５．

　久仁子を取り戻すにはどうしたらいいか、たけしはずっと考えていた。
　金を積んで、３人の青年の意志を変えさせる事も考えてみた。
　しかし、もしその事実が久仁子に知れれば、たけしは久仁子を失うだけでなく、一生彼女に口もきいてもらえなくなるだろう。
　考えあぐねた末、たけしは、３人の青年に別の中年女性を紹介することにした。
　同じように魅力的な餌を新に与えれば、古い餌には興味を示さなくなるだろう、と思ったのだ。
　たけしは、知り合いの３５才の雑誌編集者がいいと思った。
　美人で背が高く、久仁子に負けず劣らずのグラマーだ。
　それに独身で、年下好きだった。まさに打ってつけだ。
　たけしは早速、彼女に連絡をとった。
　彼女はたけしの話に興味を示し、たけしは、日を決めて二人を引き合わせることにした。
　秀明にも連絡をとった、たけしは、彼が久仁子と密会を重ねている事にはまったく触れないで、知り合いの女性を紹介したい、とだけ言った。
　その際たけしは、妻と３人の青年が特別な関係にある事は、彼女には伏せてほしい、と秀明に頼んだ。

　待ち合わせの日、彼女は大胆に胸元が開いた黒のＴシャツの上に、白のジャケットを羽織って現れた。
　小さめのジャケットの胸の部分が、はち切れそうに膨らんでいる。
　下半身は、ムチムチの尻と引き締まった脚を白のジーパンで包んでいる。
（「へえーー、こりゃ凄いや。」）たけしは、彼女の人目を引く魅力的な身体に目を見張った。
　たけしが二人を紹介する。
「こちら秀明君。こちらは、○○さん。雑誌の編集をしていらっしゃるんだ。」
「はじめまして。秀明です。」
「こんにちは。○○です。」
　秀明を見た彼女の顔が、みるみる喜びに輝いてゆく。
「わぁー、ほんと写真以上にステキ。どうぞ、よろしく。」
　彼女の舐めるような視線が、秀明の引き締まったウェストに引き寄せられ、それから逞しい尻をちらっと見た後、また顔に戻る。
　秀明の方も、彼女の大きな胸に視線を奪われているようだ。
「大人の女性が好きなんですって？」
「ええ、だって大人の女性は、みんな優しくて、綺麗でしょ。」
「嬉しいな。お世辞でも。」
　その後も彼女の目線が、秀明の視線を盗んで、露骨に彼の股間と顔を行き来するのがわかる。
　彼女はそのまま、たけしが横に居る事も忘れて、うっとりと秀明に見蕩れている。
（「ふっ、涎を垂らしそうだな。」）
　たけしは、うまくいったと内心ホッとしながら、竜也と徹平の事を彼女に話した。
「彼の友達二人も、年上の女性がタイプでね。竜也君と徹平君ていうんだけど、やっぱりとてもキュートなんだ。」
「へぇー、ぜひ紹介してほしいな。」
「今度、彼らと一緒に食事でもしたらどうかな。ねえ、秀明君。」たけしが秀明に同意を求める。
「ええ、あいつらも喜ぶと思います。ぜひ、ご一緒させて下さい。」
　その日３人は、上機嫌のまま別れた。

　一週間が過ぎたが、久仁子の態度に特別な変化は無かった。
　焦ったり、沈みこんだりしている様子もないし、誰かと頻繁に連絡をとっている様子も無い。
　心配になったたけしは、その後どうなったか、知り合いの女性に聞いてみることにした。
「その後、あの青年とはどうなってる？」
「それがね・・」
　相手の女性編集者は言葉を濁しながら、恥ずかしそうに話し始めた。
「実は、ふられちゃったのよ。」
「えっ！？」
「あれから秀明君達と一度会って、私は彼らの事がとても気に入ったの。それで、こちらから何度も連絡したんだけど、どうも彼らには他に意中の人がいるみたいで・・。」
「でも君はとても美人だし、彼らも年上の人は好きだったはずだが・・俺には君以上の人がいるとは、とても思えないんだが・・」
「私も自分のどこがいけないのか気になったので、どんな人が好きなのか訊いて見たんだけど・・」
「うん、それで？」
「秀明君達はただの年上好きじゃなくて、重度のマザコンみたいね。母親のように優しくて美しい人が好きだと言ってたわ。私は少し気の強いところがあるし、結婚もしていないから。」
「そうか・・」
　たけしは久仁子のイメージを、今の話と重ね合わせていた。（「そうか、それであんなに久仁子の事を・・」）
　たけしは、丁寧に詫びを言って電話を切った。
　たけしたち夫婦には子供はいないが、久仁子は子供好きで、家事も得意だった。
　たけしは昔から、そんな久仁子の包み込むように癒してくれる優しさが、とても好きだった。
（「きっと秀明たち３人の青年も、久仁子の母性を意識させる優しさに、魅力を感じているに違いない。」）
　たけしは策を失い、これからどうするべきか、途方に暮れていた。

　そうこうしているうちに、たけしは仕事の取材で地方に出かけなければならなくなり、数日間家を空ける事になった。
　自分が留守の間の久仁子の行動が、不安で仕方がないたけしは、家に監視カメラを設置することにした。
　たけしは、久仁子が買い物で留守の時を狙って、寝室に隠しカメラを設置して、動画を長時間パソコンに録画できるように設定した。
　こうしてたけしは、嫌々取材に出かけた。

　数日後、たけしは予定より少し早く、自宅に戻る。
「お帰りなさい。予定より早かったのね。」と、いつものように明るい笑顔で彼を迎えた久仁子に、逆にたけしは不安を募らせていた。
　たけしは、少し疲れたので一時間ほど休むと言って、そのまま自分の書斎に閉じこもり、さっそく映像の確認を始める。

　映像の再生を始めるとすぐに、画面に久仁子が現れた。
　久仁子は既に素っ裸になっており、ベッドに仰向けに横たわると、足をＭ字型に開脚しながら、自分の胸を揉み始めた。
　たけしがそのまま画面を見つめていると、やがて部屋に男が入ってくる。
　画面が粗く顔がはっきりしないが、確かにそれはあの徹平だった。
　たけしの不安は的中した。（「なんてことだ。俺達のベッドでまで、やるつもりなのか。」）
　徹平は時を惜しんで、剥ぎ取るように自分の服を脱ぐと、ベッドに横たわる久仁子に飛び掛かる。
　それはまるで、幼児が久しぶりに会った母親に飛びついてゆく時のように見える。
　久仁子は股を開き、両手を拡げて徹平のスリムな身体を受け止めると、彼の頭をその豊かな胸で抱きしめた。
　徹平は久仁子の胸に顔を埋めたまま、下半身に手を伸ばし、夢中で久仁子の身体にペニスを挿入している。
　すぐに久仁子が徹平の腰に両脚を絡め、徹平が久仁子の上半身に抱きついて、二人の激しい身体の交歓が始まった。
　徹平は狂ったようにその腰をくねらせ、久仁子は大きく口を開けて絶叫をあげているように見える。
　やがて徹平の身体が痙攣するように震え、一度大きく伸び上がった後、動かなくなった。
　久仁子はぐったりした徹平をその柔らかい胸で抱きしめ、くちづけをしながら、なにか語りかけている。
　すこしすると、今度は徹平の方から、久仁子の乳房を揉んだり、その口に吸い付いたりと、積極的に彼女の身体を求め始めた。やがて再び、徹平がその腰を激しく動かし始める。
　久仁子は、徹平が自分の中に新鮮な精液を吐き出すと、その心地よい身体で青年を包み込み、豊かな乳房を与え、くちづけをし、優しい声で励まして、さらに何度もそのペニスを奮い勃たせた。
　そうやって、飽きる事なく若い男の身体を楽しみ、際限無く、溢れるエキスを搾り続ける。
（「まるで・・食虫植物・・だな。」）たけしは、久仁子の底なしの性欲に呆れかえっていた。
　二人はこの流し込み、充たされる快感の貪り合いを、日が高くなり、そして傾くまで、延々と一日中続けた。
　久仁子はその間ずっと、徹平に抱きついた手と足を解こうとしなかった。
　たけしが映像を早送りして、この様子を確認すると、二人は夕方までの間に２度トイレに行き、一度飲み物を寝室に持ち込んで水分補給をしたが、それ以外はずっとベッドの上で抱き合っていた。
（「完全なセックス中毒だ。」）

　たけしは失望し、ぐったりと疲れて書斎から出てきた。
「あなた、食事にしましょう。」笑顔の久仁子がたけしを待っていた。
（「本当に同じ久仁子なんだろうか？」）
　たけしには、今、目の前に居る、明るく屈託のない久仁子が、あの映像の中の女と同じ人物だとは、とても信じられなくなっていた。
「テーブルクロスを変えたの。どう？綺麗でしょ。」
　久仁子はたけしを見つめ、幸せそうに微笑んだ。