| ６．明菜 傘を返しに行こう。彼女はそう、心に決めていた。 表向きはそれで理由が出来る。 （「この前みたいに、また優しくしてくれるといいな。」） 明菜は、前回一郎に会ってから、ずっとある希望を胸に抱いていた。 （「甘えたい・・」） 彼女には父親がいなかった。 両親は明菜が３才の時に離婚していて、父親はその後、別の女性と再婚していた。 別の家庭で子供を持った父親は、徐々に明菜とは行き来が無くなり、やがて赤の他人となった。 それからずっと、彼女の母親は、明菜を一人で育ててきた。 父親の記憶が無い明菜は、何か困難に突き当たる度に、こんな時に父親がいたら、そう思いながら成長した。 そんな彼女が、必ず父親の事を想う日がある。雨の日だ。 雨の日の下校の時刻。他の子の何割かには、いつも母親の迎えが来ていた。 ある子には傘を持って。ある子には自家用車で。 いくら待っても、明菜には迎えが来る事はない。その時間には、母親は働いているからだ。 この前の夕立の時、雨に濡れながら惨めな気持ちで歩いていた明菜は、一郎と出会った。 彼女は最初、どう対応したらいいか戸惑ったが、そのうちに、とても満ち足りた気持ちになっていた。 父親に守られているような、そんな安心感に包まれていたからだ。 あの日から、一郎は明菜にとって特別な存在になった。 白のミニスカートと、白のキャミソールのうえに半袖のジャケットを羽織った明菜は、会社の終業時間に合わせて、正門のところで一郎を待っていた。 一人、正門脇に立つ明菜は、すらりと伸びた綺麗な手足と、色白の素肌がとても眩しく、周囲の景色から完全に浮き上がって見える。 終業時間から１０分ほどが過ぎて、多くの工員たちが彼女の脇を足早に通り過ぎた後、一郎が門から出てきた。 「あれ？、君はこの前の・・」 「こんにちは。」 「どうしたの？」 「あの、これ・・傘を返そうと思って。」 「よかったのに。」 「どうしても、もう一度会って、御礼が言いたかったんです。」 「そう・・わざわざ、ありがとう。でも、よくここがわかったね。」 「車の横に、会社名が書いてあったから。」 「調べたの？」 「はい。」 「へぇ〜、大変だったね。」 「いいえ。」嬉しそうに微笑む明菜。 「バスで来たの？」 「そうですけど・・」 「それなら、もう遅いし、君の家はここからは遠いから、車で送ろう。」 「えっ・・いいです。悪いから。」 「いいから、気にしない、気にしない。」 「・・・」 「待ってて。今、車を回してくるから。」 そのまま、工場内に戻った一郎は、駐車場から車を出してきて門の前に回す。 それから、助手席のドアを開けて、「さあ、乗って。」と、笑顔で彼女に手招きをした。 明菜は素直に助手席に座った。 「あの後、風邪をひかなかった？、かなり濡れてたみたいだったけど。」 「大丈夫です。若いですから。」 「ハハハ、それはよかった。」 一郎が、ミニスカートから伸びる明菜の素足を、チラッ、チラッと盗み見ている。 だが彼女は、その事に全く気がついていない。別の事に気を取られていたからだ。 明菜は、最初から考えていた願い事を、口にしようとしていた。 「あの・・お願いがあるんですけど・・」 彼女が、運転席の方に身体を向けた拍子に、左足が立て膝の状態になり、少女の染み一つ無い太ももが根本まで露になった。 「食事につきあってくれませんか？、お腹が空いちゃって。」 「えっ？・・ああ・・うん・・いいよ。行こう。」 明菜の脚に意識を奪われている一郎は、上の空で返事をした。 「本当ですか。ワァー、嬉しい。」願い事が叶った明菜は、鈴が転がるような愛らしい声で笑っている。 だが一郎の方は、全く別の事を考えていた。 （「堪らん・・ぞくぞくする。この声。あそこを舐め回してやったら、どんな声で鳴くんだろう？」） 食事は、明菜の勧めで、若者に人気があるファーストフード店から、テイクアウトすることにした。 一郎にとっても、その方が都合がよかったからだ。 店に寄った二人は、夕方のひとけの無い公園の駐車場に車を停める。 「ほんとに、こんなのでよかったの？」 「ええ。すいません、つきあってもらっちゃって。」 カップの蓋を確認してから、楽しそうにコーヒーを一郎に手渡す明菜。 一郎は、知らず知らずのうちに、差し出された彼女の手をじっと見つめていた。 細く白い指と、綺麗に手入れをされた清潔な爪。汚れも皺も無いその美しい手は、若さの象徴であり、今の一郎には眩し過ぎた。 一瞬動きを止めた自分自身の不自然さに気がついた一郎は、急いで彼女の手からコーヒーを受け取る。 明菜が運転席の方に身を乗り出してきた時に、彼女の花のような髪の匂いが一郎の鼻を擽った。 思わず、その香りにうっとりとしてしまった一郎は、そのまま彼女に飛び掛かりたくなる衝動を、必死になって抑える。 股間の一物がむくむくと勃起してくるのが判った。 （「今ここで襲ったら、勤め先がわかってるから、すぐに捕まるだろうな。」） 「いい香りでしょう？、ここのコーヒー人気あるんですよ。」「うん、美味しいね。」 当の明菜は、一郎の醜い欲望など何も知らずに、無邪気にはしゃいでいる。 （「なんとかならないか・・」） 一郎は、湧きあがる欲望に胸を焦がしながら、隣に座る明菜の、涼しげな鎖骨のラインを物欲しげな眼差しで見つめた。 「美味しい・・これ、大好き。」 バーガーを頬張っていた明菜が、無意識に上唇に付いたタルタルソースを舌先で拭う。 （「おおっ・・」） 忽ち、一郎の視線は彼女の唇に釘付けになった。 （「わぁ、長いな・・ピンクの舌・・まるで誘ってるみたいだ。」） もうその濡れた唇から一瞬も目が離せなくなった一郎は、食い入るように彼女の口元を見つめる。 「実は私、男の人と食事するの初めてなんです。」 いきなり顔を横に向けて、そう話しかけられた一郎は、びっくりして飛び上がりそうになった。 「そ、そうなんだ。」 「？・・」一郎の表情の変化に気がついた明菜は、怪訝な顔で彼の顔を覗き込む。 「いや、なんでもないんだ・・」焦った一郎は必死に誤魔化した。 「あんまり明菜ちゃんが可愛いから、つい見蕩れちゃって。」 これを聞いた明菜は、何も言わずに急いで正面に向き直ると、シートに深く身体を埋めて、恥ずかしそうに微笑んだ。 よく見ると、その頬はピンク色に染まっている。 （「まるで天使だな・・こんな子とやれるなら、直後に死んでもいい。」） 明菜の想いとは裏腹に、激しく燃え上がった一郎の欲望は、もうどうしようもないところまで燃え拡がっていた。 「いつもは何時ぐらいに帰るの？」 駐車場を出た二人は、明菜の家に向かっていた。 「４時位かな・・時々、友達と遊んでから帰る事もありますけど。」 「じゃ、今日は遅くなっちゃったね。」（「もう時間がない。どうしたらいいんだ・・ああ、どうしても犯りたい。」） 「いいんです。どうせいつも独りだから。」 （「一人？」）「お母さん、心配してないかな？」 「大丈夫です。まだ帰ってないから。」 （「そうか、今なら・・まてよ・・写真を撮って、それをネタに脅したら、いいなりになるかもしれないぞ。なにせ相手は中学生の子供だ。」） 「いつも帰りが遅いの？」一郎がさり気なくそう訊ねる。 「いつもは６時ぐらいなんですけど、今日は買い物をしてくる日だから。」 （「いいぞ・・時間はたっぷりある。」） 車が明菜の家に着く頃には、全く別の方向に盛り上がった二人の気持ちは、頂点に達しようとしていた。 「今日は、ありがとうございました。」 「うん。」 「あの・・」 「なに？」 「また、会いに行ってもいいですか？」 「もちろん、明菜ちゃんがそうしたいなら、いつでもいいよ。」 「ありがとうございます・・さようなら。」 明るい声で一郎に挨拶をしながら、ドアを開けて車を降りる明菜。 一郎は、明菜の後ろ姿を眺めながら、一瞬、（このまま何もせずに家に戻ろうか）そう思った。 だが、可愛いヒップに貼り付いた、小さなショーツのラインを見た途端、その最後の良識も何処かに吹き飛んでしまった。 彼女の家の前で明菜を降ろした一郎は、そこから２回ほど左折をして、彼女の家の裏手の路地に車を止めた。 カメラを手に静かに車を降りた一郎は、通りの影から家に入る明菜の様子をそっと窺う。 彼女は自分の鍵で玄関の扉を開けると、そのまま家の中に入っていった。 直後に、道に面した窓のカーテンが開く。 （「しめた。」） 口元に歪んだ微笑みを浮かべた一郎は、明菜の家に向かってゆっくりと歩き始めた。 |
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| 2009.3.11掲載 |
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