| エピローグ 最初、男は、このまま傍観して、どさくさに紛れて残り物を頂戴しようか、とも思った。 だが、必死に悲鳴を上げている、女の怯えた表情を見ているうちに、考えが変わった。 （「このままいったら、いつまで経ってもクズのままだ。」） なんとか、この女を助けよう、そう心に決める。 だが、どうしたらいいのか解らない。 そうこうしているうちに、女のショーツを脱がしていた男が、立ち上がった。そして、そのままズボンを脱ぎ始める。 もう時間がない。 気がついた時には、男は駆け出していた。 「わぁーーーーっ！」 何か大声で叫びながら、土山を駆け下る。 そのまま、女の足元にいた男に向かって殴りかかっていった。 下着を脱ごうとしていた相手の男は、背後から聞こえる大声にびっくりして振り返ると、咄嗟に身を横に躱す。 もともと運動神経の鈍い作業着の男は、振りかざした拳が空振りをしてしまうと、そのままバランスを崩して前方に蹌踉めいた。 そこへ、別の男が突き出した拳が飛んできた。 蹈鞴を踏んで前のめりになったところに、カウンターでパンチを合わせられた作業着の男は、顔を突き上げられ、仰向けに倒れこんで、後頭部を地面に強く打ち付ける。男は、そのまま動かなくなった。 暫くは、誰も動かなかった。 「おい、生きてるか？」 やがて、グループのリーダーらしき男が、殴った男にそう訊ねる。 「ああ、大丈夫だ。息をしてる。」 殴った方の拳に血を付けた男は、作業着の胸が上下しているのを確認しながら、そう言った。 「全く・・なんなんだ、この野郎は。」 男たちは、街で札つきの悪だった。 普段から、ひったっくりや恐喝、痴漢紛いの事はしていたが、今回は、バレないように愉しもうとしていただけで、傷害や殺人で捕まるつもりは毛頭なかった。 「おい、ずらかるぞ。」 女を襲っていた男たちは、素早く服装を直すと、一斉にその場を立ち去った。 後には、襲われていた事務員の女と、彼女を助けようとして逆に殴り倒された、作業着の男が残された。 やがて、事務員の女がゆっくりと身を起こす。 捲れ上がったスカートを直し、破れた服を引き寄せながら、よろよろと、倒れている男の傍に歩み寄る。 「大丈夫？・・しっかりして。」 女は、男の頭の傷を確認しながら、いたわる様な手つきで彼の頬をそっと撫でた。 「うっ・・う〜〜ん・・」 男はうっすらと眼を開けた。どうやら脳震盪を起こしていたようだ。 「頭、痛い？、暫く動かない方がいいわ。」 「いてて・・ちょっと痛いけど、大丈夫です。あの・・男たちは？」 「みんな逃げたわ。あなたのお蔭・・」 「ありがとう。」女は嬉しそうに、にっこりと男に笑いかけた。 男は照れ臭そうに女の視線から目を逸らすと、ゆっくりと起き上がった。 「でもあなた、どうしてこんな所に居たの？」 女がふと思い出したように、疑問を口にする。 「それは・・あの・・」 答えに窮した男は、思わず口篭ってしまう。 「あなた・・」男の顔を見つめていた女が、彼の顔を思い出した。 「工場で働いてるわよね。」 「ええ・・同じ工場に勤めてます。期間作業員ですけど。」 男は返事をしながら、女の姿に目を向けた。 ワンピースの胸元のボタンがいくつかなくなって、黒いブラが少し見えている。 それと、スカートの裾の部分が破れていて、一部が千切れて無くなっていた。 スカートの破れ目から、女の白い太ももが覗いている。 毎日思い浮かべ、何度も自慰の対象にした脚・・ その時、男の視線を追った女が、彼の股間が膨らんでいることに気がついた。 「やだ・・あなたもなの・・止めて。」 「えっ？、なに？・・とうしたんですか？」 「興奮してるでしょう？」 「・・・」 ごくりと生唾を飲み込んだ男の視線が、無意識のうちに、破れた服の間から覗いている女の素肌に移動する。 それを見た女が、怯えたように服の破れ目を両手で隠しながら、じりじりと後ろへ退いた。 「違う・・これは・・前から好きだったんだ。襲われてるところを見たから、興奮してる訳じゃない。」 男が自分に言い聞かせるようにそう呟いた。 「えっ？・・本当？」 男の言葉を聞いた事務員の顔が、一瞬、驚いたような表情になり、その後訝しむ様な顔に変わる。 「顔見知りなんだ。そんな事、考える訳がないでしょう。」 男はこのまま飛び掛かりたいのを、必死になって我慢した。どうしても彼女に嫌われたくなかったからだ。 「とにかく、ここを離れた方がいいわ。戻ってくるといけないから。」 女が、不安そうな顔でそう言った。 「ええ。」男も同意する。 二人は、雑木林の中を小道に向かって戻った。 「彼女はいないの？」 女は一緒に道まで歩きながら、男にそう訊いた。 「ええ・・」男はなぜか正直にそう答えていた。 「ずっと？」女は男の横顔をそっと盗み見ながら、さらにそう訊ねてくる。 「・・・はい。」 恥ずかしそうに目を伏せたまま頷く男。この時男は、この人には見栄を張らずに、全てをありのままに話そう、そう心に決めていた。 女が、男の股間を気にしているのが判る。 男のペニスは、先程からずっと勃起したままだった。 歩くと、それが大きく揺れているのが自分でも判る。 「そんなに恐がらないで下さい。」 「えっ？」 「自分でも制御できないんです。溜まり過ぎていて・・」 「・・・」女は思わず男の顔から視線を外して、俯き加減になってしまう。 暫くして、女が小さな声で男に話しかけた。 「もしかして・・経験が無いの？」 「ええ。」 男は、大きくはっきりした口調でそう答えた。 それからは、二人とも無言で、ただ小道まで歩いた。 「ねえ・・家まで送ってくれる？」 道に出た女は男の方を振り返りながら、優しく静かな声でそう言った。 顔を真っ赤にした男が大きく頷いて返事をすると、 「ありがとう。あの・・ちょっと後ろを向いていてくれない？」と、男の顔を見詰めながら、そう頼んでくる。 男は何も解らないまま、素直に後ろを向いた。 女は男の背中を見詰めながら、自分のスカートの中に手を入れる。 彼女のスカートの中では、片側を引き千切られたショーツが、股の間にぶら下がっていた。 女は破れた黒いショーツを脚から抜き、その場に捨てる。 それから男に、「いいわよ。」と、声をかけた。 振り向いた男は、路上に投げ棄てられた女の下着に気がつき、驚いたように眼を大きく見開いた。 男の態度に気がついた女が、「やだ・・拾って使おうなんて、考えないでね。」と、困ったような顔で男に釘を刺すと、男は真剣な表情で、必死に顔を横に振っている。 「もう・・」苦笑した女は、ゆっくりと男に近づき、彼の腕を取った。 手を組んだ二人は、ゆっくりその場から歩き始める。 「ねえ・・本当は、すごくしたいんでしょう？」茶化すような口調で、女がそう訊ねる。 「えっ！？・・ま、まさか・・なんでそんな事言うんですか？」 「だって、さっきから興味の無いフリをしながら、チラチラと私の脚を見てるじゃない。」 「・・・」男は思わず黙り込んでしまう。 実は先程から、腕に触れる女の手の温もりを、嫌になるほど意識していた。 「今日は止めてね。とてもそんな気分じゃないから。」 「ええ・・わかってます。」 「そのかわり・・よければ今度、デートに付き合ってあげる。」 「えっ？」 「今日のお礼に。」 「ほ、ほんとですか！？」 「嘘なんて言わないわよ。意外にいい人だってことが判ったし・・」 「あ、ありがとうございます！」 夢ではないかと思った。涙が出るほど嬉しかった。今までの人生の中で一番に・・ 「もう・・大袈裟なんだから。」 女は苦笑しながらも、満更でもなさそうに、彼の手を自分の側に引き寄せた。 「あれ？・・」 二人が事務員の女の家に着くと、なぜか玄関の鍵が、開いたままになっている。 「ただいま〜、いるの？」 不審に思った女が、声をかけながら家の中に入ると、部屋の灯も点いている。 一緒に付いて来た男も、不審な雰囲気を感じて、女の後に続いて家の中に入った。 女が家の中を調べていると、家の奥、娘の部屋の中から何か物音が聞こえてくる。 「いるの？・・入るわよ。」 中から返事が無いことに、不安を募らせた女が恐る恐るドアを開けると、そこでは・・ 中年の男が、中学生の女の子のスカートを捲り上げ、その股間に顔を埋めていた。 彼女の両脚は、畳まれた状態でビニールテープでぐるぐる巻きに固定されていて、両腕も後ろ手に拘束されている。 その顔は恐怖に歪んで、口はガムテープで完全に塞がれていた。 作業服を着た中年の男の方は、よほど焦っていたのか、ズボンとパンツを尻の下までずり下げて、勃起したペニスを女の子の脚に擦りつけている。 男が、なにか口走っている。 「あぁ・・堪らん・・この匂い・・食べたい・・食べてしまいたい・・」 背後の物音に、やっと我に返った中年男は、顔を上げて後ろを振り返り、そこに二人の姿を見つけて、凍りついたように動かなくなった。 若い男と事務員の女が、同時に声を上げる。 「明菜！」 「父さん・・」 |
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| 2009.3.21掲載 |
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