７．友人の母

　その日は、とあるアダルトビデオ女優のインタビュー現場に来ていた。
　今をときめく有名芸能人と、寝たとか寝てないとか、いかにも三流ゴシップ誌が取り上げそうな話題の取材であった。
　美人で若々しいその女優は、だがおよそ知性の伴わない口調で、ヘラヘラと嬉しそうに芸能人との一夜の話をまくし立てていた。
　引き上げ前に写真を撮ったときは、あまりの彼女の恥じらいのなさに、僕は吐き気を覚えていた。
　機材を持たされながら、重い足取りで編集部に帰ったのは、夕方になっていた。
　そのとき部屋には、１人の女性客が来ていた。
　彼女は、洋装の喪服を着ていた。
　彼女はこちらに背を向け、編集長の机の前に座っていた。
　そのあたりも、同じ片親の僕が親近感を覚えたところかも知れなかった。
　その雅彦の母親が、彼女、五十嵐瑞枝であった。
　だが雅彦は、大学に入って１年もたたず、事故で他界してしまった。
　一人息子の葬式で見た瑞枝おばさんは、傍で見ても、気の毒なほど憔悴しきっていた。　そういえばそれ以来、彼女に会うのは初めてである。
　喪服を着ているのは・・・そうか、そういえば、雅彦の三回忌だ・・・
　編集長は、彼女の態度に、驚きの声を上げていた。
「何だ、知り合いか？あんたら・・・・世間ってのは、狭いもんだな。」
　僕は、咥えタバコのまま面食らっている編集長を後にして、瑞枝おばさんを連れて部屋を出た。

　帰路の中、しばらく無言が続いた。
　それは、暫く振りに見た友人の母親の姿に、不覚にも女の部分を感じてしまった引け目からかも知れなかった。
　現に、久しぶりに会った瑞枝おばさんは、喪服のせいもあってか、綺麗に見えた。
　年齢は、５０をもう超えているはずであったが・・・
　僕は、思い切って沈黙を破ってみた。
「あの・・・編集長とは・・・どういう？・・・・」
　言ってしまってから、僕はその質問に、妙な気恥ずかしさを覚えた。
　これでは、佐藤美沙子の時の質問と同じではないか。
　つくづくワンパターンな男だな、と、軽い自己嫌悪に陥ってしまった。
　でも、まさか、答えまで『姉』だなんて返ってこないよな・・・
　だが、彼女の返答は、もちろん違うものであった。
「お店のお客さんなの。彼女。」
　話を聞いてみると、だいたい次の通りであった。
　もともと瑞枝おばさんは、家で美容室を経営していた。
　そこが、雅彦が死んでから、雅彦の思い出が残る家で仕事を続けることが、辛くなっていったらしい。
　美容室を閉め、しばらくは貯金で食いつないでいたものの、半年もすると、生活も苦しくなっていった。
　彼女は意を決し、家から通える程度の物件を探し、街中でちょうどいい部屋を見つけた。
　賃料も、周辺相場と比べれば御の字であった。
　そこで再び美容室を始めると、瑞枝おばさんのさばさばした気風もあって、店は順調に軌道に乗っていった。
　ただでさえ、腕は確かな方であった。
　今では、数人の店員を雇う余裕も生まれ、悲しみを忘れるだけの、それなりの忙しい、充実した日々を送っているとのことだ。
　編集長がそこを訪れたのは、店を始めて早々の頃であったらしい。
　瑞枝おばさんのさばさばした気風が編集長にも合ったのだろう、今では常連客として、こまめに通っているそうだ。
　２人の関係も、編集部の会話で見られたように、店と客というより、友人同士に近くなっていた。
　だが、仕事の忙しさにかまけて、予約をすっぽかす癖があり、それが玉に瑕とのことだ。
　瑞枝おばさんも昼間は雅彦の三周忌であり、墓参り等で慌しかったが、ようやく一息ついたところだった。
　そこで、編集長の前からの予約の確認を念押しするため、喪服のまま、近くに来たついでに編集部へ寄ったということだった。
　そうこうしているうちに、駅に着いた。
　瑞枝おばさんの家は、ここから快速で２駅目である。方向は一緒だった。
　僕は、三周忌のことが気になり、瑞枝おばさんに話しかけた。
「あの・・・もし良ければ、雅彦君の写真だけでも、手を合わせたいんですけど・・・もしあれなら、これからでも・・・」
　それを聞くと、瑞枝おばさんは、嬉しそうに顔を上げた。
「そう？うん、いいわよ。いらっしゃいな。雅彦も、喜ぶと思うから。それにしても・・・」
　彼女は、急にしんみりした顔になり、続けた。
「こんな日に、こうして、孝君と一緒にいるなんてね・・・まるで、雅彦が会わせてくれたみたいな感じがするわね・・・何か、おばさん嬉しくなってきちゃったな。」
　やがて快速電車が、夕方の混雑したホームに入ってきた。
　扉が開き、後ろの乗客たちの勢いで、僕達は反対側のドア近くまで押し込まれた。
　瑞枝おばさんは両手をドアにつき、僕に背中を押される形になった。
　やがて、電車が走り出した。
　瑞枝おばさんは、身動きできない混雑で、苦しそうであった。
　彼女は、少しでも苦しさから気を紛らせたいのか、辛うじて後ろを振り向き、僕に対してつぶやいた。
「孝君・・・・なんか・・・・・すごい混んでるわ・・・」
　その話し方が、妙に切ない色香を含んでいるように、僕には聞こえた。
　僕も、とりとめのない会話を返していた。
「ええ・・・・混んでますね・・・・おばさん・・・・」
　僕は体を重ねたまま、喪服を着た、この友人の母親に対して、たまらなく、欲情を覚えてきていた。
　僕は、徐々に固さを増してきていた自分自身を、意識的に、瑞枝おばさんの喪服の黒タイトの上から、尻の谷間に押し付け、密着させた。
　瑞枝おばさんの尻は、黒タイト越しに、僕自身の感触を、しっかりと感じてしまったようだった。
　瑞枝おばさんは、思わず戸惑いの声をあげた。
「あっ・・・・」
　そして、僕の方を辛うじて振り向いた。
　僕はわざと、神妙な声で、消え入るように言った。
「すいません・・・」
　それを聞くと、瑞枝おばさんは、やや恥ずかしそうな表情を浮かべながら、おいたをしてしまった子をたしなめるように、口を開いた。
「やだな・・・おばさん、困っちゃうじゃない・・・まったく・・・」
　そう言って、再び前を向いた。
　瑞枝おばさんとの密着で、僕の下半身は、ますます膨らんでいった。
　瑞枝おばさんは、尻に当たる僕自身の存在が気になってしまうのか、困ったような顔をしながら、恥ずかしそうにうつむいていた。
　僕はさらに暫く、僕自身の感触を尻に味あわせようと、じっくりと押し付け続けていた。
　密着が長引くに連れ、瑞枝おばさんの顔に、緊張の色が濃くなってきた。
　息も、心なしか乱れてきているような気がした。
　僕は、下半身を押し付けたまま、右手を動かし始めた。
　右手は、瑞枝おばさんの右腰のくびれに、ソフトに置かれていった。
　瑞枝おばさんの口が、思わず開き、慌てて唇が噛み締められた。
　僕の右手は、腰のくびれから腰骨にかけて、喪服の上から瑞枝おばさんの体を柔らかく滑っていった。
　瑞枝おばさんは、きっと唇を結んだまま、僕の手に耐えているようだった。
　腰の感触を楽しんだあと、僕は徐々に手を下ろし、瑞枝おばさんのスカートの裾を探っていった。
　僕の右手が、喪服のスカートの裾にかかった。
　瑞枝おばさんは、はっとした顔で、脚をもぞもぞ動かし、抵抗を試みた。
　瑞枝おばさんの両手は、ドアに潰されて動かせず、僕の手を払うことはできなかった。　タイトスカートは、瑞枝おばさんの熟れた下半身にぴったり纏わりついていた。
　したがって、右手だけでたくし上げるのは、困難を極めた。
　僕は左手を前に回し、裾に手をかけた。
　瑞枝おばさんは、僕の左手が裾にかかったことに気づいたのか、絶望的な表情を見せた。
　しかし、何とか脚をもじつかせ、むなしい抵抗を続けた。
　僕は構わず、喪服の黒タイトをたくし上げ続けた。
　そして、両手を前に回し、スカートの中の内腿を捉えた。
　瑞枝おばさんの体に、さらに緊張が走ったように感じた。
　瑞枝おばさんは、辛うじて僕の方を振り向いた。
　そして、悲痛な目を向けながら、ほとんど消え入るような声で僕に訴えた。
「孝君・・・・ちょっと・・・・ちょっと・・・やっ・・」
　その切なげな顔は、僕の興奮を、かえって煽る形となった。
　僕は、品のある透き通るような黒のストッキングの上から、瑞枝おばさんの内腿を撫で始めた。
　瑞枝おばさんの内腿は、まるで今朝痴漢した人妻のように、熱を帯びて生暖かかった。　柔らかなストッキングの感触が、熟れた内腿の肌触りを引き立てていた。
　僕はその感触にめまいを覚えそうになりながら、両手を使って、それぞれの内腿をいやらしくまさぐり続けた。
　瑞枝おばさんは、身動きせず僕の指に耐えたまま、悲痛な顔で、首を振りながら訴えを続けていた。
「孝君・・・だめ・・・・やめて・・・やめてっ・・・」
　僕は、必死の表情を冷たく見返したまま、手の動きを止めなかった。
　僕の内腿への愛撫は、さらにエスカレートしていった。
　僕は両手を軽く丸め、１０本の指先を立てるようにして、内腿を下から上へ撫で上げた。
　たまらず、瑞枝おばさんは顔をしかめ、声を漏らしてしまった。
「ああっ！」
　そして、耐え切れないように脚をもぞもぞと動かした。