（こんなもので彼女ができるなんて思わないけどまあいいか。タダだし・・・）

　吾郎は小さな石をてのひらに置いてじっと眺めてみた。

（口下手な俺だから街でナンパしたってダメなのは判っているし、友達の紹介だって限りがあるしなぁ・・・本当に彼女ができるの？訳の分からない石を貰って、恋人ができるまでじっと待つと言うのもどんなもんだか・・・。そうだ、やっぱり部屋に戻って出会いのサイトでも検索しようかな。それはそうと、今夜は何だか晩飯を作るのが面倒だな〜。ホカ弁でも買って帰ろう）

　吾郎はアーケードに戻って、時々買うホカ弁屋に向った。
　そこは他の店よりも良い米を使ってる。

（コシヒカリを使ってるとか言ってたな〜。え〜と、今日はどんな弁当にしようかな〜？）

　と思案していた矢先、突然！

（ガシャ〜ンッ！）

　と、前方で自転車から転倒する音がした。

「あ、痛いっ！」
「気をつけろよ！全く」

　遊び人風の男が若い女性の自転車に突き当たったようで、自転車が横倒しになり若い女性が倒れていた。
　男は何事もなかったかのように素知らぬ顔でそのまま立ち去っていった。
　女性は倒れた後、脚をくじいたのか、なかなか立ち上がれそうにない。
　通行人は女性を気の毒そうに見ているが、誰も手を貸そうとしなかった。

　吾郎は突然、思い立ったように倒れた女性のそばに行き手を差し伸べた。

「だいじょうぶですか？」
「ありがとうございます・・・ちょっと脚が痛いけど大丈夫だと思います」

　吾郎の差し出した手を女性はしっかりと握り返した。
　どうにか立つことができるようだ。
　女性は吾郎の手を頼りにゆっくりと立ち上がった。
　あまりに突然のことで吾郎は女性の顔を見る余裕など全くなかったが、立ち上がってから初めて顔を見る結果となった。

（うぉ〜、こりゃあすごく美人だぁ〜！）

「けがは無いかい？」
「ありがとうございます。たぶん大丈夫だと思います」
「それにしても先程の男ったら酷いね」
「いいえ、よそ見をしていたのは私だったもので、私がいけなかったんです」

　女性が歩き出そうとした時、突然、痛みが走ったのか思わずうずくまってしまった。

（うっ・・・）

　ミニスカートからスラリとした脚が覗いていたが、膝頭の辺りに赤いものが滲んでる。
　吾郎は咄嗟に女性に言った。

「うわぁ、痛そう。すぐに怪我の手当をしなければ。僕のマンションはこの近くなので手当てをしてあげるよ」
「え？いいんですか。ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えていいですか？」
「もちろんだとも。血を止めることが先だよ」

　吾郎は女性を伴い急いでマンションに戻った。

　マンションは７階建ての５階だった。
　吾郎は部屋に入ってすぐに救急箱を探した。
　滅多に使わないし、そんなに整理が良い方でもない。

「散らかっててごめんね。そこのソファに座って待ってて。すぐに救急箱が見つかると思うので」
「本当にすみません。ご迷惑を掛けてしまって」

　女性は遠慮勝ちにソファに腰を下ろした。

「あった、あった、これだ。さあ、早く手当てをしなくちゃ」

　吾郎はソファに腰を掛けている女性を見て、一瞬はっとした。
　スカートがかなり短く、きれいな太股がかなり上まで見えている。
　パンストは穿いておらず、生脚がやけに眩しい。
（うわぁ・・・）
　吾郎の心の動きを敏感に感じ取ったのかも知れない。
　女性は照れ臭そうに脚をピッシリと揃えてしまった。
　吾郎は救急箱から消毒薬を出して、脱脂綿に浸し、そっと傷口につけた。
　女性はかなり沁みたのかビクッと震えた。
　これだけ至近距離だと女の香りが吾郎の鼻孔を擽るのは当然のことだろう。
　特に香水を付けている訳ではないのだろうが、すごく甘い香りが漂った。
　それに目の前に白くてきれいな脚がある。

「まだ血が止まらないようだね。暫くガーゼで当てておいた方がいいと思うよ。ところで君の名前は何て言うの？僕は吾郎だよ」

「あ・・・申し遅れまして。私、絵梨佳って言います」

「絵梨佳・・・さん？きれいな名前だね。君にピッタリだ」
「ありがとう、嬉しいわ」

　絵梨佳はにっこりと微笑んだ。
　吾郎の止まっていた手がまた治療のため動き出した。
　吾郎はひとときであったが、時間が止まったような錯覚に陥った。

（それにしても、きれいな脚だなぁ〜、何かゾクゾクするな・・・）

　手は膝頭の辺りを触れていたが、吾郎の心はスカートの奥の方へ駆り立てられていた。
　絵梨佳がちょっと足の角度を変えるだけで、パンティが見えるかも知れない、という不純な期待感。
　吾郎の心にふつふつとよこしまな劣情が湧き上がっていた。

（いい眺めだな〜、それにすごくいい香りのする子だな〜。クラクラ来ちゃうよ〜）