| 第８話 店先の悪夢 幼稚園バスからいつまでも手を振る翔太の姿が、トラックの影になって見えなくなってから、私はゆっくりと家に戻ります。 「ただいまあ！」 「… いえ」 妻の声です。 「ええ、はい、昼は、いつも…ええ、ですけど…」 電話でしょうか？裏口を開けた瞬間、妻の声が店の方で微かに聞こえました。 「ただいまぁ」 「…それは…はい、なんとかいたしますので、あの、これで、はい。失礼いたします」 なにやら、急いで切った気もします。 店先を覗くと、レジの電話をそっと置いて振り向いた妻と目が合いました。 「どうしたの？」 「え？いえ、なんでもないの、あの、ほら、お客様が、ご注文の本を、もうちょっと早く取れないか、ですって」 「う〜ん、どうかなあ、えっと、どちらさん？」 「え？ええ、私が、今日電話しておくから大丈夫よ、あなた、お店開ける時間でしょ。急がないと」 「おっと、もう、こんな時間か、翔太のヤツが、ずっと手を振ってるからなあ、帰りそびれちゃって」 「私も、奥を片付けたら行くから」 「ありがと」 開店時間を過ぎてしまった私は、妻と入れ替わりながら、先ほどの電話のことなど、すっかり頭から抜け落ちたまま、大急ぎで準備に取りかかったのです。 妻に、色気が出ていました。 一晩に二回も出す。 そんな、久しぶりの夫婦の激しい営みが妻の何かに影響を与えたのでしょうか。それとも、私の知らない「何か」が妻を変身させたのでしょうか。私の目にも、妻の物腰の、そこかしこに色気が漂っているように見えました。 時折、狭い店をすれ違う時も、ついつい、妻の尻を、痴漢よろしく撫でまわしてしまいます。 「いやん」 漫画のセリフのように、いやんとふざけてみせながら、そのくせ、密かに本気で感じている証拠に、艶のある声が出ていました。 その上、めったにないことですが、今日の妻はワンピース姿に着替えて店先に出てきています。それも、ミニとまで言えるかどうかわかりませんが、、膝上の長さです。 意外に、しゃがむ動作が多いから書店の仕事にスカートは向かない、と言うのは他ならぬ妻自身のセリフです。玲未ちゃんがバイトに来ることになったときも、真っ先に、パンツスタイルを勧めていたのも妻でした。 秋物特有の、落ち着いた色遣いですが、胸元が大胆に開いています。少しかがめば、胸が簡単にのぞけてしまうでしょう。 思わず、オイオイと言ってしまいました。 「大丈夫よ。どうせ、エプロンつけるでしょ。お客さんからは見えないし。第一、こんなオバサンの身体なんて誰も見やしないわ」 妻は、素っ気なく言い切ります。 妻自身は気づかなくても、妻が店番をするときと、それに、玲未ちゃんが店番してるときもですが、そんな時は確実に男性客が多くなるのです。 それなのに、私のドキドキをよそに、普段と同じように身軽に働く妻。 スカートがわずかにめくれる度に、ヒヤリとし、客にお辞儀する度に、エプロンでは押さえきれない胸元が大きく広がってしまうのを、胸がズキンとしながら見ている私がいます。 『おい！見えてるぞ』 何度、声が出そうになったことか。 お辞儀をする妻の胸元に視線を落とす客は、大学生とおぼしき若者から、既に頭が、真っ白になった老人まで、数え切れないほどでした。 男だったら、当然、目がいってしまうはずの、妻の白い胸元は、今日一日で、どれだけの目にさらされてしまったのでしょう。 水着にでもなれば、見えてしまう範囲だと言えば、確かにそうでしょう。しかし、当たり前の服装をしながら、見えてしまう胸元には、オトコを惹きつけてしまう何かがあります。チラリと覗く白い胸元に惹かれないオトコなどいません。 一方で、チラリと胸元を見られるという行為は、妻に影響を与えずにはいられないような気がしました。 ほんのちょっぴりだけ、瞬間的に胸元を覗かれる。 それが、妻の何かに影響しているのでしょう。なぜか、いつもより、妻の愛想がよく、その表情にはわずかに、色気を含んでいた気さえします。 ほんのわずかに混じった、その色気にやられたせいでしょうか。中には、さっき雑誌を買っていったハズなのに、再び現れて、今度は、文庫本を買っていった学生風のオトコもいました。 その若者の目は、妻がレジを打っている瞬間も、片時も視線が胸から離れません。妻は、そんな視線に気づきもしないで、いつものように、いえ、いつもより深々と感じられるお辞儀をしていました。 そんな妻を片目で見ながら、なぜか、何も言えない私がいました。ひょっとして、妻のささやかな露出を、私自身も楽しんでいたのかもしれません。 世間の昼休みの時間が終われば、小さな私の店にも、束の間の空白がやってきます。 いつしか、その時間は、妻に店を代わってもらって、外の用事を片付けるようになっていました。 書店以外に、小さな駐車場の方も管理しなければならないのです。 と言っても、猫の額ほどの駐車場の管理など、何ほどのこともありません。要は、一時間ほどの昼休みを取るだけのことでした。 今日も、妻が用意してくれた昼を食べ、どうしようかなと考えているときでした。いつもなら、このまま、小一時間散歩に行くのです。 「このまま出かけるからね」 妻には、そう言い残して奥に引っ込んでいます。 しかし、今日は、いつになく色っぽい妻への感情が、外に行く気持ちを薄れさせています。いつのまにか、どっかりと、マジックミラーのこちら側で、座り込んでしまいました。 実は、小さな私の店にも、万引き防止用のカメラが付いています。 もちろん、これで発見するというつもりでもなく、カメラをつけることで少しでも万引きが減ればというだけのものです。 こういう仕組みの常として、一応、奥の部屋にはモニターが付いています。もっとも、普段は、スイッチを切っているので、あるのかないのか、思い出せないほどですが。 妻も店にいることですし、いつもなら、モニターとしてではなく、切り替えて、唯一の用途「テレビ」として使うところですが、妙に色っぽい、今日の妻の様子を見ている方がずっと楽しかったのです。 妻は、私が出かけた者だと思いこんで一人、店番をしています。そんな妻の姿を覗き見しているようで、不思議とドキドキしてきます。 『ホント、まるで、中学生のようだな』 我ながら苦笑してしまいます。 『あれ？おいおい、忘れてるぞ』 妻は、昼の支度をしたときに別のエプロンをつけていたせいでしょうか。店に戻る前に仕事用のエプロンをつけるのを忘れていました。 中年の男性客と、レジでやりとりしています。慌てて何度もお辞儀をしていました。 『誰だ？知ってるのか？』 どこかで会ったことがある相手を、妻が忘れていたのかと、思わせる仕草です。 二言、三言、硬い表情になった妻と客が言葉を交わします。 狭い店先のことですから、微かに言葉は聞こえてきます。 「はい、…は出かけて…」 私を訪ねてきたのでしょうか？ 『うん？どうしたの？俺への客か？』 ゆっくりと肯いたところを見ると違うようです。 男は、妻に何かを見せていました。 一枚の紙？いえ、大きさから言えば、写真のようです。 妻が、わずかに口を開け、目を見開きます。 表情が凍り付いていました。 『いったい、何なんだ』 いったい、妻は何を見せられたのか、見当も付かない私は、妻を見守るしかありません。 ここで私が出て行くべきなのでしょうか。 しかし、私が腰を浮かせかけた瞬間、客はレジを離れました。 その直後のことです。 一瞬、妻が下を向いたまま、ためらうような姿勢をしたのです。しばし、何かを思い悩んでいるかのような、静止した時間が過ぎます。 妻は手元を見下ろしたまま、身動きをしません。 ゆっくりと、妻が、目を閉じた後で、一度、大きく顔を振ります。まるで、何かを拒否する仕草ですが、そのくせ、頬が紅潮して、その表情に、妖しい何かが入り込んだようにも見えました。 どうしたのかと思う間もなく、妻が急に動き出します。 にわかに段ボールを取り出して、床に置きました。あの胸元が開いたワンピース姿のままで、さっき届いたばかりの本の納品チェックを始めたのです。 『納品？こんな時にか？』 段ボールから、本を出しては、納品書と照らし合わせて、レジの脇に置く。 そんな地味な作業を始めたのです。こんなことを始めると言うことは、さっきの客はそのまま帰ったのでしょう。 狭いレジ脇に座っては、立つ。中を探る。そんな動作の繰り返しは、どうしても、段ボールの角に合わせて、直角に膝を開いた姿勢で座ることになるのは当然です。 『お〜い、見えてるぞぉ』 いつものパンツ・スタイルのつもりで動いているのでしょうか。妻は、安定を取るために、しかたないと言えばそれまでですが、膝を開いて座りこんでいました。 見慣れた姿ですが、それを膝上のスカート姿ですれば、それは思いも寄らないほど大胆な姿となります。 こちらからは見えませんが、もし、この瞬間、さっきの客が、そのまま店の反対側にいれば、妻のスカート中は丸見えになっているはずです。 もちろん、妻がこんな作業をするのは、客が出て行ったからでしょうが、あまりにも、大胆で、無防備な姿です。 『ちょっと、言った方が良いかな』 思わず腰が浮いてしまいました。 その瞬間、チラリと向こうを、そう、妻が、自分の真ん前をチラリと見上げた気がしたのです。 私はドキリとして、慌てて、モニターから離れて、マジックミラー越しに妻の視線の先を見定めます。 『いる！』 そうです。まさに、その場所に、さっきの客が立っていたのです。 その客の前にあるのは、女性向きのファッションや育児雑誌のコーナーです。少なくとも、中年男性が読むような雑誌があるとも思えませんでした。 よほど、妻の姿に衝撃を受けたのでしょうか。本を選ぶふりさえせずに、じっと妻の方を見ています。 妻は、チラリと見上げたきり、その男性の方を一切気にするそぶりも見せず、熱心に、作業を続けています。 『おい、見えてるぞ！』 今、まさに、妻のスカートの中が覗かれているのです。 私は、すぐさま、妻に注意しようと動きかけましたが、ふと、あわてふためくのも大人げないと思い直しました。 そうです。 『中学生でもあるまいし、何も、少し見られたくらい、たいしたことではない』 そう自分に言い聞かせ、むしろ、もうちょっとしてから、そっと忍び寄って妻に教え、後で冷やかしてやろうと考えたのです。 きっと、妻は、いつものようにとっくに、私が出かけていると思っているに決まっています。ビックリするに違いありません。 『見られてたぞ』 笑顔で教えてやり、今日も、ベッドで妻を恥ずかしがらせ、昨日のような濃厚なヤツをまた… ニヤニヤとした笑みが我知らずに浮かび、邪な思いを浮かべながら、店との境のマジックミラーを覗いていました。 妻が、当たり前のように同じ格好のままで、熱心に作業をしています。 微かに入るクラシックの有線放送は、こちらの気配を消してくれるはずです。おかげで、全く気づく気配もありません。 熱心に箱の中をかき回しては、しきりに、納品書と比べながら頭を捻っています。ひょっとして、何か欠品でもあるのでしょうか。 『お、おい、ちょっと…』 妻の膝が、こちらに向けてさらに広がります。 広がった妻の膝に、短いスカートの裾は確実にまくれ上がって、こちらからも、はっきりと下着が見えてしまいます。 『あれ？』 目の錯覚かと思いました。しかし、何度目を懲らしてみても、同じでした。 スカートの間から丸見えになっている妻のパンティーが、それと分かるレースの付いた、真っ白なモノだったのです。 朝、夜着から部屋着に着替える妻の下着姿を見るともなく見たときは、いつもの、実用一点張りのベージュのそれだったはずなのです。 しかし、今、目の前で、広げた足の間に見えているのは、マジックミラー越しとは言え、先日風呂場で見た、あの妻にしては豪華な下着以外に考えられません。 唖然として見ていると、妻が、グッと腰を上げて、立ち上がろうとしました。 妻は、あろうことか、頭を下げたまま腰を上げたのです。 ラジオ体操の、上体屈伸を中途半端で止めた状態。それが妻の姿勢でした。 『バカ、それじゃ胸が見えちまう！』 立ち上がるのと、本を段ボールから出すのを同時にしようとしたためでしょうか。立ち上がる姿勢そのものが、グッと肩をすぼめた状態でした。これでは、大きく広がった妻の襟元は、肌から離れて、大きく垂れ下がってしまいます。 つまり、前が大胆に開いた服の胸元から、たっぷりと胸を覗かせてしまう姿勢だったのです。 悪いことに、妻の頭は、くだんの客の方を向いたままです。 本を出すのに手間取ったのでしょうか。しばし、その姿勢のままで段ボールをかき回し続ける間、男性はたっぷりと妻の胸が鑑賞できているはずです。 『もし、あの時のブラジャーを着けているとしたら…』 あの夜、あのパンティーとセットになっていたブラジャーを思い出していました。 豪華な布地を使いつつも、そのままでも、辛うじて妻の先端を隠すかどうかといった、小さめのカップのブラジャーです。 あのブラと、あの服で、あんな風にかがみ込んだ姿勢を上から覗き見ることを赦せば、ほとんど、上半身はヌードと同じように見えるはずです。ひょっとして、あんな姿勢では、ブラのカップが浮き上がって、まさか、まさか、あの柔らかい乳房そのものがそっくり見えてしまうかもしれません。 実際には、ホンの数秒だったかもしれませんが、私には、愛する妻のヌードを盗み取られたように感じる、長い長い時間でした。 さすがに、これ以上、妻が恥をさらすことに耐えきれず、注意しようと思った、その時です。 妻が顔を上げました。 どうやら、その男性から何か言われたのでしょうか。 上体を持ち上げつつ、それでも、まだ前屈みのまま、何か受け答えをしています。 急に客との会話が発生したため、出て行くタイミングを失いました。 『その姿勢だと胸が見えちまってるんだぞ』 気がつかない妻に、心の中でそう叫びながら、そのくせ、目は食い入るようにその姿勢から離せませんでした。 何度か、首を横に振った後、一度だけ、ハイと言ったように見えました。 何か本の在庫がないか尋ねられ、それもありません、それもありません、と首を振った後、それならあります、とでも言うことなんでしょうか？ それにしては、ヘンです。 お客様に対して、あんな物憂げに首を振るような返事をするなんてあり得ません。 なによりも、最後に「ハイ」と返事をしたように見えた瞬間の妻の表情です。 なぜだが、あきらめと憂いを含んだような、それでいて、上気した顔に見えたのです。 ドキリとする色っぽさをもった、こんな表情は見たことがありません。 『敦子、どうした…』 胸の中で、押し殺したうめきが漏れていました。しかし、すくんだように、身体が動きません。チリチリと頭の後ろが焼けるような音がしたまま、動けなくなっていたのです。 突然、妻が動きました。 こちら側、つまり店の一番奥に向かって来たのです。 とっさに身体が動きます。配本待ちの棚の陰に隠れたのですが、店との境はマジックミラーになっているので、毛頭、こちらに気づくはずはありません。 もちろん私に気づくこともなく、そばにあるスツールを動かして、店の一番奥の、それも、一番上の棚の整理を始めたのです。 そこは、店頭から一番見えにくい場所だし、なかなか普通では届かない高さにあるため、一番売れにくい本が並んでいます。 なぜ、お客様の前で、そんなところを整理し始めたのでしょうか。 ひょっとして、この棚のどこかにあるような本を、探すように頼まれたのでしょうか？ 私のそんな自問自答に答えるかのように、お客様も、妻のすぐ後ろにやって来ました。 スツールに乗っている妻の後ろにかがみ込むようにしています。 ホンのあと少しだけかがみ込めば、目の前に豊かに張り出した尻にくっつきそうでした。 クンクンと匂いを嗅いでるような仕草をしています。 あんな間近から見つめれば、薄手のワンピースは、下着をくっきりとスケさせているのが丸見えのはずです。 『いったい、何を』 この場所は、誰かが店に入っても、書棚を回り込まないと見えない位置ですから、客は、いえ、もはや「男」と呼びましょう、男は、安心しているのでしょう。 それにしても、妻は気配に気づいても良さそうです。 なにしろ、自分の尻のすぐそばに、男が顔を寄せているのです。匂いをかいでいるようにも、スカートの下のパンティーのラインを目で追っているようにも見えます。 どちらにしても、人妻が、夫以外に許してはいけない距離に、男を近づかせているのです。だのに、妻は、一切、後ろを向こうとせず、一番上の棚の本を次々と入れ替え続けています。その手つきは、慎重というより、わざとゆっくりとしているように見えました。 二人がいるのは、夫である私の目の前、わずか一メートルも離れていない場所です。私のすぐ目の前で、男の顔は、スカートに顔をくっつけるようにして妻の尻を追いかけていました。 息づかいさえ伝わるはずの距離です。妻が男の行動に気づいていないはずはありません。ひょっとして、妻は気づいていながら、そのままにしているのでしょうか。いえ、そうとしか考えられません。 「奥さん、このままじゃ、安定しませんよね、あっちの踏み台も使いましょう」 突然、そんな勝手な声が聞こえます。思ったより、甲高い声です。男も緊張しているかのようにも取れました。 妻は、身体を硬くしたまま、その声に反応しかねている様子です。 男は、サッサとレジの中に置いてある踏み台を勝手に持ち出します。 一切何も知らないといった風に、妻は男を無視したまま、熱心に本を並べ直し続けています。 「ほら、片足をこちらに」 少し離しておかれた踏み台は、スツールとの高さに差があり、片足を降ろすとまるで、片足だけ高く上げているような格好になります。しかも、こうして離して置かれた二つの台に足を載せると、かなり足を広げてしまうことになるのです。 決して長くもないスカートは自然と持ち上がり、超ミニと言っていいほどにたくし上がっています。すこしかがみ込めば、妻の下着が簡単に覗けてしまうことになるはずです。 両脚で踏ん張るように立ちつくす姿勢は、確かに安定しましたが、脚を大胆に広げたその姿勢は、ウンと、ズレ上がったスカートがまくれ上がって、まさに、かろうじて下着を隠しているだけの状態になっていました。 「ごめんなさい、ちょうどここに見たい本があるんですけど、ちょっと取らせてもらって良いですか」 「あ、はい、どうぞ」 あくまでも、客への言葉遣いですが、その妻の声は震えています。 激しい恐怖なのでしょうか。あるいは激しい興奮？ 少なくとも妻の表情は、恐怖とは見えませんでした。 淡々と、無関心を装いつつも、唇が開き、ともすると目を閉じがちです。 「あう！」 微かに、妻の唇から、声が漏れた気がしました。 こともあろうに、男は、その広げきった妻の両足の間から、目の前の棚の本を取ろうと手を伸ばしています。男の腕が、妻のスカートをさらにたくし上げながら、書棚に伸びています。腕があの高さなら、妻の大切な部分に腕が触れているかもしれません。 男は腕を伸ばしたまま、妻のたくし上げられたスカートのまさに尻の部分に、顔を埋めていきました。 「あっ」 今度は、はっきりと妻の声が漏れたのがわかります。 もはや妻の手は完全に止まり、強い風に耐えるセミのように、しっかりとその手は書棚に掴まっています。 男の顔は、そのまま尻の間に完全に埋まっていました。 見知らぬ男に、今、妻は、尻の谷間に顔を埋めこまれ、その感触を、そして、匂いまでも楽しまれているはずです。それなのに妻は、拒否の言葉もないまま、両手を棚に伸ばして、身体を硬くし、いつの間にか目を閉じていました。 耐える表情でした。 ゆったりと感触を楽しんだ男は、妻の尻から顔を離すと、少し背を伸ばすような動作をしながら、妻の股間越しに、書棚に伸ばした手をゆっくり引き抜いたのです。 下着一枚の股間をこすりながら、男の腕が、ゆっくりと後ろからすり上げるように動いたことになります。 「あっ、あっ、あぅ」 懸命に声をこらえているくせ、こらえきれない声が漏れてしまいます。 男の手は、スカート真下で動きをとめると、妖しげに蠢きました 左手で書棚にすがるようにつかまりながら、右手の指をくわえ、それでも、漏れ出す声をかみ殺しながら、妻は背中をのけぞるようにします。 「奥さん、ほら、今、お客さんが来たらどうする？」 「いやぁ」 絞り出すように、そう言いながら、片手を後ろに伸ばします。とうとう、こらえきれなくなって、男の手を押し戻そうとしたのでしょうか。 しかし、それを待っていたかのようにガシッと妻の手首をつかみ返してから、その手を、左手に持ち替えて、空いた右手を再び妻の股間に伸ばしたのです。 男の手は、太もも近くまでまくれ上がったスカートに、半ば隠されます。 「ほら、こんなになってる。この間も、こんな風に…」 「あ、いやぁ、言わないで、あん！そんな、あう、ああ！」 指を使っているのでしょうか。スカートの裾に手の先は隠されていますが、激しく動いている様子が分かります。 「ぐしょぐしょだよ」 「あ、あ、あ、だめ、やめて、あ、あ、あぁ！」 ぐしょぐしょだと男が言うということは、妻が秘部に、そう、夫の手しか許されないあの部分に、この男の侵入を許したと言うことです。 私は、あまりのことに腰が抜けたように動けなくなっていました。 「ほら、音がしてる」 「あう、やめ、あう、や、あ、あ、あ、だめ、そこ、あう、いっ！」 ものの数分とかかっていなかったはずです。 それなのに、たったこれだけの動作で、妻は立ったまま、あっという間に登りつめてしまったのです。 がくがくと肩をふるわせて、書棚にすがりつくようにしながら。 夫がすぐそばで見ている前で。 知らない男の指先で。 ふらりとする妻を、後ろから男が支えるようにして台から降ろします。 妻への男の扱いは、決して乱暴ではありません。なぜか、大切なぬいぐるみを扱うような、そんな風情が見えました。 しかし、妻は、そんなことに何を言うでもなく、自分の身体にイタズラした男に背中を預けたまま、いつまでもあえいでいます。 妻の表情をうかがう男の口元には、明らかに好色な表情が浮かんでいました。 「良かったのか」 しかし、妻は、くなくなと頭を振るようにして何も答えません。 「やっぱり、もっと、大勢の方が良いのかな」 やはり、頭をくなくなと振るようにするだけです。 その仕草は、否定とも取れますが、聞こえないふりをしたいだけのようにも見えます。 男は何もかも分かっているよと言いたげに、妻の背中をそっとさするようにします。 逝った直後の身体です。まだ、身体の中にピンクのさざ波が残っているのでしょう。さりげない撫で方のように見えますが、ちょっと撫でられただけで、妻の身体がピクン、ピクンっと反応しています。 「また、スタジオ、出るんだろ？」 投げ出すような口調です。また、妻が首を振るのかと思って見つめていると、今度の反応は違いました。 驚くべきことに、今度は、コクリと、明確に、頷いたのです。 「楽しみにしてるよ。今度は入れさせるんだろ」 そう言いながら、右手が前に回され、妻の胸元に差し入れられます。 恐らく、妻の胸をギュッと掴んだのでしょう。 乱暴とも言える動きです。 「あぁ。だめぇ」 ダメと首を振りつつも、差し入れられた手をふりほどこうとはしません。ダメと言いながらも、甘やかな、男に媚びた声のような気がしました。 「明日も来るよ」 「やめて… お願い」 「来ると言っただけだ。今日だって、奥さんが勝手に見せつけたんだろ」 「違う…」 消え入りそうな妻に対して、明らかに、男は嵩に懸かったようです。 時に耳を甘噛みしながら、執拗に淫らになった妻を表現し、いやらしい言葉を浴びせかけます。 普段は、あれほどきっぱりした気性の妻が、なぜかそれを拒めず、それどころか、その度に、吐息と紛うばかりの甘い声を漏らすのです。 「今度は下着、いらないね」 子どものような仕草で、首を横に振ります。 「スカートを自分でめくる」 「あぁ、そんな、できない…」 イヤイヤをしながら、そのくせ身体を後ろに預けるようにもたれかかっています。 そのくせ、繰り返し囁く男の言葉のままに、妻の両手は、スカートに伸びていました。 「ほら、早く」 妻の両手は、スルスルと、スカートを手繰り上げていきました。スカートはだんだんと持ち上げられ、白い太ももが姿を現して、なおかつ、たくし上げる動きは止まりません。 「ほら、もっと、もっと」 呪文のように繰り返す男の言葉のままに、妻の手は動き続けていました。 白い下着が、覗いた頃、男は満足げに、囁きます。 「さっき、じっくり見せてもらったけど、やっぱり何もない方が良いな。今度は、この間のように、じっくり拝ませてもらうよ」 「言わないで、あふぅ」 差し入れられた男の手が再び妻の胸を握ったのでしょう。細い顎がのけぞりました。 「邪魔なモノがなければ、じっくり見られる」 妻が、うめきをこらえるように人差し指をかみしめながら、はげしく頭を振ります。 それでも、男の指が、下着の上から、秘裂をなぞると、今度は、男の肩に頭を預けるようにして、のけ反るのです。 「明日は、これを入れてみるかね」 妻が自分で持ち上げたスカートは、男の手で、後ろ側も完全に捲り上げられていました。 頼りなげな腰には、普段穿くはずもないような細く小さい下着だけが、かろうじてへばりついているだけです。 その下着にこすりつけるように男は腰を動かします。セックスを連想させる淫らな動きでした。おそらく、硬くそそり立った男のモノが妻の尻に当たっているはずです。 「だめ、そんなこと」 ダメと言いながら、妻は腰を引こうとはしません。 むしろ、男が誇らしげに、腰を動かすと、おそらく尻肉にこすられた感触に妻は、また、ため息のような甘い声を漏らします。 私は、そんな風に妻が辱められている姿を惚けたように見ていました。 もちろん「この間のこと」を、男の言葉の端々から知りたいと思ったということもあります。 しかし、それ以上に、自分の、私だけのもののはずである妻が、見知らぬ男と私の知らない秘密を共有していることがショックだったのです。 それも、途方もなく淫靡な匂いがする秘密。 何よりも、今目の前で、妻がポルノまがいのことをされながら、けっして嫌がっていない、いえ、何か妖しげな快感を感じてしまっているように見えたのです。 私の目の前、 一メートルで、妻は、ついさっき、私以外の男に逝かされてしまいました。 今もこうして、辱められながら感じている妻の姿に、私は怒りを感じなければならないはずです。それなのに、憤怒の前に、今までにないほど、硬く、たくましく勃起しているのを自覚していたのです。 自分でも覚えがないほど巨大化したオトコを私はもてあましました。 「あう！」 妻の声がはっきりと響きました。 目の前の妻の下着に、男の手が差し入れられたのです。 脚をわずかに広げたまま、抵抗する気配すら見せません。 男の胸に頭を預けたまま、目を閉じていました。オンナの感覚を全て、男が触れている場所に集中しているようにも見えます。 下着が男の手の形に伸びて、蠢いています。 私の指しか、いえ、かつて、妻の処女を破った男と、私だけが知っているはずの妻の秘唇に、見も知らぬオトコの指が動いていました。 今すぐ、放出したい。 そういう欲望は確かにあります。今扱かれれば、あっという間に、かつてないほどの大爆発を起こしそうな予感があります。 しかし、その放出先は決まっていました。 見知らぬオトコに辱められながら、オンナの媚態を見せている妻でなければなりません。 もし、男が、今この瞬間にいなくなったら、いえ、目の前の男を突き飛ばしてでも、このまま妻にのしかかりたいと思いました。 見知らぬ男に背を任せたまま、その手は、凍り付いたかのように、淫らな手つきで自らのスカートをまくり上げたままです。 おそらく、しどどに濡らしているはずの美肉を弄ばれている妻に、このまま我が身を埋め込みたい。 「あう、あう、だ、だめぇ」 のけ反りながら、甘い声を響かせます。 妻は、あっという間に、また達してしまったのです。 ヒクヒクと太ももが引きつっているのが見えます。 男の手を受け入れて、妻の足が、すっかり外側に広がっていました。 立ったまま、こうやって、わずかな時間に、何度も達することができるなんて思いもしませんでした。 今すぐ、このまま押し倒したい。 辛うじて思いとどまったのは、そこで、男がようやく、そっと妻から離れたからです。 何事かを妻に囁いてから、男は、さっさと店から出て行きました。 残された妻は、その場で崩れるように座り込んでいます。 とっさに、次に妻が立ち上がれば、身繕いをするだろうと思い当たりました。身繕いをするなら、こちらに入ってくるはずでした。 もし妻と今顔を合わせたら、どんな顔をして良いのか。 ここで妻と衝突することを私は望みませんでした。 だから、支えを失った妻がぺたりと床に座り込む姿を後ろに、私は裏からそっと飛び出したのです。 十分にほとぼりを冷ましてから、表に回り込みます。 「ただいまあ。ごめん、遅くなっちゃって」 店先から声をかけると、妻は、まだ、ようやく立ち上がって、身繕いが終わったばかりのようでした。 「なんか、変わった事は？」 そう言いながら、さりげなさを装う妻の横を通り抜け、奥に向かいます。鼻腔には、微かに残る淫猥な匂いが引っかかった気がします。 「あれ、どうかしたの？なんか顔が赤いけど」 「え？そ、そう？そんな事ないと思うけど」 懸命にさりげなさを装う妻のうなじが、白く細く伸びているのが、目にとまります。 こんなにキレイだったっけ。 白い肌が、私の胸に何かを響かせていました。 |
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| 2008.2.9掲載 |
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