〔１−５♂：喫茶中の薬屋　３０歳〕

　嫁さんの弟で出版社に勤めるパンちゃんが、新しいタバコをくわえて火を着けた。それは話題を変えるときの一種のサインだから、僕のほうは、運ばれてきたばかりの２杯目のアイスコーヒーに口をつけて待つだけだ。

「ところでドラさんは、千塾大学の卒業記念品を知ってますよね」
「現物は見たことないけど、存在だけはね」
「内容に興味あります？」
「それはあるよ‥‥」

　千塾大学は、良妻賢母の育成を目的に設立された由緒ある名門校。創立以来、学長は代々女性が務めていることを知らない人は多くても、入学の難しさを知らない人はごく少ないはずだ。
　なにしろ受験に際して求められる能力が半端ではない。入試では学力を問うだけでなく、総合的な知力や咄嗟の判断力といったものも試され、さらには調理・裁縫の実技試験まであるというのだ。

　一流の進学校に通っていた嫁さんにしても、敬愛する兄嫁さんのようになりたいと願い、千塾への入学を志して猛勉強したらしいが、それでも入試の難関を突破できずに、結局は僕の母と同様、塾践女子大へ進むことになったと聞いた。

　そんな千塾大学では、２０年ほど前から卒業生に１冊の本が贈呈されており、その本を古本屋に持っていけば、高級車が買えるほどの値段で売れるらしい。
　僕などは単純に、それほど高く売れるのなら、読み終えた後は売ればいいのにと思うのだけれど、近所の古本屋さんによれば、どこの同業の店にも、なぜか売りに来る人はいないという話しだった。

　もちろん内容が堅苦しかったり、小難しかったりするようなら、僕も興味など持たない。でも、タイトルが『性と性行為の千科事典』だと知ってしまえば。
　将来は必ず良妻賢母になれると太鼓判を押されたような女性たちは、セックスに関していったいどんな知識を授けられるのか、僕でなくても興味を抱くのは当然だろう。

「実は、手に入ったんですよ」
　パンちゃんが声をひそめて言った。
「ほんと？！」
　僕も子供ではない。努めて小声で尋ねた‥‥つもりだったけれど、素っ頓狂な声を出してしまったらしい。いや、出してしまったことを、紛れのない事実として認めるしかない。
　その証拠に、他のお客さんたちの視線が、網膜に刺さっている。たぶん背中にも突き刺さっていることだろう。

「どこで手に入れたの？　まさか編集長さんに頼んだわけじゃないんだろう？」
「当然ですよ。僕と血の繋がった妹というならともかく、年も離れた義理の姉さん相手に、そんなことを頼めるわけがないじゃないですか。兄貴に告げ口でもされた日には」
「パンちゃんの息子は、口にバラのトゲを押し込まれるとか？」
「よくそんなことを思いつきますね」
「だってほら、パンちゃんのお兄さんはプロの絵描きさんだけど、バラを育てることにかけても、プロ裸足なんだろう？」
「そのことと、息子の口にバラのトゲを押し込むことと、どんな関係があるんですか」
「‥‥‥‥‥‥」
　ないと言えばない。いや、まったく無関係だった。僕には一言もない。

「そもそもが、人の口にヒマシ油だ何だのを混ぜて入れた上に、ガソリンまで追加して火を着けてやるだなんて、普通、誰も思いつきませんよ。」
「‥‥‥‥‥‥」
「ドラさんは、男に対しては真性のサドなんですか」
　眼が痛い。角膜に刺さっているパンちゃんの疑いの視線が、バラのトゲと化したせいである。
　このまま黙っていれば、次から次へと暴言を吐かれ、耳まで痛くなるのは確実だ

「いや、僕としては、恐ろしい目に遭う例えとして、思いついたことを‥‥そのう‥‥言っただけというか‥‥女性に対しても、仮性のサドでもないわけで‥‥」
「でも、空想のサド気味ではあるんでしょう？」
「それは‥‥ねえ‥‥」
「ですよね。空想の世界で、女性相手にサド的行為を楽しむのが好きだからこそ、盥さんや野々口さんの小説を好むわけですから、人種としてはマジ僕と一緒で、どこにでもいる超ただのオジサンに過ぎないってとこですか」
　何となく褒められたような気がする‥‥のは、気のせいかも知れないけれど、眼の痛みが取れたことだけは事実だ。

「実は、盥さんに借りたんです」
「ほんと？」
　今度は小さな声が出せた。

「あの本は今の学長が書き下ろしたことになっていますが、実際のところはゴーストライターがいたんですよ」
「それが盥さんだったってこと？」
「ええ、僕も今朝、初めて知ったと言いますか、前から頼まれていた資料を届けたときに、初めて盥さんから聞いたんですけどね」
（ふーん‥‥）
　パンちゃんは盥さんと親しい。前に勤めていた出版社では、盥さんの専任担当を務めていただけでなく、秘書やマネージャー的な仕事まで手伝っていたのだと、ほんの少し前に聞いたばかりだ。
　そこまで懇意な関係であれば、自分の手元にある本を貸し出しても不思議ではない。

（ということは‥‥）
　僕もパンちゃんとは、超仲がいい。義理の兄弟でもある。マジに頼めば断られるとは思えない。

「読んでみます？」
「え？！　マジ？！」
　思わぬ申し出に、マジで反射的に聞き返した。超失敗である。またしても素っ頓狂な声を出したばかりか、人が使わないような言葉まで口を突いてしまった。

　しかし、網膜に刺さっている他人の視線より、今や見知らぬ人とは思えなくなった盥さんの著作のほうが、ずっと気になる。

「いつ読ませてもらえるの？」
「まだ時間はあります？」
「もちろん」
　小声で断言した。そもそも当初の予定では、今頃、盥さんか野々口さんの小説を、この場で読み耽っている筈だったのである。

　パンちゃんが鞄から本を取り出した。真新しいカバーが被せられているのは、やはり人目に触れなようにという配慮からだろう。

「これです」
「ありがとう」
「僕もしばらくここで書き物をしますから、ゆっくり読んでもらってかまいません」
　今度は鞄から原稿用紙が取り出された。僕が趣味の読書に励んでいる間、パンちゃんは仕事である原稿執筆に勤しむらしい。

（さてと）
　現物を目にすることさえ叶わなかった『性と性行為の千科事典』。その分厚い表紙をめくり、まず目次を探して‥‥も、目次頁がない。索引頁も見当たらない。

　普通なら百科事典と題すべきところを『千科事典』としたのは、大学の校名に引っ掛けた盥さん一流の遊び心だろうが、本文頁の厚さから測って、総頁数は５００に近い筈。
　目次や索引がなければ使いにくいというか、必要な項目を探しづらいことくらい、事典を引いた経験を持つ人なら誰だってわかる。

　それが設けられていないということは、盥さんか、あるいは学長さんに、なにかしらの意図があったものと思われる。
　そこで。まずは前書きから読んでみる。
　目次が設けられていない理由について、たとえ何の手掛かりが得られないとしても、この手の本については、『はじめに』を読まなければ始まらないというのが僕の考え方だ。

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　良妻が夫に性交を求める目的には、およそ次の五つが考えられます。
〔一〕夫の子供を妊娠し、出産する。
〔二〕夫の愛情を肌と粘膜で実感し、また性的快楽を得る事で、精神的な充足を図る。
〔三〕夫の精力の変化を測り、心身の健康状態を探る。
〔四〕夫の精虫を定期的に抜き取り、浮気の虫の発生を予防する。
〔五〕エネルギーを消費する事で、自身の体重の維持・減少に努める。

　しかし、良妻賢母を目指す目的は唯ひとつ。一人の人間として、また女として、生涯に亘る幸せをつかむ事にあります。

　良妻賢母になるための方法も唯ひとつ。それは一日も早く自立を遂げる事です。
　自立とは、性行為を含め、全て自己の責任において生きていく生き方に他なりません。自分の収入だけで暮らしていける能力を身に付けたり、家事万端を一人でこなしていく事とは、全く意味合いが異なります。
　結婚が女の幸せを約束しないのと同様、自活能力が自立を促す事はあっても、決して保証するものではないのです。

　勿論、自己の責任で自活能力を身に付けたいと望んだり、或いは『人妻』となった肉体を、たとえ見知らぬ男達に切り売りしようとも、その結果に対して全責任を負うのであれば、それもまた自立のひとつの証明と呼べるのは言うまでもありません。

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（なるほど。これは盥さんの持論でもあるからな）
　もし僕が盥さんの愛読者でなかったら、たぶんここに書かれていることを理解できないだろう。

　僕が初めて読んだ盥さんの小説『淫態に引退はない』は、盥さんにしては超々珍しいマジ短編。若くして妻を亡くした６０男が、奥さんの連れ子だった一人娘が２５歳になったの機に、彼女を実質的な後妻として迎え、老後も充実した性生活を送るという内容だった。
　
　もちろん盥さんの創り出した主人公だから、我が子同然に育てた愛娘を強姦したり、監禁と暴行の繰り返しで調教したりするような鬼畜ではない。
　主人公は娘に「そろそろ結婚しなさい。パパの面倒をよく見てくれたお前なら、きっと良妻賢母になれるはずだから」と切り出したのだ。

　ところが娘は、こう切り返した。
『結婚は私の夢だし、結婚したい人はいるから、パパの言う通りにするのはいいんだけど、もし結婚がうまくいかなくなったときは、またパパの所に帰ってきてもいい？　だって私、自分でお金を稼いだことがないし、自活なんかできそうにないから……』

　そこで養父は、娘にこんな話しを聞かせる。
　曰く。

　暮らしに困らないだけの財産がある人や、生活基盤を国家によって保障された人を除けば、確かに自活能力は重要であり、動物としてのヒトが、生存のために餌を取るための能力だと考えれば、必要不可欠と言えるかも知れない。
　だが、これまで何度も教えてきたように、人間が人間らしく生きていくためには、自立することこそが、なによりも大切。なぜなら、たとえどれだけの自活能力を身に付けたとしても、いつ何どき働けない日が来るか、誰にもわからない。
　それを忘れて結婚すると、女は結婚への夢が破れ、男は結婚への期待を裏切られる。
　
　そうした父の言葉を受けて、娘は「待ってました」とばかりに、驚くべき台詞を口にする。
『自立っていうのは、自分のやることや、その結果に自分で責任を負うことで、要するに、自分で自分の尻拭いをすることだったよね？　それなら私、パパと結婚する…のは、いくら血の繋がりがなくても法的に無理みたいだから、パパの“隠し妻”になるわ。もちろん、パパが寝たきりになったときは、パパのお尻なんかも拭いてあげちゃうから、それまでの間は、ママにやっていたように、私にお浣腸してオマルを使わせたり、オムツでも何でも穿かせて？』

（そうだ、家に帰ったら、あのシーンをもう１度読み返そう）
『淫態に引退はない』の“抜き所”というか、いわゆるハイライトは、場面が連続していたためもあって、今も忘れられない。

　最初のハイライトは、父親に対し「オムツでも何でも」と明るい口調で言った娘が、風呂場で石鹸溶液を泡ごと浣腸され、パンティーを穿いたまま泣きながら排泄する場面。
　花嫁衣裳代わりの純白の絹のパンティーが、鈍い破裂音とともに一瞬で膨らむ様子や、女の泣き声が小さくなるにつれて、茶褐色の染みが大きく広がっていく状況が、実に細密に描かれ、まるで僕は“覗き”でもやっているような気分になったものだ。

　それに続いて展開されたのは、お尻の汚れを洗い流された女が、シャワーに濡れた身体のまま、立位で処女を捧げるシーン。
　いわゆる破瓜のしるしが太腿を伝い流れたり、それを再びなぞるかのように、混ざり合った精液と愛液が流れ落ちたりするときの描写は、まるでスローモーション映像を見せてもらっているようで‥‥何度となく読み返したものだけれど、思い出したらまた読んでみたくなった。

　しかし、今はパンちゃんから“又借り”した本を読むのが急務。今この時を逃したら、おそらく２度と読めないのだ。
『はじめに』の続きの行に視線を送る。

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　良き伴侶を得たら、夫に対して、また子に対して、さらには自己に対して何を為すべきか、先ずそれをしっかりと考えましょう。そして可能な限り速やかに実行に移し、実行した後は、結果に対して全責任を負う事を、常に忘れてはなりません。

　ただ残念な事に、まだまだ世の中には、そうした考えを持つ女性を良妻とは見てくれず、単に生意気な女だとか、鼻だけの高い悪妻と見なす人も数多く存在します。男性によっては、妻が自立を遂げていく中で、或いはまた自立を遂げた途端に、それまで妻に与えていた『愚妻』という最高の評価を、悪妻に変えてしまう愚者もいる程です。

　そこで、生涯に亘り良妻賢母たらんと心掛ける者は、良き伴侶を得た後も、本校で学んだ事柄を誰にも口外してはなりません。第三者に対してばかりでなく、夫や子にも、決して教えてはなりません。
　料理や裁縫、掃除に洗濯といった技術的知識に関しては、誰に対しても教え惜しみするようでは困りますが、良妻賢母になる秘訣的な事柄についてだけは別です。無論、本書に書かれている内容についても例外でない事は、敢えて言うまでもありません。

　自立する事によって良妻賢母を目指す貴女の生き方、考え方を理解して貰おうとするなら、全ては日々の態度や行動を通じて知って貰えるように努める事。それこそが生涯に亘って幸せに暮らし続ける為の、何よりの秘訣なのです。

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（ふーん‥なーるほどねえ‥‥）
　学歴の有無にかかわらず、常識ある女性なら「私、こうやって良妻賢母をやっています」などと、公言するわけがないのは当然として。
　千塾の卒業生たちが、この本を古本屋に売らない理由に、ようやく納得がいった。
　次の頁をめくってみる。大きめの文字で見出しが立てられている。

『処女の蛤が本当に美味いかどうかは別にして、挙式の日取りや新婚旅行の日程は、先ず子宮と相談して決めなければ何かと不味い。』
　内容におよその見当はつくが、それを盥さんがどう料理したのか、少し読んでみたい。

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　例えば、一度も婚前交渉の機会を持たなかった男女が、挙式を終えて迎える初めての夜。
　想像してみて下さい。新郎が新婦に対して「さあ、やろうか」などと宣言するでしょうか。

　もうひとつ、今度は貴女が新婦になったつもりで、想像してみて下さい。
　宿泊先の部屋に入り、彼と二人きりになりました。夕食までにはまだ時間があります。或いは又、夕食は済ませたものの、就寝時刻にはまだ早過ぎるという状況に置かれています。
　そんな時、お互いの間に磁力が発生し、唇と唇、性器と性器が引き寄せられるという事態を、有り得ないと断言出来るでしょうか。断言までは出来ないまでも、如何にも軽い口調で「ありえな〜い」と一笑に付す事なら出来そうでしょうか。

　接吻の甘さが女性の心を蕩けさせるという事態は、決して珍しい事でもなければ、異常な体質によるものでもありません。
　肉体が成熟した女性の場合、愛情も熟したと感じた時から、心が蕩けると同時に、長くお股に挟んできた固い蛤までがトロトロに溶けてしまい、まるで皮を剥いたアンポ柿に変化したような錯覚を覚えるのは、極めて避け難い現象だと言えましょう。
　そして又、そうした貴女のお股の反応は、結婚相手の男性にとっても、とっても喜ばしい限りの現象なのです。

　一方、新郎の側にも同様の変化が生じます。
　愛する女性の軟らかな唇を吸えば、次は舌を吸いたくなるでしょう。乳房の軟らかさや乳首の硬さも知りたくなって当然です。そしてその後には、クリトリスの硬さを確かめたくなるのが、男性の性の本能的な特質であることを、まず知っておいて下さい。

〔注一〕通常、男性が乳首やクリトリスの軟らかさを知りたがる事はありません。硬くなったのかどうか、言い換えれば勃起しているかどうか。その一点を確かめる目的で触り、触った結果の如何を問わず、なおも揉んだり摘んだりしてくるのが一般的です。
　従って、貴女が「そこはもういいの……」と正直な気持ちを告げ、「お願い…もう…もう……」と訴えても、なかなか次の段階に進んでくれないからといって、決して彼を恨んではなりません。
　どうしても待ちきれなくなったときは、彼のお股に手を伸ばし、「そんな意地悪すると、パンツの中に出させちゃうんだから…」と無言で脅せば済む話しなのです。
　参考までに記しておけば、パンツの中に射精した男性の不快感は、月経帯からメンスが漏れてきた時の女性の不快感を、遥かに上回ります。

〔注二〕男性によっては、乳首に爪を立ててくる事もあります。しかし乳首というのは、赤ちゃんへの授乳機能を果たす器官でもあり、思っているより頑健ですから、爪を立てられても、それが瞬間的な軽い痛みであるなら、拒絶する必要もないでしょう。
　歯で軽く噛まれる（甘噛みと言う）のと同様、却って快感に結び付く場合もある事を、ぜひ知っておきたいものです。

　さて、こうして新婦の勃起したクリトリスが、激しい疼きを訴えてくる頃には、新郎の肉刀（注：陰茎）も又、鋼のような硬度を具えた剛刀と化し、その切っ先からは“飢え”を想起させる涎のような雫さえ垂らして、処女膜を切り裂くための準備が整います──などと書くと、未経験の方は怖いように思うでしょうが、それは表現の綾に過ぎませんので、どうかご心配なく。

　充分な前戯を施してもらった後の挿入なら、破瓜の痛みを幸福感が癒してくれるばかりか、初回の結合時から絶頂感を覚えられる女性も、貴女が思っているほどには少なくないのです。
　貴女も安心して肉鞘（注：膣）に彼の肉刀を迎え入れましょう。
　
　勿論、新郎が童貞で、自慰の経験も少なければ、肉刀も充分に鍛えられてはいませんから、新婦が処女であるか否かや、その肉鞘が名器か凡器かといった事とは関わりなく、鞘に収めた途端、肉刀から精液を迸らせてしまうかも知れません。
　自慰を含め、性体験の少なさに反し、溜まっていた精液が多過ぎたような男性の場合は、初めての女性との性交渉に臨む際、その期待感の高さと興奮の強さが相まって、肉刀が鞘に収まりきる前に、鞘の鯉口を濃い体液に塗れさせる事さえ、決して珍しくないのです。

　以上の説明から、挙式の日取り、換言すれば初夜と新婚旅行の予定を立てる際は、軽い接吻のつもりがそのまま前戯へと移行し、一気に性器の結合へと結び付く事態も、充分考慮に入れておかなけれはならないという事が、容易に理解出来る筈です。
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　▼

（？？）
　盥さんの文章を読み慣れた僕だけれど、なぜ『考慮に入れておく必要があるのか』、まったく理解できない。何行か飛ばして読んでしまったような気分だ。
　
（でもまあ）
　この項目はけっこう長そうだから、続きを読めば解るかも知れない。次の行に視線を送る。

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　理解出来ない人は、また想像してみて下さい。性交体験を持たなくても、自慰の経験が何度となく有るようなら、その時の状況を振り返れば参考になるでしょう。

　例えば貴女は、お股の唇がしっとりと濡れてきた程度ならまだしも、すでにお尻の方までぐっしょり濡れてしまったような時に、行為の中断が容易に出来そうでしょうか。
　彼の肉刀がいよいよお股に差し向けられてきたのを知りながら、「ちょっと待って。避妊はどうするつもり？ 私、今日は妊娠の可能性が高いんだけど」などと、冷静に尋ねられるでしょうか。

　二人の間に情欲の炎が燃え盛り、熱い粘液を溢れさせているような肉鞘に、高温に熱せられた肉刀を差してもらう段になって、水を差すような事を考えたり行なったりするのは、いかにも興醒めで、新郎新婦が揃って湯冷めするよりも、ずっと問題は大きいものなのです。

　何故なら、湯冷めした程度の事であれば、再び全裸になって抱き合い、両手と唇を使ってイチャイチャするだけで、たちどころに体温が上昇してきますが、興が醒めた場合は、そうそう簡単に事は運びません。その難しさを例えてみれば、冷めきった燗酒を、体温だけで再び温め直したり、ワカメ酒の飲み過ぎで、正体を失うほど酔っ払った男性に、立位での結合を求めたりする事にも匹敵するのです。（注：ワカメ酒の作り方や供し方、立位の醍醐味については後述）

　表現としては少し乱暴に過ぎるかも知れませんが、そもそも初夜を迎える新婚旅行というのは、新郎がやりたくなったらすぐやる場。新婦も又、お股の蛤を串刺しにしてほしくなったら、それを察してもらうために、直ちにベタベタとくっついていくのが当然の機会。
　接吻の一回でも始めたら、後は余計な事を考えずに最後まで突き進み、何度もお股を突いてもらったりたり、掻き回してもらったりする事以外、他に目的らしい目的は存在し得ません。

　従って当然の事ながら、新婚旅行に観光予定を組み込むような真似は典型的な「愚の骨頂」と言えますが、それにも増して重要なのは、互いに一日も早い妊娠を望むのでない限り、必要以上の神経を使わないためにも、日取りを決める際には、新婚旅行の間、避妊具を用いないで済む事を最優先に考える事が、必要不可欠である点。

　各種避妊方法についての詳細は後述しますが、婦人体温計を使って作成した月経周期表を基に、真っ先に子宮と相談し、慎重に日取りを決めなければならない所以です。

　なお彼と相談する際は、「私、赤ちゃんが出来ない日を選びたいんだけど…」と、さり気なく切り出せば充分ですが、仮に彼が答えを渋ったとしても、「ねえ、あの時にあれを使いたいの？」などと尋ねるのは問題です。
　ましてや「男の人は、あれを使わないでするほうが気持ちがいいらしいって聞いたけど、貴方もそうなんでしょう？」と愚かな念押しをしたり、「それなら私、あの時にあれを使わなくて済むように考えたいんだけど」といった不親切の押し売りをしてはなりません。
　
　何故なら性体験の少ない男性は早漏（注：陰茎への僅かな刺激で射精してしまう現象）の状態を呈す可能性が高く、それを当人が自覚しているような場合には、ゴムサックの使用で射精までの時間を長引かせようと図るかも知れないからです。

　但しそれは、初夜に恥をかきたくないという単純な動機からとは限りません。自分なりに精一杯頑張る事で、何とか新妻に悦びを与えたいという思いから、敢えて性感を犠牲にしてでもサックを装着する男性の数は、排卵期になると必ず自慰を行なう二十歳代の処女と同様、実に多いのです。

　例えばの話しとして、ぜひ想像してみて下さい。
　貴女の結婚相手は早漏への不安を抱えています。それでも貴女を抱く時には、クリトリスへの愛撫だけに頼る事なく、肉刀が鞘の粘膜をこする刺激によっても女の悦びを与えたいものだと、心から願っています。
　そんな彼に対して貴女は、前述のような聞き方が出来ますか？

　性交時に恥をかきたくないと思う男性や、愛する女性を心の底から…いえ、肉鞘の奥から悦ばせたいと願う男性に対し、前述のような質問を浴びせるのは、相手の背中一面を“剣山”で傷つけ、そこに粗塩を丹念にすり込む行為も同然。
　相手が貴女の婚約者である事を思えば、陰茎の先端からバラのトゲをマッチ棒で突っ込んでいく行為に等しいと言っても、決して過言ではない筈です。

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（うう‥痛そう）
　僕もパンちゃんに対し、ついつい“思いつき”で言ってしまったけれど、やはり息子の口にバラのトゲを押し込む行為は、想像するだけで恐ろしい。
　考えてみれば、たとえお医者さんで取り出してもらうにしても‥‥などと、そんな事を考えている暇はなかった。頁を読み進めることが急がれるのだ。

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　そうした男性の心の痛みを想像出来ない人は、まだまだ良妻賢母への道のりが険しい事を、是非ともこの機会に自覚して下さい。

　ところでサックの装着以前にも、水を差す問題があります。文字通り「月水」の問題です。（注：昔は月経という用語が存在せず、月水と呼ぶのが一般的でした）
　挙式に臨む際の貴女が、おなかの大きな花嫁（目立たない大きさでも同様）になっていない限り。
　また健康を損ねていない限り。或いはその期間が、仮に“月”から“水”までの三日間と短いのだとしても、必ず月経は巡ってきます。

　もっとも月経が、挙式や披露宴の日にぶつかるだけなら、大して問題にはなりません。

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（本当か？）
　高島田に打ち掛けといった姿のときに、トイレまで足を運ぶのは大変だろう。ましてや狭い個室の中で、着崩れを起こさないように努めながらナプキンを交換するのは、ひと苦労だと思われる。
　それでも和装ならまだ安心できそうだけれど、ウエディングドレスの場合だと、万一にも漏れてきたとき目立つ筈だ。

（お色直しの機会を利用するとか？）
　ただそれにしても、披露宴の進行が必ずしも予定通りに運ばれるとは限らない。
　僕たちの披露宴にしても、媒酌人による新郎新婦の紹介、双方の主賓の祝辞、乾杯の音頭を取ってくれた人の前置き、どれも長々延々だったせいで、司会役の人は気を揉み続けていた。

（でもまあ）
　今の僕が心配するような問題ではないのだから、気楽に先を読めばいい。

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　新婦が極度の緊張に襲われたり、長時間に亘って席を離れられないせいで“お洩らし”をした時には、通常、付き添いの女性が水やビールをわざとこぼし、新婦の粗相を誤魔化してくれます。
　従って、ウエディングドレスで装う場合には、宴席に準備する酒類の中に必ず赤ワインを加えておきましょう。そうしておけば万一の際にも、付き添いの人が粗相を装い、貴女の失敗を覆い隠してくれる筈です。

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（ああ、そういうことか）
　披露宴の席に、ほとんど必ず赤ワインが用意されている理由を初めて知った。
　付き添いの女性がそこまでの気配りをしてくれることを考えれば、着付けを担当する女性も、生理の来ている新婦には、ビニール製の腰巻くらい巻いてくれるだろうし、そもそも千塾大学なら『和服の着崩れを上手に防ぐ方法』も教えてくれそうだ。
　
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　次に、打ち掛けを着る場合は、生地の防水性と、内部に収めておける脱脂綿の量の多さも考え、月経帯の代わりにオムツを穿くのが一番のお勧めです。勿論、脱脂綿と布のオシメを併用すれば、対策としては万全と言えるでしょう。

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（はあ？）
　とんでもない解決策が出てきた。でも、まだ続きがある。