はちみつ太郎 作
| ３８ （終） 「バンザーイ・・・バンザーイ・・・バンザーイ。」 市長選結果を公共放送は伝えている。その真ん中に立つのは、六沢三蔵。取り巻きにいるのは、土建屋の後来年度の移動で、鎌田教頭を移動させてもらおうかしら礼一さんに。」 「いやいや、トラブルはもう勘弁ですよ。あらたな自殺者を出されてもこまるし。」 「しー。記者がいっぱいいるんですよ・・・怖い怖い。」 「それより、来年度の新卒採用者の選抜は？」 「礼一さんに聞いてくださらない。」 麗子は、袖の奥に茶をすする礼一を呼ぶ。鎌田に引き合わせると、別の訪問客の応対に掛かる。 「おめでとうございました。」 「なにも、めでたくないですよ。厄介ごとが増えそうで。」 「選抜のほうは？」 「あぁ、明日にでもしないと、間に合わんので、この場に資料を・・・上でやりますか。」 「えぇ、ビール片手に・・・駒選び。」 「今回も、片親、採用浪人・・・などなど、いっぱいでね。」 「これなんか？」 「あぁ、体育大卒の・・・ほぉ、水泳をねぇ・・・片親で、実家は遠い。」 「合格ですか？」 「えぇ、とりあえず・・・キープで。」 夜がふけ、明日の新聞が届く頃、来年度の大川市の教員採用者は決められていった。 ３月の年度末、卒業式も終わり、教職員が一息をつく頃、横川緑は、陣野を訪ねていた。 「あぁ、き、いや、横川先生だった。」 「陣野先生、私、今日で休職します。色々、お世話になりました。」 「そうだったね。次の代用教員も決まったし、どうだい、新婚生活は？」 「えぇ、色々大変ですけど・・・。」 「いやぁ、在職中は色々、頼んでしまって・・・迷惑ではなかったですか？」 「いえ、・・・。そうですね、迷惑でした。」 「ハハハッ、お母さんになるんだ、それぐらいずうずうしく生きなきゃなぁ。」 「最後まで、調査できず・・・。」 「いや、いいんです。それは、忘れて・・・もう、なかったことなんだから。」 「・・・。」 「ん？言い残したこととか？・・・・あるんだったら。」 「いえ、ありません。・・・長い間、お世話になりました。失礼します。」 頭を下げた緑は、少し大きくなりかけの腹を触り、陣野の前を立ち去った。その姿を見続けていた守と、山崎は釈然としない物言いでぼやく。 「あの、腹の子って・・・だれなんですかねぇ。」 「旦那の子だろ。横川って言う東中の。」 「大神の子だったら、面白いのに。」 「そんなこと言ってるから、出世しねぇんだよ。」 「守さまのお力で・・・なんとか。」 「ならねぇよ・・・。」 守は、横川姓になった緑に未練は消えていた。攻児の携帯を覗き見、攻児と緑のカーセックス動画を見たときから、緑への憧れは薄まっていった。 「プルルルルッ。」 ワンコールの後に男の声がする。 「陣野孝幸先生ですか？」 「はい、鎌田教頭ですね。」 「えぇ、来年度の昇格が決まりましたよ。大川市立第一中学の教頭に推挙いたし、承認されましたので。」 「ありがとうございます。」 「明日の午後１０時、『テンポラリー』にて昇格祝いをいたしますので、ラフな格好でお越しください。」 電話を切った陣野の視線の先は、６ヶ月の子を孕み、丸みを帯びた緑の尻肉に突き刺さり、その目力はその肉を割り裂きそうだった。 終 |
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| 2012.10.27掲載 |
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