４　帰宅後〜火曜日の朝

　月曜日の朝の出来事は、僕に、たまらない興奮をもたらしてくれた。
　僕はその日１日、上の空で仕事もろくに手につかなかった。
　そんな時は、いつもは編集長に烈火のごとく怒られるのが相場であった。
　だが、どのみち今週で僕がやめてしまうこともあってか、編集長からも、他の社員からも、僕はほったらかし状態にされていた。
　怠惰な時間を過ごし、家についた後も、朝の興奮から覚めることはなかった。
　いろいろな偶然が重なったにせよ、結果的に、１人の熟年女性を電車の中で痴漢し、それが成功したのだ。
　どこか、有頂天にならない方が嘘であった。
　あの興奮を、もう一度味わいたい・・・それもできれば、今朝の相手のような、熟年女性の方が、より隠微な反応が味わえる・・・
　僕の頭の中は、すっかり想像が逞しくなっていった。
　その日の夜、僕はベッドの中で、満員電車の中にいる自分の姿を思い浮かべた。
　僕の前には、さまざまな熟年女性が、入れ代わり立ち代わり登場していった。
　その全ての女性を、僕は想像の中で、指で犯していった。
　彼女たちはみな、身動きできない車内で、声も出せず、ひたすら僕の指に耐えていた。
　しかし、最後は僕の指に屈し、電車の中で、恥ずかしく反応していった。
　やがて、最後に浮かんだ女性が、僕の指に耐え切れず、電車の中で腰を動かしていった。
　彼女の下半身は、すでに下着をおろされ、裸になっていた。
　想像ということもあって、僕の行為は、だんだん大胆になっていった。
　僕は、日曜日の夜に目撃した痴漢のように、自らの下半身を中から取り出し、露にした。
　そして、彼女の裸の尻に、ぴったりと押し付け、密着させた。
　彼女は耐え切れないように、尻を動かし、僕の怒張を求めてきた。
　僕は、慌てずにゆっくりと彼女の腰を押さえ、後ろから、彼女の中に侵入していった。　電車の揺れにあわせ突き上げられるたび、彼女ははしたなく、甘美の声を漏らした。
　やがて、想像の中で駅が近づき、僕は最後の律動を彼女に送り込んだ。
　彼女はがくがく腰を動かし、やがて、電車の中で僕に犯されながら、上り詰めていった。
　僕の白濁した液体は、彼女の体の奥深くに飛び散っていった。
　僕はそのまま、余韻を楽しむように、彼女・・・僕が前日の夜に頭の中で汚した、４０代の大学教授・・・の中に自分自身を残したまま、ぴったりと体を重ねていた・・・

　次の日の目覚めは、爽やかなものであった。
　時間の余裕も、前日に比べれば雲泥の差であった。
　僕は優雅な気分でコーヒーを入れ、焼きあがったトーストをパクついた。
　トーストに乗せた溶けたチーズとケチャップの味のコントラストに、僕はとても満足した。
　身支度を終えて、僕はいつもより早めに家を出た。
　その日に乗った各駅停車は、いつもより２本早めの電車であった。
　やがて乗り換え駅についた僕は、すぐには列に並ばず、しばらくホームを行き交う人の流れを観察していた。
　そのとき、１人の活動的な雰囲気の女性が目に止まった。
　彼女はクリーム色のジャケットに、光沢のある黒のストレッチパンツを穿いていた。
　ジャケットの下は、白のＴシャツのようであった。
　ラフな感じが、かえって、すらりとした姿形を際立たせていた。
　年はたぶん４０前後、恐らく人妻であろう。
　長い黒髪と、目鼻立ちのはっきりした、整った顔が印象的であった。
　彼女はセカンドバッグをかかえながら、髪をかき上げて、快速電車待ちの列に並んでいた。
　僕は、不自然にならないようにその列に近づき、何気なく彼女の後ろに並んだ。
　やがて、快速電車が入ってきた。
　各駅停車に乗り換えるため、思いのほか多くの乗客たちが降りていった。
　しかし、乗り込む乗客たちも、それ以上であった。
　僕は狙いを定め、後ろの乗客たちに押されるのを利用して、反対側のドアへ彼女を押し込んだ。
　彼女は、左手で胸にセカンドバッグを抱えたまま、ドアに押し付けられた。
　彼女の右手は、行き場がないように、後ろ向きにだらんと下げられた。
　僕は、彼女の真後ろに位置するのではなく、前日の後半と同じように、彼女の背中の右半身に、僕の前側左半身を重ねていた。
　僕の左手も、混雑の中で、動かせるだけの空間を確保していた。

　扉が閉まり、電車が走り始めた。
　電車が揺れるたび、僕の下半身は、彼女の下げられた右手に押し付けられた。
　彼女は手をドアに押し付け、手のひらを後ろに向けていた。
　僕は何度か、彼女の手のひらに、意識的に下半身を押し付けていった。
　やがて、自然の流れのように、僕の下半身は硬直していった。
　彼女もその変化に気づいたのか、小さく息を飲み込んだようであった。
　彼女は顔をこわばらせ、恐る恐る僕の方へ顔を向けていった。
　僕の顔を確認したとき、彼女の顔に明らかな驚きと困惑の色が浮かんだ。
　恐らく、僕のような若い男が相手であるとは、想像していなかったに違いない。
　彼女は僕を見つめたまま、固くなった僕の下半身から右手をどけようとしていた。
　僕は彼女の動きを阻もうと、彼女の手に体重を預け、ドアに押し付けた。
　そのため彼女の手のひらは、僕の膨らみにあてがったまま、動かせなくなっていた。
彼女は、困ったように顔を伏せた。
　彼女の手の刺激で、僕の下半身は、ますます硬さを増していった。
　彼女は、自分の手の中で若い男性の膨らみが増していることで気が高ぶったのか、小さく、興奮の声を漏らした。
「あっ・・・・」
　彼女は、自分が漏らしてしまった声に対してだろう、激しい羞恥の色を見せた。
　そして、高ぶりを沈めるためか、何とか僕の膨らみから袂を分かとうとしていた。
　しかし、混雑のうえ、僕が意識的に体を押し付けている状況では、無駄な抵抗であった。
　僕は、彼女の息づかいが、だんだん高ぶりを見せているのを覚えた。
　僕は、さらなる攻めに入った。
　僕はゆっくりと左手を動かし、ぴったりとした黒パンツの上から、尻を捉えた。
「あ・・・いやっ・・・」
　彼女は恥ずかしそうにつぶやき、唇を噛んだ。
　薄手のストレッチパンツは、彼女の下半身にぴったりフィットしており、小ぶりの尻の柔らかさと弾力を、優しく僕の手に伝えてきた。
　どうやら、下着はつけていないようであった。
　僕は、少しねちっこい手つきで、揉みこむように彼女の尻を撫で回した。
　彼女は、僕の手を払いのけようとしてか、左右の脚をもじもじと交互に動かした。
　その動きが、彼女の尻を通して、僕の手に生々しく伝わってきた。
　僕の興奮は、さらに高まった。
　僕自身も、彼女の手の中で、ますます膨張を増していった。
　僕は指先を軽く丸め、やや指先を立てた状態で、ソフトに彼女の尻に円を描いていった。
　彼女は再び小さく声を漏らし、顔をしかめ、たまらないように腰を動かした。
「あ・・・だめっ・・・」
　だが僕は容赦なく、触るか触らないかぐらいの手つきで、黒パンツの上から、彼女の尻に、いくつも淫らな円を描いていった。
　執拗に尻を這う指に、彼女は、小さく尻を震わせながらも、懸命に声を押し殺して耐えていた。
　しばらく、僕の指と、彼女の尻との攻防が続いた。
　均衡が破れたのは、僕が、攻め位置を変えたときであった。
　僕はいったん手を離し、脚の付け根の部分の柔肉のあたりを、指先を軽く開き、尻に向かって、下から上へ撫で上げた。
　たまらず、彼女は腰をよじり、淫らな声を上げてしまった。
「あうっ！・・・・・・・あっ・・・・」
　そのとき、彼女の右手に思わぬ力が入った。
　僕は危なく暴発しそうになったが、何とか免れることができた。
　僕は気を取り直し、再び彼女の脚の付け根を攻め始めた。
　彼女は必死に脚を踏ん張り、襲い来る快感に耐えようとしていた。
　だが、脚の付け根に執拗に加えられる僕の愛撫に、ついにこらえきれず、腰を動かし始めてしまった。
　腰が動いてしまったときの彼女の顔は、たまらなく悔しそうに見えた。
　僕はここぞとばかり、たたみかけることにした。
　僕は何度も何度も、繰り返し優しく、脚の付け根へ愛撫を加えていった。
　彼女は顔をしかめ、歯を食いしばって、懸命に喘ぎ声を抑えていた。
　が、その合間合間にこみ上げてくる快感は、もはや歯止めがきかないようであった。
「あっ・・・・・・・あっ・・・・・・・」
　声が漏れるたびに、彼女は、自分を襲う快感を認めたくないかのように、いやいやと首を振った。
　だが彼女の下半身は、僕の指の動きに耐え切れないように、もぞもぞと悩ましく動いてしまっていた。
　彼女の右手は、僕の怒張を、しっかりと包み込んでいた。
　僕は、朦朧とした快感に身を任せたまま、駅までの濃密な時間を過ごしていった。

　編集部は、相変わらずの騒々しさであった。
　ひっきりなしにかかってくる苦情の電話を、編集長はドスの聞いた声でかわし、てきぱきと片付けていた。
　肩に革ジャンを羽織った編集長の姿は、さながら特攻隊長のように見えた。
　その電話がひととおり終わったときであった。
「奥山！・・・・・ちょっと来な・・・」
　いきなり手招きで呼びつけられた。
　僕はびくびくしながら、編集長の前に足を運んだ。
　それにしても、今更何の用事だというのだろう。
　ここ２日、明らかに僕は、仕事に身が入っていなかった。それは自分でも認めるところだ。
　だがそんなことで、今さら雷を落とそうというのだろうか。昨日は諦めたようにほったらかしだったくせに・・・
　自分勝手な文句を心の中でつぶやきながら、僕は編集長の言葉を待った。
　だが、編集長から出た言葉は、全く違ったものであった。
「お前にな、寄ってきてもらいたい所があるんだよ。」
　そう言うと、おもむろに紙を取り出し、さらさらと簡単な地図を描き始めた。
　その筆捌きは、仕事柄とはいえ、なかなか鮮やかなものであった。
　目的地らしい場所に目印をつけ、筆を置くと、編集長は続けた。
「ここだ。画廊にしちゃ、わりと派手な看板あげてるんで、間違えないと思うがな。そこのな、佐藤美沙子って女にな・・・・・」
　と、何やら大型の封筒に入った荷物を取り出した。
「こいつを届けてもらいたいんだわ。」
　僕はゆっくりと荷物を手に取った。
　どうやら、ハードカバーのファイルか何かのようだった。
　封筒の口は、べったりとガムテープで張り合わされていた。
　その厳重さが、妙に不自然な感じがした。
　編集長は、さらに続けた。
「あ、それからな・・・これ届けるときにな、こう伝えといてくれ。『とりあえず、今のあたしには、必要ないから』って。そう言やあ、わかるはずだから。」
　僕はその話を聞いて、ますます荷物の中身に興味が出てきた。
　僕は編集長に、思ったままを尋ねてみた。
「あの・・・これ、何が入ってるんですか？」
　その言葉が、導火線に火をつけてしまった。
　編集長の顔が、とたんに般若のようになり、怒号が部屋にこだました。
「やかましいっ！中身なんかなあ、知らなくっていいんだよ。とにかく言われたとおりにしてりゃあいいんだ。つべこべ抜かしてねえで、とっとと行きやがれっ！馬鹿野郎が！」
　僕は、狐につままれたまま、編集長の怒りを一身に浴びていた。
　そして、慌てて荷物を手に取り、ほうほうの体で部屋を後にした。