁きます。
　あぁ、言ってしまいました。しかし、一度踏み出してしまった以上、途中で止まることは許されません。もはや進むしかないのです。
「違うの」
　顔を左右に激しく振ります。
「だめだなあ、まじめな子だと思ったのに。こんなにいやらしいなんて」
　一息おいて、厳かに言い渡します。
「お仕置きしないとね」
　同時に、私の手は、見事な巨乳に伸びていました。ロケットの先端のような見事な右の乳房をギュウっと握りしめます。まだ硬さが残る、見事なボリュームの胸でした。
「あうぅ」
　瞬間、やわらかなため息を漏らします。
　手をはじき返すような、張り。それでいて見事に柔軟性に富んだやわらかな肉の塊が、力を入れてもみほぐす度に変形します。
　セクハラです。犯罪です。こんなことをして良いわけないのです。
　玲未ちゃんが悲鳴を上げれば、私の人生も終わりです。
　しかし、玲未ちゃんの可愛い唇から漏れたのは、悲鳴ではありませんでした。
「あぁ、社長さん。あ、ごめん、なさい。あうぅ」
　あえぎにも似た声です。いえ、乳房を握りしめた瞬間に漏れた声は、女性の淫声に他ならないはずです。
　こんな声を聞いたオトコが、握りしめたオッパイを離せるはずもありません。
「あぁ、あう」
　そのまま、絞り上げるようにしながら人差し指で先端をクリクリと動かすと、また、男をくすぐるようなやわらかな声が、ちいさな唇から漏れるのです。
　ブラジャー越しとはいえ、やわらかな乳房とは、はっきり違いが分かるほど、乳首が硬くなっていました。
　そのまま、今度は、上から握りつぶすようにしながら、耳まで真っ赤にした玲未ちゃんにそっと囁きます。
「お仕置きだよ。そのかわり、これを見ていたこと、誰にも言わないからね」
　一瞬、目をぱちりと開けてから、私と目を合わせ、それから深く閉じられました。
　そのまま、頭を私に預けます。
「まず、いけない子が逃げられないようにしてあげる」
　ヒクンと肩が動きます。
　断腸の思いで、やわらかな乳房から手を離し、本をくくる紙ヒモをたぐり寄せます。
　その瞬間も、玲未ちゃんは、目を閉じたまま、頭を私に任せていました。
「手を後ろ」
　ちょっと乱暴な口調にします。
　玲未ちゃんが、おずおずと両手を後ろに差し出し、イスの背もたれに回します。
　血が止まらないように、かといって緩くならないように、ぐるぐると両手を巻き、背もたれにくくりつけます。
　これで、ヒモを解かない限り立てません。私の意のままにされても抵抗できない姿になったのです。
　両腕がくくられている間、抗議の声もあげないまま、じっとしている玲未ちゃんの顔を見ていると、こうされることを望んでいるような気がしました。
　もちろん、私の勝手な思いこみかもしれませんが、メガネの奥の幼い顔が、あきらめの表情のまま、どこか、ホッとしているかのような、まるで、何かに陶酔している表情だったのです。
　私は、玲未ちゃんに断りもせず、やわらかな生地のクリーム色のニットをペロリとめくり上げます。
　ざっくりした編み目の間からわずかに見えたので、白かと思っていたら、ベージュがかったブラジャーでした。
　胸が大きい女の子特有の、カップが全体を覆うようなしっかりした作りの上に、レースの飾りが付いた、意外に凝った作りです。　
「ヒッ」
　さすがに、服をめくられるなどとは考えなかったのでしょう。反射的に服を降ろそうとしたのか、後ろで手を動かそうとします。
　もちろん、動くわけもなく、ビクッとなった後、全身に力を込めて硬くなっています。
「見られたことは？」
　反応がありません。
「オッパイを他のオトコに見られたことは？あるの？」
　ヒクッと肩をふるわせて、かぶりをふります。
「ホントか？ここ、本当に誰かに見せたことは、ないのか？」
　ブラジャーの上から、右の胸をギュッと掴みながら耳元で囁きます。
「お医者、さま、なら、あぁ」
「恋人は？」　
「あうぅ、いません。男の人とおつきあいしたこと、ないんです」
　恥ずかしさのあまりでしょうか。
　それほど暑くもないはずなのに、ハアハアとあえぐまま、後ろにそらした白い額に、うっすらと汗が見えます。
　頭の良さそうな、クルンとしたおでこに浮かんだその汗を、考えもせず、舌を伸ばして、ペロリと舐めとってしまいます。
「はう！」
　薄い塩味と、玲未ちゃんの甘い匂いが口に広がります。玲未ちゃんは突然の感触に驚いたのでしょうか、それにしても、甘い声でした。
　パッと目を見開きます。
　私が舐めたことに気づいたようですが、動揺してはいても、嫌悪の表情は見せません。むしろ、うっとりとしたように、潤んだ目で見上げます。
　私は、その潤んだ目につられるように、両手で胸を絞り上げるように揉みます。
　おそらく、こうやって胸を他人に乱暴に扱われるのは初めてのはずです。しかし、かなり力を込めているにもかかわらず、痛いといいません。
　調子に乗って、ブラジャーの窮屈なカップの中に手を忍び込ませました。
　恐るべきことに、どうみてもＤいや、Ｅのカップサイズのブラジャーに、収まりきれないほどの肉が、詰め込まれていたのです。
　かなり窮屈でした。
　無理矢理、カップとの間に入れた私の手の中で、肉が押さえ込まれ、入りきらない肉が、プニュプニュと上のすき間にはみ出してきます。
　眉を中央に寄せ、瞳はしっかりと固く閉じられた表情は、痛みに耐えているかのようでした。そのくせ、わずかに唇が開いたままの表情は、普段の玲未ちゃんにはない、色気がにじみ出ています。
　ひょっとして、と思います。
　玲未ちゃんは地方から上京するまで親の言うことを聞くよい子で来たはずです。いえ、今も、育ちの良い、おっとりした良心的な人間です。
　しかし、そんな、良心的な人間ほど自罰的になりやすいと言うことを聞いたことがあります。ひょっとして、こうやって誰かに罰せられることを望んでいたのかもしれません。
　だからこそ、ＯＬ風の女性が縛られている写真を見ていたのでしょう。その姿を、自分に重ね合わせていたに違いないのです。
「同じ様に縛るぞ」
　低めの声で、そう囁くと、確かに、玲未ちゃんの肩がヒクンと動きました。
　そのまま見下ろすと、玲未ちゃんの可愛い唇が微かに動きます。
「し、ばっ、て」
　確かに、そう動いたのです。
　私は託宣のように、ゆっくりと低い声を出してます。
「このまま、縛るか？それとも写真みたいに。ちゃんと罰を受けるか？」
　ハッと玲未ちゃんが目を開けます。すがるような目です。
「ちゃんと罰を受けるな」
　微かに、コクッと頭が動いた気がしました。
　私は、なんだか、にわかＳＭごっこをしているような気がして、調子に乗ってしまいます。　　
「このブラジャーをとって降ろしてしまうんだぞ。おまえのでかい胸をさらすんだ。いいんだな」
　いささか芝居がかっていると思いましたが、その方が、玲未ちゃんには、よかったのでしょう。
　掌の中で押しつぶした乳房の真ん中が、キュンとさらに硬くなります。
　乳首が反応しているのです。
「はい」
　わずかに聞こえるような返事をすると、ああ、とため息のような声を上げて、再びメガネの奥の玲未ちゃんの潤んだ目が閉じられます。
　そのままブラジャーを降ろそうとしたのですが、大きなバストが邪魔です。
　手を滑り込ませるのさえ、窮屈なのです。下側には、おそらくワイヤーが入っているのでしょう。ビクともしません。
　上から降ろそうにも、大きな胸を支えるためか、肩紐をなんとかしないと降ろせそうもありません。
　たくし上げたニットが邪魔なのです。
　いくら引っ張っても降ろせない。かといって、後ろに縛った両手と背もたれが邪魔でホックも外せません。
　ふと目の前の、作業用の大きなハサミが目にとまります。鉄でできた、黒く、重たいハサミです。
「動くと危ないぞ」
　耳元でそう言った時には、黒い鉄の刃を胸の谷間にあてていました。
「ヒッ」
　いきなりの冷たい感触におどろいたのでしょう。
　しかし、懸命に目をつぶっています。
　刃を丁寧にブラジャーの真ん中にこじり入れます。
　玲未ちゃんの白い肌に、黒いハサミが食い込んでいくのです。
　そのまま、胸の真ん中でザックリとブラジャーを切り開きました。
　布地とワイヤーが切り裂かれる鈍い音がして、次の瞬間、目の前に豊かな玲未ちゃんの乳房が、ブルンと震えるように出現したのです。
　白い胸がそびえ立っています。
　大きな乳房の先頭は、やや大きめの乳輪がピンク色にくっついています。
　乳首は、まだ乳輪に埋もれ勝ちですが、くっきりと硬く浮き上がって、興奮を示しています。
　カップの中が肉が窮屈だったわけがわかりました。
　ブラジャーは、胸を大きく見せるためにあると思うのは大間違いです。玲未ちゃんの場合は、全く逆に、できる限り小さく押さえ込もうとしていたのでした。
　これだけ大きいのに、まだ、蕾の堅さをもっているせいか、ブラを外しても、乳房の形がほとんど崩れません。ツンと突き出た乳首を頂点として、ロケットバストの形そのままです。
　ちょこん、と貼り付けたような乳首の存在感は、男をそそります。
　こぼれんばかりの乳房を両手でやわやわと揉み上げながら、人差し指で乳首をコリコリと強めに転がします。
「あぁ、ああん、あふうぅ」
　童顔の可愛らしい唇から、ひっきりなしに可愛い声を噴きこぼしながら、メガネの奥の目はしっかりと閉じられています。
「さあ、これを縛るからね」
　私が耳元で囁くと、今度は、意外にはっきりした声で「はい」と聞こえました。