５．よせっ

　美希は、何かに取り付かれたようにポケットから紙袋を取り出すと、すごい勢いでそれを破った。
　中には、皮の袋がひとつ。
　それを取り出すと、袋の紐を引いた。
　バタフライナイフは、袋から出ると同時に刃が飛び出した。

「よせっ」
　男が駆け寄り、美希の腕を抑え、ナイフを払い落とした。
　美希は、ナイフを自分の手首に当てたのだ。
「うわぁー・・・・」
　男は、身動きができないほどきつく美希を抱きしめた。
　美希の泣き叫ぶ声が、男の胸の中に吸い込まれる。
　やがて男の胸の中で、美希の絶叫が嗚咽に変わっていく。
　それでもまだ、男はぎゅっと美希を抱きしめ続けた。

「やらされてるのか？」
　男の声は、うって変わって優しかった。
　美希は、ただうなずいた。
「どうして？・・・・脅されてるのか？」
　また、うなずいた。
「そうか・・・・かわいそうに・・・」

　ようやく落ち着いた美希の体を少し自分から離して、男は美希の顔を覗き込んだ。
「話してみるか？俺に・・・・」
　男と目があった。
「わたし・・・・・」
　話しかけて、・・・・美希は涙が止まらなくなった。

　話し終えるのにずいぶん長い時間がかかった。
「そうか・・・・」
　その間、男は美希の肩を抱いたままじっと聞いてくれた。
「悔しいんだろ・・・」
　また、涙があふれた。
「お前に客をあてがってたやつは、今野っていう男だ。お前をやったブルセラ屋の男だ。優美は、今野に言われて、女を調達してたってわけだ・・・・」
「おじさん・・・・？」
　男が何を言おうとしているのか、美希にはよくわからない。
「あいつは、もうこの街にはいないし、たぶん、２度とここには帰ってこない」
　男は、独り言のように続けた。
「おじさん・・・誰？」
「さぁ、誰だろね」
　男は、美希の肩から手をどけ立ち上がった。

「おじさん・・・血」
　男のふくらはぎから血が流れていた。
　美希の手からナイフを払い落としたときに切ったようだ。
「ごめん。わたし・・・知らなかった」
　血の筋は、もう足首にまで達していた。
「たいしたことはない」
　男は、ティッシュで血を拭くと、救急箱を取り出し、さっさと包帯を巻いていく。
「ごめんなさい・・・わたし・・・」
　美希は、男のそばによった。
「いいんだ。気にするな。それより、２度とするな。いいな」
　美希はうなずいた。

「服を着な」
　男が、美希のほうに服を投げた。
「いいの？・・・・おじさん、まだ・・・・」
「気にするな」
「でも、お金払うんでしょ？」
「そうだな、じゃぁ、これをもらっとこうか」
　男は、美希のバタフライナイフを手に取った。
「いいの？それで・・・・」
　今度は美希が、男の顔を覗き込んだ。
「俺に抱かれたいのか？」

「・・・・・いいよ・・・・それでも・・・」
　美希は、それでもいいような気がした。

６．できるの？

「いいよって？・・・どうした、やっと俺が意外といい男だと気づいたか？」
「そんなんじゃないけど・・・・」
　美希に冗談は通じないようだ。
「マジに返すなよ」
「ああ・・・ごめんなさい・・・」
　美希の表情がやっと緩んだ。

「いいんだな？」
　男は美希の顔を覗き込む。
「うん」
　美希は、うなずいたが、男が美希の肩に手をかけると、言葉とはうらはらに美希の肩に力が入った。
「立って・・・」
　男は、美希を立ち上がらせ、ベッドに連れて行く。
　少なからず美希は後悔したが、いまさら、もう遅い。
　男は、美希をベッドにうつ伏せに寝かせた。

　てっきり口だと思い込んでいた美希は、少しほっとした。
　うつむいていれば、相手の顔を見ないですむ。
　美希は目を閉じた。
　男は美希のお尻の上にまたがった。男のものがちょうど腰のくぼみの上に乗っている。
　手が肩に伸びた。肩から脇へと流れ、今度は背骨に沿って腰まで降りる。
　男の手のひらが温かい。
　男のお尻が美希の太ももの上に滑り降り、手は美希のお尻を丸く撫でる。
　手の動きがやさしかった。
　愛撫というよりマッサージだ。
　次第に美希の体から力が抜けていった。

　男は、さらに美希のひざの裏側にまでさがって、美希の足を少し開かせて座った。
　男の手が美希の腰をつかみ後ろに引っ張る。
　美希は、引かれるのに応じてお尻を浮かせて、後ろに寄った。
　男の前に、お尻を突き出した格好なのだが、なぜかそれほど恥ずかしくはなかった。
　ずっと目を閉じているせいかもしれない。
　ぞっとするような嫌悪感も湧き上がってはこない。

　ようやく男の手が美希の股間に伸ばされた。
　男は、２本の指を軽く曲げ、指の背中のほうで、股間を前後させる。
　曲がった関節が時折、美希の中に進入する。
　男は、美希のぬめりを確かめると、手のひらを返し、中指だけ美希の中に深々と挿入した。
　中指を上下させながら、人差し指と薬指でクリをつつく。
　美希は、また低く唸り始めた。

　男は、その行為を延々と続ける。
　指はいつのまにか中指と薬指の２本になった。
「はぁ･・・・はぁ・・・・はぁ・・・」
　美希の息が荒くなり、うなりは消えた。
　男は、美希の体を回転させ仰向けにすると、美希の顔をまたぎ、今度は美希の股間に下を這わせた。
　男の舌が、美希のクリを強く押し付ける。
「いやっ・・・・・・・あっ・・・・」
　美希は、思わず声を上げた。
　美希の顔に男のものが触れる。
　美希は、それを咥えたが、どうすることもできない。
　何かが、腰のあたりを持ち上げるように押し寄せてくる。
「ああ･･ああ・・ああああ・・ああ・・・・」
　美希は、男のものを口からはずした。
「ああ･･･いや･･いや･・・・やめて・・・やめてぇ・・・」
　力いっぱい足を閉じ、男の頭を挟み込んだまま、美希の体が固まった。

　男は美希の足を開け、足の間から頭を抜いた。
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・・」
　美希の胸が大きく上下する。

　男が服を着始めた。
「おじさん・・・・」
「なんだ？」
「おじさん・・・出してない」
「そうだな」
　男はそれ以上何も言わない。
　服を着終わり、ソファに座って、タバコに火をつけた。
「早く服を着ろ。駅まで送る」
　美希は、ベッドから出て服を着始めたが、男が気になった。
「ごめんなさい・・・わたし、なんだかわからなくて・・・」
　美希は、自分のせいで男が射精できなかったのだと思っている。
　また泣き出しそうな表情になった。

「美希」
「ん？」
「おしっこをずっとがまんして、ずっとずっとがまんして、やっとおしっこができた時ってほっとするだろう」
「ええ」
「出すときの快感なんてのは、そんなもんだ。女と違って男ってのは、そんなに気持ちのいいもんじゃぁねぇ」
「そう・・・なの？」
　いきなりそんなことを言われても、美希には答えようがない。
「男ってのは、まぁ、全部が全部じゃないねぇけど、バカな生き物でな、自分の手の中で女がわれを忘れてあえいでるのを見るとそれだけで気分がよくなる」
　美希は、われを忘れてあえいでいた自分を思い浮かべて、恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

「いい女ってのは、自分の手の中で何度も何度もそいつをいかせて、もう動けないだろっていうまでいかせてやりたいと、男に思わせる女だ」
　男が何を言っているのか、美希にもわかる。
　自分は、一回いかせてもらっただけだ。
「ごめんなさい・・・」
　美希の頬をまた涙が伝った。
「あやまることはない。お前、まだ高校生だろ。１７や１８でいい女になろうったって無理な話だ」
　男は、うつむいた美希の肩にジャケットを掛けてやった。

「美希」
　美希を駅に送る車の中で男が話しかけた。
「ん？」
「さっきの話だがなぁ？・・・お前、あいつらをどうしたい？」
「どうって・・・・？」
「同じ目にあわせたいか？」
「できるの？」
　美希の目が光った。