第56話　佐紀子


　あの郁美拉致事件の時に、貴重な情報をもたらした杉村佐紀子(21歳)は田原達の助けもあって全ての借金を解消した。
　当初は遠慮した佐紀子であったが、亜紀の勧めもあって受け入れた。
　そして亜紀に請われて、今では亜紀の付き人に雇用されていた。
　亜紀自身は家庭の雑務は自分自身で行う主義であったが、実業家の妻は驚くほど多忙で、また自身の活発な性生活もあって、正直猫の手も借りたいほどであった。
　もともと佐紀子はインドア派で几帳面な性格で、料理も得意であったので、それをよく知っていた亜紀に請われたのだ。
　正直、高校卒業後すぐに風俗の世界で生きてきた佐紀子には、まともな職歴が無くて、風俗を引退しても就職はままならない状況であった。
　普通なら、そのまま風俗で資金を貯めて、自分自身でお店でも開業するところであろう。

　佐紀子は亜紀を姉のように慕っていたので、自然と亜紀専属の秘書のような存在となった。
　当然のように女子会にも同行することも多く、皆から仲間入りを勧められたが、佐紀子は女子会全員が素敵な女性ばかりで、その中に自分自身が加わるということに違和感を覚えて辞退した。
　なので亜紀の付き人という位置づけであったが、準会員として女子会メンバーから「佐紀ちゃん」と呼ばれ可愛がられていた。
　田原からも女子会メンバーと同じような待遇を与えられていた。
　佐紀子の生活は、あの日以来一変したのだ。

　佐紀子が長く苦しんだ借金は、阪神大震災で被災した父親から引き継いだもので、その父親は過労で倒れて亡くなってしまったのだ。
　佐紀子は、母親と祖母も阪神大震災で亡くしており、震災孤児であった。
　なんとか施設の力を借りて、高校は卒業した佐紀子を待っていたのは、父親が震災前に借りていた町金融の取り立てであった。
　町金融も半ば回収を諦めていた債権であったが、佐紀子が人並み以上の容姿を持っていることに目を付けて無理矢理押しつけてきたのだ。
　目当ては佐紀子自身であった。
　折からの不況で高校を卒業しても定職に就けず、施設のお手伝いをしていた佐紀子は追い詰められた。
　１９歳の女性には対応できる余裕は無かったし、亡くなった父親の恥を晒すようで誰にも相談出来なかった。

　町金融は風俗を紹介するから、そこで働いて返済するようにと迫ってきた。
　佐紀子は当時未だ処女であり、風俗には抵抗感が強く困惑するが、ネットで色々調べるうちに覚悟を決めて、町金融の紹介は本能的に身の危険を感じて、自らネットで調べた店をチャレンジすることにしたのだった。
　そして、その店で佐紀子は亜紀に出会う。
　その店は高級店であったが、若くて、もともと容姿は人並み以上であったので採用されたのだ。
　
　入店検査で素直に処女であることを申し出てしまう佐紀子は、店長である中山 勉の餌食であった。
　講習と称して、犯されて処女を奪われてしまう。
　処女の入店であれば、お初のお客からプレミヤを付けて追加料金を貰うことも可能なのに、何も知らない佐紀子を騙して奪ったのだ。
　これを後で知った亜紀は猛然と抗議して、中山に詰め寄った。
　オーナーの田原が可愛がっている亜紀は中山にとっては揉めたくない女であった。

　田原に睨まれたら、少なくとも近畿圏では生きていけないし、町を歩いているところを見つかったら終わりで、そういう目にあった者は１人や２人でない。
　そもそも裏社会が田原氏の意向に過剰反応して、粛正に走るのは必定であった。
　裏社会は田原氏と懇意にしたいので、点数稼ぎとばかりに追いかけ回してくる。
　中山が知っている実例として、関東で一世を風靡したＩＴ系企業の役員が田原氏を激怒させたと噂になった途端に沖縄で命を落とした。
　田原の父親が兵庫県公安委員会の常連メンバーでもあった繋がりで、警察にも絶大な影響力もあって、誰も逆らうことは不可能であった。
　県知事、市長ですら、田原氏の支援を受けなければ当選は不可能とも言われていた。
　数年に１人は無謀にも、そのような関係を取り上げようとするジャーナリストが現れるが、取材を始めた途端に行方不明になってしまうので、大手のマスコミは絶対に絡んでこない。
　日本では年間１万人近くが行方不明、失踪するとされているが、裏社会の闇に消えた人は数え切れない。

　もし亜紀が田原氏の女なら、逆らうことは命取りであった。
　なので中山は泣く泣く１０万円の詫び金を出したのだった。
　本来ならば数十万円のプレミヤが付くケースであったが、佐紀子が不感症で思うようにソープでの仕事が出来ないということが明らかになってきたので妥協が生じたのだ。
　程なくして佐紀子は解雇となったが、亜紀が新たな店を世話した様子を見ていた中山は、亜紀と田原氏の繋がりを確信して胸をなで下ろしていた。
　そういうカンを無くして、この世界は生きていけないのは常識であり、以後亜紀との関わりは最小限になるように苦慮したのは言うまでもない。
　雇われ店長というのは板挟みになって苦労することもあるが、店の売り上げが良ければ報われることも多いし、美味しい思いをすることも多い立場なのだ。
　もちろん売り上げが悪ければ最悪な立場となってしまうリスクは大きい。

　美味しい思いといっても自分の店の女の子に手を出すことは御法度であり、そんなに甘い世界では無い。
　中山のように雇われ店長は業界的に一般的で、当然他店の店長達とは顔見知りだし、ライバルではあるが共通の悩みを持つ仲間である。
　すると自然と持ちつ持たれつの関係が生まれる。
　系列店も含めて客をさばききれない場合など、懇意にしている店長の店を紹介したりする。
　当然、仁義として逆な立場になれば紹介してくるのだ。
　このような仕事をするからには、お互い無類な女好きなのは当たり前だ。
　こういう背景からだと思われるが、この業界では風習ともいうべき行いがあった。
　新人の女性によくあるのだが、出勤しても、その日一日お客さんが付かない事がある。
　これを業界用語で「お茶をひく」「お茶をひく女が出た」というのだが、ここで雇われ店長のネットワークが働いて美味しい思いが出来るのだ。

　店にとって期待できる女の子なのに、「お茶をひく」ことなどよくあることなのだ。
　しかし女の子にとっては、その日収入ゼロ、店によっては雑費負担はまけて貰えず赤字ということすらあるので、深刻で仕事を続けられるのかという事態であった。
　将来、お金の成る木になる可能性の女の子は挫折して辞めたりしないように育てて、そして自信を付けさせ収入を安定させる必要がある。
　そこで他店の懇意にしている店長、店員を無料で呼んで、女の子に付けさせるが、当然女の子には内緒で行われ、呼ばれた他店の男達は指名してきたように装う。
　女の子の取り分は、当然店が負担する約束になっているのだ。
　そう他店のソープ嬢と無料で楽しむことが出来るという実に美味しい楽しみがあり、中山のような超高級店店長ともなると、これが実に美味しく、週に数度は必ずありつけるのだった。

　ソープ店では文字通り「お茶をひく女」となり、将来性も無いとされた佐紀子は退店を余儀なくされた。
　佐紀子は退店理由が不感症と致命的で、本人も自覚していたので、他店という訳にもいかなかった。
　まだ１９歳で、施設育ちの佐紀子にとって、お酒を伴うホステスなど考えることも出来なかった。
　絶望する佐紀子に亜紀は救いの手を差し伸べた。
　不感症など関係無い、ＳＭ倶楽部のＳ嬢という仕事を紹介してくれたのだ。
　身長163�p　Bアンダー70のDカップ，W60，H88という魅惑的な肢体に、ボンテージファッションは見事に決まり、長年鬱積した精神が解放されたドＳぷりは尋常ではなかった。
　なにが人の適正なのかなど、やってみないと分からないと言うが、佐紀子の場合は恐ろしいほど壺に嵌まったのだ。
　たちまち超人気嬢に登り詰めて、数十万円のボーナスで特別に呼ばれるのが当たり前となった。
　お陰で順調に借金の返済を進めていく佐紀子であったが、文字通りお金の成る木に化けた佐紀子を町金融がおいそれと手放すはずが無かった。

　金額的にも十分返済していたので、もう終わりにしたいと考えて思い悩んでいた佐紀子であったが、相手が相手なので孤独な佐紀子には荷が重かった。
　さすがにお世話になって、仲良くして貰っている亜紀にも相談するのは遠慮していた。
　結果的にあの事件で、佐紀子も救われたのだ。
　田原には感謝されて、褒められて、田原の意向を受けた三井が動いた。
　たちまち町金融は手を退いてくれたのだ。
　自由になった佐紀子は、直ぐに亜紀からそばで働いて欲しいと誘われた。
　佐紀子にとっては実姉のように慕う亜紀のそばで、亜紀のために働けるなんて、夢のような話であった。
　壺に嵌まったとはいえ、Ｓ嬢という非日常の仕事は確実に佐紀子の心を蝕んでいたのだ。
　同意の上で相手が喜ぶ行為とはいえ、人を痛めつける行為は人としての心を荒んだものにしていく。
　亜紀のそばで、若い女性本来の楽しい日々は、そんな蝕まれた心を癒してくれた。
　両親を亡くして以来、本当の笑顔を失っていた佐紀子は次第に笑顔を取り戻しつつあった。

　佐紀子にとっては三井はスーパーヒーローに見えた。
　屈強な男達を従えて、あっという間に郁美を救出して、亜紀達の気持ちを察する精細な心遣いが出来る男であった。
　あの日、三井に優しく肩を抱かれて、ご馳走になった缶珈琲の味が忘れられない佐紀子であった。
　それは佐紀子の初恋であった。
　武闘派裏社会の住人とＳ嬢という取り合わせは、有り得ないものではないと思えたのだ。
　ある意味、世間知らずの佐紀子は、三井に夢中になった。
　亜紀に自分の気持ちを告白してアドバイスを請うが、佐紀子には三井の人生は荷が重いから覚悟が必要だよ諭された。
　もちろん亜紀は応援もしてくれるし、見守ってくると約束してくれた。

　三井は堅物でありながら、亜紀に出会った頃からトゲトゲした荒々しさが鳴りを潜めて、関わりを持った女性には甘い傾向があった。
　実母の愛情が記憶に無い三井にとって、母親のように包み込むような女性の温かみを亜紀は教えてくれたのだ。
　亜紀への想いは届かぬもので、三井の荒んで飢えた心は拠り所を求めていたのかもしれない。
　三井の日常は必殺仕事人のような殺伐としたもので、人としては安らぎを求めるのは厚かましいのかもしれないが、自身の感情や考えで仕事を行ったことは一度も無かった。

　一昔であれば組織絡みや他の組織からの依頼がほとんどであったのに、現在では組織絡みはほとんど皆無であった。
　もはや裏で血で血を洗う抗争は映画だけの世界であり、表だって意図的に見せしめ的に争うだけの時代に変わってしまった。
　今では一般人の依頼が大半を占め、まさに必殺仕事人のような有様であった。
　それだけ警察は頼りにならず、法律を悪用した悪人が笑う時代になったということだろう。
　三井達もお金だけのために、なんでも受け入れていたら毎日何人始末しても追いつかないし、犯罪の片棒を担がされるだけなので、対象は「人間の屑」に厳選していた。
　もちろん人を殺めるのだから犯罪であるのだが、戦争・紛争時の人殺しが合法化されているように、法律が及ばない人間の屑を始末する者がいたって構わないと考えていた。
　もともとこのビジネスを始めたルーツはアメリカマフィアだと言われていて、今ではチャイニーズマフィアも公然と行っている。

　三井にとっては佐紀子は世間の荒波の中で、１人で頑張って生きる若い女の子だと見えた。
　ほどなくして佐紀子も孤児で育ったと知り、放置しておけなくなった。
　田原氏の依頼を受け佐紀子の借金を調べると、たちの悪い町金融が食い物にしていたと知る。
　激怒した三井は町金融に乗り込んだ。
　三井を知る町金融は何事かと焦った。
　三井と事を構えたら、無事では済まないからだ。
　三井には象徴的な伝説が噂されていたのだ。
　神戸空港に建設にまつわる地上げ屋が三井の属する組織の意向を無視した行動を繰り返した際、地上げ屋グループ１７人全員が１夜にして行方不明になり、驚いたことに兵庫県警は全く調査に動かなかったのだ。
　裏社会の住人達は三井の影響力に震え上がった。
　町金融は泣く泣く手を退かざるを得なくなったし、思い切った活動は困難になってしまった。

　そんなこんなで自由の身となった佐紀子は直ぐに亜紀の元で働くことになったのだ。
　佐紀子は何度も三井に積極的にアプローチするが、いつもヨシヨシと子供扱いされてしまう。
　可愛がってくれるのだが、男と女の関係には発展しなかった。
　やがて藤村悠希が現れると、三井の目はみるみる悠希に向けられていった。
　女子会に悠希が参加して、佐紀子との交流も始まると、佐紀子は完敗だと悟った。
　容姿だけでない、男に対する心遣い、そして男と女の駆け引きの上手さ、全て完敗であった。
　佐紀子の切ない想いは悠希にも知られてしまうが、悠希はなにも語らず自然体で接し続けてくれた。

　ひょんなことで佐紀子の不感症が女子会で話題になった。
　若く美しい佐紀子がオンナの悦びを知ることが出来ないは気の毒だし、勿体ないが共通意見であった。
　一時は徹に頑張って貰おうという話で盛り上がったが、精力・テクニックで押し切るのは難しいのではという意見で落ち着いた。
　やっぱり愛情で、ゆっくりコツコツいくのが一番の薬だという意見で落ち着いた。

　佐紀子は容姿でいえば美形であり、男性から見れば気になる存在であり、決してモテないわけではない。
　そして亜紀と行動を共にするようになって、毎日のように男性から誘われる機会は増えていたのだ。
　田原の元には事業家の卵である有力な青年達が頻繁に訪れ、彼らのお世話などは亜紀には大切な役割であり、その手伝いが佐紀子の主な仕事であった。
　青年達には亜紀と佐紀子は憧れの存在であった。
　自分達も成功して彼女達のような妻を持ちたいと夢を持つのは当然の成り行きであった。
　亜紀は総帥の愛妻であり、心を寄せるだけでも恐れ多い存在であったが、佐紀子は独身で良い伴侶募集中と聞かされては彼らの血は騒いだ。
　亜紀が可愛がっている佐紀子と結ばれるということは亜紀からも信頼を得ることに繋がるし、ひいては田原氏との繋がりが盤石になることを意味する。
　思惑はともかく、何度も料理をご馳走になった彼らは佐紀子に理想の妻像を描いていくのにそれほどの時間を必要としなかった。

　佐紀子にとっては三井のイメージが強烈で、彼女の生い立ちからいっても守ってくれる強い存在への憧れがあったからだ。
　だから自然と普通の男性を遠ざけてしまう傾向が強くて、彼らの誘いを受け流してしまう。
　そんなことが繰り返されてしまうと男達も諦めの気持ちが起きてきて、次第に誘われる機会が減ってしまう。
　そんな中で、１人の男性が佐紀子の前に唐突に現れた。

　佐紀子は女子会に必要な食材を買い出しに１人で三宮に出かけたのだが、調子にのって買いすぎてしまい両手いっぱいに物を持ってフラフラとなりながら駐車場に向かって歩いていた。
　無理をしすぎたので、複数の紙袋の持ち手が千切れて落としてしまう。
　慌てた佐紀子はバランスを崩して、持っていた物をなにもかも路面にぶちまけてしまう。
　恥ずかしいやら、買った物を拾い集めるのに焦るし、もはや佐紀子はパニックだ。
　通りかがった１人の男性が駆け寄ってきて、拾い集めるのを手伝ってくれた。
　あたふたする佐紀子を尻目に、男性は無事に残った紙袋の中身を整理して振り分け直して、荷物を持ち易いようにしてくれた。

男性　 　「はい　これで大丈夫　もう落としちゃ駄目だよ」
佐紀子　「あっ　ありがとうございますぅ」
男性　 　「いやいや　じゃあ　これで」
佐紀子　「あの　お礼を」
男性　 　「いいよ　その素敵な笑顔で十分」
佐紀子　「そんなぁ　あっじゃあ　せめて　お名前とご連絡先を」
男性　 　「あっはっ　今日　俺　大阪から来てるからね　無理しなくても」
佐紀子　「お願いしますぅ」
男性　 　「まいったなぁ　そんな上目遣いで見られたら　弱いな」
　　　　　 「はい　これ名刺」
　　　　　 「飯田智久といいます　そこは勤めている事務所です」
佐紀子　「すごいぃ　お若いのに　弁護士さんなんですね」
智久　　 「一応　まだ成ったばかりの　新米ですけど」
佐紀子　「ぜひ　今度　お時間下さい」
智久　　 「そんなにしなくても」
佐紀子　「お願いします　またお会いしたいの」
智久　　 「照れるなぁ　分かりました　じゃあ　携帯番号とか交換しますか」
　　　　　 「杉村佐紀子さん　ですかぁ　ではまたね」

　佐紀子の男性への閉ざされた心は智久との出会いが唐突に扉を開いた。
　ちょっと浮かれ気味の佐紀子は亜紀達の元に戻ると、興奮気味にその出会いを報告した。
　みんな佐紀子の帰りが遅いので心配していたのに、佐紀子は素敵な出会いをしていたと知ってホッとしてワザと茶化して聞いていた。

亜紀　　 「うふふ　佐紀ちゃんに　遂に春来るか？」
郁美　　 「そうみたいぃ　うふふ」
里奈　　 「そういう出会い　胎教にいいわぁ」
亜紀　　 「まあ　恋多き子供になりそう」
敬子　　 「うん　郁美姉さんみたいになる」
郁美　　 「あれれ　言われた」
里奈　　 「いいじゃない　郁美大好きだもん」
郁美　　 「うふっ」
悠希　　 「良かったね　佐紀ちゃん」
佐紀子　「うぅぅぅん　でも　これからですよね　彼女さんいるかもしれないし」
郁美　　 「構うことはない　奪え！！　奥さんがいなければ問題なし」
亜紀　　 「相変わらず　過激ね　まあ　恋愛は女にとっては戦場だもんね」
里奈　　 「そう　遠慮した方が負け　良い男は勝ち取るものよ」
敬子　　 「そういうものなんだ」
悠希　　 「もう　亜紀、里奈、郁美ったら　佐紀ちゃん　敬ちゃんを　けしかけ過ぎ」
敬子　　 「わたしも　ガオォォォっていっちゃお」
悠希　　 「これこれ　祐司さん　ガオっちゃったばかりでしょ」
敬子　　 「あはぁっ　確かにぃ」
郁美　　 「もう　徹泣いちゃったんだから　ホドホドにしないと」
悠希　　 「それを郁美が言う？」
郁美　　 「あれれ　バレた」
亜紀　　 「それにしても　弁護士かぁ　気になる」
里奈　　 「そうそう　亜紀って　今度始まる　予備試験だっけ？　あれ受けるの」
亜紀　　 「うん　来年あたり　挑戦してみる」
悠希　　 「亜紀が弁護士になったら　不甲斐ない男を成敗しそう」
郁美　　 「うん　でも亜紀すごい勉強してるから　期待できそう」
亜紀　　 「中学生からの夢だからね」
郁美　　 「凌は　なんて言ってるの？」
亜紀　　 「弁護士になったら　顧問弁護士にするって」
郁美　　 「あはぁはぁ　亜紀を手放す気はサラサラなさそう」
亜紀　　 「うっ　そういうことか　参った」
郁美　　 「きっと仕事中も　亜紀　亜紀って　纏わり付くかも」
亜紀　　 「えっえぇぇぇ嘘ぉぉぉ　マジ」
里奈　　 「有り得る」
悠希　　 「間違いない」
亜紀　　 「だから　凌　嬉しそうにしてるのね　ひえぇぇぇ」
佐紀子　「あぁぁぁん　独身でありますように」
悠希　　 「ねぇねぇ　貰った名刺見せてぇ」
佐紀子　「はい　これ　うふふ」
悠希　　 「えっ　飯田智久・・・・・嘘　違うよね」
亜紀　　 「どうしたの　悠希」
悠希　　 「いや　高校時代の元カレと同姓同名なの」
佐紀子　「えっ　でも有り得るかも　凄いイケメンだもん　悠希さんの元カレって有り得る」
悠希　　 「うぅぅぅん　確かに　元カレの成りたい職業　弁護士だった」
亜紀　　 「佐紀ちゃん　何歳くらいの人だったの」
佐紀子　「２０代半ばくらいだと思う」
里奈　　 「あらゃ　まさに悠希と同じ年くらいじゃない」
郁美　　 「世間は狭いってこと？」
悠希　　 「うふふ　もしそうなら　佐紀ちゃん応援するね」
　　　　　 「正直に報告するけど　元カレとは最後までしてないからね　安心してね」
亜紀　　 「悠希には　もう大切な人いるもんね」
悠希　　 「うん　佐紀ちゃんにも幸せになって欲しい」
敬子　　 「賛成！！」
里奈　　 「違っても良いから　悠希の元カレの話　詳しく聞かせてぇ」
悠希　　 「うふっ　聞きたいの　照れるな」
亜紀　　 「甘酸っぱい思い出って　なんかときめくぅ」
郁美　　 「聞きたい」
敬子　　 「聞きたいぃ」
佐紀子　「お願いしますぅ」
悠希　 　「今日の会の肴は　これですか　参ったなぁ」

　悠希は思わぬことで高校時代の思い出話をすることになったが、ずっと心配していた風俗という非日常世界で荒んでしまった佐紀子の心が癒されて女の子らしい笑顔を取り戻しつつあることに安堵していた。

つづく