| ３６ 大川市全ての中学校で、奈央の自殺を伝える全校集会があった。緑の１中も例外なく行われている。 名前などの詳しいことは明かされないが、校長が発するお言葉はどの学校でも同じく、命の尊さだけを繰り返す。 集会が終わると、授業が始まり、一人の女子生徒の死を通り過ぎていく。 生徒よりも話題に事欠かないのは教師のほうであった。色々なデマや憶測は飛び交い、情報は錯綜している。 放課後の職員会議は、いつも以上に時間をかけている。教頭が警察発表の一部を発表すると、デマや憶測は消えていった。 「とある、教諭が自殺の一因という話もあるようですが、警察の発表、まぁ後ほど報道が新聞等で発表するでしょうが、いじめなどの因果関係はなく、どうやら、家族間の問題のようです。自殺の前日、母親と口喧嘩をしたようでして、突発的に・・・飛び降りを・・・。」 緑の心の中は、杏子の自殺の時を思い起こしている。あの時も、憶測とデマ、結果はその憶測より酷いことが杏子の周りで起こっていた。 自殺をしても仕方がない状況を作られ、教頭会に殺された、でも、そこに確固たる証拠はない。この少女の自殺も、確固たる証拠のないものではないかと考えると、会議中にも関わらず涙ぐむ。 「と、いうことで、本日の報告は以上です。くれぐれも、生徒などには口外をせぬよう。また、おかしな行動を見つけたら、すぐに問い合わせをしていただくこと、お忘れなく。」 職員室を後にすると、山崎は緑の後ろを歩く。ブラウスから透けて見えるブラ紐に目を奪われていると、話しかけるタイミングを逃すと、急に止まった緑と接触する。 「あぁ、ごめんなさい。山崎先生、大丈夫ですか？」 「びっくりしました、急に止まるんだから、そうそう、今回の一件に絡んでる教諭って、水泳のオリンピック強化選手だった。」 「えっ？」 「だれだっけ・・・。」 「大神さ・・ん？」 「あ、そうそう、あの男が、原因だって持ちきりで・・・吉川先生も年齢が近いので、お知り合いかと。」 「め、面識は・・・ありますけど・・・ほ、ホントなんですか。それって。」 「あくまでも噂と憶測です。死んだ生徒は、水泳部でね、彼が出前授業に行ってたらしいんです。」 「・・・。」 「そこで、なにやら・・・。」 「きょ、興味がないんで、・・・憶測やデマは・・・教頭が言われてたんで・・・私は・・・。」 山崎は緑の動揺を見逃さなかった。大神との仲は知っている、付き合いの深さも知っている。憶測の話であれだけ動揺する緑の話は守が興味を示すことも知っていた。 緑は、早速、体育館の裏に行くと信二へメールを打つ。短文ながら自殺の件を遠まわしで聞く内容だった。 授業中と理解したうえでの送信だったためか、返信の遅さは気にならなかった。翌日になっても返信のないことは緑には考えられなかった。 帰宅前、陣野との会話の中でも、自殺した生徒の話になるが、山崎の言う内容はでてこない。教育委員会に近い陣野の言葉を緑は信じていた。 帰路に着く車中でも信二からの返信はない。問い合わせをしても、受信はゼロというだけだった。信二のアパートをのぞいても、駐車場には車はない。３中に知り合いはなく、問い合わせることも出来なかった。 一番詳しい男の顔が浮かぶ、だが、その男への問い合わせは自殺行為であることも知っていた。数時間、大川市内をうろうろとし帰宅の途につこうとした時、受信を知らせるメールが鳴り響く。 「あっ・・・・。違う、・・・。」 『テンポラリーで待つ。すぐに来い。』短文のメールは、鎌田のものだった。返信もせず、ハンドルは躊躇なくテンポラリーへと向かっていた。 このタイミングのメール、文字数の少なさと冷静な文言、嫌な予感が涌き、胃酸が逆流しそうだった。 １０分ほどで、駐車場に車をつけると、鎌田の車を確認できた。リアルマネキンの話であれば、それでいい。そのほうが、いくらかましだとそう願う緑。 「カランコロンッ」 「早かったな。・・・まぁ、入りなさい。」 「今日も・・・マ、マネキンを・・・。」 「それもお願いしたいところだが、昨日の２中の事件知ってるだろ。」 「えぇ、自殺した生徒がいるとか・・・。」 「あぁ、この娘でね。」 「あ、あの時の動画の・・・・。まさか、あなたがたが・・・。」 「まぁ最後まで見なさい。そこまでみたら、我々のことを悪くは言えなくなる。」 「・・・。」 緑は、スマートフォンの動画を食い入るように見続ける。この間の研修所で見せられた動画の続きだった。少女が自慰を続けている、下着を脱ぎ、その男に向け自慰行為を続けている。 指先の動きが激しくなった後、少女の動きは止まる。なにやら男がはなしかけると、少女が男の名を叫ぶ「大神先生っ」その男は少女を抱き寄せなにやら伝えると、嫌悪の表情で少女は逃げ去った。 「し、信二さ・・ん。」 「あぁ、大神信二・・・彼が、自殺の原因のようだ。」 「・・・。」 「自分のことは、吉川先生が良く知っていると、大神くんが言うもんでね、少し事情をお聞きしようかと。」 「彼は、警察に？」 「いやぁ、教育委員会で事情聴取されている。刑事事件にはまだなっていないんだ。」 「でも、これからなるってこと？」 「それは、わからん。」 「ど、どうして・・・こんなこと。」 「まぁ、気の迷い。そんなことじゃないのかな。この間の研修でも話したし、君も理解できている。理性は止められない。」 「彼は、どうなるの？・・・私にできることなら・・・なんでも・・・なんでもします。リアルマネキンにでも・・・研修で先生方にも抱かれますぅぅ・・・なんでもぉぉぉぉぉぉ。」 「この件は闇に葬れない。それだけ重大な話なんだ。」 「・・・。」 「葬らず、存在のない無にすることはできる。」 「えっ・・・どうやって・・・彼の存在を抹消するんだ。」 「殺すってこと？」 「そんな、物騒なことはしないよ。あくまでも、経歴とその間の行動のことだけだ。」 「それだけで。」 「それだけ。そこでだ、吉川先生との仲、これも抹消していただかねばならん。」 「と、いうと。」 鎌田は、大神の存在の消し方を緑に諭す。数十分涙に暮れたあと、項垂れるように承諾をした。 |
| あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。 |
| 2012.10.17掲載 |
はちみつ太郎さんの作品群→ |