９．木曜日の朝

　その日の朝は疲れていた。
　前夜に犯した五十嵐瑞枝のことが、どろどろした記憶として残っていた。
　親友の三回忌の日、遺影の前で、喪服の母親を何度も犯し続けた夜……
　我に返った朝の気分は、決して気持ちのいいものではなかった。
　自分が、下種な存在に堕ちていた気分だった。
　僕は、どことなく家にいたたまれず、そそくさと駅に向かった。

　乗り換え駅のホームで、僕は快速待ちの客たちを見回していた。
　その動作は、われながら十年選手のようだった。
　始めて１週間もたっていないのに、獲物を探す姿は、すでに日常の一部となっていた。
　寝ぼけ眼のまま、僕はほとんど本能のままに行動していた。
　すると、朝のホームにはやや不似合いな、２人の女性が目に留まった。
　１人は痩せぎすで、さかんに気ぜわしく煙草を吹かしていた。
　彼女は軽くパーマをかけた頭に、濃いアイシャドーをしていた。
　上は黒のカーディガンを羽織り、下は豹柄の、丈の短いワンピースであった。
　カーディガンのボタンは留めていなかった。
　年齢は４０代半ばくらい、美人の面影はあったが、どことなく世間に疲れたような顔をしていた。
　場末のバーのホステスの朝帰りといった風情だった。
　どこかだらけた雰囲気が、下種な自分に似つかわしく思えた。
　もう１人は、年齢は４０代後半くらい、ホステス風の女とは逆に豊満な女性であった。
　薄い緑がかった和服姿で、たしなみを心得た女性という感じに見えた。
　どこか落ち着かない様子なのは、ラッシュにあまり慣れてないせいのように思われた。
　恐らく、お茶かお花の発表会か何かに駆けつけるため、朝の混みあう時間帯の電車に乗らなければならない事情でもあったのだろう。
　その品のいい雰囲気は、下種な自分を、少しでも癒してくれそうな感じがあった。
　やがて、快速電車が入線してきた。
　ホステス風の女は、やや乱暴に煙草を消すと、和服の女の隣に並んだ。
　僕は、２人のどちらの後ろともつかない位置で、ぼんやりと列に加わった。
　堕落を求めるか、癒しを求めるか……
　僕はそれを、乗り込む客の流れに任せることにした。
　扉が開き、僕は出入りする乗客たちのうねりの中で、反対側のドアへと押し込まれた。
　そうして、僕と一緒に押し込まれた女性を、ぴったりとドアに押し付けた。
　彼女は苦しそうに、か細く息を吐いた。
　僕は彼女の真後ろで、匂い立つようなうなじの色気に、たまらない興奮を覚えていた。
　僕は、彼女の温もりを求め、手の差し入れ口を探った。
　それは彼女の腋下で、比較的容易に見つけることができた。
　僕はそのまま、両方の身八つ口からそれぞれの腕を通していった。
　そうして、下着をつけていない豊かな胸を、それぞれの手のひらで包み込んだ。
　彼女の声が、恥ずかしそうに小さく響いた。
「いやっ……」
　彼女は慌てて腋を締め、僕の手の動きを遮ろうとした。
　しかし、すでに胸まで伸びている僕の手は、自由に動かせるだけの余裕を保っていた。
　僕が彼女の体を抱きすくめるのを待っていたかのように、扉が閉まり、電車が走り始めた。

　和服の女は、僕の手を胸に感じながら、声を押し殺してうつむいていた。
　電車が走り始めてからずっと、僕の手のひらは、彼女の胸を丹念に揉み上げていた。
　張り詰めた胸が、揉み上げるたびに、僕の手に心地よい弾力を返してきた。
　和服の女の肌の温もりは、ゆっくりと僕を癒していった。
　車内は混んでいたが、彼女が手を動かそうと思えば、比較的自由に動かせるだけの空間の余裕があった。
　しかし、彼女は腋下で僕の腕を締めるのが精一杯で、それ以上の反撃は見られなかった。
　それは多分、手がすでに服の中に忍び入っているせいであろうと、僕は考えた。
　恐らく、服の上から僕の手を払いのけようとしても、大した効果はないはずだ。
　となると、僕の手をどけるには、彼女自身も、自分の胸元に手を差し入れるほかない。
　そんな行為を満員電車で行うのは、たまらなく恥ずかしい行為に違いない。
　それならば、周囲に知られないまま、必死に男の手に耐えた方が、まだ得策と考えたのだろう。
　それに１５分も我慢すれば、こちら側のドアが開き、逃げることができるはず。
　彼女も恐らくそう考えて、ひたすら黙っているのだ……そう僕には見えた。
　和服の女の胸を、じっくりと規則正しく揉み上げ続けて、５分ほど経ったときであった。
　彼女の体が、徐々に変化を見せ始めた。
　僕の手のひらの中で、胸の突起が膨らみ、固さを増していった。
　彼女自身、そのことに気づいているはずだが、呼吸等に変化は見られなかった。
　僕は肩口に顔を近づけ、多少なりと彼女の顔を覗き込める体勢を作った。
　彼女は顔をうつむけたまま、表情だけは平静に見えた。
　僕は心持ち手を下にずらし、胸の突起の位置に指先を置いた。
　彼女は、一瞬身を固くした。
　僕は、膨らみを増している突起を、指先でじっくりと転がし始めた。
　彼女が、耐え切れないように唇を開いた。
　だが、何とか声を押しとどめ、唇を噛んで恥ずかしそうにうつむいた。
　自分が反応しているという事実と、それを相手に悟られてしまったという思いが、彼女の羞恥を高めてしまったのだろう。
　僕は、指先で胸の突起を攻めながら、手のひらで乳房を下から揉み上げていった。
　胸を攻め続けられ、彼女の息は、だんだんと乱れを見せていった。
　息の乱れに比例して、彼女の白いうなじが、だんだんと朱に染まり始めていた。
　僕は、左手を胸元に残したまま、ゆっくりと右手を身八つ口から抜いた。
　そして、手を腰から前に回し、和服の前合わせの裾を探った。
　僕は、ゆっくりと右手を奥に伸ばし、生々しい女の腿に触れていった。
　和服の女は、たまらず身を縮め、窮屈そうに右手を僕の手に伸ばした。
　彼女の手で、僕の右の手首が掴まれた。
　彼女は、腿をまさぐる僕の手を、何とか払いのけようと動いていた。
　しかし、周囲に自分の恥ずかしい姿が知られるのを恐れてか、その動きはむなしいほどに弱々しかった。
　僕は、吸い付くような彼女の腿を、指先を軽く立てて愛撫した。
　彼女は小さな悲鳴を上げ、腿を震わせた。
　明らかに彼女の腿は、僕の手でまさぐられ、感じてしまっているようだった。
　僕は、肩口から顔をやや伸ばし、僕が触れている彼女の下半身を覗き込んだ。
　わずかにはだけた和服の前から、僕の手が触れている彼女の脚がのぞいていた。
　熟れきった脚は、僕の手が腿を撫で回すたびに、衣擦れの音をさせながら、もぞもぞとうごめいていた。
　僕は、そのたまらない動きに、くらくらした。
　僕は、右手を徐々に、腿を這いながら上へと伸ばしていった。
　和服の女は、必死に僕の手首を抑え、侵入を阻もうとした。
　しかし、その弱々しい抵抗は、かえって僕の欲情を煽るだけであった。
　彼女は、うつむいて顔をしかめながら、小さな叫びを上げ続けた。
「いや……いや……堪忍してっ……」
　だが僕の手は、和服の中で、下着をつけない下半身へ着実に伸びていった。
　僕の指先が、秘豆をとらえた。
　再び、彼女が身を縮めて、小さく叫んだ。
「あっ……」
　和服の女は、体全体を、僕に完全に抱きすくめられる形になった。
　上半身は、身八つ口から左手を差し入れられ、胸を包み込まれていた。
　下半身は、右腰から右手を前に回され、裾の合わせ目から秘豆をとらえられていた。
　彼女は、体をやや屈め、左手で服の上から胸を、右手でじかに僕の手首を抑え、形ばかりのむなしい抵抗を見せていた。
　さらなる大切なところへの侵入は、かきわけねばならぬ和服の厚みから、やや難しそうであった。
　僕は、はちきれんばかりに膨らんでいる秘豆を、固くなっている左胸の突起とともに、じっくりと指で転がしていった。
　僕の下半身は、和服の尻に密着し、はちきれんばかりになっていた。
　僕は、豊満な温もりを彼女から感じながら、上下２つの突起を攻めていった。
　和服の女は、高まる快感に抗うかのように、弱々しく腰をよじりながら、顔をしかめ、消え入るような悲鳴を続けていた。
「いや……いや……堪忍よ……堪忍して……あっ……あっ……」
　抗いながらも、彼女はときどき、快感に屈服してしまうような喘ぎを漏らした。
　降車駅が近づいてきていた。
　僕は残り少ない時間をかけて、和服の中の暖かな肌の感触を、ゆっくりと確かめ続けた。
　僕の指先は、執拗に和服の女の体を攻めていった。
　彼女は、弱々しくいやいやをしながら、僕の指に悶え続けていった。

　駅に到着し、僕は会社に向かうべく、改札に向かった。
　和服の女は一足先に降車し、僕に恥ずかしそうな一瞥を加えた後、やや早足で歩き始めた。
　僕は、自然と彼女の後ろを追う形になった。
　彼女は改札口の近くまで来ると、やや周囲を見回した後、改札横のトイレへ駆け込んだ。
　僕は、彼女がこれから何をするのか、淫らにたくましく想像してしまった。
　その想像に軽い満足を覚えて、僕は改札口を抜けようとした。
　その時だった。
「ちょいと待ちなよ、坊や」
　いきなり手首を後ろから捉まれ、僕は心臓が飛び出しそうになった。
　そして、恐る恐る後ろを振り向いた。
　そこには、和服の女と一緒に駅のホームで見かけた、ホステス風の女が立っていた。

　僕を引き止めたホステス風の女は、薄ら笑いを浮かべながら僕を見つめていた。
　その表情に、僕はゾーッとさせられた。
　彼女はそのまま、口もきけない僕の顔を、面白そうに観察していた。
　やがて彼女が口を開いた。
　「なに脅えてんのさ……安心おしよ。別に、突き出そうってんじゃないんだから」
　その言葉に、僕はやっと、極々小さな安心感を覚えた。
　まずは、第一関門突破だ。
　だが、その余韻にひたる間もなく、僕は腕を引かれ、乗り換え階段の下へ促された。
　僕の背が、ひんやりとした固い壁に押し付けられた。
　ホステス風の女は、僕の顔の右側の壁を片手で押さえ、僕の姿を隠すようにして立ちはだかった。
　僕の心に、再び、たまらない不安が広がってきた。
　この女は、僕をどうしようというのか……これをネタに、金でも搾り取ろうというのだろうか……僕は、何も言えず、ただ、彼女の言葉を待つしかなかった。
　すると、彼女の目つきが、急に悩ましい色を帯びてきた。
「突き出すなんて、もったいないじゃないか……今度は、あたしが坊やを可愛がってあげる番だよ……」
　驚く間もなく、彼女の体が、女郎蜘蛛のようにしなだれかかってきた。
　彼女は気持ちが高ぶっているのか、息をやや荒げながら、とぎれとぎれに話を続けた。
「坊やだって、このままじゃ困るだろ？　……さっきの女は、あれで満足したかもしれないけどさ……あんな終わり方じゃ、坊やの方が、収まりがつかないだろ？　……」
　彼女の勢いに、僕はもう、選択肢を失っていた。
「鎮めてあげるよ……坊やがあの女にしたように、坊やの火照りを鎮めてあげるよ……だから、黙って言うこと聞くんだよ。いいね……」
　妖艶な目に射すくめられ、僕は唯々諾々とうなずいていた。
　すると彼女は、満足そうに笑みを浮かべ、
「そうかい……よしよし、いい子だね……」
　そうして、僕の顔を両手で優しく挟み、ねっとりと唇を重ねてきた。