６章　ふたり　　

　四月二日生まれ。
　湯川篤美は、スポーツ万能、しっかり者のアネゴ役。もちろん、運動会の花形選手。
　子どもの頃から、建太と一緒に遊んだ。遊び仲間と言うより、建太は子分だった。
　それなのに、健太よりたった一週間遅く生まれただけで、一学年下。
　小学校はまだ良かった。
　中学で部活に入れば、先輩と後輩。そんなバカらしいことって、ない。
　入学式の日に陸上部に入部して、いつものように「建太」と呼んだら怒られた。
　後輩らしくないと。
　先輩、後輩の壁は、マネージャーなら関係ないらしい。
　かくして、並みいる男子の誰よりも速く走るマネージャーが誕生した。
『けっこう、私って世話女房タイプだったんだ』
　部員のために、あれこれと世話を焼くのが嫌ではない。いや、けっこう気に入ってしまったと言っていい。
　だから、この状況に困惑していた。
　建太が泣いてる。
「泣き虫建太」は泣かなくなった。去年、篤美の背を追い越した頃からだ。
　最後に建太が泣いたのは、愛犬「ちび」が死んでしまった時。
　泣きながら、河原で、ずっと石を投げていた。
　大きい石、小さい石。指先に血がにじんでいるのに。あの時は…
　目の前で、膝っ小僧を抱えたまま、グスグスと泣いている建太は、あのときと同じ表情をしていた。それが妙におかしくて、クスリと笑った。
「なんだよ、おかしいかよ」
「ううん」
「今、笑っただろ」
「うん」
「おかしいかよ」
「違うの。あのね、建太。あの時」
「何だよ」
　ズビズビと鼻を鳴らしながら、くってかかる顔は、昔のままだ。
　ヒョイと、ショートの前髪をかき上げて、建太に突き出す。
　ふわりと、甘酸っぱい匂いが建太の鼻腔を刺激する。シャンプーの香り？
　でも、甘い匂いに浸ってもいられない。
　篤美の白いおでこに、ほんのわずかな傷跡。
「あの時と同じ顔をしてる」
「ふん、ごめんって何度も謝ったじゃん」
「あやまる必要なんてないって、何度も言ったじゃん」
　口をとんがらせて、健太の口まね。
　あの時のこと。
　石を投げる指に血がにじんでる。
　もうやめてと篤美が抱きついた瞬間だった。
　額が一瞬あつくなる。流れる血。気がついたら建太に抱き起こされていた。
　健太の投げる石が、もろにおでこに当たったのだ。
　私が勝手に飛び出したんだから、といくら言っても、蒼白になって泣きながら謝り続けた建太。
　あれから、建太は泣いたことがない。
「なんだよ」
　不機嫌そうに言ってはみたけど、甘い匂いに、健太はドキドキしてしまう。
　コーチの甘い匂いは、包み込まれる柔らかい甘さ。
　篤美のは、なんだかおなかの下がきゅっと締め付けられるような、どきどきする甘さだ。ほんのちょっと甘酸っぱい気がした。
　さっき触れた肩の柔らかさが手に残ってる。Ｔシャツの膨らみがまぶしい。
　なんだか、急にどきまぎして、慌てて篤美から離れようとする。
　腰をちょっと浮かして、十センチばかり離れる。篤美はそれを許さず、ますます、近よってくる。
「おい、寄るなよ」
「なんでよ。近づいたら何が悪いのよ」
　篤美の息が顔に掛かる。
　甘い。健太のおなかがきゅんとして、いけないと思ったときには、ビンと勃起していた。
『あぁ、女の子の息って何で甘いんだろ』
　不思議な気分になる。建太はこれ以上ないほど、自分のペニスが硬くなって、篤美をぎゅっと抱きしめたくなっているのに気がついた。
　そんなことができるわけない。抱きついたら、きっと、ビンタの一発もされて、せせら笑われるのに決まってる。きっと、そんなところだろう。
「いいだろ。ほっとけよ」
　だから、それを隠したくて、ぷいと横を向く。ジャージの下で、つっかえているペニスが苦しい。服の上から、硬くなったペニスの向きを、さりげなく直す。
「ちょっと、こっちを向きなさいよ、ヒドイ顔なんだから」　
　剣呑な声がした次の瞬間、両手で顔をはさまれて、建太の顔に柔らかいものが当てられる。
「じっとして！」
　叱りつけられて、建太はされるがままだ。
　篤美がこんな声を出したときに逆らえば、頭ごなしに怒鳴られるのがオチだ。
　柔らかな手が、頬に添えられて、涙を拭き取る篤美の身体が、建太の目の前にある。
　篤美の甘い体臭がふわふわと漂って、Ｔシャツの下の膨らみにふらふらと手が伸びそうになってしまう。
　コーチに比べるまでもないほど小さな胸。
　その小さな胸に健太がボーッとなっている一方で、篤美もこんな時になんて言ったら良いか分からない。
　建太がコーチに憧れていたのは知ってる。
『でも、泣くことないじゃない。相手は人妻よ。それに』
　私がいるのに、とは、口が裂けても言えない。
　顔は日焼けをして、眉毛の形さえ整えていない篤美だが、くっきりとした目鼻立ちは、ショートの髪とぴったり似合っている。男の子と間違えられる動作も、実はきびきびしているだけで、粗暴なところはない。
　マネージャーとして、部員の世話を焼く姿など、おしとやかな女の子そのものだ。
　だから入学以来、上級生の男の子たちの人気ナンバーワンが篤美なのだ。
　まだ携帯を持っていないから、古典的なラブレターが届けられる。
　その度に、健太に読んで聞かせてから破り捨てて見せたし、放課後の教室でコクられる度に、笑い話にして、まじめな健太を怒らせてきた。
「何でそんなことをするんだ」
「男の子になんて興味ないもの。バッカじゃないの、このヒト」
　そう、健太の前では、好きとか嫌いなんて関係ないって言ってきた。
　心の中で『この、鈍感！』と叫びながら。
　だから、つい挑発する口調になってしまう。
「ね、ひょっとして、うらやましかった？」
　健太は一瞬びっくりした表情の後、口の中に虫が飛び込んできた、そんな苦い顔をして吐き捨てる。
「そんなんじゃ、ねーよ」
「素直じゃないなあ、ボクは」
　複雑なキブン。
『そりゃ、コーチは美人だけどさ。年上なんだよ。結婚してるんだよ』
　大人にはかなわないのかな、と、ちょっと落ち込んだその瞬間、突然、篤美は閃いた。建太の元気が出る方法。
『でも、恥ずかしいし。どうしよ。あれ？』
　気がついた。建太のジャージ。前が膨らんでるのをぎこちなく隠そうとしている。
『あら、可愛い、隠そうとしてるんだ。勃起ってやつよね。ふうん。健太ったら生意気じゃん。でも、今、おっきくなってるって、それ、私といるせい？』
　ちょっと得意なキブンになりながら、篤美は、小さいときに、一緒に入った時のことを思い出そうとした。どんなカタチだったっけ。
　思い出せない。
『さっきは、よく見えなかったもんね。建太のなら、少しくらいなら見ても、良いよね』
　コーチの影になって、よく見えなかった男の人のモノ。
　オシッコがでるところを舐めるなんてちょっと抵抗があるけど、建太のなら、ちょっとくらいしてあげてもいいか。
　好奇心半分。ちょっと、怖い。でも、それで建太が元気になるなら。
　パッチリした目を、きちんと健太の方に向けて、どきどきしながら、でも、できる限り、それがばれないように聞いてみる。
「建太、コーチみたいにしてあげよっか？」　
「コーチみたいにって」
「し、て、ほしい？」
　健太は仰天した。
　普段だったら、絶対冗談に決まっていた。もちろん、建太だって本気にしないだろう。
　ヘタに本気になったら、脱いだズボンを持ち逃げして、からかうなんて平気でやりそうなのが篤美なのだ。
『でも、今の篤美の目。いつかのコーチと同じような感じだ。うまく言えないけど』
　まだ、建太には分からない。
　それは、篤美にメスの感情が宿った証拠だった。あれほど衝撃的なシーンを見れば、女の子でも、欲情するのだ。
　そんなことがわからなくても、建太のオトコの本能は、突き進めと叫んでいた。
　篤美に襲いかかるなんて考えもしないけれど、目の前にいるフワリとした身体を抱きしめるくらいの勇気は、建太にもあったのだ。
　気がついたら、腕の中に抱きしめたまま、篤美の匂いを、コーチと比べていた。

『やっぱり、こんなことしなきゃ良かったよぉ。恥ずかしすぎるぅ』
　誰にも見せたことのない大事なところに建太の息が吹きかかる。
　くすぐったい。
　長距離選手独特の引き締まった黒い身体に乗る、まだふくらみかけの篤美の白い躰。
　篤美も痩せてはいるが、女の膨らみが徐々に出てきて、躰のラインが柔らかくなっている。腰はくびれて、胸だって、春からはＢカップをつけてる。　
　乳首は、まだ、ピンクの先端が埋もれているけれど、白磁を思わせる張りつめた肌が、お椀を伏せたような見事なカタチとなって、美しい胸となっていた。

　クルンと丸いヒップは、シミ一つないまま、きれいなカーブを描いて、なめらか曲線ですらりと長い足につながっている。
　その、細く長くて、ハーフパンツのところまで、真っ白い太ももは、健太の顔を挟み込んで降ろされている。
『ママにも見せたことないんだから』
　大事な部分を、健太の目にさらしているのだ。
『カーテン、閉じといてもらえばよかった。明るすぎる』
　さっきは、電気を消してと言うのがやっとだったのだ。
　でも、健太がすっごくうれしそうだったから。
『きっと、健太が見る初めての女の人だもの』
　健太がコーチのソコを見たことがあるなんて、思いもよらないことだ。
　自分のソコが、変な形じゃありませんようにと祈る気持ちになるのは、篤美だって、自分以外の女の子の場所のことを知っているわけではないからだ。
　健太が黙ったままなのが、篤美を不安にさせる。
『ひょっとして私のってヘンなのかな』
「健太」
「な、何？」
「私って」
　ヘンな形じゃないよねと言いかけて、あわてて口を閉ざす。そんな弱気なところなんて、健太に見られたくないもの。
　しかし、躰が震えていることまでは、気がつかなかった。
　ぶるぶると震えているのは寒いからじゃない。
『篤美のやつ、ふるえてる？』
　それは健太にとって「発見」だった。なんでもできて、頭が良くて、強気で、人のためならいつでも一生懸命な、アネゴ肌の篤美が、健太の上で震えている。
『篤美だって、緊張してるんだ』
　新鮮な驚きだった。
　驚きは、同時に、篤美への愛しさにつながる。
　丸いヒップをそっと両手で包み込むようにしたのも、エッチなつもりではない。
「あぁ」
　しかし、篤美は、突然、ヒップに健太の温かい手を感じて、ため息のような妖しい声を出してしまう。今まで経験したことのない不思議な感覚だった。
『あん、なんで、なんか、エッチっぽい声、出ちゃったよ。それより、健太、さわっちゃダメなのに』
　そう思うのだが、健太に、なぜか、手を離せと言えない。それどころか、微妙に動く手のひらから、ヘンな快感がわき起こって、もっと触ってほしくなってる。
　恥ずかしすぎて、建太が何をしてるか見ることもできない。
「あぁ…　触っちゃダメなのにぃ」
　恨みがましい小さな声で抗議したのも、恥ずかしさをごまかすためだ。
「うん、わかった。ごめん。これだけ。ね」
　健太は軽く受け流して取り合わない。それに、ヒップのすべすべした感触は、手を離すなんて、不可能だと思った。
　優しい気持ちになりながら、丸みを帯びたヒップを触り、女の子の部分を間近にみる。じっくり見る篤美の女の子の部分は、顔を近づけると、ドキドキする匂いがする。
『舐めてみたい』
　懸命に我慢するけれど、さっきからビンビンになっているペニスは、苦しくなっている。
「篤美、あのさ、ね、ほら、お願い」
　持ちかけてきたのは篤美なのだ。それでも、おねだりは、恐る恐るといった感じだ。
「う、うん、ごめん、ちょっと、心の準備が…　ね。よし、行くよ」
　篤美は、思い出したように、一気にパクッとくわえ込む。
　このままじっとしてるより、何かした方がマシに思えたのだ。
『わ、わ、わ、なに、なんか、ヘンなの。ちょっぴりしょっぱいけど』
　嫌な味じゃないって思った。
『なんかヘンな感触』
　カワの中に何か硬い部分。そして、篤美が歯を当てないように懸命に唇を閉じると、口の中でさらに大きくなってくる。
　中身が膨らんでくると、てっぺんの部分に余っているカワがどんどん少なくなってきて。
『あれ、先っちょって割れてるんだ』　
　舌先で探ってみると、先端が微妙に割れているのがわかる。
　さっきまで、バッチイかも、なんて思っていたのを忘れたように、舌先で探るのが楽しくなってきた。
　だって、健太のオ○ン○ンなんだもの。
『これで健太が喜んでくれるなら。ううん。なんだか、尽くしてるって、実感よね』
　篤美の舌が、するすると動く度に、建太の脚がヒクってなるのだ。
「こんなカタチしてたんだ」
　根本を握ったまま、口から一度出して改めて眺めてみる。
　カワが半分までめくれ亀頭が半ば露出していた。
『えっと、そうね、ワンちゃんの口の中の赤と同じ色。すっごく濃いピンクって感じ。それに、先っちょに唇がタテについてる』
　もっとよく見ようと、おっかなびっくり根本を動かしてみると、いきなり、クルンと先端の皮がむけてしまう。
　ヒクリと建太が震える。
『わ、わ、わ、ひぇ〜、痛くないのかな、あ、でも、こんなトコ、つながってたんだ』
　包皮が完全にクルリと向けたペニスを、まじまじと見つめながら、恐る恐る指先で触ると、腰がヒクンと逃げる。
「あ、ごめん、痛かった？」
「大丈夫。でも、そっと、ベロでしてくれるならいいんだけど」
「え？あ、うん、やってみる」
　恥ずかしさを忘れるように、舌先でペロペロとなめ始める。夢中になった。
　レロレロとする度に、健太の腰がヒクンと動き、気持ちよさそうなうめき声すら聞こえるのだ。
『やっぱり、ヘンな匂いだよね、ま、悪くはないけど』
　ついこの間、健太の仮性包茎の汚れは、コーチが舐め取っていたのだ。そうでなければ、いくら篤美でも、少し、嫌な思いをしたかもしれない。なんと言っても、初体験なのだ。
　チュパチュパと次第に吸い付く動きになったのは、オンナの本能だったろう。
　健太にとっては、急に速くなった動きは、たまったものではなかった。あっという間に、強烈な射精感が背中を駆け上ってくる。
『あぁ、出ちゃいそう、でも、このままじゃ、篤美の口の中に、きっと怒るよないくら何でも』
　だから、懸命に、出す瞬間を警告した。でも、本当はコーチの時のように飲んで欲しいのは当たり前だった。
「あつみ、あつみぃ、出すよ、あぁ、出る、出る、あつみぃ、でるっ、あ、そのまま、舌でゆっくりと、あう！」
　引き締まった、健太の尻がヒクヒクと震える。
　ドク。
　ドクドクと、躰の奥底から、いくらでも湧き出してくるように、健太は、強烈な快感の中で、引き金を絞り続けていた。
　喉を直撃されながらも、必死になって堪えた篤美は言われるがまま、懸命に舌でシゴキながら、健太の出したものを飲み込んでいった。
　ふ〜っと、健太の力が抜けた頃、もう良いだろうかと、健太のモノを口から外したとたん、篤美は激しく咳き込んだ。
「げほっ、げほっ、うわ、げほっ、やだ、これ、ケホッ、すっごい」
　むせかえる篤美に、しまったと思ったときには、すでに篤美の口の中にすべてを放出してしまった後だった。
「ごめん」
「ん？なんで？げほっげほっ。大丈夫よ、ちょっとびっくりしただけだから」
「ごめん」
「謝る必要なんてないわ。私がしてあげるって言ったんだから、げほっ、ごほっ」
　むせ返る合間にも、篤美の声は、いつもの強気を取り戻しているように聞こえた。
「だって、口に出しちゃって」
「私も、初めてだったから、よくわからなくって。もう大丈夫、でも、あんまりおいしいもんじゃないわね」
「え？ひょっとして、飲んでくれた？」
　ちょっとだけ、篤美は黙り込んだ後早口で、何かを言った。
「　…な人のだから、いいの」
「え？」
　篤美の言葉が、ちょっとだけ聞き取れなかった。
　まさか「好きな人」って、言ったのか？　まさか。
　とまどう健太の心を無視するように、あっけらかんとした声がする。
「うそ！まだ元気じゃない。雑誌には、一度出すと、フニャリとなるって書いてあるのに」
　そんなことが書いてある雑誌を篤美が読むんだ、と健太は思う。
　そのわずかな沈黙で、健太が考えたことは正確に見抜かれる。
「あ、違うの。女の子向けの雑誌には書いてあるの、健太が読むようなエッチなのと違うんだからね」

　いつか、ベッドに隠しておいたエロ雑誌を、篤美に見つけられて以来、そのことになると言い返せない。
「で、これって、まだ、収まらないってことよね」
　つんつんとした指先を、まだ硬いままのモノに感じる。敏感な先端ではなく、根本を優しく触ってくれるのが、うれしい。
「ごめん」
「また、謝ってる。いいの。今度は、どんな風に出るかわかるし、ね」
「また、してくれるの」
「乗りかかった船だもの。おねーさんにまかせなさい。こっちが元気なくなって、健太が元気になるまでつきあってあげる」
　こっちが、と言いながら、早くも健太のモノをしごき始める。ひょっとして健太のモノが硬くならなくなるまで、してくれるつもりだろうか。　
　篤美は、コーチのことが忘れられるようにね、っと心の中だけで言っていた。
　チャプっと再びしゃぶった瞬間、篤美は、今度は、自分の大事なところに、不意に息がかかるのを感じた。
『あぁ、見られてる、恥ずかしい、見ないで健太ぁ、恥ずかしくてどうにかなっちゃいそう』
　懸命に足を閉じたいと思うのだが、健太の顔を挟むように膝を降ろしているから、閉じられるわけもない。だから、誰にも見せては行けない場所を、健太に見られてる。
『え！え？え？』
　大事なところに、生温かい、ぐにゃりとした感触を感じた。
　とっさに、膝を閉じようとして、動けない。健太に腰を掴まれていた。
『舐めてる？』
　健太の舌が、篤美の恥ずかしい部分を舐めてる。
　そう気がつくのに時間はかからなかった。
「うそ、だめ、建太、そんなところ、汚い。くすぐったいよ」
　そう言いながらも、くすぐったいのとは違った、微妙な感覚が送り込まれてくる。
　いつのまにか、篤美は動けなくなる。
　健太の好奇心が次々と篤美の隅々を掘り起こすのだ。
「あぁ、ヘンなの、あん」
　そのたびに、甘い声が漏れてしまって、健太はますます、張り切ってしまうのだ。
「いやぁ、建太、やめて。やめてったら。あぁん、今すぐやめなさいったら。あう、ダメだったら。やめないと怒るよ。あん」
　微妙に言葉に甘いものが含まれてきてしまう。
「そんな、ダメだって。あん、ヘンな感じなの。ダメ、やめろぅ。やめろってばぁ、あう！お願い。やめてったらぁ、あぁん」
　やめろと言いながら、躰がどうかしてしまったように動けない。
『あぁ、恥ずかしいけど、なんだか、続けて欲しくなっちゃったよぉ、健太ぁ、あぁ』
　舌が恥ずかしい部分にわずかに入ってきた。
　ピリッとした痛み。
「痛い」
「ごめん」
　うかつに声を出してしまったのを篤美は後悔した。
『したいようにしていいのに』
　入り口をあきらめた健太の舌が、代わりに、小さなクリトリスを集中的に攻めてくる。
「あふぅ」
　ため息のような声が漏れてしまう。
　なんだか躰が自分のモノじゃないみたいになってる。腰がじーんとしびれた感覚。
　不意に、下から伸びた手が、大きくなりかけた胸を触ってくる。
　いつの間にか尖って飛び出した乳首を指先でコリコリとされながら、クリトリスをじゅるじゅると舐められると、篤美のかわいい声が、こらえきれずに続けて漏れてしまう。
　健太は、顔中、篤美の秘液でビショビショにして、夢中で舐め、乳首をコリコリと転がす。
　雑誌で読んだはずの知識、そして、コーチとの、あの素敵な体験のすべてを試しながら。
　まだ、うっすらと生えたばかりの秘毛をよけながら、懸命にクリトリスを啜り上げたときだった。
「あん！」
　ヒクンヒクンと篤美の腰が動いて、秘液がジュッという感じで、新たににじんできた。
「ふぅ〜」
　篤美の躰から一気に力が抜けてしまう。
『逝ったんだ…』
　篤美が、大人と同じように逝くっていうのが何となく不思議だった。
　そのくせ、自分のペニスは、かちんかちんになっていた。
　健太のモノをしゃぶりながら、コーチのペニスを受け入れていた菜緒コーチの姿が浮かぶ。セックス。
『だめだ、だめだ、篤美は、まだ、早い。きっと嫌がるよ』
　力の抜けた篤美の秘所は、足を広げている分だけ、外側に広がり、中にあるピンクの入り口がのぞいている。
『ここ。ここに入れれば』
　でも、無理矢理入れるなんて、思いもよらないことだ。
「ね、健太、あのさ、私のこと…」
　ボソッと聞こえる篤美の声は、聞いたこともないほど、頼りなさそうな声だ。
　一瞬、ためらったように声がとぎれ、次の瞬間は、トーンが変わる。
「健太、あのさ、もし、したいなら、いいよ。最後まで。えっと、あの、勘違いしないでよね。誰でもってわけじゃなくて、あの、その、えっと健太が元気になるようにって」
　幼なじみの篤美が無理してることなんてすぐにわかる。
　だから、健太は、躰を入れ替えて、篤美の柔らかい身体を抱き起こす。
「篤美。ありがとう」
「何よ、急に」
　どきまぎしたように背ける篤美の顔を左手で、こっちに向ける。
　逆らわない。パッチリした黒目がちの瞳を、そっと閉じてしまう。
「む、むぎゅ」
　熱いキス。そのまま、ぐっとすべすべした柔らかな背中に手を回した。
　二人のファーストキス。
『柔らかいなあ、篤美の唇』　
　そう思った瞬間だった。
「だめ！」
　いきなり、健太を突き飛ばす勢いで口をもぎ離した。
「だめ、だって…」
　心配そうな顔の健太に、篤美は、申し訳なさそうにする。
「あのさ、まず、顔、洗ってからじゃだめ？」
　健太の顔は、篤美の秘液でビショビショだったのだ。
　思わぬ「キスが嫌な理由」を告げられて、健太はつい笑い出してしまう。
「あの、さ、ほんとは、あの、私さ…」
　そこには、自分の気持ちも告白できない、ナイーブな女の子がいた。告白するなら男の役目だ。もう通じているはずの気持ちを言葉にする。
「篤美、好きだよ」
　ぐっと抱き寄せると、篤美が、ほんの小さな声で「私も」とささやく。
　なんで、篤美が泣いているのかわからない。
　健太は、篤美の涙を胸に受けて、壊れそうな篤美の躰を抱きしめたら、とてもじゃないけど、セックスなんて無理な気がした。

　結局、顔を洗うこともなく、篤美の口に三度放出し、篤美も二度逝かせたのが、幼なじみが「恋人」となった儀式だった。
「高校に受かったら、初めてを、お祝いにね」と約束したのは、どっちから言い出したことだったのか。
　それが、果たせぬ約束となるとは、幸せな二人に知るよしもなかった。

　いつのまにか、妻が帰っていました。練習後でもないのに、珍しく夕方、風呂に入っています。
　シャワーの音が響く中、妻のシルエットが、スリガラスに映ります。
　洗濯物のカゴには、妻が着て行ったデニムとスプリングセーターが置かれています。
「帰ってたんだ」
　シャワーの音で私のことに気がつかなかったのでしょう。顔を出した私に、妻が、昼間に出た幽霊を見るように、ビックリした顔をしています。
「何だよ、そこまでビックリされると、なんだか悪いことしたみたいだよ」
「え、私、そんな、何にも…悪いことなんて」
　ひょっとして、店をほったらかして、シャワーを浴びていることを私が非難していると受け止めたのでしょうか。妻が言い訳のように、棒立ちになってしまいます。
「ご、ごめんなさい。けっこう風が強くて。土手を通ったら、砂まみれになっちゃって。お店、すぐ行きますから」
　別に、そんなことを責めるつもりなんてないのです。ゆっくりしておいでといったのは私の方です。
「違うよ、別に君を責めてるんじゃなくて、君をビックリさせて、僕が悪いことをしたみたいだねって」
「そんな、あなたが悪いなんて」
「とりえず店はヒマだから、こっちは一人で十分。少しのんびりしたら？疲れたろ」　
「え、えぇ、まぁ、あの、ああいう所って苦手だから」
　そうです。大学以来、妻は賑やかなお店が苦手です。精神的に疲れるようなのです。携帯の店も、妻にとっては陸上トレーニングよりハードな場所かもしれません。
「じゃあ、ゆっくりしてね。大丈夫だから。でも、いつの間にか、風が出てきたんだね。店にいると全然分からないよ」
　ふるふると震える柔らかな乳房の頂点に、ピンクの尖った乳首が見えます。私の視線に気づいたのか、さりげなく私の目から隠そうとする妻の動きに、妙に色っぽさを感じます。
　そんな妻を見れば、当然、胸に手が伸びると言うものです。
「きゃ！」
　いきなり、妻が身を引いて、私の手から逃れました。なんだか、見知らぬ女性に痴漢をして、騒がれているような感じです。
「奈緒、そんな冷たいなあ」
「あなた、だめ。今、汚いの。ごめんなさい」
「そんなあ。ちぇ、ちょっとくらい、さ、減るもんじゃないんだし」
「お願い、今はだめ」
　妻の困惑したような顔には、本気で私の手を避けたいと書いてあります。別に、無理に触ることもないのです。
「じゃあ、今日は夜、楽しみにしちゃおうかな。サービスしてくれる？」
　気を取り直して、わざと楽しげに話しかけます。こんなことで夫婦げんかをしても始まりませんから。
「え、えぇ、あなた。夜に。じゃ、お願い、締めて、ドア」
「はあい」
　笑顔で扉をわざとゆっくり閉めます。締まる一瞬、妻が何か言いたそうにしたようなきがしました。
『どうしたんだろ』
　妻の様子をいぶかしみながら、何気なく、脱いだ洗濯物を弄っていました。いつも、脱いだ下着も服の下に入れるのです。
　別にどうということはありません。何となくイタズラして、服の上に載せておいてやろうと思っただけなのです。きっと、恥ずかしがってくれるに違いありません。
「あれ？ない」
　思わず呟いていました。あるはずの、妻のパンティーとブラが見あたりません。
　もちろん、いつものように、色気のない、スポーツタイプを着けていたのでしょうが、ありません。なんだか、キツネにつままれた気分とはこのことです。
　まさか、下着を着けないで外出するなんて趣味はないはずです。
　でも、シャワーを浴びている本人に「着ていた下着はどこ？」なんて聞けるわけがありません。本気じゃないにしろ、眉を逆立ててみせるに決まってますから。
『ひょっとして。バレてたかな』
　シャワーに私が気がついたら、イタズラするだろうと、妻にしては珍しく先読みして、隠しておいたのかもしれません。多分、そんなところでしょう。
　私は、ちぇっと舌打ちして、気分転換に、吹き始めたという、春風に当たって見ようと思いました。