３．じゃぁな、美希

「・・・・塾。テストがあるの」
　ようやく美希は、答えた。
　本来なら、その予定だったのだ。
「そう」
　拓人が驚いたように美希の顔を覗き込んだ。
「俺も塾、テストなんだけど・・・いっしょかな？もしかして」
　見れば、拓人は、それらしいバッグを提げている。
「○○予備校？」
「そう。・・・俺は、夏休みだけだけど・・・・」
　拓人が笑った。
（笑ってる・・・・西条君が・・・・）
　美希は、拓人が笑っているところを見るのは初めてかもしれなかった。
「いっしょに行く？」
「えっ・・・・・ええ」
　美希は、塾の行く気はなかったのだが、自分から言ったことだ、行かないとも言えない。

「田沢・・・・ずっと塾行ってんの？」
　拓人がこんなにしゃべるのが美希には意外だった。
（どうしてこんなに・・・・・）
　美希は、拓人を疑っていないわけではない。
「中学からずっと・・・・」
「ふーん。面白いかい？」
「別に・・・・・」
　美希はぽつんとそう言って、慌てて言葉を足した。
「西条君は、どうして塾に？」
「自習室が自由に使えるんだろ？」
「ええ」
「家でずっと冷房入れてると、肩身が狭い」
　美希は思わず笑った。
　肩身が狭いというような言葉を同級生の口から聞くとは思わなかった。
「おかしいか？」
「ううん。・・・・ごめんなさい」
「俺、あまり人と話さないから、ことばとか・・・おかしいかもしれない」
　拓人は真面目な顔で言う。
　美希は、今度は声に出して笑った。
「おい。いくらなんでも・・・笑いすぎだろ」
「ごめん。西条君、変なこと言うから・・・・」
「おいって・・・声でかいよ。変なこと言ったみたいだろ」
「ああ。ごめん・・・・」
　美希は、小さな声で謝った。
　塾は目の前で、周りに数人、塾の生徒らしい学生が歩いている。

「どこの教室？」
　入り口を入って、拓人に訊いた。
「４０２って・・・」
「そう。わたしは、この奥なの」
「そう。じゃぁな、美希」
「じゃぁ・・・」

（美希って呼んだ。わたしを美希って・・・・）
　美希は、振り返って階段に向かう拓人を見た。
（違うわ。やっぱり・・・・）
　美希には、拓人が、あの日、壁の向こうにいたとは思えなかった。
（あんなとこ見られたんなら・・・・あんな普通に話しかけてこない・・・・たぶん）
　そう思いたかった。

４．もういや

　テストの合間の休憩中にまたしてもメールが来た。
　今日、２度目だ。
（もう・・・・いやだ）
　美希は開かず、携帯の電源を切った。

　テストが終わり、もしかしたらと美希は玄関先でそれとなく拓人を探したが、いたのは・・・里美だった。
（どうして・・・・どうしてここに・・・・）
「おい。なに逃げようとしてんだよ」
　さっと脇をすり抜けようとした美希の腕を里美がつかんだ。
「こっち来な」
　美希は里美にぐいぐい引っ張られた。
「いや。もういや」
　美希は、里美の手をふりほどこうともがいた。
「おい、こんなとこで・・・・見られてるよ。周りに・・・・いいのかい」
（拓人・・・・）
　美希は拓人の姿を探した。
　・・・・・・・・いない。
　こんなところを見られたくはない。
（もし、見られたら・・・・・ああ・・・・・・）
　美希の手の力が緩んだ。
「はやく来るんだよ」
　美希の心を見透かしたように里美が、美希を促した。

「スルーかよ、美希ちゃん」
　いきなり優美に腹を殴られた。
　例によって麻子と里美が壁を作っている。
「いや・・・もうやめて・・・いや」
「ごちゃごちゃ言ってないで・・・行くんだよ」
　里美に背中を突き飛ばされた。
「ほれ、あそこの車だよ。行かないんなら・・・・」
　優美が携帯を取り出した。
「２学期は、学校に行けなくなるよ」
　美希は、車に向かった。
　行くしかなかった。

　サングラスをかけた髭の男は、美希が乗ると何も言わずに車を出した。
　車は、いつものようにラブホではなく、ごく普通のマンションに止まった。

「美希っていうのか？」
　部屋に入ってソファに座って初めて男が口を開いた。
　美希は立ったまま、うなずいた。
「後ろを向け」
　美希は、黙って後ろを向いた。
「パンツを脱げ」
　言われたとおり、ショーツだけを・・・・・脱いだ。

「スカートを持ち上げろ」
　自分でスカートのすそを・・・・・・・持ち上げた。

「こっちを向け」
　・・・・・・・・・・・・向いた。
「シャツを脱げ」
　ジャケットと脱ぎ、シャツも・・・・・・・・・・・脱いだ。

「ブラをはずせ」
　･･････････････・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はずした。

「後ろを向け」
　・・・・・・・・・・・・・向いた。
「壁に手をつけ」
　乳房を押さえていた手を壁に伸ばした。前かがみになる。
　壁に・・・・・・・・・・手を･・・・・・・・・・・・・・・・ついた。

　男が、近づいてくる。
　スカートをまくる。
（ああ・・・・・）
　美希は、目をつむった。
　男の指の腹を、美希の股間の襞にそってあてる。
　男は指全体を小刻みに震わせながら、襞の内側に指を入れてくる。
「うう・・・・うう・・・・」
　美希がまたうなりはじめた。

「いつからやってるんだ、こんなこと？」
（やってなんかいない）
　男に訊かれても、美希は答えない。
　男の指の振動が速くなる。
「うう・・・・うう・・・・」
　長かった。
　男は指の腹から横そして背へと指を回転させる。
　触れる感触が、柔らかかった指の腹からごつごつした骨の感触に変わる。
　忍耐の糸が切れそうになる。

「座わりな」
　男は、美希を壁に背を当てて座らせた。
「手で出して・・・」
　男の股間が美希の目の前だ。
　美希は、ジッパーをおろし、男のものを取り出した。
　まだ、ふにゃっとしたままだ。

　男がそれを突き出し、美希の口元に当てた。
（いや・・・・いや・・・・）
「口をあけろ」
　男の口調が荒くなる。
　美希が、口をあけると、すぐにそれは侵入して来た。

　美希の口の中でそれはだんだん大きくなっていく。
　不意に男は美希の両腕の手首をつかみ、腕を引っ張りあげて壁に押し付けた。
　壁にはりつけられた形だ。
　太くなった男のものが美希ののど深く入ってきた。
　後ろは壁だ。美希は顔も壁に押し付けられた。

　男は、激しく突いてくる。
　美希は、何度か壁に後頭部をぶつけた。
「青臭いおま○こより、こっちのほうがいいな」

（いや・・・・いや・・・・・・・いやーっ）
　美希のどこにそんな力があったのか？
　美希は、壁に押し付けられた腕を引き戻し、顔をそむけて、男のものを吐き出した。
「いやぁー」
　絶叫だった。
　美希は、男を突き飛し・・・・・、その手は、ポケットへと伸びた。