３．一郎

　一郎がその子たちに会ったのは、急に空が曇って、雨が降り出した日の午後だった。
　勤め先の町工場から、完成品を取引先に届けた帰りの道、ずぶ濡れになりながら道端を歩いている、二人の中学生の女の子をみつけたのだ。
　何かの記念日だろうか？、学校が終わるには早過ぎる時間だった。
「乗りなさい。送ってあげるから・・」
　一郎は、暫く迷った末、その子たちに声をかけた。あまりに雨が激しかったからだ。
　後ろのドアを開けてやると、二人は一度顔を見合わせて、お互いの意思を確認した後、車に乗り込んできた。
「すいません。」「ありがとうございます。」
　彼は、二人の自宅の場所を聞き、車を発進させる。

　二人は髪の毛から水が滴り落ちるほどに、ぐっしょりと濡れていた。
　学校を出る時は晴れていた空が、急に真っ暗になって、土砂降りの雨が突然降り出したのだという。
　二人とも、夏の制服のブラウスがびしょびしょに濡れて、下の下着が透けて見えている。
　一人は、ブルーのスポーツブラ、もう一人は、ピンクのハーフブラ・・
　一郎は、あえて彼女たちから顔を背けて、その姿を見ないようにしていたが、どうしても、透けた下着に意識が集中してしまう。
（「凄い下着を使ってるんだな。」）
　その姿は、チラッと一度見ただけで、彼の脳裏に焼きついてしまっていた。
　忽ち、股間が熱くなり、胸がドキドキと高鳴り始める。
（「何を考えてるんだ、俺は・・」）
　一郎は平静を装いながらも、心の中では、湧きあがる淫らな欲望に苛まれていた。
　自分の子供と変わらない年頃の女の子に、舞い上がり、ときめいている自分がとても情けなかった。

　そんな心の内を悟られないように、余裕のある態度をとろうと考えた一郎は、エアコンのスイッチを入れて、除湿をかける。
　それから、グローブボックスの中から真新しいタオルを何枚か取り出して、それを彼女たちに渡した。
「洗ってあるから。」
「どうもすいません。」「ありがとうございます。」
　笑顔になった少女たちは、嬉しそうに濡れた髪や腕を拭き始める。
　一郎は、努めてバックミラーを見ないようにしながら、自分が、うっとりと彼女たちの様子を想像していることに気がついた。
　彼女たちの濡れた身体から、いい匂いが漂ってくる。
　シャンプーや洗剤の匂いに混じって、僅かに感じるその匂いは、汗や濡れた髪の香りだった。
　それと、女性特有のあの匂い・・
　スカートやその下のショーツが濡れているせいだろうか、それとも、どちらかの子が、あれの最中なのか。
　いや、もしかすると、女の子がスカートを捲り上げて、濡れた太股を拭いているのかもしれない。
　蒸れた下着から匂いたつ少女の体臭・・
　いつしか一郎は、頭に浮かんだ妄想に取り憑かれていた。
（あの子の濡れたスカートを捲り上げ、その中に顔を突っ込む。そして、少女の湿った股間に鼻先を押し付けて、その匂いを胸一杯に吸い込む。それから・・）
　やがてその妄想は暴走し、巨大化して、彼の頭の中を占領してしまう。
　一郎は瞬きをして、その考えを頭の中から振り払った。
　いつの間にか、激しく勃起していた。
　妻とは、ここ何年もしていない。子供は男の子だけで、身近に若い女の子が居る状況に、慣れていなかった。
　一郎は、さり気なくシートベルトの位置を直して、勃起したペニスを刺激しないようにすると、そのまま運転を続けた。

　それから、女の子の一人を彼女の自宅近くで降ろした彼は、そのまま、もう一人の子の家にむかおうとする。
　だが、もう一人の子も、ここで降りると言う。
　さすがに、中年オヤジの運転する車に、一人で乗るのは恐いのだろうと思った一郎は、「これ、使って。」と、自分の傘を彼女に差し出した。
　外はまだ、滝のような雨が降っていた。
「いえ、大丈夫です。」
「いいから、持って行きなさい。風邪を引くから。」
「じゃ、お借りします・・必ずお返ししますから。」
「気にしなくていいよ。」
　少女は頻りに頭を下げながら、遠ざかってゆく。
（「珍しく礼儀正しい子だな。」）
　少女の真面目な態度と、礼儀正しい言葉づかいに感心して、思わず微笑む一郎。
　だがそんな一郎の意識とは関係なく、彼の股間は激しく興奮したままだった。
（「このままじゃ帰れないな。仕方がない。寄っていくか・・」）
　彼は久しぶりに、風俗店に寄って行くことにした。
　以前はよく通っていたが、家計が苦しくなり、こずかいを減らされてからは、すっかりご無沙汰になっていた。

（「危ない、危ない・・もう少しで犯罪者になるところだった。」）
　何年かぶりに入った店で、指名の少ない中年女の口に半勃ちのペニスを差し込みながら、一郎はそう思っていた。
（「あの、匂い・・」）
　夕方の状況を思い出すと、甦った少女たちの芳香が、忽ち彼の生殖中枢を刺激し始める。
（「首が細かったな。真っ白できめ細かい肌が、透き通ってた。それに、あの掴めそうに括れたウェスト・・」）
　少女たちの可憐な肢体を思い出して、無意識のうちに息を荒げる一郎。
（「ああ・・一生に一度でいいから、あんな年頃の女の子を味わってみたい。」）
　彼は、股間に覆い被さった女の顔を見ないように注意しながら、うっとりと腰を揺すった。
　女が、急に勃起したカチカチのペニスにびっくりして、慌てて舌を使おうとした次の瞬間、それは爆ぜた。
「うぅぁ・・おっおぉ〜」
　大きく目を見開いた女の喉奥に、ドロドロとした大量の精液がいきなり溢れ出る。
　恍惚とした表情で腰を痙攣させながら、両手で女の頭をしっかりと抱え込み、溜まった欲望を全てそこに流し込む一郎。
　それは明らかに、少女に対する異常な性欲の現われだった。

　それから何日かして・・
　仕事を終えた一郎が会社の門を出ると、そこにあの少女のうちの一人が待っていた。


インターローグ

「なあ、例のおばさんの話を聞かせろよ。」
　孝が酔った勢いで、慎二にからむ。
「おばさんじゃないって・・若いし、すごく綺麗なんだ。」
　慎二が少し怒った顔で、反論する。
「だけど、旦那に相手にされないから、おまえに手を出したんだろ。」
「違うよ。ずっと一人だったんだ。ただ寂しくて、我慢できなかっただけさ。」
「けっ、調子のいいことを言いやがって・・結局はやりたいだけだろ。都合よく利用されてるだけじゃないか。」
「利用されてるんじゃない！、俺の方から頼んで、会ってもらってるんだ。」
「まあまあ・・」
「せっかく久しぶりに会ったんだ。もっと穏やかにやろうぜ。」
　険悪なムードを察した忠が、慌てて二人の間に割って入いる。
「孝は、このところ、女に縁が無いから機嫌が悪いんだ。許してやってくれよ。なあ、慎二・・」
　悟も、慎二の肩に手を置いて、彼を宥める。
「なんだと、余計なことを・・それじゃまるで、俺が女に飢えてるみたいじゃないか。」
「その通りだろ。」
　忠と彰も一緒になって、孝のことを笑った。
　忠、彰、悟、孝、慎二の５人は、高校の時の同級生で、仲のいい友達だった。
　今は皆、別々の大学に進学して、他の地域に住んでいる。
「会えるのも夏休みの間だけだ。もっと飲もうぜ。」忠が、孝と慎二に酒を勧める。
「なあ、孝の事は放っておいてさ。それで・・どんな人なんだよ、その人。」
　慎二の真剣な態度に、段々と相手の女性の事が気になり始めた悟が、改めてそう質問する。
「うん、それがさ・・」
　本当は彼女の事を話したくて仕方がなかった慎二は、途端に表情を緩め、麻紀の事を話し始めた。
　慎二は、相手の主婦に本気で惚れているようだった。
　情事の時の痴態を巧みに避けて、彼女のいいところを、一生懸命に彼らに説明してくる。
　その姿は嬉々としていて、本当に幸せそうだ。
　だが、そんな慎二の姿を見て、孝は面白くなかった。
　自分より不細工で、成績も良くなかった慎二が、いいおもいをしている。
　しかも、慎二の話を聞いていると、どうも、孝が今までにつきあってきた若い女の子より、具合がよさそうではないか。
（「おばさんて、そんなにいいのか？」）
　慎二の話を聞きながら、知らぬ間に中年の女性に興味が湧いてきた孝は、きまりの悪そうな顔で、おずおずと慎二たちの話の輪に加わった・・

「じゃ、俺はそろそろ帰るわ。」
　８時を過ぎたあたりで、慎二が急にそう言い出した。
「なんだよ・・まだいいじゃないか。」
「そうだよ。久しぶりに会ったんだから、もう少し話そうぜ。」
　忠と悟が、名残惜しそうに引き止めるが、慎二の方はもう上着に手を伸ばしている。
「ごめん。約束があるんだ。」
　申し分けなさそうにそう言うと、立ち上がった。
「友達よりセックスか・・例のおばさんに会いに行くんだろ？」
　酎ハイのグラスに視線を落としたままの孝が、独り言のようにそう呟く。
　慎二は聞こえないフリをして靴を履くと、そのまま４人に挨拶をして店を出た。
　孝の言う通り、もう頭の中には、麻紀のことしかなかった。
（「一恵さんが店をやっている今なら・・」）
　二人きりの密会の場面を想像した慎二の歩みは、知らず知らずのうちに早足になっていた。

　一方、飲み屋に残された孝たち４人は・・

「おい・・女を引っ掛けにいこうぜ。」
　孝は、手に持ったエロ雑誌を、路上に投げ棄てながら、そう言った。
　酒を飲んだ後、止めてある車に向かって歩き出した４人は、工場裏の雑木林にさしかかっていた。
　慎二の惚気話を聞かされた４人の頭の中は、大人の女の柔らかい身体やいい薫りで、すでに一杯になっていた。
「どこに行く？」
　飲み過ぎて、呂律が回らなくなっている悟が、他の３人を振り返りながら、そう訊ねる。
「駅前の、カラオケボックスの辺りはどうだ？」
「あそこはだめだよ。相手がいる女しか来ないだろ。」
　忠の提案を彰が却下しようとした時、突然、先頭を歩いていた悟が、喜色ばった声をあげた。
「おい！、あれを見ろよ。」
　小さいがかん高いその声を聞いた３人が、反射的に悟の方に目を向けると、彼は、薄暗い雑木林を抜ける小道の奥、２００メートルほど先をじっと見つめている。
　何事かと、３人が悟の視線の先に目を凝らすと、そこには、一人の女が歩いていた。
　その女は、なにか考え事をしているのか、俯き加減に地面を見つめながら、足早に歩いている。
　後ろ姿から推定すると４０まえぐらいか、歳の割に引き締まったヒップが、足の運びに合わせて左右に揺れていた。
「なんだ、婆ぁじゃねえか。」露骨に不満そうな顔をした彰が、吐き捨てるようにそう呟く。
「ああ・・でも、意外といいかもしれないぞ。」彰の隣にいる忠は、満更でも無さそうに、魅力的な女の尻を眺めながら舌舐めずりをしている。
「うん。飢えてるから、優しいかもな。」先頭を行く悟は、忠に同意するように、女の足首から尻にかけてを、じっくりと鑑賞していた。
「そうそう、慣れてるし。」孝は慎二の話をもう一度思い出していた。
　酒のせいで、制御が効かなくなっている４人は、前を行く女の身体に目を輝かせながら、それぞれ、股間の一物を膨張させ始める。
「襲っちゃう？」
「いいね〜」
「ここなら、誰にも聞こえないし・・」
「最初は嫌がってても、そのうちに夢中になるさ。」
「ああ・・」
　４人は足音を忍ばせながら、歩みを速め、女との距離を詰め始めた。
　約束があるのか、先を急いでいるらしいその女は、背後から近づく４人には、全く気がついていないようだった。