3　人間を棄てる夜

　実は、二人ともそんなにお腹はすいていない、ということがわかるまでにそんなに時間はかからなかった。それならば軽くつまみ程度のものを作ってビールでも飲みましょうということになった。
「これは、傘にいれてくれたお礼ですから」「小椋さんは座って先に飲んでてください」と彼女がなかば強引にボクを座らせ、料理を始めた。
　上着を脱いだ彼女はピッチリとしたジーンズに白いＴシャツだった。電車の中ではユニセックスな印象のパンツスーツ姿だったのに、今はちょっとボーイッシュ。でも、どちらの姿もボクの目を釘づけにしてしまうような女性美に満ちている。
　ダイニングキッチンのテーブルに座り、ぽうっと見とれるように彼女の後ろ姿を見ていた。
（完璧だよなぁ、、、）
　細く長い脚、そこから大きすぎないヒップへときれいな曲線が描かれている。大きすぎずでも貧弱でもなくまるいシルエットになっているヒップから、細いウエスト、女性らしい線の細い背中から、小さな肩、その上には白くて長い首と小さな後頭部。そこには電車の中で見た真っ黒なストレートヘヤが束ねらていた。
　ぼくはモヤモヤとした変な気分になってしまった。

　ボクらはビールと、後から赤ワインも飲みながらいろんなことを喋った。彼女のせいですっかり酔いがさめてつもりだったボクだけれども、飲み直し始めるとあっという間に酔いが戻り、さめたというのは錯覚だったと気づいた。でも、おかげで妙に人見知りせずに彼女と話すことができた。
　でも、ちょうどよい酔い具合の時間は短くて、あっという間に酔いすぎの状態に移ってしまった。ボクは酔うと眠くなるタイプで、酔っぱらってかなり眠くなっていた（けれどもこんな女性と二人で飲んでいるのに寝ちゃうなんてできないと必死に我慢していた）ころ、彼女が冗談ともつかない口調でヘンなことを言い始めた。
「ねえねえ、小椋さん、わたしって実はヴァンパイヤなんだ」
　もちろん、ボクは冗談だと思ったから、彼女に話を合わせた。
「そうなんだ、じゃ、ご飯の代わりに血飲んで生きてるの？」
「う〜ん、そうじゃなくて、ご飯代わりじゃなくて、エッチなんだ」
「ん？男の人のアレ・・・吸うの？」
　あまりバカなことを言うと軽蔑されてしまうと思いつつも、かなり酔っぱらって頭がクラクラする。
「ヤダ、違いますよぉ。血を吸うんです。」
「あ、そうか、そう言ったよね。」
　ボクは改めて彼女を見た。ニコニコと微笑みながらボクを見ている。頭がよけいにくらくらしてきた。
「で、じゃ、コウモリに変身したりとか、ニンニクを嫌がったりするの？」
　と言ってみたりしたが、目の前に彼女が作ってくれたガーリックトーストが皿にまだ数切れ残っている。思わずボクはそれを口に入れた。
「そんなの迷信ですよ。ヴァンパイヤだって年取ったり寿命があったりしないだけで、普通に生活して、事故にあったり殺されたりしたら死にますってば。」
「ふ〜ん、そうなんだ・・・年取ったりしない・・・じゃ、えっと、ほんとは何歳くらいなの？」
「う〜ん、たぶん、もうすぐ九百歳くらい」
　もう一度、彼女を見た。ニコニコだけじゃなくて、目をキラキラとさせてこっちを見ている。微笑み返そうとしたが、がくんと首の力がぬけ、すぐ目の前にテーブルの面が迫ってきた。
　ゴツン！
「あいた。。。」
「もう、せっかく重大な打ち明け話しているのに、寝ないでくださいよ。」
「ゴメン、ゴメン。。。で、どうして、んな重大なことを、しゅ対面の、ボクに話すの？」
　かなりもう舌がマメらなくなってる。目を覚まそうと頭を振ってみるが、よけいに酔いが回っただけだった。
「ヴァンパイヤは人の心の中がわかるんです。どういう人かは数十分一緒に過ごせば、十分わかるんです」
　ボクはもしかするとすごく光栄なことを言われているのではないかとかすかに思いつつも目の前がふーっと暗くなり、眠りに落ちた。

　狭いワンルーム、、、そうだ、ここは大学生時代にボクが住んでいたアパートだ。布団の上でボクは全裸になっていて、ボクの上には学生時代付き合っていた美佐が乗っている。
（う〜ん、そんなに動かしたらあっという間に出ちゃうよぉ）
　そう思って美佐の方を見ると、ボクの上に乗っている女性が、あの麻衣子さんに変わっていた。
「あっ！」
　ビックリして目を覚ますと、相変わらずダイニングテーブルに座っていた。そして目の前には麻衣子さんがクスクスと笑ってこっちを見ている。
「ボク、、、いや、わたし、どれくらい寝てましたか？」
「ほんの十分くらいですよ。」
　彼女は可笑しくてたまらないという口調で答える。
「ゴメンなさい、酔っぱらって寝ちゃって」
「ん〜ん、いいの。それより大きな声出して、どんな夢を見てたんですか？」
「ん、いや、その、ちょっと。いろいろ...」
　どう答えたらいいものかとドギマギしていると、
「実は知ってるんですよ。小椋さんの昔の彼女、チャーミングだから嫉妬しちゃった。だから彼女の役割、横取りしちゃった。」
　彼女はイタズラっぽく微笑みながらボクにそう言った。
（そんなバカな。。。）
　いや、もしかしたら寝言で美佐の名を呼んで、だからそれを聞いた彼女がカマをかけて言っているだけなのかもしれない。
　とにかく話題を変えよう。
「ところで、890年前くらいだったっけ、生まれたの、そのときはどんなだったの？」
　まだ充分アルコールは回っている、でもちょっとだけでも仮眠をとったおかげで、少しは頭がまわるようになった。
　彼女はその風変わりな物語の続きを話してくれた。
　今で言うフランス南部の小領主のうちに生まれた彼女は、初潮を迎えてすぐくらいに、近隣の領主のもとに嫁にやられた。夫は倍以上も歳の離れた荒くれ男だったが、彼女には優しかった。夫婦仲もわるくはなかったが子宝には恵まれなかった。結婚して十年ほどたち、夫が戦争のケガがもとで寝込みがちになったころ、リュラを手にした騎士が流れついた。
　彼女の話では、流れ者の騎士が居候するのは当時は珍しくなく、彼女のいた城にも実際、武者修行の途中で逗留している若い騎士が何人もいた。彼はそういう騎士の一人で、西の方から流れてきた。彼は剣の腕もずばぬけていたし、外見も申し分なかった。でも、それだけではなくて、西の都会の方ではやっていた愛の歌を得意にしていた。
「リュラを弾きながら、複雑な韻を踏むロマンス語の歌を歌ってくれたの。」
　そう言いながら、彼女はあの表情を・・・電車の中でボクが盗み見てしまったときのあの悲しげな表情をした。
「その人とついに関係を持ってしまって、その結果、ヴァンパイヤになって、現在へと至っているわけ。」
　なんだか努めて明るく言ったような気がした。
　ボクはその彼女の顔を見ながら...
（この人の恋人になれるなら、ヴァンパイヤになってしまっても後悔しないだろう）
　などと考えていた。
「で、日本に来たのがだいたい80年くらい前・・・ね、聞いてる？」
「あ、うん。そっか、それまでどこにいたの？ほら、例えばフランス革命とかどうだった？」
「あのときは、かなりやばそうだったから予め新大陸に渡ってたんだ。でも、向こうは向こうで独立戦争のゲリラ戦とかあってたいへんだったんだけど。」
　彼女は「もうずいぶん昔だからかなり忘れてしまっちゃった」とか言いながら、いろいろな歴史上の事件を話してくれる。ホントなんだろうか？作り話なんだろうか？区別がつかない。高校のとき、歴史の授業、ちゃんと聞いておくべきだったと後悔した。
「満くん、起きてる？」
　話していて結構時間がたった、ボクはまた酔いが回って眠くなってきていた。
「ゴメンね、わたしばかり喋ってたもんね、退屈しちゃったでしょ？」
「いや、そんなことないよ、面白い話しだし」「じゃあ、眠っちゃヤダぁ」
　彼女が甘えるように言うが、ふうっとまぶたが重くなって目を閉じてしまう。そのとき、テーブルの上のボクの手にふと彼女が手を重ねる。
　バチバチっと音がしたような錯覚を覚えた。まぶたの裏にさっきの夢の続きが、、、彼女が裸でボクの上に乗っている姿がありありと映った。
「はっ！」
　あわててボクは目を開ける。
「だから、寝ちゃヤダって言ったでしょ」
　ボクは目を白黒させて、言葉を失ってしまった。
「ふつー、眠くなる前に口説こうってするんじゃない？もしわたしが小椋さんの心の中わからなかったら、きっと、わたしになんか興味ないんだって思ってわ。まったく。」
「え？え？？？」
　かなり混乱しているボクの手を引いて彼女はボクをテーブルの向こうにあるソファーのところまで連れていった。そしてソファーにボクを押し倒し、上に乗って・・・
「だから、まだ、眠っちゃ、ヤ...ダ...」
　ゾクッとするような色っぽい笑みを浮かべてそう言い、ボクにキスしてきた。

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　喉がからからに目が覚めた。
　ボクはソファーの上で全裸で寝ていた。そしてその上に全裸の彼女が、、、麻衣子さんがやはり全裸で眠っていた。
（セックスしたのかな？）
　彼女がボクを押し倒して服を脱がせ始めたことまでは覚えている。その後、あまりの興奮によけいに酔いが回って・・・
　なんて惜しいことをしたんだとも一瞬思ったが、ボクのその部位は、朝の自然現象でギンギンになって彼女の体にあたっている。
　彼女の肌は、柔らかくて滑らかですべすべした感じだ。そのことを意識するとますますこわばりの程度が甚だしくなった。
　彼女はボクの胸に頬を押しつけたまままだ寝息を立てている。わりと背が高くて完璧なスタイルだと思ったのに、服を脱ぐと華奢な印象で、ボクの上で眠っていてもそんなに重く感じられない。
　ボクは彼女の寝顔を見ていると無性に彼女にキスをしたくなった。でも、この位置からは彼女の唇に届かない。
（起しちゃおうかな？でも、せっかく寝てるのに悪いよな）
　などと、イジイジ迷っていたら、やっと彼女が目を覚ました。顔を持ち上げてこちらを見る。
「おはよ。昨日はもうひどいんだから。わたし傷ついちゃった。」
　すねたように唇をとがらせる。
「ゴメン、、、その代わり、今からシヨ」
　ボクがそう言うと彼女は上半身を起して改めてボクをにらみつけた。ボクのからだに押しつけられて隠れていた胸が見えるようになった。昨夜の幻影のとおり、きれいな形で思わず見とれてしまいそうになる。
「やだ、どこ見てるの？目がエッチっぽいよぉ」
　そう言って彼女はボクをからかうと、覆いかぶさってきてキスをし始めた。
　最初は唇をかるく重ねるだけ、何度も重ねると少し左右にずらしたりして、それから強く押しつける、そして唇を割って舌が侵入してきた、ボクも舌で応戦して、いつの間にか激しく舌をからめていた。
　舌を絡めさせたまま、彼女は手を下にやってボクのこわばりをつかんだ。
「やだ、見かけによらずリッパなんだ」
　一旦唇を離して言う。
「貧弱そうに見えた？」
「だって、誘惑してたのに酔っぱらってさっさと寝ちゃうんだもん」
　またすねた表情に戻った。すねるときれいな顔がかわいらしい感じに変わる。
　彼女はボクの先っぽを彼女の入口あたりにかるく押しつけグリグリと前後に、それから円を描くように動かした。彼女のそこはもう充分すぎるほどに濡れていた。
「こんなに濡らしているからエッチなオンナだって思ってるんでしょ？」
　すねたふりの表情のまま言った。ボクは慌てて首を振って否定したんだけれども。
「さんざん焦らされたからよ。」
　そう言って下半身をボクの下半身へと、ゆっくりと、沈めてきた。
　彼女はボク自身を根元まで飲み込むと、いったん動きをとめた。
「ねえ、ホントにいいの？後悔しない？このままじゃ人間に戻れなくなるよ。人並みの幸せを望めなくなるのよ。」
　彼女の目はいつまにか優しく、それでいて憂いを帯びたものに変わっていた。なぜだかわからないけれども、ボクはそのときはもう、彼女の話を疑っていなかった。
　でも、それでも、彼女がボクを選んでくれたのなら、ボクは人間を捨てていいと思った。
「なんだか男女、普通の逆みたいだね」
　にっこりと微笑みながら彼女に言った。
　彼女はまたキスをしてきて、器用に下半身を動かして、出し入れをはじめた。
（ダメだ、これじゃ彼女を逝かせる前に自分が逝っちゃう。）
　そう思ったボクは上半身を起し、彼女の腰に手を回して起き上がった。
「あ、ダメダメ、刺激強すぎ。ちょっと体勢、入れ代わろ。」
　そう言って彼女と上下を逆になった。彼女はソファーにあお向けになり、ソファーの背で上半身が少し起き上がっている。ボクはソファーのそばで膝立ちになり、Ｍ字に開いた彼女の脚を手に抱えている。
　そしてやっと彼女の裸体全体を見ることができた。
「すごくキレイだよ、人間離れしてる。やっぱり人間じゃないってホントだったんだって思うくらいキレイだ。」
「イジワル」
　彼女ははにかんで目線をそらす。
　ボクは小さく腰を動かして先っぽだけを彼女の入口にくぐらせる。ボクが届いてない彼女の奥の方がじれてヒクヒクとなっているのがわかってしまう。
「麻衣子ちゃん、エッチなんだ。ほら、ここ、奥まで入れて欲しがってるよ。」
「そんなイジワル言うと、、、噛みつくときに、あっ！・・・もう、痛くしちゃうから。」
　少しだけ深めに差し込んだ。ジュッって音が聞こえそうなほど勢いよく奥から愛液が湧き出てきた。
　ボクはすぐに逝っちゃわないように頭の中で10まで数えながら、1から8までは先っぽだけ、そして9と10はふかく根元まで埋めこんだ。
（・・・9）
　彼女の奥はすごく熱くなっていた。ヒクヒクと反応しているところを引き抜き、次に備える。
（・・・10）
　奥でコツンと突き当たり、彼女の中がキュッとしまりかける。ボクはゆっくりと感触を楽しみながら引き抜いた。
「だめ、もうちょっと、やだ、やだ」
　彼女は小さな声で、でも強く催促した。でも、ボクはまた数え始める。
（・・・1・・・2・・・3・・・4）
　ついつい間隔が短くなりそうになるのをグッと我慢してゆっくり出し入れする。彼女は我慢できなくなって腰をむずむずと前後に動かしはじめた。
（・・・・5・・・・6・・・・7・・・・8）
「いくよ」
　そう言って彼女の目を見ると、まるで泣き出しそうな、あぶないほど色っぽい表情になっていた。
（・・・・9）
　また、奥でコリッという感覚があって中がキュウっとしまるが、ゆっくりと引き抜く。
「あ、ダメぇぇ」
　彼女が引きとめようとする。
（・・・・10）
　再度、ゆっくり根元まで埋めこむ。そして今度は下半身をグッと押しつけて、押しつけたまま円を描くようにグリグリと動かす。
「ああぁぁぁ、、、、」
　彼女がついに押さえきれずに声をあげる。
　ボクの根元が彼女の入口でキューッと締めつけられ、先っぽの方は逆に動きが自由になる。円を描くように腰を動かしていたから先っぽが奥でぐるっと円を描くように動いた。
　彼女が手足をからませてボクに掴まってきた。そしてさらにグリグリと下半身を押しつけて上下左右に動かす。
　彼女の奥でボクの先っぽが前後左右にコリコリッという感覚を味あわされる。一気にボクも限界に近づいてしまう。
「あ、ダメだよ、我慢できそうもない・・・」
「来て・・・わたし、ずっと逝きっぱなし・・・早く来て、一緒に逝って・・・」
　ひしっと抱き合ったまま互いに腰を動かして下半身を押しつけ動かし合って、それからすぐにボクも絶頂に達してしまった。
　彼女の奥に精を放ち、ビクビクとなって体を動かせなくなったとき、彼女がそっとボクの首筋に歯を立てた。
　ボクは彼女とつながったままその感覚にうっとりとなってしまった。