| ▼ 「お待たせしました」 ウェイトレスさんの爽やかな…いや、艶っぽい声が聞こえ、トレーからテーブルに‥‥移されたのはビール瓶だ。それも大して冷えているように見えない。おまけにトレーの上にもグラスの姿が見えない。 「僕はコーヒー頼んだんだけど」 「あ、はい、失礼いたしました」 「それと、タバコもちょうだい。銘柄は何でもいいから」 「はい、ただいまお持ちいたします」 ウェイトレスさんが戻っていった。 腰を振るような‥‥どころか、紺色のタイトスカートに包まれた腰を、『これ見よがしに』とでも言いたくなるほど振って歩く女性だ。 口紅の色にしても、黒を混ぜたような濃い赤だった。 実にそそられる。ビールが飲みたい気分。 俺は本来、日本酒が大好き。日本酒党の党首の鞄持ちを自認しているほどで、家の冷蔵庫の中の半分は、常に地酒の五合ビンが占めているのだが、今はビールで喉を潤したい。 この本の解説者なら、たぶん彼女を「男に性的な渇きを覚えさせる女」とでも評することだろう。 とはいえ、他の客がビールを頼んだのだとしても、俺の注文と取り違えたり、グラスやタバコを持ってくるのを忘れるようでは、頭の程度が知れている‥‥と決まったものでもなかった。 彼女が香水をつけている目的は、いわゆる月経臭をごまかすためだと考えれば。 メンスが重くて頭も重く、仕事に集中できない可能性もある‥‥かとも思ったが、メンスのときに腰を振って歩くわけがない‥‥とも限らなかった。 頭の軽い女なら、メンスもなにもお構いなし‥‥なのかどうかまでは知らない俺に、出せる結論はただひとつ。 今は『ケツをまくった変態は大変』の解説の続きを読むことに集中したほうがいい。チェックリストでさえ、項目は１５もあるのだ。 ▽ ④ビール好きの女性の中には、ビール瓶で自慰をおこなう人もいると確信している。 ⑤ビールを飲んだ後、自慰にスリコギを使う女性と、空のビール瓶を用いる女性とを比べた場合、後者のほうが賢いと思う。 ⑥その理由は、ビール瓶なら突っ込み過ぎが防げると同時に、尿意を覚えた際は、直ちに溲瓶の代わりにも使えるから一石二鳥だろうと判断した。 ⑦立ち姿の女性のアソコに、中身の入ったビール瓶を咥えさせ、そのままオナニーを強いることで、ビールに体液を加えて飲む男が登場するような、そういう小説を読んだ記憶がある。 ⑧冬は寒いからという理由で生温いビールを飲む男よりも、真夏の暑い盛り、たとえクーラーの効いていない部屋の中であろうとも、女性の肉泉から湧く熱い体液を飲み、最後は互いに汗まみれになりたがる男のほうに、共感を抱く。 ⑨肛交の感覚を女性の立場で経験してみたいと望むあまり、つい肛門にビール瓶の口を押し当ててしまったという、ビール以上にほろ苦い思い出がある。 ⑩自分の息子は精一杯の成長を遂げても、ビール瓶の口に入れられそうなほど体格が貧弱で、頭部の形状もビール瓶の先端と瓜二つなので、もしかしたら女性をいかせてやれないかも知れないと、真剣に思い悩む童貞を笑うのは気の毒だと思う。 ▼ （何だこいつ） 気の毒だと思う男が一人でもいると思うなら、こんなことは書かないほうが気の毒な男のためというものだろう。 （でもまあな） そういう気の毒な男が実在することを知らず‥‥というか、そもそも存在するとは思っていないからこそ、こいつが書いたと思えば、許してやれなくもない。解説の先を読み進める。 ▽ 仮に以上の項目にひとつも該当しなかったとしても、あなたがアルコールの飲める年齢で、冷蔵庫にビール（特に缶ビール）や炭酸飲料を何本も冷やしているとしたら、あなたも盥さんの小説世界に嵌まる可能性が非常に高いと言えるだろう……という話しはさておき。 盥さんの作品にはそうした特徴があるので、私には気合を入れれば入れるほど、楽しく読めるという次第だ。 ▼ （ん？） チェック項目は１５個あるはずなのに１０個しかない‥‥などと不思議がるようでは未熟な証拠。 いわゆる校正ミスとか校正モレというやつであり、そんな重箱のスミをつつくようなことをしていたら小説は読めない。 次の行に目を移す。 ▽ もしあなたが、ビールやコーラを飲みつつ盥さんの作品を読むのなら、そうした飲み物の気が抜けないように気も配りつつ、気を抜かずに読むことをお勧めしたい。 しかし、抜きたくなったら我慢は禁物。ウズウズ疼く点では似ていても、虫歯の痛みとは違うのだから、一刻も早く抜くほうが良い。 理由は言うまでもない…と言いながら、ぜひとも言わなければならないのは、それが痴漢や強姦魔にならないための、一番の近道と言えるからである。（言わなければならない理由を、私の気が納まらないからだろうと考えた人は、女装した男性警察官が股間に隠し持つ水鉄砲を、電車の中でまさぐる心配がありますので、電車に乗る前は、必ず駅のトイレで抜いてください。そのためにも、ポケットティッシュと盥さんの新刊は、常時携帯するのがお勧めです） ただしあなたに恋人や奥さんがいるなら、無論その限りではない。 急いで手抜きを図るより、あなたの息子さんともよく相談し、あなたたちカップルが最も幸せになれる道を探るほうが、賢明且つ得策だ。 恋人に対しては、例えば「ちょっと手を貸して？」と素直に頼むも良し、あるいは「○○ちゃんはニギリが好きだったよね」といった単純な謎掛けから入るのも良し。 さらには「僕、デッカイ亀を飼い始めたんだけど、家まで見に来ない？ 頭デッカチで胴体も長くて、可愛いんだぜ？」などと、見え見えの嘘も交えて笑いが取れれば、彼女のほうもつい気が緩んでしまい、「その亀、太平洋の荒波に揉まれても大丈夫？」と尋ね返してくる可能性もあるから、彼女のアソコの品定めに役立つ。（ただし仮に「オマン…いえ、レマン湖とドジョウの関係」でも、実際にはまったく問題のないことが、本書を読めば理解できます。その点は「太平洋とゴボウ」の場合でも変わりません） また「俺、今日はケダモノだから、サカナは省いて果物からいただき！」とでも宣言しながら、キス抜きでパパイヤの頂にかぶりつくのも、マンネリを防ぐという意味では有効だろう。 あるいは恋人が“濡れる街角”にたたずんで待っていたようなら、情事の真っ最中に彼女から「人でなし」と呼ばれる前にヒトデへと変身し、蛤、赤貝、牡蠣、鮑、ニタリ貝……等々、彼女が常時お股に挟んで隠している貝類を、片端からむさぼり喰えば良い。（いわゆる「女貝類の生シャブ」とか「肉襞のシャブシャブ」と呼ばれる前菜的な前戯。主菜はもちろん「ソーセージを串に用いた股貝の串刺し」ですから、デザートには次の主菜に向けた前菜として「コンデンスミルクをまぶしたマツタケ」を、生で賞味してもらえるように頼みましょう） ▼ 「お待たせしました」 ウェイトレスさんがコーヒーを運んできた‥‥のはいいが、今度はアイスコーヒーだ。 タバコも忘れ去られたままである。 「あのさーあ？」 「あ、申し訳ありません。お客様はアイスティーでしたね。ただいますぐに」 「いや、アイスコーヒーでいいよ。僕はコーヒーも好きだし、お姉さんのような美人も、コーヒー以上に大好きだから」 「やぁだーっ」 （あ痛っ） 嬌声とともに、肩口を引っぱたかれた。 「そんなこと、こんな所で面と向かって言われたら‥‥ねえ」 こんな俺に言われても、やはり照れるらしい。 互いの立場を忘れ、場所もわきまえず、客の簡単な注文さえ憶えられなくても、羞じらいだけは忘れていないことの証明だ。美人を鼻に掛けていない証拠でもある。 「でもアタシ、ひとめでおわかりになったと思いますけど、それなりに高いですよ？」 （はあ？） 耳元に露骨な囁きを残し、ウェイトレスとコールガールの２足のワラジを履いた上に、美人を肩にまで掛けた格好の、頭も尻も軽すぎる女が、尻の振り幅をさらに大きくしながら戻っていった。 彼女はなぜ２度も注文をまちがえたか、これで原因が判明。 仕事中も、男とやることしか考えていないからだ。それ以外の原因は考えられない。 常に尻を振って歩く理由も明らか。 彼女ほどの美貌と身長を備えていれば、その場に黙って立っているだけでも注目を集める。財布が重くて頭の軽い男たちが、シッポを振って‥‥いや、チンポを立てて寄ってくる。 そうした経験を数多く重ねてきたからこそ、彼女は「ひとめでおわかりになったと思いますけど」と言ったのだ。 それでもなおかつ彼女が尻を振っているのは、必要に迫られてのこと。 いつも股を濡らし、パンティーもぐっちょりと濡れているから、それが股にへばりつかないようにするためだ。他の理由はあり得ない‥‥かと思ったが、その逆も考えられた。 彼女の場合は、股にへばりついているパンティーを少しでも剥がそうと、無駄な努力を続けていると考えたほうが正しそうだ。 すべての疑問が氷解した結果、銀嶺の頂で咲いていたはずの花までが、雪解け直後のドロンコ道の傍らで、ガマ口を広げた食虫植物に変化してしまった今、俺のやるべきことは他にない。 この『ケツをまくった変態は大変』の解説にはまだ先がある‥‥というより、解説はまだまだ続いているようなのだ。 ▽ そしていよいよ恋人が、蘇生可能な一過性の死を望んできたら、男にとって永遠に謎めいた魅惑の洞穴に、真ん中の脚で入っていくのがいいだろう。 ものの三分半と経たないうちに出てきたり、三往復半もさせないうちに出してしまったり、あるいは往復させている最中に、しつこく「いいだろう？ いいだろう？」などと尋ねたりしない限り、彼女との仲はいっそう親密になり、愛も深まる。（なお、彼女のほうから「いい貝？ いい貝？ 気に入った貝？」と聞かれている間は、互いの心が通ってない証拠と判断できる） また洞穴が血潮に満ちていることを理由に拒まれたときは、洞穴に隣接した洞窟探検の旅へと、二人で赴くのも方法のひとつだ。 無論、そこは場所柄から言って、雑菌がウヨウヨしている不衛生な『ミソの密造工場』も同然。 彼女が無意識のうちにも生理的な反射作用から、我が身を『自動式クサミソ押し出しロボット』へと変身させてしまう危険性も高い。 洞窟探検へ赴くためには、入念な準備と細心の配慮が欠かせないが、細かい準備要領や注意事項などについては本編に詳しいので、興味のある向きはそちらを参考にするとなにかと具合もいい…というより、私たち夫婦の場合は、互いにアナルセックスの具合が極めて良くなった。 夫婦仲もさらに良くなったのは言うまでもない。 一方、奥さんへの対し方については、私があれこれ口を出すまでもないだろう。 あなたが比類なきほどの早漏で、且つ奥さんの床技が超プロ級でもない限り、奥さんがイイ声や甘い蜜を出し始める前に、あなたが敢えなく奥さんの軟らかな舌の上や、ふくよかな胸の谷間で出してしまう心配もないはずだ。 あなたの出す場所が、奥さんの洞穴だろうと洞窟だろうと、また奥さんが辺りを憚らないほどの声を出す場所が、台所でも風呂でも玄関でもベランダでも、あるいは長く「憚り」と呼ばれてきた個室だとしても、他人である私には、とやかく口を挟む余地も資格もない。 他人に見せたいという露出願望や、覗き見られたいという被虐的性向が強く、警察に通報される覚悟もお持ちなら、玄関先や裏庭や、河原に駐めた車の中で事に及ぶのでも、私のほうはいっこうに構わない。 ただひとつ私が言いたいのは、あなたたち夫婦のそうした創意工夫によって、奥さんが蘇生可能な一過性の死を何度となく迎えられたなら、翌日は朝から、奥さんの機嫌もずっといいということ。 機嫌が良いと気が緩み、財布の口まで緩みやすくなるというのは、時代も男女も問わない終生変わらぬ習性だから、あなたの財布が空っぽになる前に、奥さんが黙って一万円札の一枚も入れてくれる可能性は非常に高い。 一般に私たち男というのは、入れて出すか、出す際に金も出すくらいしか能はないが、月に一度くらいは、たくさん出すことで入れてもらう能力を発揮しない手はない。 盥さんの作品を読んで出したくなったら、ぜひ奥さんに手を出して存分に楽しみ、悦びを分かち合い、小遣い稼ぎにも役立ててほしい。（俗に言う「真ん中の脚で稼ぐ」手法） さあ、早速あなたも、盥さんの世界に本格的に浸ってみよう。 昔の人たちが盥を見れば、衣服を脱いで浸かりたくなったように、あなたも盥さんの創り出す「新世界」に少しでも心を浸せば、必ずパンツを脱ぎ捨て……なくても、私のようにズリ下げるだけでも事は足り、社会の窓を活用する人もいそうだが、いずれにせよ、何発も抜いたり抜かれまくったりした直後でもない限り、抜かずにはいられなくなるはずだ。 《盥さんに浸る際の一般的なご注意》 蛇足を承知で念のために付け加えておくが、盥さんの新世界に心を浸し過ぎた結果、あなたまでが恋人や奥さんに対して大量浣腸を施し、金盥の中に出させるような振る舞いに及んだせいで、別離という悲惨な事態を迎えたとしても、私には何の責任も持てない。 とはいえ、それでは解説を担当した者としてあまりにも無責任なので、盥さんを真似て格言を進呈しておく。それは「盥に浸っても金盥は使わせるな」だ。 相手が奥さんにせよ恋人にせよ、セックスパートナーを務めてくれる女性の愛情に対し、愛をもって応える手段のひとつとして浣腸を施すなら、「音だけを楽しむ」というか、「音を出させるだけで我慢する」というべきか。 放屁によって羞恥心を刺激する空気浣腸に止めることを、まず一番に考えてほしい。 話しは横道に逸れる…かのように見えて、実は本道をまっしぐらに突き進むのだが、それはいったん横に置き。広告業界では『シズル（※）』という用語が用いられる。（※ここでは単純に「肉が焼けるときのジュージューいう音」だと理解してもらって良い） そして「シズル感に欠ける画像や映像は訴求力に欠ける」というのが業界の常識。それを逆に言えば、シズル単独でも充分な訴求力を持つということに他ならない。 その点は、もし肉の焼ける音や、天麩羅を揚げる音を聞いただけで、唾が湧いた経験を一度でもお持ちなら、容易に理解できることだろう。 私の場合を例にとっていえば、大型バイクの免許を取りたいと望むあまり、７５０ＣＣクラスのオートバイのドドドッという排気音を聞くと、ついついトドに…いや、体重が７５キロ以上もある女房に、つい跨りたくなるという困った習性が染み付いてしまったほど。（幸いなことに、まだ女房には知られておりません） たとえ思い止まれない場合でも。そしてまた、空気浣腸によってパートナーが便意を催したときも含めて。初めのうちは、御手洗すなわちトイレ（個室のスペース的定員が一人の場合は浴室）で出させてやってほしい。 無論パートナーが、少しくらい浣腸に慣れてきたからといって、便器代わりに金盥やブリキのバケツを与えるようなことはせず、まだしばらくの間は、プラスチック製の洗面器かバケツを選ぶとか、せめてポリ盥で我慢する「男の自制心」に期待したい。 盥さんも他の作品中で登場人物に言わせているように、「たとえ相手がＭだとしても、羞恥心の強い女を相手に楽しみたいと望むなら、まず己の自制心と息子の忍耐力をゴシゴシ鍛えよ」と、私も声を大にして言いたい。（この部分のカギカッコの中の文字だけが、Ｍつまり明朝体ではなく、Ｇと表記されるゴシック体になっているのはそのため） 翻ってみれば、なにも容器にこだわる必要さえない。 発想の転換を図り、素材ごと発想を柔軟にして、透明のポリ袋や紙オムツといった物を準備するなど、パートナーがアレを出す際に、少しでも不要な雑音の出にくい物を吟味するといった配慮を、衷心から願ってやまない。（ポリ袋をスーパーのレジ袋で代用するのは、カサカサした音が発生するので感心しない。紙オムツについても、ぴったりサイズでは肝心の破裂音まで吸収されてしまうので要注意） さらにまたさらに。大量浣腸を施した後、やむなく金盥を使わせる場合でも、どうせなら可能な限り長く楽しむために、最初から「息んでもいい」という許しを与えたり、「息め」という愚かな命令を下してはならない。 腹が下っているところへきて、直径の大きな盥を跨げば、息まなくても出るものは出る。いくら堪らえようとしても出てしまう。それが人体の生理作用。 出れば盥の底を叩く大きな音が聞こえるばかりか、事前の空気の充填の有無を問わず、腸の中にはそれなりの量のガスが常に滞留しているから、それも一緒に出る。 当然、泣き声も出やすい。 そうした三段論法が難なく成り立つほどに、絶好の環境が整っているにもかかわらず。 自らの手と口と努力で創出したはずのそうした環境が、『絶好』であることにも気づかず。 空の盥の中には、彼女の愛と涙と忍耐が溢れていることを忘れ。 初めて彼女の歓喜の咆哮や呻きを耳にできた日の悦びなど、誰から指摘されても思い出すことさえ叶わず。 ましてや彼女が登頂を果たすたびに見せてくれる絶息寸前の表情さえ、絶好のオカズとして瞼の裏に焼付けておくこともせずに。 やれ「息んでもいい」などと、お為ごかしに言ってみたり、やれ偉そうに「息め」と命令するような未熟者や薄情者は、赤ちゃんがウ○コしたオシメを洗った水が入っている金盥で、顔をきれいに洗って出直す意味から、最低でも三日間は朝昼晩の三回、それぞれイチジク、エネマシリンジ、イルリガートルを適宜使い分けながら、自分に浣腸することが必要だろう。 そこまでやって反省の姿勢をオシメしにならなければ、絶好…違う、絶交ないし離縁されても文句は言えない。（いわゆる「梨園」で生まれ育った男性の許に嫁ぐタレントやアナウンサーは多いが、彼女たちが頻繁に不仲説や離婚の噂を流されるのは、夫の側にそうした反省の姿勢が見受けられないためという噂もある） だからといって、たとえ彼女に「それくらいじゃ反省が足りないわよ！」と非難され、ケツを向けられたとしても、就寝前にセンナを用いた植物性寫下剤を服用し、ヒマシ油代わりのミシン油を肛門から注入してアナルストッパーまで嵌めた上から、さらにオムツを当て、朝まで過ごすような行為だけは、絶対に避けなければならない。（生命を脅かす事態を招くので、この点については、敢えて言っておきたい） つまり要するに、米国の著名なハードボイルド小説作家が、その著作の中に残した名言をもじって言えば、「痛みが強くなければ息ませてはいけない。優しくなければ変態行為を楽しむ資格はない」のである。（どんなに興奮しても、最低限の冷静さだけは保てることが必要な点も、敢えて言っておきたい） 《頭の固い人に向けたご注意》 「盥に浸っても金盥は使わせるな」の一言に要約される上述のご注意は、あくまでも『大』に限ったことであり、『小』に関しては話しが別。というより、まったく逆。 人体の構造と泌尿器の機能特質からいって、膀胱内に空気が溜まることは有り得ず、それを人為的におこなうことは、生命の危険に直結する。 従って眼前での放尿を強いる場合は、女性の羞恥心をさらに刺激してやる意味からも、シズル感を高めることが欠かせない。金盥やブリキのバケツの積極的な活用が求められる所以だ。 もっとも、視角的な刺激を優先させるなら、やはりパンティーや、ぴったりサイズのスラックスを着用させるのがチョッキ…いや、ベスト。 女性のほうも、洩らしているという実感が強まり、また股間を中心とした“濡れ”にしても、着衣を脱ぎ去るまで強く意識せざる得ない。結果として、激しい羞恥から逃れられないという理屈が成り立つことは、頭が固いタイプの人ほど、理解も容易だろう。 ちなみに『お洩らし用』に用いるパンティーやスラックスの色は、明るければ明るいほど良い……のではなく、黄色が程良い。赤のように濃い色では、よほど明るい場所でない限り、染みていく様子が見えにくいからである。 《頭が柔らかすぎる人に向けたお願い》 浣腸によって軟らかくしたアレを洩らさせる場合、女性に穿かせるパンティーやパンストは、ぜひサイズが大きめの物を選んでやってほしい。また女性が普段からガードルやコルセットを愛用していても、そのときばかりは事前に脱がせてやっていただきたい。（洩らすアレが“水様液”だけだと確信できる場合は、その限りではなく、また水様液が水溶液の誤植ではないことは言うまでもない） 頭が柔らかすぎるタイプの人なら、その理由を即座に理解できる筈だが、すでに先刻ご承知のように、私は性格がせんごく…いや、すっごくくどい。 そこで念には念を入れておくためにもうひとつ、バイロンの名言をもじって進言しておきたい言葉がある。それは「現実は小説よりキったないなり」だ。 ちなみにバイロンは英国生まれの女性詩人で故人。孤児院で育ったためか、劣等感とも呼べそうなほどの自意識の過剰さと、勘違いの激しいことでも知られ、道路に置かれるパイロンのような、赤や黄の三角帽子を好んで被っていたことが、その象徴と指摘する専門家も多い。 また中国を旅した折りには、宿泊先の隣室から聞こえた「ロン！ バイマン！」という声に、「No！ My name is Byron！」と大声で応じたという逸話まで残っているほどだから、その点では某国の元総理大臣で、隣国の元大統領から「ヤス！」と呼び捨てにされていた安物…いや、偉そうにしているだけで実に安っぽい人物（※）も、おそらくバイロンには脱帽するだろう。（※彼が政治家を志した動機は勲章がほしかったためというのが定説であり、また女性の賓客の前でも帽子を脱いで挨拶しなかったのは、“スダレ頭”を隠すためだったという説が有力） ▼ （へーえ‥バイロンはそういう人だったのか‥‥） 俺も「事実は小説より奇なり」という名文句は知っているが、それを残したのがバイロンとは知らなかった‥‥というより、性別や生い立ちどころか、詩人であることさえ知らなかった。 バイロンに関して俺が知っているのは『人に施した利益を記憶するな。人から受けた恩恵は忘れるな』という格言を残した人ということだけだ。 もっとも今の俺には『利益を施した』という意識など、耳の垢ほどもない。あの当時にしても、俺の受けてきた恩恵に報いるのが当然と思っていた。 しかし、ここで今、中学生時代のことを振り返っても益がない。 俺はすでに自分の意思を社長に伝えた。あの後も、中国へ渡って得られる“利益”と、新たに課せ られる苦労とを、何度となく慎重に秤に掛けてみた。 それでもやはり俺の選択には、誤りがないという結論しか出せないのだ。 （えーと‥どこまで読んだんだ？） 目で数行なぞって判明。次の行に視線を送る。 ▽ くど過ぎるようだが、奥さんや恋人にキらわれ、赤の他人の関係になるようなことのないように、「優しくなければ変態行為を楽しむ資格はない」ことを肝に銘じ、また同時に交通信号とは違い「赤は安全日のサインでも、黄はあくまでも注意が必要」という認識を、くれぐれも正しく持っていただきたい。 ここまで書いても、いったいなにを私が言わんとしているのかわからないような、愚かな「イワンの末裔」のために書いておくと、つまり要するに、黄色いマスタードをサンドしたようなハンバーグならぬ“マンバーグ”が出来上がると、それを供した側も食すほうも、互いに尿道炎や膀胱炎を患う危険性が高まるだけでなく、奥さんや恋人の“キ色”の悪さが“キ嫌”の悪さにつながり、「大っキらい！」と言われかねないという意味だ。 せっかく『大』まで洩らしてもらえる関係になれたというのに、たかがパンティーのサイズの大小にこだわったせいで、結果が「大っ嫌い！」では洒落にもならない。 その点に関しては、素性もわからないウーマン相手にタダマンをやった後の怖さ、麻雀でバイマン聴牌のときにハネマンを放銃した悔しさ、あるいは鰐のカイマンや牛の仲間のバイソン、蛇のパイソンといった動物が迫ってくる恐ろしさ、さらには「コルト・パイソン」を始め、様々な銃を所持する人が多い米国社会の危うさといったものさえ、ろくろく認識していない三十六歳未満の人、とりわけ男性に対し、強く注意を促しておきたい。 なぜならそうした男性というのは、黄色いカイパンの透けやすさをご承知でないことが懸念され、さらには、女性の和装用下着のひとつである腰巻の色や、腰巻の上に重ねて着る“蹴だし”の色が、なぜ一般に赤いのかさえ、まったくご存じないのではないかと危惧されるからだ。（なおも次頁へと続く） ▼ （確かにそうかもな） 解説者の意見に納得しながら次のページをめくる。 ▽ 《絵に描いた蛇に脚を書き加える行為に代えて》 一般に『蛇足』というのは、余計な付け足し、無用の物の代名詞として用いられている。 ただそれは、絵に描いた蛇に、移動用の足を書き足す行為を指し、人間でいうところの真ん中の脚を書き加える行為までは含まれていない。 無駄足を無蛇足と書き誤ったり、両者の違いを理解できないような人を除けば、ほぼ常識に近い事柄と言っても、決して過言ではないだろう。 蛇の絵に真ん中の脚が書き加えてあれば、それを見た人は、雌雄の判別が容易におこなえ、交尾期か否かも判断できるというもの。 そうした観点から、最後にぜひお伝えしておきたいこと…いや、最後の最後に向けて、読者の方には、知っていて損のないお知らせをしておきたい。 女性にルビーの指輪をプレゼントした経験など持たなくても、曇りガラスの向こうがどんな街であるかをご存知の方なら、カラスの行水時間の短さも、イメージとしてはご承知だと思われる。 しかし、初めて盥さんの作品をお読みになる方は、その長さにまったく想像がつかない筈。 確かに私の場合も、短編のつもりで作った習作を「大河小説」と評された経験を持つが、盥さんのように「すべてが銀河小説」とまで言われた記憶はないからである。 ではなぜ、盥さんの小説は長いのか。 ここでその理由を、以下の通り明らかにしておくことで、ペン先がちびた万年筆（※）をいったん置く。（※ワイに知られてるとも知らへんと、ワイフときたらでんな、ちょくちょくワイのセガレ代わりに使いよりまんねん。ほんま、つこた後くらい、きれいに拭いといてもらわんと、ぬるぬる滑って敵んわ。ワイの筆の進みが遅いんと、近頃また早漏気味なんは、それが原因ちゃうやろか） 盥さん曰く。（長々と曰く） 今のわたくしの力では、筆にも例えられるアレを握ってみるのが精一杯。濡れた布巾さえ絞れるだけの充分な握力がなく、大した筆力もありません。代書してもらうためのアシスタントを雇ったり、優秀なゴーストライターに代筆を頼んだりすることも、諸般の事情が許してくれない状況です。 ですからわたくしがどれほど知恵を絞っても、一流の推理作家が得意とする「大どんでん返し」の大技や、「仏壇返し」のような荒技を、結末に持ってくることなど夢のまた夢。 例えてみれば、深夜に白昼夢を見たいと望む女性が、夢精まで体験したいと欲張るようなもので、永遠に叶うことはありません。 でも、わたくしには長年可愛がってきた子飼いの亀がおります。 巷で話題の『亀野親子』や『亀野三兄弟』は、その喋り方からしてノータリンですが、わたくしの亀の頭に詰まっている海綿体は、わたくしの脳下垂体などより遥かに優秀。お喋りこそできないものの、今も多くの家庭で炊事や洗濯に使われる“亀の子タワシ”以上に、頼りになることこの上もない存在です。 その証拠に亀は、わたくしが唯一の趣味にしているスポーツ観戦に、テレビの前で一緒に黙って付き合ってくれるばかりか、わたくしと同様、スポーツに対してこんな考えを抱いてくれるようになりました。 ・対戦相手と得点を競い合う種目においては、互いに点の取り合いとなり、逆転に次ぐ逆転という試合展開（シーソーゲーム）が最も楽しめる。 ・あらかじめ試合の制限時間が決められている種目（一定時間の経過で勝敗が決まる種目）よりも、野球やゴルフがそうであるように、所定のプレー回数（イニング数・ホール数等々）を終えるまで、試合自体が終了しない種目のほうが楽しめる。 ・例えば剣道、相撲といった格闘技の最大の魅力と特長は、一方的な劣勢に立たされている側にも、最後まで勝負を逆転できる余地が残されていること。 ポイント制を併用するボクシング、柔道、レスリングといった種目においても、やはり逆転の余地だけは、それぞれ『ＫＯ』『一本』『フォール』という形で、明確に受け継がれている。（従って、いかに激しい接触プレーがあろうとも、単に得点を競うだけの種目、特にボールゲームを決して格闘技とは呼べず、アイスホッケーにしても、「氷上の格闘技」などと称するのは、真の格闘技に対して失礼極まりない態度） ・真剣を用いた戦い（斬り合い）に、引き分けなど有り得ない。真剣勝負を謳うなら、判定による決着では、疑惑と不満が残る。延長戦やプレーオフを実施してでも、勝敗を明確にすべきだ。 頭脳スポーツにおいても、囲碁の公式対局に引き分けはない。将棋でも「千日手」が生じて勝負が膠着状態に陥ったときは必ず差し直す。持将棋（引き分け）の場合も、基本的に差し直すことで勝負の決着を図っている。 そこまではいいのですが、わたくしの子飼いの亀には、成長した海亀を思わせるほどの、いえ、獰猛なワニガメを連想させるほどの大きさの、致命的とも言えそうな欠点もあります。 そのひとつが、性格的に他の亀や人間と張り合うのが大好きで、小ぶりな体格ながら随所に「小どんぶり返し」の小技を用いたがり、「今の技は何点？ それとも難点？」と評価を気にする点。 結果、その伏線となる状況描写や心理描写、あるいは会話といったものが、「冗長」と言われても甘受せざるを得ないほど、極端に長くならざるを得ません。 欠点のもうひとつが、他の亀や人間の心の奥を覗きたがる点。言い換えれば、「こいつはなぜこんな事をするんだ？」とか、「どうしてこんな考え方をするようになったんだろう」といった考察を欠かさない点……と言えば聞こえはいいのですけれども……。 例えば貞淑な人妻が浮気に走る場合なら、その動機を単に「浮気相手の魅力に負けた」だの、「夫との性生活に不満を抱いていた」だのといったふうに解釈するのでは、『納得できないものは納得できない』とばかりに、動機の徹底解明に向け、人妻の生い立ちまで遡ろうとするのですから、手が掛かって仕方がありません。 早い話しが、自分を精神分析医かなにかと勘違いしている亀のせいで、物語の進行まで遅くなってしまい、結果的に『亀も裸足で逃げだす』どころか、『亀が速く走ろうとして運動靴を履き始める』ような状態に陥ってしまうのです。 つまり結論を端的に言えば。 わたくしが銀河小説から抜け出せないことの裏には、そうした苦しい事情が隠されているのである……ということにしておいてもらえれば、わたくしの能力の低さがバレる心配もないでしょうし、八方が丸く収まるはずですから、ヒデさん、解説を書いてくださるにあたっては、どうかひとつ、その辺のところをよろしくお願いしますよ、近いうちに近くで一杯なんて、実現不能なことは言いませんけど、もうじき家でなら、何杯でも奢らせていただけるようになりますから。（以上） |
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| 2008.3.1掲載 |
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