| 赤と黄に彩られた棋譜：１章 対局前の準備（１）まず御手洗と盥の使い方を学ぶ -------------------------------------------------------------------------- 〔２－１♂：絶不調の雀士 ３５歳〕 『雀の別荘』という珍しい店名の雀荘を出て、タバコに火を着ける。 （ふーう） 煙に嘆息を混ぜ、遠くまで吐き出した。 勝負事、とりわけ賭け事の世界でよく使われる一種の格言には、大きく分けて２種類がある。 ひとつは自分を励ましたり慰めたりするのが目的の格言。そしてもうひとつが、相手を落ち込ませるために用いられる格言だ。 しかし、中には両方の目的で使えるものもある。『月が変わればツキも変わる』という名言がそれだ。 このところの俺は、もっぱらそれを自分への励ましとして使ってきたのだか、何の慰めにさえならないほど事態は深刻を極めている。願掛けする意味から、好きな酒まで断っているというのに、１０月に入ってもツキが上向くどころか、ますますツキに見放されていく感じでしかないのだ。 どこの雀荘にもカモが群れている状況に変化はない。だが、俺が卓に加わった途端、どいつもこいつもバカヅキを始める。そして俺がメンバーから外れると、たちまちヤツらはツキを失い、他の猟師ならぬ雀士の餌食に逆戻りする。 今の俺は、鴨を捕まえて料理するどころか、鴨の背負うネギの補充役も同然。いくら俺の今の苗字が『根木』で、長く埼玉県の深谷で過ごしたからといって、雀荘で渡すネギは自前だから、堪ったものではない。 ツキが落ち始めたのは先月初旬あたりから。 原因なら百も承知。俺のツキを呼ぶ縁起物が拾えないからだ。 とはいえ、誰が落としてくれるわけでもない。たとえ道端に落ちていても、普通の人なら気づかないふりをしたり、目をそむけたりするだけで、誰も拾い上げるようなことはしない。 仮に誰かが拾い上げたとしても、律儀に交番まで「落し物です」と言って届ければ、「あんたアホカ」と馬鹿にされるのが落ち。 なぜなら、路上に血まみれの紙幣が散乱していても、そこから犯罪の臭いを嗅ぎつけるどころか、拾得物として届けられた札束の処理手続きさえできないために、同僚から「鼻が詰まった犬のおまわり」と陰口を叩かれるような警察官でさえ、落とし主が現われる可能性は、自分が本当の『犬のおまわりさん』と交替させられる可能性より、なお低いことを知っているからだ。 他の人にとっては、そんなゴミ同然の‥‥いや、明らかにゴミでしかない物だが、俺にとっては大切な縁起物だというのに。 いくらあちこち探し回っても、それが拾えないとなれば、ツキに見放されて当然だ。 （久しぶりにパチンコでもやるか） パチンコ屋の喧騒は、浮世というやつを忘れさせてくれる。インベーダーゲームの耳障りな音と違い、気分転換にはもってこいだ。 パチンコを打つのは７年か８年ぶり。２０代の頃はよく打っていた俺も、手打ちの台がすべて電動式に切り替わったのを機会に、パチンコから足を洗った。 ワラジというやつは２足までしか履けないらしいのに、パチンコまで重ね履きしたのでは、逆に収入が減りかねないからだ‥‥けれども、また玉がなくなった。 だめだ。これでこのパチンコ屋には、５千円近く儲けさせた計算になる。この先はもう、いくら突っ込んでも負けが込むだけ。財布をさらに薄くするだけでしかない。 台を離れ、小型のバッグからタバコを‥‥取り出そうにも切らしてしまった。見えるのはすでにゴミと化した空箱だけだ。 （ちぇっ） 空箱をひねって火を着けても、タバコ代わりに吸うことはできない。だからといって店に火を着ければ、今度こそ“くさい飯”というやつを本格的に喰わされ、タバコも自由に吸えなくなる。 今ここで俺がやっても許されるのは、ゴミをゴミ箱に捨てることと、携帯用の灰皿の中の吸殻を、スタンド式の大きな灰皿に捨てることだけだ。 やたらと客が多く、単に騒がしいだけのパチンコ屋を出た。 （どうするか‥‥） 時刻はまだ１時半を回ったばかり。このまま家に帰る気はしない。 今日は体育の日。会社も休みだから、わざわざ遠出までしてきたのだ。 （まあいいや。お茶でも飲んで考えよう） とりあえず、近くのスナックを外から覗いてみる。 大丈夫だ。ボックス席のテーブルに、インベーダーゲームは組み込まれていない。これなら落ち着ける。 ５歳の頃から碁を手始めに、さまざまなものを打ち続けてきた俺も、ゲームで敵を撃ち落したいとは思わない。同僚に誘われて何度かやったことはあるが、イライラが増すのに反比例して、財布の中身が減る一方でしかなかった。 たとえ高得点を弾き出しても、景品ひとつもらえるわけではないのだから、あれでは楽しめない。 店に入り、まずタバコを買う‥‥のは後回し。 レジカウンターには、タバコを並べたケースも置かれているが、係りの人がいない。 客席を見渡す。 客は少ない。若い女の２人組と、中年の男が２人いるだけだ。 落ち着けそうな席を探して‥‥座ろうとしたら、シートに文庫本が置いてある。それも１冊ではない。誰かが置き忘れていったらしい。 「いらっしゃいませ」 ウェイトレスさんがやってきた。背は俺より高いが、顔立ちが純和風で、あでやかな雰囲気の漂うかなりの美人である。 「コーヒー、ホットね。それとタバコ。あればロングホープ」 「承知しました」 ほのかな香りとお冷やを残し、“高嶺の花”が去っていった。 お冷やを半分ほど飲み、いちばん上の、カバーが掛かっていない本を手に取ってみる。 本にカバーが被せてあれば、俺も「誰かの忘れ物」とでも言って、ウェイトレスさんに渡した。カバーがなくても、まったく興味の持てないような本なら、手元に残しはしなかった。 しかし。 本の題名はすべて『ケツをまくった変態は大変』。俺があの日以降、何度となく馴染みの本屋を覗いても、結局は影も形も見つけられなかった小説なのだ。 せめて内容を拾い読みした後でなければ、拾得物として届け出る気にはならない。 改めて表紙を眺め比べる。 題名はどれも同じだが、当然ながら同じ本ではない。副題がそれぞれ『第１章：金髪碧眼の妻を持つ日本男児の場合（中巻）』『第３章：二枚舌を巧みに操る営業マンの場合（中巻）』『第５章：人妻と束の間の夢を見た探偵の場合（上巻）』と異なっている。 そしてもう１冊、いちばん上に置かれていた分が『第２章：泣きボクロのある独身女たちの場合（中巻）』だ。 お冷やを飲み干し、とりあえず‥‥どの本を読んでみるか、瞬時に結論が出た。 ものには順序というものがあることを思えば、やはり１章から読んでみるのが普通だろうが、俺としては、やはり５章の『人妻と束の間の夢を見た探偵の場合』から読みたい。 もちろんその理由は、俺が様々な点で普通の人とは違うからではない。 他の３冊がどれも中巻なのに対し、５章だけは上巻。このまえ立ち読みしたとき、解説者は「上巻の詳しい解説を読んでほしい」と、やけに強調していた。それがなんとなく気になるからだ。 麻雀の世界にも『直感に誤りはなく、誤るのは読みだ』という格言がある。 俺の直感、いわゆる第６感によれば、上巻の解説を読んでおくほうが、内容をさらに深く楽しめるように思えてならない。 （えーと、最初のほうのページだったな） 今度は探すのも簡単。いや、簡単もなにも、もう見つかった。他のページより文字が少し大きいから探しやすい。 これもまた解説者が‥‥いや、おそらく編集者担当者が、是が非でも解説を読ませようと図ったことの表れ。俺の直感に誤りがなかったことの証明‥‥なのかどうか、それを検証するために、『ケツをまくった変態は大変』の第５章『人妻と束の間の夢を見た探偵の場合（上巻）』に書かれている解説をただちに読み始める。 ▽ 私が「盥さん」という小説家を気に入ったのは、これまで作風がその生き方と同様、“ブレ”というものをいっさい生じさせていないからだ。 では、その作風はと言えば。 ………………………………………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………やはり私の筆力ではうまく書けない。というより、うまくまとめるのが非常に難しい。 『…』が点字の代用にでもなれば良いのだが、あいにく点字の場合は一文字につき『・』が横に三個並ぶことはない。たとえご覧のように縦に三個並んでいても、それは単に『に』と読む。 だから『…』をどれだけ点々と並べても、『にににににににににに……』にしか読めず、いわゆる「てんで話しにならない」状態の典型的な状況が出現するだけ。これではうまくない。 試験の答案で言えば、白紙で提出するようなもの。はなから花丸の１００点を貰えるとも思っていないが、なにも書かなければ、解説の執筆料を誰からも貰えない。１００円硬貨の一枚も貰えないのでは、気が向いたときに女房が作るうまくない飯の、おこぼれさえ貰えなくなる。 そこでやむなく今回は、盥さんの作品が共通して持つ特徴（※）を列記させていただくことにしたので、悪しからずご了承いただきたい。（※「特長」とは言い切れない面も少なからず…いや、多々あり、その点は盥さんも自覚されているので、あえて「長」ではなく「徴」の字を選択した。この点だけは、誰にも文句を言われたくない） 《特徴１》 まるで推理小説を思わせるほどの伏線が、随所に張り巡らされている。 しかもその伏線は、ここまで立ち読みされた方の中にも、すでにお気づきの向きが少なくないだろうが、三流作家が名前だけで売る安直な推理小説と違い、且つ作品中の女性の失禁場面と同様、大小の違いがあるばかりか、長短濃淡明暗軽重細太薄厚など実に多種多様で、あたかも男性や女性のアレやアソコや、ソレの一部とか例のナニなんかを思わせるほどに多彩でもある。 そしてそのことが、盥さんの熱狂的愛読者をして「盥さんの場合は伏線というより伏々線だ」と言わしめる所以であり、また一流の推理小説作家を気取る人からは「あの人の伏線はミエミエどころか丸見え」といった冷たい視線を向けられる所以でもある。 だが、ひとたび盥さんの小説を購入されたなら、そうした伏線を気にかけるよりも、抜き過ぎによる前立腺の具合を気にしたほうがいいことは、敢えて言うまでもない。（立ち読み中に浴びせられる女性の視線が気になる方は、店内の落ち着いた場所まで移動したほうがいいことも、強いて言う必要はないでしょう） 犯人探しをするような小説ではないことを思えば、たとえ伏線に気づかなかったからといって、読後に何の後悔も残らないばかりか、精力と持続力と回復力の弱い人なら、一冊を読み終えるまでの間に、一滴の精液も残らなくなるからだ。（他の小説を読む時間や睡眠時間が無くなることも多いので、その点は言っておいたほうが良いでしょう） 『乾坤一擲』という四字熟語の役立つ状況はまま出現するが、無滴となった男根は、砲弾や銃弾の切れた無敵艦隊と同様、不意に敵さん（奥さんや恋人）が現われても何の役にも立たない（※）。天下分け目の関が原の行方に関心のない方でも、目前に…うや、眼下で広げられる“逆さ富士下割れ目”を、ただ指を咥えて眺めるのが関の山では、何とも切ない思いをするはずだ。（※類似状況の詳細は後述。また「逆さ富士」とは“地球”に生えた黒い下草の意） 若い夫の早漏に悩む年上の新妻がいる一方、長年連れ添ってきたご亭主の遅漏を嘆くご婦人方も多いように、男の性格も人によって様々。 書店で立ち読みしてチ○チ○がカチンカチンに立ったようなとき、一刻も早く抜きたいと急ぐ気持ちが先に立ち、最寄の喫茶店の雪隠（※）で抜くほどにセッカチな人もいるだろう。 （※雪隠はセッチンと読みますが、もしその意味をご存知ない方は、お手数ですが店内の国語辞典で調べてください……などと書いては書店にとって大迷惑。主に生理的な用を足す場所の意で、生理に関する用を足したり、着替えに用いられる場合も見受けられますが、決して“覗き”をやったわけではありませんので念のため） ことに“江戸っ子”に憧れを抱く人であれば、口には出さないまでも（女性の口に出すことはあっても）、おそらくこんな気持ちを抱くことは想像に難くない。 「てやんでえ、こちとら江戸っ子、天秤棒みてえなビンビン棒は長くても、気が短けえんだ。やれ伏線だあナンだ、四の五の抜かされたんじゃ、抜けるものも抜けなくならぁ。どこなら手早く抜けるのか、とっとと教えやがれってんだ、べらぼうめ」 そういう読者でも大丈夫。拾い読みで「抜き場」を探すことが難なくおこなえる点も、私が盥さんの作品に魅せられた理由のひとつだから、一向に差し支えない。 詳しいことは後述するが、盥さんの著作では、体色の赤いマムシの交尾が特にそうだと言われるように、濡れ場が延々と展開され、その長さには、顔と逸物と小便の長いことで定評のある馬も「有って無きがごとき鼻の下にチューリップ（※）の花束を挟んで逃げ出す」と言われるほど、常識外れ…いや、桁外れに長いからである。（※蛇足ながら、鼻の下が長い男性の代名詞） それでもなお抜き場が探し出せない人は、ご子息の飼う亀の肌に、盥さんの小説が合わないか、あるいは単に、盥さんの作品に触れた経験がないか、そのどちらかが原因。 私の拙い解説を最後までお読みいただき、ご自分は前者だと思えば（もしもし亀と亀さんを同棲させたいタイプの人を含め）、このまま書店の本棚へ戻していただくのが書店のためであり、なによりもご自身のため。（万引きは犯罪です。ケツをまくると大変なことになります） 逆に後者かも知れないと少しでもお思いなら、ご子息の見聞をさらに広め、将来的には、検便が目的と称して女性に浣腸を施せるほどの図々しさと、「トイレットペーパーの芯を捨てるためだから」と自身の気持ちを偽ってでも、例の容器の蓋を開けられるような逞しさを、ご子息が一日も早く身に着けられるように、ぜひともご購入いただければ、出版社も万々歳。 盥さんを担当する漫才好きの編集者（林さん）は、大昔のテレビＣＭでも思い浮かべながら、こんなことを思うだろう。 『ワシらの商売、ウミャーていかん。盥さんの描く美人なら、コヤシも出すでよ～。 これでもう僕らが名古屋弁を使ってまでギャーギャー・ミャーミャー言わなくても、今年はあったりみゃーにボーナス出るでよ～、林にも出すでよ～の筈だでよー、シタツキの嫁さんもアソコがウワツキに…なることはないだろうけど、気分が浮ついて、もうウハウハ。 晩飯には僕の好きなハヤシライスが出てくるだろうし、僕が秘蔵の“丸太小僧”を突っ込めば、ほんの一突きでアヘアヘ言い出して……「アッハ～ンッ！」といっちゃったすぐ後に、「ねぇ…林のお代わり、もう一本したってちょーよ～」と求めてくるのも当然だでよー、ことわって嫁さんがツノなんかハヤシたら問題だがね。 ということは……そうそう、ボーナスの支給日には例の薬屋さんで、丸太小僧そっくりの“ギンギンズット”とコンドームとティッシュ、二箱ずつ買って帰るのを忘れんように、手ちょーにメモでもしとかんとチョーいかんがね』（あくまでも私の想像…ではなく捏造。林さんは老けて見えますが、まだ二十代前半の独身で現在花嫁募集中！ おそらく死ぬまで募集中！！） ちなみに私の場合は、死んでから愛人の募集を開始する予定であり、人数に制限は設けないので、お知り合いの女性に、奮ってのご応募を呼びかけていただきたく、この場を借りてお願い申し上げる次第。（ただし募集開始の時期は、女房が死んでからという意味ではないので、くれぐれも勘違い召されることのなきように） 閑話休題。 《特徴２》 伏線の数が多い分だけ、どんでん返しも大小問わず“てんこ盛り”。 これは映画についても言えることだが、物語の展開や結末が簡単に読めてしまうことほど、つまらないことはない。推理小説にしても、最後の“どんでん返し”の大きさと、そこに至るまでの無理の少なさが評価を大きく左右する。 その点で言えば、登場人物の人間関係を含め、盥さんの作品ほど展開の読めない小説は少なく、無理の少ない形でなされる“どんでん返し”の数の多さもまた、まさに比類がないと言っても、決して過言ではない。 従って、これは言いたくないことだが、状況描写や心理描写、あるいは会話といったものが極端に冗長……いや、それではたとえ冗談だとしても言い過ぎなので……そう、冗長としか言えないのではないかと思われるほど、極端に長くなるのは、致し方ないというより、必然と言える。（ワケあって、どうしてもそんなふうに断定しておかなければならない……というより、断定しておくほうが無難と言える） 《特徴３》 単純な語呂合わせを用いた、非常にバカバカシー駄洒落も多い。 さらにまた、やたらとタタラを踏む…いや、韻の踏み方も“やたらめったら状態”を呈しているのも目立つ。 それだけではない。誰もが知っているような商品名や人名が、誰にでもわかるような形でアレンジされて登場するばかりか、私がごく稀に（ということにしておいてほしいと切に願う）パンツに付着させる茶褐色の染み以上に、やけにくさいパロディーやジジネタ（中高年向けのネタと時事ネタ）さえ盛り込まれている。 中でも駄洒落は、男女の濃厚な濡れ場、すなわち男のための「抜き場」に於いても、かなり頻繁に登場する。 そのため私も最初は、邪魔くさいとか、アホくさいと感じたものだが、しばらく読み進めている間に、盥さんの意図が納得できた。 セックスに臨む際の主義や趣味として、女性には焦らしに焦らしてから絶頂を与えたいと望む男性なら、やはり息子に対しても、同じ方針で臨むのが一般的。 だが、息子というのは、鼻を垂らし始める年頃になると、とかくワガママを言いがちで、暴走ならぬ暴発の危険性さえ孕むことが多い。（年若い女性を安易に孕ませた挙げ句、堕胎させるような事態を招くのは、大体においてそういう未熟者、すなわちアンポンタン） そこで盥さんは、お寒いギャグを織り込むことで、読者の子息の“体熱”を適温に保ち、彼らが好き勝手なことを言い出したり、勝手に出さないように図った。 言い換えれば、息子にギリギリまで我慢させ、最高の一発を放ちたいと願う読者に向けた、盥さんなりの配慮と考えて、まず間違いない。 恥ずかしながら私の場合、単発式の短銃しか所持していない。実際、私の人生初の“撃ち初め”に協力してくれた女性からも、こんなふうに言われてしまったほど。 「一発しか出ないんじゃー、デリンジャーじゃなーい……それもいちばん古いやつ（※）。そんなことじゃー、よっぽど努力しないと、ヒデちゃんは死ぬまで女を死なせてやれないわよ？」（※あのリンカーン大統領が暗殺された護身銃として有名らしい） そんな私だから、股間銃が機関銃の男性を羨むばかりなのだが。しかしそれでも…いや、それだからこそ、液状弾をドピュッと撃ち出す際は（※）、たとえ引き金に掛かった指が痙攣を起こしかけていても、ぎりぎりまで我慢したいと常に願っている。（※現在ではドピュッといった感じの勢いが失われ、撃つたびについつい米国の通貨単位を思い出してしまう私です。ちなみに米国の通貨単位はドルと言われているようですが、現地の一部の人…いえ、ネイチブの人は「ダラー」と発音するらしいです） それゆえ、これまで雄犬を真似てみずから腰を動かすときに、畳の目や雌犬の背中のホクロを数えた回数は数えきれず。 また種馬になれない牡馬となって、女騎手に騎乗されたときには、天井の染みや節穴を数えるという努力が、一刻たりとも欠かせず。 さらにまた官能小説を標榜しながら、盥さんの習作（秀作の誤植ではありません）より数段劣る小説を読む際にも、途中で息子に息抜きさせるためのタバコが欠かせなかった。 ところが。何と何と、実に驚くべきことに。 盥さんの作品では、一本も吸う必要がなかったばかりか、何本も…といっても、わずか三本でしかないのは恥ずかしい限りだが、とにかくそれだけの本数を『ほぼ連続的』にそこそこ近い『断続的』に抜くことができた。（具体的には途中でニ時間と三時間の休憩を挟んだだけで抜けました） すなわち、サイズ的な面を含め、かなり誇張して言えば。 米国製のデリンジャーが、あたかもソ連でトカレフ（※）に改造されたかのように、単発式でも連発を可能たらしめたのである。（※安全装置がなく暴発の危険性が高い反面、過酷な環境下での撃発能力は優れているらしい） なにしろ盥さんの小説ときたら、漏れる場面が頻繁に登場するのは言うに及ばず、いったん「濡れ場」や「濡らす場」、あるいは「出しちゃう場」や「放たせる場」の描写に入ると、読んでいて嫌になるほど…いや、どこを最初の「抜き場」に選ぶべきか迷いに迷うほどに、こってりねっちり延々と続くのだから、まったくもって困ったものというか、正直なところ、読み返すたびに、真ん中の脚がもう一本ほしくなる。 真ん中の脚が２本に増えれば、片方の血液を赤マムシの血と入れ換えて精力を強めたり、女性の二穴を同時に埋めてやることも、難なく出来そうに思えてくるからだ。（もちろんその時点では、脚の短さをすっかり忘れている） そして時間が経つにつれ、レバーアクション式のウインチェスターライフル（※）がほしくなり、最後は「撃ったときの気持ちの良さだけは一緒の筈だから……」と自分を慰めるのが常……のわけはなく、再び盥さんの小説を読み返しながら、自分でデリンジャーをせっせと慰めたことが何度もある。 （※銃身の長さだけで５０ｃｍほどもあるという狙撃銃。十発以上の連射が可能らしい） 私は年齢が年齢だけに、初めてハンドアクション式で…とは言わないかも知れないが、とにかく手動で三連発させた時は、直後に「こんなに抜いて大丈夫だろうか」という不安に襲われ、あの高価なスタミナドリンク『ギンギンズット』を、六本も飲むことを余儀なくされた。 するとそれを見ていた女房は、なにを勘違いしたのか、こんなことを口走った。 「あらまあ、そんなに高いのを六本も飲んじゃって……うふっ。それならアタシ、先にお風呂入ってくるから、お布団敷いといてね？ それと、アレは残りが一個しかないけど、アタシ、昨日アレが終わったばかりだから、使う必要ないわ。じゃあ、お布団敷いて待ってて？ 二回目はアタシが上になったげるから、チュッ（投げキッス）」 ほっそりしていて、冬には狐の襟巻きがよく似合っていた頃ならともかく、今や極寒の地で暮らすトドの、それも雄にしか見えなくなった女房から、投げキッスをされても困る。というより、ただ怖いだけだった…のならまだしも、寒気がして鳥肌まで立った。 だが、断れば後が怖い。ことわった後のことを考えるだけで、身の毛がよだつ。 なにしろＯＬ時代の女房ときたら、気に喰わない上司や客に飲み物を出すときは、なに喰わぬキツネ顔で、毎回必ず異物ならぬ異液を混入させていたらしいのだ。 例えばコーヒーには墨汁、紅茶には赤インキ、麦茶には完全に茶色と化した雑巾の絞り汁といった具合で、さらには緑茶用にすり潰して使う目的で、青虫を飼育していたという説もあるほど。 私のパンツに付着する茶褐色の染みを、昼食のレトルトカレーや、夕食のインスタント味噌汁に溶いて入れるくらいのことは、朝飯前でやるだろう。 それを思えば、やるしかないのはわかっていても、一回しか出来なければ、六本も飲んだ理由を詰問して……くれるのなら、私もケツをまくって正直に答える……わけにはいかないにせよ、どうにか対処のしようもありそうだったが、あいにく女房は勘違いや早合点など日常茶飯事。ナニの“締めつけ”が緩すぎる反面、“決めつけ”だけは激しい性格。 私が一回しか出来ない理由を、ギンギンズットの有効成分が減少したせいだと思い込み、実質的な値上げだと決めつけ、たちまち牙を生やするのは目に見えていた。 普段でさえツノを二本も三本も生やしている女房に、牙まで生えたら一大事。 スタミナドリンクのメーカーに抗議の電話を入れるどころか、トドとセイウチがタッグを組むような形で、社長室まで怒鳴り込むような事態さえ生じかねない。 そこで私は乾坤一擲、せめて二回は出せないものかと、二階に住む盥さんの手を借りることに…いや、私にその手の趣味はない（盥さんも二階で暮らしているわけではない）。二階の書棚から本書を抜き出してきて、その助けを借りてみることに決めた。 早い話しが、女房と穏便な夫婦生活を送り続けるために、小説の「抜き場」を「立て場」として活用しようと図ったのである。 盥さんは期待に応えてくれた。愚息も賢明な私の努力に…違う、愚息も私の懸命な努力に、あっさり応えてくれた。 素っ裸同然の格好で風呂から出てきた女房だけは、私がまだ布団を敷いていなかったことに腹を立てたが、息子がギンギンに立っているのを見た途端、「あらまあ、そんなふうになってたら、誰もお布団なんか敷けっこないわね～。立ってる者は親でも使えっていうけど、立ってる息子はオシッコに使えないともいうらしいし」と意味不明の独り言を呟きながら、みずから布団を敷き始める…ような女房ではない。 昼寝をしすぎて腹が減ると、仕事中の私に「晩御飯の支度はまだ始めないのー？！」と吠えかかってくる女房だから、私に何の口を挟む余裕さえ与えずに、ドハデなデザインの赤いパンティー（ＬＬサイズらしいが女房が穿くとＳＳサイズにしか見えない）を、足まで使って脱ぎ捨て、みずからの肉体を畳の上で敷布団（綿の代わりに分厚い皮下脂肪を使用）に変えてきたのである。 とはいえ、女房も絶頂の高みを引き上げたいがために、ぎりぎりまで堪らえるのが主義。 今や雄のトドにしか見えないほど、まったく色気が消え失せた分、汁気がやたらと増えたわりに、トドメを刺すのが難しいというか、生半可なことでは死んでくれないから、畳の上での正常位だと、なにかと問題が発生する。 つまり、私の肘と膝に畳の跡が付くというか、女房がめでたく昇天してくれるまでの間、肘と膝の痛みを堪らえてのピストン運動を強いられることとなり、また一方、汁気が有り余っている女房の趣味は、クジラを真似て潮を吹くことなので、とどのつまりが、畳の染みまで増えてしまうのを避けられないのである。（我が家の畳と絨毯と、ソファー並びに椅子の座面は、タバコの焦げ跡よりも、セックスの後の染みのほうが多い） 肉体的な苦痛だけならまだしも。取り替え不能な古女房のせいで、新しい畳に取り替えさせられるのでは、懐が痛む一方でしかない。 私が逡巡していると、女房は私専用の座布団を持ち出して勧めてきた。言うまでもなく、前座位への変更の指示だ。（私の場合、昼夜を問わず、尻に敷かれているような状態なのである） 結局、女房を相手に今度は抜かず三発（実際には抜くことも叶わず三発）、またまたスタミナドリンク六本追加、ついでに座布団にも新たな染みを追加という仕儀に立ち至った。 ただし誤解のないように言っておくと、私がヌカロク…いや、古女房相手にヌカサンを果たせたのは、決して女房が床技や締め技に長けているからではない。女房の場合、私の財布から金を掏り取って“ヘソくる”ことと、早メシ早グ○大喰いならびに潮を吹きながらの絶叫以外、他に何の技芸も持っていないのである。 それでも私が息子を抜き取れなかったのは、本書の読後効果とギンギンズットの薬効が、お世辞抜きで高いために、抜け落ちない状態が持続していたためだ。 座布団の染みについては従来同様「どうせ汚れてるんだし、そのまま置いとけば乾くから」と言われたので、仕方なく自分でカバーを洗ったものの、ドリンクの代金だけは、六本分三万円を珍しく女房がヘソクリから出してくれたばかりか、「明日はパチンコにでも行ってきたら？ アタシも朝御飯食べたら。美味しいもの食べに行った後、晩御飯が出来るまでゆっくり昼寝したいし」と言って、一万円の小遣いを初めて貰えた…などという話しは、そのときのパチンコのドル箱同様、足元に置くとして。 バカバカシー駄洒落のおかげで手軽に一服入れられる上、結果的に抜ける本数や、女性のアソコやアッチにも入れられる回数が増えるだけでなく、ニコチンとタールの過剰摂取まで防げるのだから、読者としてこれほど喜ばしいことはない。 《特徴４》 読後感が実に爽やか。 もちろんその「爽やか」という言葉の中には、抜いた後の爽快感、達成感を含んでいるのは言うまでもない。（言うまでもないことを言うのが私の癖であることも、また言うまでもない） たとえ登場人物に冷たさや暗さを感じることはあっても、読み終えた後に後ろめたさを覚える人はいないはずであり、よく冷えた茶褐色の炭酸飲料を飲んだ後や、よく張れた日、暗いトンネルを思わせるような長い土管を抜けた後にも似た、ある種の安堵感にもつながるようなスカッとした爽やかさは、数ある官能小説の中でも、盥さんの作品でしか味わえないだろう。 なお、私は美女（※）の口でなら瞬時に難なくいけても、アルコールがいけない口なので、やむなく炭酸飲料を持ち出したが、次に掲げる①から⑮までの項目のどれかに該当する人は、まず第一章を頭からお尻まで読んでナニを済ませた後、「程良く冷やした小麦色のアルコール飲料」を冷蔵庫から取り出してもらえば、理解は容易になるはずだ。（※私にとっての美女とは、大柄で顔の造作も派手な小麦色の肌を持つグラマラスな人です） 〔タライ利用適性チェックリスト〕 ①濃縮された乳酸菌飲料にも似たあれを生でそそいでしまった後は、いくら炭酸飲料を勢い良く注入しても、まったく避妊効果が得られないのは常識だと思う。 ②冷え過ぎたビールのまずさは、冷え性の女性を芯からうまく温めてあげる方法以上に、よく知っている。 ③ビール瓶を張形（ディルドウ＝擬茎）のように使って、女性をいかせてやれないものかと、まじめに考えた経験を持っている。 |
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| 2008.2.23掲載 |
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