１．和樹

　和樹には、八つ違いの兄がいた。
　家が狭いので、部屋は二人一緒だ。
　最近、夜中に兄が、何かごぞごそとやっている事がある。
　不思議に思った和樹が、寝たふりをして兄の様子をうかがってみると、どうも、布団の中になにか本を隠していて、夜中に懐中電灯でそれを見ながら、なにかをしているらしい。
　決まって、１５分ほど激しく布団が動いた後、兄の呻き声が聞こえて、その後は静かになる。
　２、３日に一度、そんな事があった。
　どんな本を見ているのか、どうしても知りたくなった和樹は、兄のいない時に、こっそりその本を調べてみた。
　兄の机の引き出しの一番下に隠されていたその本は、女の裸や、男と女が絡み合っている写真が載ったエロ雑誌だった。
　見てはいけない、兄の嫌な面を盗み見てしまったような気がした和樹は、すぐにその雑誌を元あった場所にしまった。
　だが暫くすると、なぜかまた、その雑誌をみたくなってしまう。
　それから和樹は、兄のいない時に、時々、その本を持ち出して見るようになった。
　そんな時は決まって、胸がドキドキして、なぜかズボンの前が膨らんでしまう。
　和樹には、なぜ裸の女の写真を見ると、股間が膨らむのか解らなかったが、不思議に不快な感じはしなかった。

　和樹の両親は、共に働きに出ている。
　父は工員、母は居酒屋兼、定食屋をやっていた。
　家に帰るのは和樹が一番早く、続いて兄、父の順だった。
　母が家に戻るのは、いつも夜中を過ぎてからだ。
　朝は、他の家族が出かけた後に、起き出してくる。
　和樹には、起きている母を見た記憶が、ほとんど無かった。

　ある日、小学校が短縮授業で、下校が早くなった事があった。
　午前中で授業を終えた和樹は、こずかいをもらうために、そのまま母の店に向かうことにした。
　学校を出る時には晴れていた空が、途中で真っ黒な雲に覆われてしまう。
　和樹が店につく頃には、ぽつぽつと雨が降り出していた。
「こんにちは。」
「あら・・和樹君。いらっしゃい。」
　店では絢子さんが、和樹を出迎えてくれた。
　絢子さんは、２０才。昼だけのアルバイトとして、この店で働いている。
「おかみさんは、今、寝てるわよ。さっき、寝たばかりだから、起こさないでね。」
　母は仮眠中だった。
　就寝時間が遅く、朝が早い母は、昼のランチの時間が過ぎると、夕方の開店時間まで、仮眠を取るのだ。
　仕方がないので、和樹は後片づけをする絢子と一緒に、母が起きてくるのを待つことにした。
「ジュースをあげるから、奥に上がって待ってて。」
　絢子に促された和樹は、靴を脱いで奥の部屋に上がった。
　店の奥には、脱衣所兼、物置の畳敷きの小さな部屋があって、机が置いてあった。
　絢子も靴を脱いで、部屋に上がってくる。
「今日は、学校早く終わったの？」
「うん。」
　絢子は、白のタンクトップにジーパンを穿いて、その上にエプロンをつけていた。
　この日はなぜか、いつもは気にならない彼女の服装が、とても気になってしまう。
　細身の身体とショートカットの髪が、化粧気の少ない顔と相俟って、明るく清楚な印象を絢子に与えていた。
「はい、どうぞ。」
　彼女が机にジュースを置こうと前屈みになった時、一瞬、エプロンの隙間から白い胸の谷間が覗いた。
　それはすぐにエプロンに隠れて見えなくなったが、その後、和樹は、彼女の胸元から目が離せなくなってしまう。
　兄の雑誌に載っていた、裸の写真が、頭の中でぐるぐると渦巻く。
「あれ？・・どうしたの？」
　やがて絢子は、和樹の視線が自分の顔ではなく、もっと下に向けられていることに気がついた。
　彼女は急いで自分の胸元を見下ろして、なにが起きたのか発見した後、再び視線を和樹の顔に戻す。
　その顔には、一瞬、驚いたような表情が浮かんだが、すぐにそれは、控えめな微笑みに変った。
　絢子は、机の上に上体をのり出すようにして、顔を前に突き出し、和樹の顔を下から覗き込む。
「ねえ・・和樹君・・」
　顔をじっと見つめられた和樹は、この緊張に耐えられずに、視線を外して深く俯いてしまう。
「もしかして・・女性の身体に興味があるの？」
　彼女の問いかけに、暫く黙ったままの和樹だったが、やがてこっくりと頷いて返事をした。
「そう・・いつから興味を持つようになったの？」
　絢子の事を、ずっと優しいお姉さんだと思っていた和樹は、兄の机の中の雑誌のことや、深夜の兄の行動のことなどを、最近の出来事を包み隠さず彼女に話した。
　黙って和樹の話を聞いていた絢子は、途中から席を立ち、机を回って、和樹の横に座り直す。
「へえ・・じゃあ、夜中にお兄さんの声を聞いてたの？」
「うん・・」
「その時、お兄さんの様子はどうだった？」
「・・とても嬉しそうだった。歓んでるみたいに。」
「そう・・」
　その時、すぐ隣りにいる絢子がいきなり手を伸ばして、和樹の髪をそっと撫でた。
　驚いた和樹が、絢子の顔を見上げると、彼女は和樹の唇をじっと見つめている。
　なぜか彼女のことが急に恐くなった和樹が、凍りついたように動けないでいると、絢子の視線はそのままゆっくりと下に降りてゆく。
　和樹が注目する中、彼女の射るような視線は、和樹の首から下半身に向かって滑らかに移動した。
　身体を調べられているような気がした和樹は、思わず両膝を胸に抱き寄せ、体育座りの様な姿勢をとる。
　なぜか二人とも、喋らなくなっていた。
　遠くで雷が鳴っている。
　いつの間にか外は雷雨になっていて、吹きつける雨が、激しく戸を叩く音がする。
「ねえ・・・お姉さんのこと、好き？」
　気付かないうちに優しい顔に戻っていた絢子が、気まずい空気を振り払うかのように、和樹に話しかけてくる。
「うん・・好き。」和樹は正直に、そう答えた。
「それなら、本当の事を教えてくれる？」
「うん。」
「本当に？、嘘をつかない？」
「嘘なんかつく訳ないじゃん。」
　和樹は、絢子の真面目な声にあわせて、真剣な顔でそう答えていた。
「ありがとう・・私も和樹君のこと好きよ。正直で、とても可愛いから。」
　瞳を見詰められながら、そう囁かれた和樹は、顔を真っ赤にして、また俯いてしまう。
　この時、和樹には全く想像もつかなかったが、絢子は、この千載一遇のチャンスを絶対に逃すまいとしていた。
　絢子は年上が苦手だった。
　中年はもちろん問題外だか、２０代後半も、オヤジにみえてしまう。
　仕事なので、この店で働く時は、笑顔で客と接していたが、内心ではすごく不潔に感じて、触られるのがとても嫌だった。
　彼氏は高校生だったが、本当はもっと年下の方がよかった。
　すべすべして綺麗な少年の方が・・
　つまり、和樹は話してはいけない人に、秘密を打ち明けてしまったのだ。
「ねえ、和樹君・・Ｈな本を見た時、何か感じた？」
　絢子が、どうしても知りたいことを、和樹に訊ねてくる。
　和樹は、話そうか、黙っていようか、少し躊躇した後、小さな声で、
「なぜか解んないけど・・・胸がドキドキして、オチンチンが大きくなっちゃうんだ。」
　と、素直に自分の身体の変化を絢子に報告した。
　これを聞いた絢子は、心の内の興奮を悟られないように注意しながら、極さり気なく返事をする。
「そう・・心配しなくていいのよ。それが普通だから。」
「ほんとに？」
「ええ、大人の人は、みんな大きくなるの。和樹君が大人に近づいた証拠なのよ。」
「・・・」和樹は不思議そうな顔で、絢子の顔を見詰めている。
「和樹君のお兄さんも、夜中に隠れて、興奮してたのよ。あそこを大きくしながら。」
「へえ、そうなんだ。でも・・なんでそんな事をするの？」
「素敵な事があるのよ。夢中になってしまうぐらい、素敵なこと・・」
「・・・」
「とても気持ちがいいの・・思わず声が出ちゃうくらいに。」そう話す絢子の口元が歪み、その目が一瞬、輝いたように見えた。
　和樹は、兄の嬉しそうな呻き声を思い出していた。
　あのドキドキする感覚の後に何が待っているのか、どうなるのか、和樹にはとても興味があった。
　和樹は、思わずごくりと生唾を飲み込んだ。絢子は、少年のこの動作を見逃さなかった。
「してみたいなら・・教えてあげましょうか？」
　絢子は、いきなり要件を切り出した。その声は、心なしか少し震えている。
「えっ？、なんのこと？」
　最初、和樹には絢子が何を言っているのか、全然解らなかった。
「お兄さんが夜中にしてたことよ。もちろん、和樹君がしてみたいなら、だけど。」
「でも・・それって、一人じゃなくても出来るの？」
　和樹がこう言った途端、絢子は笑い出した。
「もちろん一人でも出来るけど、和樹君はやり方を知らないから、お姉さんが手伝ってあげる。」
「・・・」何か、してはいけない事を、一緒にしようと誘われているようで、和樹は一瞬、返事を躊躇した。
「お姉さんと一緒じゃ嫌？」
「う、うんん・・そんなことない。」
「よかった。じゃあ、お姉さんが教えてあげる。恐がらなくてもいいのよ。誰でも最初は、誰かに教わるか、本を見てするんだから・・」
「うん・・」
　絢子は、自分がとても興奮している事を、自覚していた。
　小学生の男の子が逝くところを、目の前で見ることができる。この手で、初めての射精の瞬間を感じることができる。そう思っただけで、胸のときめきを抑えられなくなっていた。
「じゃあ、始めましょうか。Ｈな本がないから、かわりに私が見せてあげる。」
　絢子はそう言いながら立ち上がると、服を脱ぎ始めた。
「えっ・・あっ！・・・」びっくりした和樹は、声もなく、服を脱ぐ絢子を呆然と見上げた。
　絢子が首の後ろに手を回して、エプロンの紐を外す。
　続いて肩からタンクトップの紐を外して、下から同じ色のブラの紐が見えた頃には、和樹のズボンの前は、すでに大きく膨らんでいた。
　これを見た絢子が、優しく和樹に声をかける。
「和樹君もズボンを脱いで。」
　だが、緊張のあまり体が硬直してしまっている和樹は、立ち上がることができない。
「恥ずかしいの？」
　静かな声でそう問いかけてくる絢子に対して、和樹は、ただ無言で頷くだけだった。
　絢子は、静かに和樹に近寄ると、彼の肩に手を置きながら「そう・・わかった。無理しないでいいからね。」と、優しく語りかける。
　それから、今度は和樹の耳に口を寄せながら、頼むような口調で、
「じゃあ、後ろを向いて上のシャツだけ脱いで。それなら恥ずかしくないでしょう？」と、囁きかけた。
　なんとか、絢子の期待に応えたい和樹は、急いで彼女に背中を向けると、夢中でシャツを脱いだ。
「ありがとう・・ちょっと待ってね。」
　和樹のすぐ後から、衣擦れの小さな音が聞こえてくる。それから、服を脱ぐ気配がして、畳の上になにかが落ちる音がした。
　絢子に背を向けて座る和樹の胸の鼓動が速くなり、自然に呼吸が荒くなる。
　ふいに、耳の後ろに熱い吐息が吹き掛けられて、同時に、腋の下から前方に白い手が伸びた。
「さあ・・抱き締めてあげる。」
　艶っぽい絢子の声と同時に、裸の身体が和樹の背中に抱きつき、柔らかく冷たい乳房が、少し湿った少年の素肌に押しつけられた。
「あっ！・・・」
　初めての女体の感触に、和樹の瞳が一杯に見開かれ、その口が半開きになる。
「どう？・・お姉さん、何も着てないのよ。ほら・・」
　後ろから剥き出しの長い脚が和樹の両側に伸びてきて、彼の身体を挟み込む。続いて、絢子の手が和樹の手を掴んで、その裸の脚に触らせた。
　絢子のふー・・ふー・・という険しい息遣いが、和樹の耳のすぐ後ろから聞こえてくる。同時に、彼女のドクン、ドクンという心臓の音も背中から伝わってきた。
　嗅いだ事の無い、生の女の匂いがすぐ後ろから漂ってくる。
　もう、どうしたらいいか判らない和樹は、ただ顔を真っ赤にして震えていた。
　そのうちに絢子の顎が和樹の肩にのせられて、直後に、彼女の逆上せた声が顔のすぐ横から聞こえてきた。
「どうしよう・・和樹君があまり可愛いから、お姉さんの方が興奮してきちゃった。」
　絢子の冷たい手が、和樹のすべすべの胸を撫で回し始める。
「ハァ、ハァ・・」肩で息をする和樹。
「かわいい・・」大きく息を荒げる和樹の細い首に、後ろから絢子の白い首が絡み付いた。
「どう？・・ドキドキする？」ミルクのような和樹の匂いを嗅ぎながら、絢子がそうたずねてくる。
　首筋を這い回る絢子の鼻先に、カチカチに固まってしまっている和樹は、ただカクカクと頭を上下に動かして返事をするしかなかった。
　絢子は上半身を撫でていた手を、徐々に下に降ろしながら「じゃあ、してあげる。恥ずかしがらないで、お姉さんに任せてね。」と、彼の耳元に囁きかけた。
　その後、ゆっくりと和樹の股間に伸びた絢子の手は、ズボンの上から少年の膨らみを撫で回し始める。
「あんっ・・はっ、はぁ・・」
　驚いたような顔で、自分の下半身を見下ろした和樹は、無意識のうちに、動き回る絢子の手首を強く握り締めていた。
「恐がらないでいいのよ。さあ、手をどけて、触らせて。・・もっと硬くしてあげる。」
　和樹の小さな手を振りほどいた絢子の手は、さらに大胆になり、未経験の幼いからだに、一生忘れられない蕩けるような愛撫を施してゆく。
　素早くズボンの前を開けた二本の白い手は、あっと言う間に、一方が和樹のパンツの前を引き拡げ、もう一方は、音もなくその中に潜り込んでいた。
（「わぁ、もうこんなになってる・・下に向けられないくらい硬いわ・・あぁ・・興奮する。」）
　絢子は、身悶えする和樹の背後から、包み込むようにして彼の股間に両手を差し込み、熱くなった少年自身とツルツルの下腹部の感触を、心ゆくまで愉しんだ。
　この時、和樹は、ズボンの中の自分のペニスが、何をされているのか、想像も出来ずにいた。
　やがて、股間を動き回る繊細な指の刺激に耐えられなくなった和樹が、かん高い悲鳴を上げる。
「はぁ・・ハッ、ハッ、あぁ・・だめ・・もう、やめて！、お願い・・おしっこが漏れちゃう。」
　ヒクヒクと震える彼の先端からは、多量の粘液が溢れ出していた。
「大丈夫。・・おしっこじゃないから。」
　嬉しそうに微笑んだ絢子は和樹にそう告げると、彼のズボンとパンツを、一気に膝下まで引き下げてしまう。
「あっ、いゃ・・」
「さあ、気持ちよくしてあげる。」
　目を輝かせた絢子は、肩越しに和樹の股間を覗き込み、抵抗する和樹の両手首を左手で押え込みながら、右手の人差し指と親指で、彼のペニスのかま首をそっと捕まえる。
　さらに・・・その手を素早く上下させ始めた。
「ハッ、ひッ！・・あんっ！・・いや・・や、やめ・・あっんっ！」
　粘液でヌルヌルになった絢子の細い指先が、敏感な和樹の裏側を何度も滑り、優しく擦り上げる。
　この時、和樹は、ペニスの先端がじぃーんと熱くなり、徐々に何かが身体の奥からこみ上げてくるような、不思議な感覚に襲われていた。
　そのうちに、悲鳴を上げていた和樹の息が徐々に浅くなり、遂には、大きく口を開けたまま凍りついてしまう。
（「脈打ってる・・いよいよね・・さあ、見せて。」）
　その気配を感じた絢子は、両脚と左手で、和樹の身体を身動きが出来ないように押さえ付けたまま、虐めるようにゆっくりと、脈動する幼いペニスを扱き上げる。
　絢子が、自分の手の中の震えるペニスをじっと見詰めていると、それはついに・・
「はぅ、はぅ、ハァ！・・はぁあぅーー・・」
　限界に達した和樹の身体は、絢子の腕の中で、ブルブルッと大きく一度震えた後、弓のように反り返った。
　ピュッ、ピュッ・・ピューーッ・・
　同時に、目にも留まらぬ速さで、少量の白い液体が絢子の眼の高さまで飛び散る。
（「逝ってる、逝ってる・・・あー、凄い・・痙攣してる・・感じ過ぎて声も出ないのね。」）
　興奮した絢子は、白く濡れた右手で、跳ね上がるペニスの裏側を執拗に擦り上げながら、左手の掌で、噴き上がる少年の熱い体液を受け止めた。
　ビュ〜〜ッ、ビュッ、ビュッ・・クチュ、ヌチュ、クチュ・・・ドクン、ドクン・・ドクドク〜
　少年は何度も何度も硬直と震えを繰り返しながら、生まれて初めての目眩く性の儀式を経験する。
「あ・・はあぁ・・はっうぅ〜・・」
　やがて、ズーンという重い衝撃が和樹の背中を走りぬけて、彼はぐったりと絢子の身体に凭れかかった。
　和樹の股間から立ち昇る噎せ返るような強い性臭に、うっとりと眼を細めた絢子は、指を擦り合わせ、湯気が出そうな初精の感触を確かめる。
　それから、「サラサラね・・でも、精液の匂いだわ。どう？、気持ちよかった？」と、息も絶え絶えの和樹に声をかけた。
　全身が痺れたようになっている和樹は、ただ喘ぐばかりで、返事をすることも出来ない。
「今のが射精っていうの。お兄さんが毎日、夢中でしてたことよ。」
「ハァ・・ハァ・・」
「ふふ・・痺れちゃった？、大人になると、一日に何度もこれをするのよ。凄いでしょう？」
　絢子は、後ろから和樹の細い身体を抱き締めながら、そう言って笑った。
　先程とは逆に、和樹の頭が、絢子の肩の上にのっている。
　一杯に開いた口で苦しそうに喘ぐ、小学生の荒い息が、絢子の首にかかっていた。
「私も感じちゃった・・ありがとう、大好き。」
　少しの間、白く濡れた手で和樹の下腹部を撫で回していた絢子は、やがて、愛おしそうに彼の唇に口づけをした。
　その情熱的な口づけは、ゆっくりと和樹の顎から首、そして胸へと移動してゆく。
　和樹は痺れる身体で、絢子の口づけを体中に受けながら、ぼんやりと部屋の入り口の方に視線を向けていた。

　ゴロゴロゴロ・・
　外は雨音がさらに激しくなり、きらめく稲光の白い輝きが、玄関のガラス戸にピカピカと反射している。
　いつの間にか、黒い人影が部屋の上がり口のところに立っていた。
　いつからそこに居たのだろう。階段を降りる足音は、雷の音でかき消されて、全く聞こえなかった。
　凍りついたように動かない和樹の母は、大きく眼を見開いたまま、絡み合う二人の裸体をじっと見つめていた。