「優美、優美。」
　揺さぶられて目を覚ました。
「？」
「多分ないことじゃない、優美があたしより遅くまで寝ているなんて。」
　清美だった。
「お早う、優美。」
「・・・・・」
　声を掛けられてもまだ少し頭がボーっとする。
「優美、大丈夫？」
「うん・・・」
　いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「！」
　突然我に返ったようにハッと息を呑む。
　自分を揺り起こしたのは清美だし、覗き込んで挨拶してきたのは佳織だ。
　優美が起きているうちは帰らなかったはずだが、だとしたら一体いつの間に戻ってきたのだろう。
「あ、お早う・・ございます。」
「お早う、優美。」
　清美の様子は教室で声を掛け合うときと何ら変わったところがない。
「う、うん・・」
「もうすぐ朝御飯だよ。」
「はい・・」
　こちらもいつもと全く変わった所がない佳織に言葉に返事した途端、不思議な感覚が下半身を通り過ぎる。
　え？
　うまい具合に胸から膝にかけて毛布が掛かっていたので見えなかったが、優美はＴシャツ一枚着ているだけでショーツさえつけていなかった。
　そうすると、直接見てはいないが、夜に両側のテントで繰り返されていた痴態の記憶と、自らも淫楽に身を任せてしまっていたことの事実が一気に全身を駆け巡った。
　カーッと紅くなる。
「優美、そんな恥ずかしがらなくっても・・」
「え!?」
　慌てて清美を見る。
「別にちょっと寝過ごしただけで、今見てきたらまだ寝てる人いっぱいだったよ。」
「あ、うん・・」
　どうやら清美は全然違うことを言っているようだ。
「そうだね・・」
「優美、あたしと清美は御飯の用意に行って来るから。」
「は、はいっ！」
「さ、清美、行くぞ。」
「はぁ〜い。」
「す、済みません。あたしもすぐ行きますから。」
　慌てて上体だけ起こし佳織に言う。
「ゆっくりおいで。」
　佳織は後ろ手に手を振って清美と出て行ってしまった。
「どう？」
　清美に囁きかける。
「優美やっぱり下履いてないですね。」
「そっか。じゃ、オナニーしちゃったのかな。」
「かもしれない。」
「でも、今日ではまだ早いかな・・・」
　真剣な、後輩思いな面持ちでつぶやく佳織。

　あたしどうしちゃったんだろう・・・
　昨夜は両側から漏れ伝わってくる美絵と静の喘ぎ声や肉音を聴いているうちに、自分の秘所に手が伸びた。そのうち理性が途切れたように、いろいろと体勢を変えながら自慰がもたらす快楽の渦に巻き込まれていったのだ。
　それにしても、寝入るまで自慰を続けたことなど今までなかった。
　そんなことを考えながら優美は素早く荷物から替えのショーツを出して脚を通し、ジーンズも身につける。
「・・・・・」
　テントの出入り口からちょっと顔を出してみると、芳しい香りがしている。どうやら食事の用意もかなり進んでいるようだ。
「・・・うん。」
　優美はテントから出ると、人の集まっている辺りまで小走りで向かった。
　爽快な気分とは程遠い朝だったが、とにかく自分にもできることはやらねば・・・

　一行全員で朝食を摂った。
　勿論静もいたし、美絵もいた。静は一人、美絵は二人を相手にしていたのだから、誰かは判らないが、青年達のうち少なくとも三人は静や美絵と悦楽の一夜を過ごしているのは疑いようもない。
　それに、性戯に溺れていたのは静や美絵だけではあるまい。ここにいるうち自分以外は全員だったのではないか。
　ただ、注意深く辺りを見回しても、性的な経験の全くない優美からすれば昨夜の余韻を感じることはできなかった。

　食事の後片づけまで終わると、自由時間となった。
「優美、この近くにオリエンテーリングのコースがあるんだって。」
「そう・・ですか。」
　テントへ戻ってきて清美はどこかへ行ってしまっていたが、代わりに佳織の同級生実香が来ていた。
「佳織も行くって言うし、優美も行かない？」
「オリエンテーリングにですか？」
「ううん、別にオリテまでする気はないよ。お散歩みたいな感じかな？」
「はぁ・・」
「行こっ！」
「あ！」
　グッと腕を掴まれて立たされてしまう。
「きっと楽しいよ。」
「は、はい・・・」
　上級生の中では特に押しが強く、しかしそれが強引とも感じられていない実香。その実香に誘われると、優美のような少女では黙って引っ張られていくしかなかった。
「あの、酒井先輩。」
「んん？」
「武居先輩の他には？」
「ん？佳織とあたしと優美と・・・あとはいないよ。」
「え、そうなんですか？」
　ちょっと意外な感じがした。
「あ、男の方々と歩きたかったかな？」
「い、いえ、そんな・・」
　首も手も振って強く否定する。
「ま、じきにね。」
「え？」
「何でもないよ〜。」
　素知らぬ振りをする実香。元々起きがけから混乱しがちな優美では、もはやいちいち彼女の言動を噛み砕いて理解している余裕はなかった。
「それより、優美。」
「はい。」
「昨日はよく眠れた？」
「え!？」
　かなり大きな声になってしまった。
「あたしは結構よく眠れたと思うな。」
　のんきそうに言う。
「優美は枕が変わったりすると眠れなさそうだからさ。」
「いえ、別に、そんな・・・」
　今度はうなだれしまう。
　実香にも不審なところがない。逆に優美の方が余程おかしかった。

「いやぁ〜、いつもの生活でコンクリートに囲まれているから、こういうとこ来ると何かいいね〜。」
「そうだね。」
「・・・・・」
「空気もやっぱり美味しいような気もする。」
「深呼吸だけしたくなっちゃうよね。」
「・・・・・」
　佳織と実香は森の小道を歩きながら思い思いのことを話しているが、優美はただ黙って粛々歩いているだけだった。
「優美？」
　あまりに無感動そうな優美を見ていて、心配そうに佳織が声をかけてきた。
「はい。」
「つまんない？」
「い、いえ、そんなこと・・」
　フルフルと首を動かす。優美はこういう自然が大好きだったし、何でもない精神状態なら嬉々としていたかもしれないが、とにかく訳が分からないのだ。
「ふ〜ん。」
　これ以上は無駄だと思ったのか、佳織は別な話題に変えた。
「優美、昨日は眠れた？」
「え、ええ、まあ・・」
　先ほどの実香と同じ質問だったので、何とか普通に答えられた。
「寝過ごしちゃったくらいだもんね。」
「まあ・・」
　ちょっとだけ微笑った。
「そっか。」
　佳織も微笑を浮かべた。その笑顔を実香に向けて、
「いくらだった？」
　と何気なく訊く。
「二人で二回ずつ。」
「へえ。実香が？足りた？」
「今日もあるしねぇ〜。」
　頭の後ろで気恥ずかしそうに手を組んだ。
「そういう佳織は？」
「四回くらいだよ。」
「四？うう〜ん、少なめ・・かな、佳織だと。」
「かもね。二人でだったからタチが悪くなってきて、明るくなってきちゃったよ。」
「佳織が相手でも一人では辛いよ。」
「そうだね。今日は何人かキープしないと。」
「だね。」
「？？？」
　突然始まった二人の会話に全く付いていけない優美はただただ目を見張るばかりだった。
　そんな優美を措いてまだまだ二人の謎めいた会話は続く。
「美絵なんか、二人と三回ずつだって。」
「ありゃりゃ・・ってことは六回？」
　実香はコクッとして続ける。
「静なんかは今日に合わせて一人に抑えてるって。」
「お、あの静が？」
「そう。今日とか爆発しそうだね。」
「あはは、『爆発』かぁ。」
「前の時も静ったらスゴかったもん。」
「そうだねぇ〜。」
「静も跡継ぎ出来て良かったんじゃない？」
「『跡継ぎ』って、美絵のこと？」
「そうそう。回数こなすとこなんかそっくりだよ。」
「そうかなぁ〜・・・」
　この頃になると、優美にも佳織と実香が何の話をしているか判ってきていた。
　武居先輩も酒井先輩も・・・
　結局【佳織は一人の男と明け方近くまで四回、実香は二人の男と二回ずつ交わり、美絵は二人との男と三回ずつ、静は一人とだけ交わったらしい】ということなのだった。
　一体、このキャンプって・・・
　優美の心は乱れていく一方だった。

「？」
　そんなときよく目を凝らして見ると、前方を夏生が歩いていた。
「・・・・・」
　夏生は後ろ姿でも判ったが、その隣を歩いていた男についてはあの青年達の誰かであろうという予想しか立たなかった。
「あれって・・」
　男はビーチマットのようなものを携えているようで、夏生と共に川の方へと降りていっている。
　いったい何なのだろう。
「武居先輩、あたしちょっとあっち行っていいですか？」
　優美の判断早く、すぐに佳織に伺いをたてた。
「いいけど、道分かる？」
「大丈夫です。」
「そう。じゃ、お昼までは戻ってくるんだよ。」
「はい。」
　タタッと駆け出した
　普段の優美なら夏生を見かけたからといって、絶対それ以上その影を追ったりはしないのだが、昨夜からの今までにかけての出来事の数々が、優美の理性を侵していた。吸い寄せられるように二人の後をついていく・・・・・

つづく