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（１１８）
李が営む骨董品店、王華に着いた剛士と沙良は、西郷の依頼とマリオンの情報を説明した。
「伊武よ・・・それは難しすぎると思う。確かに、お前は凄い男だ。その道の専門でもある。しかし、今の話を聞くと誘拐された女性は殺されていてもおかしくないぞ。俺が思うに右京の企みでお前を誘い出してるとしか思えん。もしそうだとしたら奴の思う壺だぞ。」
「確かに・・・だがな・・・だが、虎穴に入らずんばだ・・・・」
李は、無言で剛士を見つめた。
しかし、それ以上に剛士の視線の鋭さが李を圧倒していく。
「わかった・・・・・伊武よ、とことん手伝わせてもらおう。」
「李よ・・・恩にきるぜ。」
「俺は、２度もお前に命を救ってもらった。もはや命など惜しくない。」
「・・・李・・・・・・」
「だが伊武よ・・数秒で全員を片付けないと・・・・」
「不可能ではない。」
「具体的にはどうするんだ。」
「今話したマリオンというホーピングの捜索員が現地に居る。俺とは、行動を共にしないが、奴らを殲滅させる指令を国連から受けているんだ。突破口を開いてくれるだろう。」
「その、マリオンという女性は、その実力があるのか。」
「元、豪州陸軍特殊空挺部隊の隊員だ。戦歴は数知れない。単に戦闘能力だけなら、彼女も俺と遜色は無いだろう。」
「ほぉー・・・・解った。俺は何をすればいい。」
「右京の逃避妨害だ。」
「ククッ・・・伊武・・・成功のシュミレートを既にしているのか。」
「これが俺の昔からの遣り方だ。」
「・・・で、奴らの居場所は？」
「ロシアに近い金巌壌という丘陵地だ。」
「わかった。今月中には潜入する。今回は俺も行こう。右京の最後を見届けん事には、気が気でないからな。」
「マリオンの情報だと奴らは村民をカバーしている。」
「なるほど・・・厄介だな。」
「幸三にインターコムを頼んでおいた。近いうちに出来るはずだ。」
「そうか。」
「お前が出かける前までには届けよう。」
「解った。・・・武器は地下にあるから選んでおけ。俺が直接持っていってやる。」
「ああ。・・・さすがに、武器を持って飛行機には乗れないからな。」
「俺のルートなら簡単だ・・・で、いつにする。」
「準備が整い、お前が現地に到着したら直ぐに出かける。」
「ククッ・・・なるべく急がねばならんな・・・」
李は、自信気に笑みを浮かべて葉巻をくゆらせた。
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『兄貴、あと１日あればインターコムが完成しますんで。』
「解った。近々、取りに行く。」
『了解っす。』
幸三は、小気味いい返事をして電話を切った。
剛士は、今朝方、沙良に頼んだデュベルを飲みながら料理に箸をつけた。
「沙良・・・・美味いな・・・これ・・・・」
「・・・そう・・・ありがとう。」
「どうした・・・まだ心配なのか。」
元気の無い沙良に剛士は、気を使って言葉を掛けた。
「・・・うん・・・・単なる私の感だけど・・・・恐いのよ。」
剛士は、沙良の表情を窺いながら静かに囁いた。
「沙良・・・・・俺、探偵を辞めようと思ってるんだ。」
沙良は、驚いた顔で剛士を見た。
「えぇっ？・・・・・や、やめてどうするの？」
「まだ、考えていない。右京を始末してからゆっくりと考えようと思ってる。」
沙良が、即座に言い返した。
「豪君たちはどうするの？」
「この事務所を豪に渡して独立させる。軌道に乗るまでの資金も与えるつもりだ。もちろん、裏のアパートも不動産も全て豪と由紀君に渡す。豪なら出来るだろう。」
沙良は、困惑した表情で剛士の話を聞いていた。
深まる不安が沙良の心を乱していく・・・・
「・・・・私は・・・私はどうするの？」
「お前の自由だ。」
「自由って・・・・どういう意味？・・・剛士に着いてっていいの？」
「・・・だから・・・自由だ。」
「・・・・・・い、意味がわからない・・・・」
「沙良、お前は、いま色々な事を悩んでる。恐らく俺以外のことも。」
沙良は、その言葉に一気に胸が締め付けられていった。
剛士が、自分の気持ちを見抜き、敢えて、そういう言い方をしているのが痛いほど解ったからだ。
「・・・・・・気付いていたの？」
「お前の様子がおかしくなった時・・・そう、１ヶ月ほど前だったかな？」
「・・・え？」
「俺が四国へ行っている間、平岡さんと会っただろう。洗濯機の上にホテルのマッチが置いてあるのを見た。」
（・・・！・・・・・・・あの時・・・・そういえば・・・・・）
「ホテルで会うのは、彼以外に、そうはいないからな。」
沙良は、剛士のその言葉に視線を落としていく。
「・・・・あれ依頼、お前の雰囲気が一変したからな。俺は、お前の人生を狂わしているんじゃないかって。」
「・・・・そ・・・そんな・・・」
「いや、正直に言わせてもらうと・・・沙良、お前は心が揺らいでいる。」
「・・・・・・」
「つまり・・・・俺以外の拠り所に傾きかけている。」
「・・・・・・ぁ・・・そ・・・・それ・・・は・・・」
「俺の想像だが、平岡さんから何か言われたんだろう？」
沙良は目を落とした・・・・
「・・・・・・・・」
「やはりな・・・それが、お前の元気の無い要因だ。」
「・・・でも・・・でも、私は・・・・」
「沙良、思いつきで言葉を喋るな。・・・・・即答しなくてもいい。」
「・・・・剛士・・・・」
「さて、食うぜ。せっかくの料理が冷めちまうぞ。」
剛士は、デュベルの栓を開けるとグラスに注いだ。
沙良は、まだ下を向いたままだ。
「おい、沙良っ・・・・お前らしくないぜ・・・早く食べろ。」
沙良は、思い出したように、あの時と同じ質問を剛士にした。
そう、剛士を空港まで迎えに行った帰りに車の中で言った言葉を・・・
「・・・剛士・・・・・・・・・・・・今夜・・・・・私を抱く？」
怪訝そうに沙良を見つめ首を傾げる。
だが剛士もその言葉に気付き、あの時と同じ台詞を返した。
「何故・・・・・・何故そうしたい？」
「・・・・・解らない・・・・・」
そう言って剛士を見つめる沙良・・・・・
「・・・・・・・・・・・・今夜は、抱いてみよう。」
剛士は、相変わらず表情を崩さず、至ってクールに言葉を吐いた。
「・・・・・私も・・・・今夜は、抱かれたい・・・」
沙良は、立ち上がるとその場で服を脱ぎ始めた。
全ての着衣を脱ぎ捨て、剛士に飛びついていく・・・・・
椅子に座る剛士のベルトを外しジーンズを下ろした。
ブリーフを下げ飢えた獣のように唇を肉棒に被せていった。
しかし、沙良は直ぐに剛士の腰に跨いでいく。
濡れそぼった蜜壷に自ら肉棒を導いていく沙良・・・・
「ウッフゥゥゥゥゥー・・・・」
剛士は、沙良の目を見つめて何かを探ろうとしている・・・
その視線に沙良も気付き、腰の動きを止めると暫し剛士を目を合わせた。
「・・・沙良・・・」
「剛士・・・・今日は・・・・今日は何も言わないで・・・」
「・・・・・」
「迷ってる・・・・確かに迷ってるの・・・私・・・・・・」
沙良は、そう言うと激しく腰を動かし始めた。
自然と涙が頬を伝っていく・・・・
剛士は、そんな沙良を見ながらヒップに手をあて沙良の身体を揺すり始めていった。
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− ２日後 −
「っかしーな・・・」
「どうしたの、剛士・・・・」
「今朝から幸三に電話してるんだが、全然出ねぇーんだよ。」
「また、ソープランドでも行ってるんじゃないの？」
「・・・・んー・・・・朝から行くかな？」
剛士は、豪を呼び寄せた。
「はい。」
「豪、悪いが幸三の店を見てきてくれ。」
「解りました。」
豪が事務所を出て行くと、剛士は、沙良が入れたコーヒーを飲みながらシュミレートの作成を開始した。
「作戦考えてるの？」
沙良の言葉に頷く剛士・・・・
「ああ、今度は失敗は許されんからな。」
その時、部屋の電話が鳴った。
受話器をとる沙良・・・
「あら、四郎さん、お久しぶり。」
『あ、沙良ちゃん・・・フフッ・・・お元気？』
「相変わらず、気持ち悪い声ね。」
『・・・怒るわよ。いい加減に慣れてよね。』
「アハハ・・・ゴメン。で、剛士に用？」
『ええ、ちょっとね。・・・剛士君いるの？』
「待ってて。・・・・・剛士、四郎さんから電話よ。」
「ああ。」
沙良は、受話器を剛士に手渡した。
「おう、元気か？」
『まあね。・・・あ、実はちょっと変な事があってさ。』
「変な事？」
『ええ。剛士君の耳に入れておこうと思って。』
「で？」
『実はさ、私のお店に２人組の外国人の男が来たのよ。ビジネスマン風の人たちだったんだけどね。カタコトの日本語だったから、会話自体はよく聞き取れなかったんだけど剛士君の名前を何度も口ずさんでいてさ。』
「ほぉう・・・で？」
『私が、聞き耳立ててるのに気付いて、直ぐに出て行っちゃったんだけど、ひょっとして、剛士君の所に、その男達が尋ねて行ったかなと思って。』
「いや、・・・・来てはいないが・・・どういう感じだった。」
『んー・・・結構大柄で、言葉は英語ではなかったわね。』
「・・・そうか。・・・・ふぅーん・・・ま、いいや。四郎、一応念のために、お前も気をつけておけよ。」
『何を？』
「いや、特に意味はないが・・・」
『変な剛士君・・・あ、たまにはお店に来てよね。』
「あ、わかった、わかった・・・じゃあな。」
『愛してるわ。私のツ・ヨ・シ・・・フフッ・・』
「ウッセー！」
剛士は、苦笑いをしながら電話を切った。
沙良が、剛士に声を掛けてくる。
「四郎さん、なんだって？」
「いや、俺の所に外人が尋ねてこなかったかってさ。」
「何で、そんなこと聞くのかしら。外人なんて、しょっちゅう来るのにね。」
「何か、思ったんだろうさ。」
剛士は、訳の解らない記号を紙に書きながらシュミレートの続きをしている。
そこへ、暫くして慌しく豪から電話が入った。
「あら、豪君、何慌ててるの。・・・・え？・・・もっとはっきり喋ってよ。」
沙良は、反対の耳を指で塞いで受話器に集中した。
「・・・・え？・・・・・な・・・・なんて・・・・今、なんて言ったの？」
『・・・・こ・・・こ・・・幸三さんが・・・・・し・・・・死んで・・・・』
「ぇ？・・・・・な・・・・」
沙良は、呆然とした表情で受話器を落とし床に尻餅を着いた。
「？・・・沙良・・・どうしたっ？」
剛士は、沙良を見ながら落とした受話器を拾った。
「豪、どうしたっ・・・何かあったのか？」
豪の慌てた様子と、信じられない言葉を聞いて剛士は受話器を握り締めた。
「な・・・なんだと・・・・・・わ、わかった。まだ警察には連絡するな。」
剛士は、受話器を置くと沙良を見つめた。
「沙良・・・・待ってろ・・・・・・行って来る。」
剛士は、そういい残し事務所を出るとチェロキーに乗り込んだ。
エンジンを吹かし、猛スピードで車をスタートさせる。
顔は無表情だった。
アクセルを踏む足を緩めず前方を直視していた。
サングラスをはめる剛士・・・・・
「・・・・・・・・・クッ・・ググッ・・・・・・・・・・・・・・・・・ウオォォォォォォー！ クソッタレがぁぁぁぁぁぁっ！」
そう叫んだ剛士の頬をスローモーションのように涙が流れていった。
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