そうした映画の代表的な作品が、秋乃みのりの代表作と言われ、彼女にとっては最後の出演作品ともなった『泣きボクロ』。そしてその中で彼女が演じた秋野秋子こそ、脚本上の約束事から生まれた女性の典型と言えるだろう。 カガミさんの泣きボクロをまともに見たのは１回だけだが、秋乃みのりの『泣きボクロ』なら延べ２０回以上‥‥いや、少なくても３０回以上は観たような記憶がある。だから登場人物の名前はもちろんのこと、濡れ場における映像や台詞といったものに関する記憶だけは、まだかなり残っている。 たぶんその量は、主演した秋乃みのりや監督を務めた本山慎也、さらには泣きボクロでの共演がきっかけとなって、秋乃みのりと結婚した山田伸作にも引けを取らない筈‥‥などということは、何の自慢にもならないので、ウンコと一緒に便器の底に沈め、映画の内容と主要な場面だけを拾い出せば。 新興宗教団体『創正教会』の熱心な会員で、元刑事の秋野秋子が、新婚旅行先で急死した夫の葬儀を終えたその夜に、創正教会の教祖で還暦まで迎えていながら、功徳と称して女性会員を口説きまくり、巨根を駆使して日夜“１万人斬り”を目指す空前の絶倫男、池本太一から、自宅の仏壇の前で暴行を受けるという場面において。 秋子は“生き仏”のように崇めていた池本が、突如として強姦魔の本性を現し、褌一丁の姿で襲い掛かってきたとき、頑強な抵抗を見せる。なにしろ彼女は“元デカ”だ。体型は細身で腕も細いが、多少は腕に覚えがある。亡き夫、一太郎と永遠の愛を誓った日から、まだ１週間と経たない状況でもある。 しかし敵は図体からして“デカ仏”‥‥ではなくデカブツ。身長が１８０センチを優に超え、体重も１８０キロに及ぼうかという巨漢の悪漢だ。和装の喪服を身にまとっている秋子が、力の限りを振り絞って抵抗しても、まったく歯が立たない。 例えば顔を引っぱたいても、敵は腹を立てて殴り返すようなことはせず、即座に「わしの頬に蚊がとまっておったんじゃな？ わしは若い頃に“田舎相撲”を取っておったから、女に張り手を喰らうくらいのことは、痛くも何とも感じないが、蚊に刺されると痒いからのう。ありがたいことじゃ」と切り返す。 両手で首を絞められても余裕綽々。秋子の利き腕を片手で強く握ることで、その力を殺す傍ら、「なるほど。こういうやり方で、わしを興奮させてくれようという心づもりじゃな？ ありがたやありがたや」と、もう片方の手で拝み返すだけ‥‥ならまだしも、「この調子なら倅の首も、観音様が上手に締めてくださることじゃろう」といった余計なひとことの後に、「ありがたいことじゃ」を付け足すことも忘れなかった。 着物の裾を強引にめくり返していくときにしても、「♪もしかして〜もしかして〜…という歌には、パートツーがあると聞いておるが、今日のお前は、もしかしてパンティーつう物を穿いておらんのじゃないか？」などと、わざわざ流行歌の出だしを口ずさんでから、わかりやすい駄洒落を口にする余裕を見せていた。 その辺までは、俺にも充分な余裕があった。 時代劇でなくても、ピンク映画の世界には常に、『和服＝ノーパン×ノーブラ』もしくは『和装の女性＝ノーブラ＋ノーパン』という常識的な“公式”が存在するから、駄洒落を織り込んだ池本の“予想”が、観客に向けた“予告”を兼ねていることを、瞬時に理解できるだけの余裕を持てていた。 秋子が抵抗を諦めたのは、着物の裾を完全にめくり返されたとき。すなわち池本の予想通りノーパンだった下半身を、すべて剥き出しにされたときである。 そして結局、哀れ秋子は帯をほどかれることなく、直ちに畳の上で身体をふたつにたたまれ、遠く離れ離れにされた膝の裏を手で押さえられながら、観音様への挨拶さえまったく受けないままに、脅威のデカチンを突っ込まれるのだが。そのときの映像に俺は、本山慎也という監督のセンスを感じた。 まず目を奪われたのが、画面の左半分を障子で構成し、そこにピンク映画ならではの影絵を映し出すという趣向。 影絵を構成していたのは、全裸に等しい男の全身というか、褌としての役目を解かれた越中褌を尻の側に垂らしたまま、屹立した巨根に腹鼓を打たせている“ツルツル頭”の池本と、上半身は和服にそっくり包まれていながら、ノーパン状態が剥き出しになっていることを考えれば、半裸という表現でもそれほど違和感のない秋子の腰から下である。 障子の右側へ目を移せば、白い足袋の裏を天井に向けて宙をさまよう２本の脚の白さと、身動きできない状態に置かれた喪服の黒とが、実に見事な対比を見せている‥‥などと、感心している暇も有らばこそ、カメラは驚愕に凍りついたような秋子の表情を、画面いっぱいに映し出したのだ。 彼女の目は一瞬、目一杯に見開かれた。ついに襲ってきた『敵の息子』の巨大さというものを、観音様が肌というか、皮膚と粘膜との境目あたりで感じ取った瞬間である。 敵の手によって広げられた両脚の状態を「全開」と形容するなら、驚愕がもたらした瞼の開き具合は、限界を超えた「超限開」と表現できそうだった。 秋子の網膜に映っていたのは池本のツルツル頭でも、彼女の視神経は、それを彼の息子の亀頭そのものとして捉えているような、そんな表情とも言えた。 だが、瞼が開いていたのも束の間。唇がわなわなと震えだしたときには、まばたきを再開するどころか、きつく閉じられてしまった。 もし今の俺が、何の事情も知らないままに、初めて『泣きボクロ』を鑑賞した後というか、息子の興奮を手で鎮めてやった後、映画評論家を気取り、あの場面だけを切り取って、秋乃みのりの“演技”や本山監督の“演出”を評論するとするなら、その内容は。 『眉根に深い皺が寄るほどの力で閉じられている瞼。唇の震えが見えなくなるほどの激しさで、大きく左右に振れる細い首。さらにはその揺れを止めようとするかのように、血の気の引いた頬を挟んでいるふたつの握り拳……。 そうしたひとつひとつの細かい表情、仕草といったものをていねいに寄せ集めていくことで、本山監督は秋野秋子を襲っていた感情、すなわち観音様の管理下にある“肉壷”へ、大根ならぬ巨根を沈められる恐怖や、現在の限界を超えて、壷の口径や内径を強引に広げられることへの怯え、あるいはそのときに発生する痛みへの不安といったものを、観客の誰もが瞬時に推測できるような形で、的確に描き出していた。』‥‥といったものにしかならないだろうが、実際のところは昨年、障子の裏側に隠されていた事情を知ったから、評論の最後にこんな注釈を付け加えることができる。 『ただし、あの場面においての秋乃みのりは、まったく何の演技もしていなかった。その点に関しては本人が後年、テレビの深夜番組で「身体をふたつにたたまれるところまでは、私なりに思い描いていた通りの演技も出来ていたんですけど、いざという段になったら、もう驚くやら慌てるやらで、演技をするどころの騒ぎじゃなくなったんです。それまで夫とは、まったく何の付き合いもありませんでしたし、「大きいのは図体だけじゃない」という噂だけは聞いていましたから、念のために“それ専用”のジェルも塗っておいたんですけど、まさかあんなに……ねえ、普通は想像もしませんでしょう？」と、わずかに顔を赤らめながら語っていたことを、念のために書き加えておきたい。』 人づてに聞いた“与太話し”ではない。俺はそのテレビ番組というか、内外の著名な映画監督が週替わりで出演し、最も思い出深い作品について語る『なるほど！ 君の映画に乾杯！』を実際に視聴した。 本山監督は番組の冒頭で「ボクが初めてプロデューサーを兼ねた映画、言い換えれば、映画監督という仕事に就いて以来、初めて製作費に頭を悩ませた映画という意味で、迷うことなく『泣きボクロ』を選びました」と言い、そのときの苦労話しをこんなふうに語っていた。 『あの映画は本当に予算がきつくて、正直、どうやったら製作費が削れるか、そればかり考え続ける毎日でした。他のピンク映画に比べて、場面転換や登場人物が極端に少なかったのも、ほぼ全編を通じて濡れ場が展開されることになったのも、すべて製作費を安く上げるためです。 ただ、そこまでやっても、まだ予算をオーバーしていたものですから、最後はみのりちゃんに身を削ってもらうしか、正直、方法がなかったんですよ。彼女が本番で本番を…ということになれば、スタッフもそれこそ手弁当で……とはいかないまでも、弁当代込みの５万円で充分という人がゴマンと…では大袈裟ですが、正直、気心の知れた優秀なスタッフが、５人は確実に確保できそうでしたからね』 つまり本山監督は、秋乃みのりと山田伸作のセックスシーンが、本番では本当にすべて生の“本番”だったことを正直に‥‥というより、生々しく打ち明けたのだ。 さらにまた番組の中では、山田伸作がこんな談話を寄せる映像も流された。 『なにしろ「本番をバンバン」ですからね。監督から話しをいただいたときは、こっちも当然、耳を疑いましたよ。でも、「みのりちゃんからはオーケーをもらっている」と聞いて、「それなら頭を剃るだけじゃなくて、ノーギャラでもオーケーです」なんて、ついつい本音が出ちゃったせいで、本当にギャラが１銭も支給されなかったのはともかく、当時の彼女はアレがかなり不順だったらしくて、本番の予定が直前まで決まらなかったのには、つくづく参りましたね』 『理由ですか？ だって考えてもみてくださいよ。当時の俺はまだ３０になったばかりでしたし、リハーサルでも当然、ある程度のことまではやるわけですから、こっちとしては、どうしたって彼女との本番を想像するじゃないですか。当然、自分で慰めたくなる日も多かったわけですよ。 ところが監督からは「本番の撮影は２日で済ませるしかないから、１日に６回以上とまでは言わないけど、正直、最低でも２日で８回は、確実にこなせるだけの元気を蓄えておいてほしい」なんていう指示を、まるでそれが当然のことのように出されていましたから、それこそナニひとつ、思うように“かけない”わけです。当然、寝付きは悪くなりますし、夢の中で本番をやるような不祥事も起きたわけですよ。 だからもし撮影があと２日…いや、１日でも先に伸びていたら、たぶん俺は一人でナニをバンバンやることになって、本番では演技しかできなかったと思いますよ。当然、彼女と結婚することにもならなかったはずです』 ピンク映画はあくまでもピンク映画。映画館では上映されることのないブルーフィルムとは違う。だから俺も当然、まさか秋乃みのりが本当に“本番”をやっていたとは、夢にも思わなかった。あの頃の俺は、ただただ彼女の“迫真の演技”に引き込まれ、画面を喰い入るように見つめていただけだ。 とはいえ、ただ単にそれだけのことならというか、その後も引き続き同じような調子の映像が続いていたら、俺も少しは余裕を持ち続けていられたと思う。 ところが本山監督は、池本がグイッと腰を突き出した途端、映像をスローモーションに切り替えるという手法を採用した。目的は言うまでもなく、俺に余裕を失わせるため‥‥などではなく、肉壷の口に巨根を押し込まれていく秋子の様子を、隅々まで事細かにゆっくり見せてくれるためだ。 つまり俺の脳味噌が完全に映画の中へ引きずり込まれ、余裕というものを失った最大の要因は、秋子の表情の変化や身体の動きが、スローモーションで映し出されていたことにあったと言える。 巨根の侵入によって顎が突き上がった秋子の顔は、絶息したようにも見えたというか、ショックで息が詰まったときの表情を、ほんの一瞬だけ浮かべてから、徐々に苦痛に歪んでいった。 頬の両脇で固まっていたはずの拳に目を向ければ、もはや握るでもなければ広げるでもないといった中途半端な形に変わり、宙に浮いた格好の両脚も、さまようような動きを止めて痙攣していた。 そして「さらにまた１歩」といった感じで、池本が巨根を前進させたとき、秋子は死の淵へ突き落とされたかのように絶叫し、苦痛に悶えながら気を失うのだが。彼女の絶叫はスローモーションの効果と相まって、いつまでも耳に残るほど長く尾を引いた。 あのとき初めて俺は、本山慎也の映画監督という肩書きが、彼の眼鏡と違って伊達ではないことを知った‥‥というより、その後も『泣きボクロ』を観るたびに改めて思い知らされ、長く彼を「本業はテレビタレント」とか「単なるスケベオヤジ」といった色眼鏡で見ていた自分を恥じた‥‥ような記憶がまったく残っていないのは、それだけ映像が斬新で且つ、懇切丁寧な作りだったために、俺の視線が毎回毎回、秋乃みのりというか、秋野秋子の表情に釘付けにされていた証拠。 一瞬は気を失った秋子ではあったものの、池本が腰の動きを再開した時点で意識を取り戻すと、それ以降は並々ならぬ気丈さを見せた。 敵の凶暴な息子が生来の傍若無人ぶりを存分に発揮し、やりたい放題というか、縦横無尽といった感じで暴れ回っても、泣き声ひとつ漏らすことなく、懸命に痛みと涙を堪らえ続けるのだ。 池本から「泣きたかったら泣くが良い。わしは女の涙と泣き顔に弱いからのう。お前が泣きボクロを涙で濡らせば、わしもそれだけ早く極楽へ行けるというものじゃ」と言われても、唇を噛んで必死に涙を堪らえていた。 しかしそんな秋子も、池本の射精を感じ取った途端、ついに大粒の涙を溢れさせ、泣きボクロを濡らしながら嗚咽してしまう。だがそれでも、泣き顔を見せただけなら、池本のこんな台詞は聞かされなかった。 『諺でも「仏の顔も三度」というておるからな。わしも普段はひとり２回までと決めておるんじゃが、お前との場合はそうもいかん。如何せん、ここの具合が良すぎるからのう』 池本は腰を突き動かすことで、「ここ」がどこかを秋子に教えた後、さらに言葉を続けた。 『ただ、今の様子と、ここの具合から考えて、おそらくお前は結婚するまで処女を守り通し、新婚旅行でも、せいぜい２回か３回しかやってもらえんかった筈じゃ。それではいくら結婚したとはいえ、女になったとも言えんじゃろう。そこでわしが、死んだ一太郎に成り代わって、気の毒なお前を本当の女にしてやろう。 さあ、今宵のうちに、あと５回は必ず出してやるから、お前も法悦に浸るが良い。何度も絶頂に登りつめて、死ぬほどの悦びを得るが良い。良いか、わかったな？』 秋子はヨイヨイの‥‥違う、絶倫の池本から“６連発完遂宣言”を聞かされて覚悟を決めた。 覚悟さえ決めれば、後はひたすら悲しみと苦しみに耐えているだけで‥‥済んだのは秋子の場合、２度目の射精が済むまでだった。 ３度目からは体位が屈曲位から正常位に変わったのだが、池本が２度３度と重い“突き”を喰らわせた頃から、秋子の様子にも次第に変化が表れてくる。表情が困惑や戸惑いといったものを見せ始め、それが時として悩ましげな表情や、陶然とした表情に取って代わるのだ。 無論それを池本が黙って見過ごすわけもない。秋子が少しでも喘ぎ声を漏らしたり、恍惚の表情を見せたりしようものなら、すかさず「お前も気持ちが良くなってきたようじゃのう。おかげでここも、ますます具合が良くなってきたぞ」だの、「だんだん良くなるのは法華の太鼓だけじゃのうて、包茎のわしとやる満湖も一緒じゃ」だのといった突っ込みを入れ、さらに重い突きを繰り出す。 秋子もその都度、慌てて気を取り直し、努めて無表情を装うのだが、そこには狼狽の色がありありと窺え、湧き上がる快感に耐えるのが精一杯‥‥といった風情を全身に滲ませ始めたところで、池本が３発目を発射し、休む間もなく４度目に突入する。 体位に変化はなかったものの、４度目では“のっけ”から秋子の様子が違っていた。敵の巨体を乗っけていることには耐えられても、肉と骨が芯からあぶられるような熱い快感は、堪らえても堪らえきれない‥‥といった素振りを、あからさまに見せ始めた。 池本の“大砲”に“肉池”を突かれるというか、あそこを底まで突かれると、あたかもその衝撃を口から逃がそうとでもするかのように、顎を突き上げて唇を広げ、喉の奥から熱い呻きを絞り出す。そして敵の大砲が後退を始めると、いかにも切なげに喘ぎながら、首が「イヤイヤ」をするのだ。 しかも障子の影絵に目を転じれば。そこでは秋子の両脚が、池本の腰を抱え込みたくて仕方がないといった動きまで始めていた。 ３度目のときは畳の上に投げ出され、緊張と弛緩を繰り返していただけだったものが、４度目では首のイヤイヤと歩調を合わせるかのように、宙に浮きかけては畳に戻り、戻ったかと思えば直ちに宙へ舞い上がり、池本の腰を抱え込む寸前で、危うく畳に引き返す‥‥といった動きを繰り返すのである。 敵の波状攻撃を受け続け、大砲の撃ち出す液状弾を３発も浴びたせいで、官能という名の「内なる敵」が目覚め、秋子を肉欲の虜に変えつつあることは、誰の目にも明らかだった。 俺はその場面を初めて観たとき、秋子はこのまま絶頂を迎えるに違いないと予想した。彼女が「いやいや、そんなのいや」と言うかどうかは別にして、池本が否応なく、彼女を性の頂まで押し上げるのだろうと予想した。 それまでの池本の態度や言動、あるいはあの時点での秋子の様子といったものから、３度目の正直ならぬ「４発目で絶頂」と決めつけたせいで、他の展開はまったく予想さえしなかった。 だがそれこそは、俺が気持ちの余裕というものを、ほぼ完全に失っていたことの紛れもない証拠。 池本に「行け行け！ お前も男なら、もっとガンガン行け！！ ここでいかせられないようじゃ、巨根の持ち腐れだぞ」と無言の声援を送るその一方で、秋子に対しても「もういってもいいんだ。きみはもう充分に頑張ったんだし、ここでいかないようじゃ女じゃない‥‥とは言わないけど、それじゃ“いかず後家”と一緒じゃないか」といった具合に、慰めと励ましを兼ねた“慰励”の念を抱いていたことを含め、俺の未熟さの何よりの証明でもあった。 『ケツをまくった変態は大変』の解説にもあったように‥‥というか、つい先日も、文芸評論家の中嶋薫が新聞の書評欄で、栗木梓の探偵小説『ボンクラの時代』『ボンクラの気持』『ボンクラの世代』を取り上げ、こんなふうに批評していた。 『話しの展開や結末が簡単に読めたり、一本調子で話しが進む小説や映画はお話しにならず、その場合は作品が大作であればあるほど、駄作として話題になるだけでしかない。 従ってそれをよく知る一流作家というのは、たとえ書き下ろしの小説が、製本代の安いペーパーバック、すなわちイエローバックとも呼ばれる簡易な装丁でしか出版されなくても。また製作費が安い分、信じられないほど安い執筆料で、ピンク映画の脚本制作を引き受けた場合においても。 プロ意識の高い作家なら、知名度や原稿料が高いか否かにかかわらず、誰もが展開に起伏を持たせようと心がけ、結末には“どんでん返し”か“落ち”を持ってこられるように図る。無論、そのための伏線を張る手間も惜しまない。 近年、高いのは鼻と自尊の念だけという“ぺいぺい作家”や“ボンクラ小説家”も数多く見受けられるが、そんな彼らには、物語全体の起承転結を考えるどころか、文章の起承転結さえ考えられない様子だから、なおいっそう栗木梓氏の「ボンクラシリーズ」の完成度は光っていると言えるだろう。』 ピンク映画とはいえ、製作したのは日本を代表する一流の映画会社。監督の本山慎也だけでなく、脚本家の迫道俊という人物もまた、後から知ったところによれば、知る人ぞ知るその道のプロだという。 池本の大砲の動きに引きずられ、首がイヤイヤを始めた程度の段階で、秋子に絶頂を迎えさせるはずもなかった。 あのときの俺が「もう予想はよそう」と考えたかどうか、その辺の記憶は定かではないが、しかしそれでも。 ６連発の完遂を宣言した池本が、４発目以降、どんな段取りで秋子を『本当の女』に仕立て上げていったか、その点に関しての記憶は確かである‥‥というより、秋乃みのり演じる秋野秋子が、喪服を着たまま陵辱される場面が観たくて‥‥いや、本当の女というやつになっていく過程に魅せられ、『泣きボクロ』を３０回以上も観てしまれば、忘れようにも忘れられなくなるというものだ。 秋子の明らかな変化に気づいた池本は、４発目を発射する前に大砲の動きを止めた。秋子をじらそうとしたわけではない。いったん大砲を抜き取ったうえで、秋子の着物の胸元を広げられるだけ広げ、乳房を露わにするためだ。秋乃みのりのファンに向けた“特別サービス”の準備と言ってもいい。 たわわな乳房が両方とも完全に露出したところで、池本は秋子に後背位の姿勢を取らせた。そして彼女の細い腰を高く抱え上げて挿入し直すと、休むことなく激しく攻めたてた。 処女で結婚し、夫とは２回か３回しか結ばれていなかった秋子にとって、後背位は恥ずかしすぎる。心理的な抵抗が強い分、感覚的な刺激も強い。そこへ来て、池本が大砲で送り込んでくる物理的刺激は、ますます激しさを増すばかりという状況だ。 《一太郎さんのお葬式を終えて、まだ何時間も経っていないのに……ああ…んんっ…こんな男から、動物みたいな格好で犯されて……それだけでも、つらくて悲しいというのに……こんなふうに突かれるたびに……んんっ、お尻を揺すりそうになって……んんん…恥ずかしい声まで出ちゃうなんて……もう…私、どうしたらいいの？ この後、いったいどうなっちゃうの？ ああ……恥ずかしい……でも、でも……気持ちがいい……ああ……んっんっ…とってもいいの……それがつらくて……そんな自分が恨めしくて……なおさら悲しくなるの……》 池本太一は秋子のそんな切ない心情を窺わせる呻きと、快感の強さを物語る喘ぎ声を充分に堪能し、４発目の射精を遂げる。 ５度目に挑むにあたっては、すでにぐったりとなっている秋子を尻目に、彼女の尻というか腰を抱えたまま立ち上がる。もちろん彼の大砲というか、生育しすぎた長茄子を思わせるらしい逸物は突き立てたままの状態なのだが、秋子のほうはすっかり諦めに支配され、池本の“為すがまま”といった状態。 上体を力なく前に倒し、両腕もだらりと下げたその格好は、まるで死人のように‥‥こそ見えなかったものの、力の抜けた『立位体前屈』にしか見えず、しかも当然のこととはいえ、肝心な場所も映っていないから、観ていて楽しくない‥‥というより、盛り上がりに欠ける‥‥といった不満を俺が抱く前に、秋子の態度は一変、状況も劇的に激変した。 |
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| 2009.10.31掲載 |
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