今年３０歳をむかえる美鈴は、惜しまれるなか１０年間続けてきた看護婦を辞めることになった。同病院の外科医と結婚することになったのだ。彼女の退社は病院関係者以外に入院患者達からも大変おしまれていた。
「ねえ美鈴ちゃん、本当に結婚するのかね？」
「ふふ、本当ですよ。私ももうすぐ３０歳だし・・・そろそろいいかなって」
「はあ・・・わしゃ淋しいよ。美鈴ちゃんがいるからこんな苦しい治療にも耐えられていたというのに・・・」
　大きくため息をついた入院患者の老人は、そう言いながらやせ細った腕をそろそろと伸ばし、白衣をムッチリと盛り上がらせている尻肉に手を這わせた。
「きゃっ！」
「うむ、やっぱり美鈴ちゃんの尻が一番じゃ。あぁ、この尻ともお別れしなきゃならんと思うと・・・あぁ」
　美鈴のファンを名乗る男達のほとんどが、美形の顔立ち以上に豊満でスレンダーな、そのボディの虜となっていた。
　１７０センチという長身に９２センチの豊かなバスト。それがナース服をおおきく隆起させ、常に官能的な動きを見せてくれる。８９センチのヒップに至っては、張りのあるムッチリとした尻肉が微かにパンティラインを透けさせており、歩くたびにプリプリと悩ましく揺れる様がなんともエロティックだ。日課であるジムでの水泳が、３０歳を目前にしてもなお、この見事なプロポーションをいまだ維持しているのであろう。
　そんな日本人ばなれした肉体とは対照的に、性格の１部に純真無垢な部分を残している美鈴は、独身男性の医師だけではなく妻子ある男達からも交際の申し込みや、ときには不倫の誘い、または真剣なプロポーズをも受けてきた。
　しかし、まるで結婚願望のない美鈴はことごとくこれを断り続け、気がつけば三十路を目前に控えていた。別に一生独身でもかまわないと思っていた美鈴ではあったが、年々老いていく両親をみているとどうしても気持ちが揺らいでしまう。１人っ子であるからよけいにそう思うのかも知れない。
　生まれたときから今日に至るまで、両親からこれ以上にないぐらいの多大な寵愛を受けてきた美鈴にとって、今回結婚に踏み切ったのには（両親に心配をかけたくない、安心させてやりたい）という想いが人１倍強かったからであった。

　結婚式前夜、美鈴の家では家族三人だけのひそやかな最後の晩餐が行われていた。
　普段よりも明るく振舞っている父と母が食卓を賑やかにしていく。両親にとって１人っ子である美鈴はかけがえのない宝物で、その想いは美鈴がいくつになっても変わることはないだろう。特に父親のほうは美鈴を溺愛し、生まれてからこのかたずっと暖かい目で見守り続けてきた。まわりからは「甘やかしすぎ」だとよく言われたものだ。
「いやあ、本当によかった。おめでとう、美鈴」
「うん、ありがとう。お父さんとお母さんが元気なうちに孫を抱かせてあげられるよう頑張るからね」
　美鈴の言葉にニッコリと微笑む父親の目は、僅かに潤っていた。
「あぁ、とうとう美鈴もお嫁に行っちゃうのね・・・。この家からあなたがいなくなるのはちょっぴり寂しいけど・・・でも本当によかったわ。おめでとう」
　安堵と切なさが絡む母親の言葉に、父親の隆三はとうとう堪えきれずに目尻から熱い雫をこぼした。
「お、お父さん・・・大丈夫？」
　いつかはこのような日が来ると思っていたが、まさかこんなに辛いものだとは・・・。
　隆三の心情を察してか、母親も泣きだしてしまった。
「ちょ、ちょっと二人して・・・」
　うつむき、肩を震わせる両親をまえに、困惑する美鈴の胸中にもだんだんと熱いものがこみ上げてくる。
（・・・絶対に泣かないって決めてたのに・・・）
　あごを突き上げ必死に涙を堪える美鈴にむかって、ゆっくりと顔をあげた父親がしずかに口を開いた。
「と、とにかく健康には気をつけるんだよ。・・・苗字が・・・たとえ苗字が変わってもお前はずっと私たちの娘なんだから・・・もし嫌な事があったらすぐに帰ってきなさい」
　震える声で、父親として最後の言葉を娘にかけると、すっと起ち上がりそそくさと風呂場へと向かっていってしまった。
「グス、グス、・・・ふふ、お父さんね、きっとお風呂の中でおもいっきり泣いてるよ。美鈴の結婚が決まってからずっと沈んでたから。あなたとお父さん、ほんとうに仲がよかったものね。あんまり仲がよくて、お母さん嫉妬したことがあったもの。・・・お父さん、あなたに結婚してほしいと思う気持ちよりも、たぶん、ずっと居て欲しいという気持ちのほうが強かったと思うよ」
「・・・お父さん」
　美鈴の大きな瞳からは、ポロポロととめどなく涙が溢れていた。お父さんっ子の美鈴にとって、父親の悲しみは何よりも辛く切ない。
「あっ、いけない！これから伊藤さん家へ挨拶に行かなきゃいけなかったんだ。美鈴、あなたも一緒にきてくれる？」
「・・・ごめん、もうしわけないけど・・・お母さん１人で行って来てくれない？わたし、最後にお父さんの背中ながしてくる。そのうちあらためてキチンと挨拶に行くからって、よろしく伝えておいて」
「・・・うん、わかった。お父さんきっと喜ぶよ。じゃあ、お母さん一人で行ってくるから、お父さんのことよろしくね」
「うん」
　玄関口で母親を見送ると、美鈴は父親のいる風呂場へ足を向けた。

　・・・ザザーッ、・・・ザーッ、・・・
　いざ脱衣所にきてみると曇りガラス越しに映る父親の姿が、ほんの一瞬、美鈴を躊躇させたが、それでも（何かしてあげたい）という気持ちのほうが遥かに強かった。衣服を脱ぎ全裸になるのに何らためらいはない。
（・・・お父さんとは１５歳まで一緒にはいってたんだもんね）
　純情無垢なまま思春期を過ごしてきた美鈴は、じつに１５歳まで普通に父親と風呂に入っていた。それが世間から見ておかしい行為だとは思いもせずに。ただ、いまになって思えば、１５歳まで一緒に入っていたにもかかわらず父親のペニスは一度も見たことがない。父親なりにそのへんは配慮していたのだろう。
　窮屈なブラをはずしピチピチのパンティをつま先から抜き取ると、大きめのバスタオルで豊満な肉体を覆い隠し、静かに風呂場のドアを開けてなかに入った。