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　心配は要りません。打ち掛けの場合には、普段着と着付けも異なり、やたらにゴテゴテと着せられますから、少しくらい腰回りが膨らんでも目立たないのです。
　また歩き方はかなりぎこちなくなりますが、打ち掛けをまとった花嫁さんは、土俵上で“内掛け”を喰ったお相撲さんのように、無様に引っくり返るのを恐れますから、誰も皆、似たような歩き方になるものなのです。
　
　なお、着付け担当の女性に対し、オムツを穿いている理由を打ち明ける必要は全くありません。彼女達は、貴女が泌尿器の神経系統に疾患を持っているために、頻繁な尿漏れを起こすせいに違いないと、勝手に誤解してくれます。
　但し、彼女達にオムツ姿を見せるのが恥ずかしい場合は、脱脂綿を普段の三倍程度の厚みで用い、月経帯の上に厚手のズロースを二枚ほど重ね穿きするのが良いでしょう。
　そうした姿を見れば、股間の膨らみ具合と腰周りの不自然さで、瞬時に事情を察してくれます。当然、何も言われる事はありません。

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（そうか、考えてみればそうだよな）
“脱脂綿”で気づいた。この本が書かれたのは２０年も昔のことだ。
　うちの店でも、救急絆創膏や生理用ナプキンが登場して以来、脱脂綿は売り場の片隅で肩をすぼめるようにしている状態。ナプキンにしても生理用パンティーにしても、機能や性能の進歩は、まさに日進月歩。
　多い日用のナプキンさえ使えば、花嫁さんもそれほど生理に関して心配する必要はないのだろう。

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　また仮に、貴女が婚前交渉を持っており、且つ相手が月経中の性交に甚だ積極的なタイプだと判明しているのなら、貴女が月経困難症でもない限り、たとえ新婚旅行と月経がぶつかっても、これ又、何の支障もありません。
　支障がないどころか、敢えて新婚旅行中に月経が始まるような予定を組めば、彼の性的嗜好を満たしてやれる上に、避妊の必要もなくなりますから、まさに一石二鳥。却って望ましいとさえ言えるでしょう。

　しかし、一般に結婚相手の性的嗜好を婚前に探るのは、甚だ困難なもの。ですから新郎が「念の為に」と考え、新婚旅行に持っていこうとするゴムサック（三泊四日の場合で一ダースが標準的）と、貴女が月経期の必需品として持っていく脱脂綿とを秤に掛ければ、後者のほうが重量は無論の事、罪も重い事を知らなければなりません。

　そこで、やはり事前にさり気なく「やっぱりあれの日は避けたほうがいいでしょう？」と確かめるようにしましょう。
　その際、もしも「やっぱり仏滅の日はねえ」といった頓珍漢な答えが返ってきた時は、「いくら大安吉日の祝日でも、シーツで大きな“日の丸”を作るのは問題だと思わない？」と遠回しに水を向けてみれば、彼の月経中の性交に対する期待度も推し測れます。
　つまり、慌てて「とんでもない」といった様子で首と手を同時に振るようであれば、たとえ貴女に月経中の性交願望があるとしても、当分の間は諦めるしかない事になります。（注：対処策については後述する）

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（何だ？）
　説明があちこちに寄り道を繰り返している点は、盥さんの場合、ままあることだからともかく。そしてまた『ワカメ酒の作り方』程度のことならまだしも。
　披露宴で『オムツを穿くといい』だの、新婦が望む生理中の性交に、新郎が抵抗感を抱いている場合の対処策だの、真っ当な内容の事典とは思えない。

　しかし。どこにでもあるような『性の解説本』なら、僕が読む価値はない。いや、それ以前に、わざわざパンちゃんも僕に読ませてくれようとはしない筈だ。

（そうだよ。前書きにも『内容は誰にも口外するな』って書いてあったんだから）
　先を読み進めたほうがいいに決まっている。

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　話しを本筋に戻します。
　月経期間と新婚旅行の日程が重なる時に起きる問題の本質は、月経に対する男性の抵抗感にあるのではありません。初夜に対する男性の期待感にこそ存在するのです。

　ここで、ひとつ…いえ、一本、思い浮かべて下さい。漠然とでも構いませんから、頭の中に成人男性の陰茎を思い浮かべてみて下さい。

　まだ一本も見た経験がないからといって、男性器の図解頁を探して見る必要はありません。
　陰茎の長さや太さや色などは、全くどうでもいい問題ですから、例えば形状が良く似たマツタケだろうと、或いは栄養価に優れた魚肉ソーセージやバナナだろうと、更には又、当校の入試時に、タコの形に調理する速度と仕上がりを競った赤いウインナソーセージでも、何でも良いのです。
　どうですか？ 思い浮かべましたか？

　今度はそれが、硬く勃起した状態を思い浮かべて下さい。難しく考える事はありません。長さと太さを貴女なりに、恐怖感を覚えない程度に膨張させれば良いのです。
　さあ、硬く勃起した状態を思い浮かべましょう。何度も続けて射精した後の新郎の陰茎を、性技に未熟な新婦が勃起させる事に比べれば、よほど簡単なのですから。

　想像してみましょう。
　愛液に濡れそぼった貴女の秘部に、新郎が熱く逞しい陰茎の先端を差し向けてきました。
　新郎が腰を突き出し、肉刀が肉鞘へ収まれば無事に破瓜が行なわれた事になりますが、ここで又、想像して下さい。

　言うまでもない事ですが、初夜にはどんな体位で初めての結合を図ると良いのか、その点に関する解説を読むまでは、肉鞘の粘膜を肉刀がこすっている状況や、その際に発生する様々な音、或いは得られる感覚といったものを想像する事は、両親の房事を“覗き見”した経験でもない限り、処女にとって困難かも知れません。

　しかし射精を遂げた新郎が陰茎を抜去し、桜紙を使う時の状況くらい、誰でも想像出来ますね？　
　難しいようなら、調理実習の際、洗った後の胡瓜や茄子を布巾で拭う男性講師の姿を思い出せば、かなり参考になるでしょう。

　処女の場合、初めての性交では出血を見るのが一般的です。理由は敢えて説明の必要もないでしょうが、処女膜が破れるから（注：正確には、当初から開いていた小さな穴が裂けて広がるため）に他なりません。
　従って、桜紙を使う際の彼は、自身が放出した精液と貴女の湧出させた愛液に、桜の花びらより赤い血液が混ざっている状態を認める事になります。

　その時の彼は、たぶん間違いなくこんな感想を抱くでしょう。
『そうか…入れたとき突き破った感じがあったから、俺も間違いないと思ったけど、やっぱり処女だったんだ…。処女じゃなかったら、こんなふうに出血するわけないもんな……。そうか…俺とやる時まで処女でいてくれたのか……俺、名前は秀紀じゃないけど感激しちゃうな……』

　新郎の名前は博己でも五朗でもいいのですが、とにかく新郎は紙ナプキンに付着したカレーに、いえ、桜紙に滲んだ血液に。換言すれば、新婦が処女であった証に感激するのです。逆に言えば、そうした感激や感動を得たいと期待に胸を踊らせて、多くの男性は初夜に臨むのです。

　ついでに言えば、花嫁衣裳をまとった美しい新婦の姿を見て、挙式が始まった時から期待に陰茎を膨らませている新郎は実に多く、だからこそ、それを自己の経験から知っている媒酌人や主賓の男性陣は、新郎が披露宴の最中に精液をこぼさなないようにと考え、新郎の興奮を鎮めてやるために、敢えてどうでもいい話しや、全く役に立たない『新婦の心得』をくどくどと並べたてるのです。

　そうした実状を思えば、初めての性交を済ませ、その“後始末”に使った桜紙を眺めている新郎の陰茎が、直ちに再び硬く勃起する可能性も否定できません。（注：新郎が待望の初夜に向けて精液を備蓄していたような場合、射精を終えて抜去しても、勃起はほとんど解けていない事が多い）
　
　そうなると、「立っている者は親でも使え」という戯れ言を思い出した彼が、「立った息子は直ちに入れろ」と考え、新婦がまだ桜紙を使っていないのを「これ幸い」とばかりに、そのまま再び挿入するという望ましい事態の発生を、貴女も期待するのではありませんか？

　たとえ貴女がそこまで期待しないとしても、多量に湧出した愛液が敷布に染みとなって広がり、そこに血液が滲んだような場合には、それだけ新郎の感激も大きくなって不思議はありません。
　結果的に陰茎も何度となく大きくなり、初夜に交わる回数が増えるのは必定であり、そうした現実を踏まえれば、敷布の汚れを防ぐ目的でバスタオルを敷いておく行為などは、まさに「百害あって一利なし」の典型的事例です。

　ところがもしも、いざ鎌倉という時に、新婦の股ぐらに脱脂綿が当てられていたらどうでしょう。

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（何か、ずいぶんな駄洒落だな）
　いくら筆が滑ったのだとしても、処女の読者にはかなりの抵抗があるだろう。
　でも、僕には何の抵抗もない。鎌倉の地には何の興味もないけれど、股ぐらから血を出している女性になら、少なからず興味がある。彼女たちは、すべてうちの店の有力な見込客なのだ。

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　考えてみて下さい。初夜の営みを始めた段階では、まだ月経が始まっておらず、脱脂綿を当てていなかったとしても、挿入中の刺激で月経が始まったら、新郎は一体どう思うでしょうか。
　射精を終えて桜紙を使う時の彼の心境を、ぜひ思い測ってみて下さい。

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（そんなこと、決まってるよな）
新郎はがっかりする。新婦が処女だったことを疑う可能性も高い‥‥などと思うほど、僕の脳味噌は未熟ではない。所詮は“端くれ”に過ぎないけれど、僕も薬剤師なのだ。

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　新婦が処女だった証を確かめて感激したいと思っていたのに、それが叶わなかったので、桜紙に無念の思いを滲ませる。月経が始まったのだから、もう出来ないと思ってガックリ来る。
　もしも貴女がその程度の事しか考えられなかったとしたら、良妻賢母への道は、完全通行止めになっているものと思い知って下さい。

　世の中には、月経の起きる仕組みをよく知らない女性も多く、中には、子宮を摘出した友人を慰めるつもりで「卵巣が残っていれば、女の“しるし”まで無くなるわけじゃないから」などと言う人さえいる程です。

　では、男性の場合はどうでしょうか。
　現代において、月経に興味を持っている男性の数は、それを今も不浄な現象と捉えている男性より多く、その割合が、一般女性の想像を遥かに考えているのは確実です。
　又、月経自体に興味は無くても、月経の起きる仕組みに関してなら、女性以上に詳しい男性も、一般男性が考えている以上に数多く存在します。

　しかし、だからといって、月経中の女性の陰部を覗いた経験を持つ男性が多い筈もありません。月経で出血している時に、陰部を見せたがる女性は極めて限られており、好きな男性に頼まれて仕方なく恥ずかしながらも見せるという女性さえ、今はまだ数少ないからです。
　従って、性体験の少ない未婚男性に限ってみれば、新鮮な経血を目に出来るような機会など、たとえ足を棒にして、棒の先端に血豆をこしらえて探しても、手に入れるのは著しく困難だと言えるでしょう。

　そうした実状を踏まえたなら、貴女の結婚相手が、貴女の出血に異常を感じて、病気を心配する可能性も決してないとは、断じて言い切れないのです。ましてや彼が、月経に関する知識を大して持っていないと仮定すれば、その可能性は一気に高くなると思わなければなりません。

　新郎の期待感を大切に尊重すると同時に、大切な彼に初夜から無用の心配をかけたり、新婚旅行中にセンズリ（注：男性の自慰の意）をかかせてしまう事のないように。
　挙式や新婚旅行の予定を立てる時は、くれぐれも子宮と相談（月経周期表と睨めっこ）するのを忘れないで下さい。

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（さすがは盥さんだ）
　女性が楽しく読める内容とは思えないが、こうした書き方がなされていれば、少なくても読み飛ばされる心配はなく、充分な説得力をもって訴えられるから、読者の記憶にも残りやすいだろう……と頭の中で評論しているだけなら、何の問題も発生しない。
　僕の鼓膜には、パンちゃんから言われた「さすが専門的なご批評を」という台詞が、まだ消えることなく残っている。

（えーと、次は体位に関してかな？）
　次の頁をめくる。
　予想は当たった。もっとも、僕の読みが特別に鋭いわけではない。初夜に向けた心構え的な事柄の次は、どうしたって体位を取り上げて解説するのが普通だろうと考えただけだ。

　現に‥‥というのも変だけれど、予想は半分しか当たっていない。いや、こんな見出しを読んでしまえば、誰もが「半分も当たっていない」と口を揃えるはずだ。そうでなければ、それこそ『正常な感覚の持ち主とは言えない』と思う。

『アメリカの国旗が星条旗であるのは常識だが、性交体位の基本が正常位だと信じている人は、正常な性感覚の持ち主とは言えない。』

　なぜそう言えるのか、納得を得るために本文を読んでみる。

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　初夜の契りを《正常位》で結ぶカップルは多く、以後も引き続き正常位で夜の営みに励む夫婦は多いと思われますが、端的に言って、正常位に利点らしい利点はありません。
　強いて利点を探しても、女性が『陸に打ち上げられて時間の経ったマグロ』のように、じっとしていられる事、言い換えればグチとタラ…いえ、ぐうたらと時間を過ごせる点だけです。
　勿論、良妻を目指す貴女なら、そうした無益な時間を求める筈もありませんから、正常位に関しては「弊害だらけ」と評したほうが適切でしょう。

　以下、弊害をいくつか並べて……みるのは頁の無駄。貴女自身、夫と枕を並べた際に、両脚を建築部品の“かすがい”やホチキスのタマ（注：未使用）の状態にして、夫に身体を重ねてもらうという経験を何度か重ねれば、夫の肉体的苦労を含め、様々な弊害を実感出来る筈です。
　但し、目出度く妊娠して、おなかが大きくなってから実感するのでは、手遅れになりかねません。
　その点だけは、くれぐれも注意して下さい。

　もっとも、婚前交渉を持たなかったカップルの場合、新婚初夜に新郎が求めてくる体位は、たいてい正常位と相場が決まっています。そして又、初夜には次のような事態も発生しがちである事を、今から知っておいて損はありません。

　つまり、膣が後方に位置している女性（処女は特に）と、性体験の少ない男性（童貞は特に）が正常位で交わる場合、慣れるまでは容易に挿入を果たせない事があり、その結果、男性が蛤の肉殻（注：陰唇）付近で射精してしまう場合も多いのです。

　仮に貴女の夫が、江戸時代後期に発生した『蛤御門の変』を知らず、貴女も又、今なお蛤御門の梁には弾痕が残る事までは知らないとしても、夫婦生活は微塵の影響も受けません。その点は、蛤御門の変が、日本の歴史の流れに何の影響も与えなかった事を考えれば、理解も容易でしょう。

　しかし、もしも彼が男根で新妻の蛤の剥き身を味わう前に、肉殻付近で液状弾を放ったとなると、事態は急変します。彼が「変だな…」という呟きだけで済ませてくれれば、それほど心配は要りませんが、最悪の場合は自信喪失からインポテンツ（勃起不全症）に陥りかねません。そうなると当然、貴女のほうも大いなる悔恨を残す事になるでしょう。

　初めての交わりでそうした問題が発生した場合、解決策としては以下のふたつありますので、貴女と彼との親密度や信頼度に応じて選びましょう。
〔最善策〕後背位（注：詳細は後述）に変えてもらう。
〔次善策〕お尻の膨らみの下半分の位置に、枕や二つ折りにした座布団を入れる事で、蛤の位置を高く、且つその口を上向きにする。（注：これを俗に「腰枕を使う」というが、それを文字通りに受け取り、腰の下に入れると逆効果なので、くれぐれも注意が必要）

　さて、新婚早々から後背位を求める事には腰が引ける男性も、《女上位》の一種である《騎乗位・乗馬位》で腰を使う女性の姿に対しては、興味を引かれない筈がありません。
　良妻なら夫を尻に敷いてはなりませんが、床の中やベッドの上では話しも別です。時には夫に騎乗し、手綱ならぬ括約筋（注：８の字筋とも呼ぶ。鍛え方は後述）を締めたり締めたりしながら（注：男女問わず締め続けるのは三十秒程度が限界で意識的に緩める必要がない為）、二人で楽しんでこそ良妻と言えましょう。

〔長所〕興奮を募らせていく貴女の表情の変化が、最適な位置で見てもらえる。豊満な乳房を持つ人は、それがユサユサと揺れる様子も、余す所なく観賞してもらえる。又、その膨らみ具合に関わりなく、乳房への愛撫も受けていられる。射精までの時間を、貴女のほうで調整しやすい。
　事後には夫の陰毛がネバネバになり、貴女の興奮度を再確認してもらえるので、二回目の性交に結び付きやすい。又、ネバネバを貴女が桜紙で拭うようにすれば、自ずから肉刀を握る必然性が生じるため、無理なく二回目の性交に結び付けやすい。
　
〔短所〕これといって無いが、仮に貴女の体重が重くない場合でも、腰の上下動だけに頼ると膝に負担が掛かるので、腰の回転と肉鞘の締め付けに重きを置くほうが良い。

　では、ここでひとつ重要な質問をします。
　貴女は「ぜんざい」と聞いて、真っ先に何を思い浮かべるでしょう。
　万がワンにも、アンコとお餅を使った甘い物が浮かんだようなら、夜となく昼となく、アソコ（注：マ○コやオ○コ、或いはベッチョ、オソソ、チョボ、メメジョ、メンチョ等）を夫の杵で突いてもらうという甘い新婚生活は、ほぼ味わえないものと覚悟して下さい。

　仮に善哉餅を思い浮かべた人が「私のアソコはダンベだから、ボボ心配ないだんべ」などと、下手な駄洒落で誤魔化そうとしても、世の中は善哉ほど甘くありません。

　何故なら、後背位が動物の基本的な性交体位であるのと同様、人間にとってのそれは《前座位》であり、前座位を抜きにしては夫婦生活が語れないからです。

　その事は、五年程前から放送されているラジオ番組『夫婦善哉』の録音風景を、何度か覗いてみれば、誰もが納得出来るに違いありませんが、現実には多大な困難を伴いますので、ここでその舞台裏を明かしますと……。

　皆さんのご両親なら、おそらく既にご承知の通り、『夫婦善哉』は主に高齢の夫婦をスタジオに招き、司会者が夫婦生活について様々な質問を行なう番組。対談を通じ、各夫婦ごとの生活ぶりや価値観の違いを浮き彫りにする事で、聴取者に「夫婦というものは善き哉」といった感想を抱かせたいというのが、番組制作者の意図です。
　しかし実際には、ラジオで放送出来ない話題、即ち性行為に関する生々しい話題を口にする夫婦も多く、そこからは「前座位でも何度となく結ばれてきた夫婦ほど仲が良い」という事実が、くっきりと浮かび上がってくるのです。

　眉に唾を塗りたくなった人は、結婚したら直ちに自分の口から…は頼みにくいとしても、夫に「一緒にゼンザイ食べようか」と誘われたら、試しに下の口で受け入れてみましょう。
　そうすれば誰もが、《女上位》の一種である《前座位》の効用を納得し、人によっては「続けて二つ目を望むなら、真打ちの体位は前座位に限る」という性の格言を、生涯忘れられなくなるに違いありません。

　なお、前座位には「対面座位」と「背面座位」の二種類ありますが、頁数の関係上、ここでは一般的な対面座位を取り上げます。

〔対面座位とは〕
　夫は椅子に深く腰掛け（注：腰痛の心配がなければ床に胡坐をかくほうが望ましく、その際は造りの頑丈な座椅子を用いると楽）、両膝を開いた体勢を取り、妻は夫と向かい合う形で腿の上に跨がる事で陰茎の挿入を果たす。

〔長所〕例えばトイレが洋式なら便座、浴室なら浴槽の縁、夫の書斎なら椅子（注：肘掛け椅子は不適）といった具合に、狭い場所でも行なえる。パンティーさえ脱げばスカートを穿いたままでも行なえるため、例えば食卓で食事を終えた直後でも、その場で跨がることが可能。又、夫より先に食事を終えて跨がる事も、或いは先に跨がり、夫から口移しで食べさせてもらうといった事も、随意に行なえる。
　互いの座高差が縮まるので接吻も容易。自由な両手で存分な抱擁が行なえるばかりか、妻の尻は左右に広がる上に床面から浮いているため、肛門への愛撫も難なく受けられる。（注：後背位の項で改めて解説するが、女性の肛門に指を当ててくる男性は、肛門性交や浣腸に対する興味の度合いが高いと判断できる）
　互いに表情が見えない場合でも、喘ぎ具合や息づかいなどの変化は耳に届くので、射精や絶頂の近さを探る参考にしやすい。

〔短所〕肉鞘の鯉口が下向になるため、愛液や精液で床や畳を汚すのは避けられない。（注：肉鞘の中で蜘蛛に巣を張られる悲惨さを思えば、事後の拭き掃除や畳に生じる染みなどは、取るに足らない事の筈）
　妻は全開脚の状態に近く、括約筋を使っても効果が発揮されにくい。（注：物理的な必然なので、夫を失望させる心配はない）
　肉刀の長さによっては、貴女が腰を上下（又は回転）させている間に脱刀（注：造語）してしまう事も多い。（注：頻繁な脱刀は、夫に短小という劣等意識を植え付けかねないので、肉刀が抜ける心配が大きいようなら、可能な限り上体を反らせておくと良い）

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（ふーん‥‥）
　僕は自分が、とても『正常な性感覚の持ち主とは言えない』ことを、今初めて知った。
　それは確かに僕も、常に多数が正常で、少数は異常や異端だなどと、短絡的な捉え方はいない。でも、この本を読み始めるほんの少し前までは、『どこにでもいる超ただのオジサン』だと思っていたのだ。少なからずショックを受けるのは当然だろう。

（やっぱり盥さんの書いた物は、勉強になるよ）
　盥さんの能力と、著作の価値を改めて実感しながら、引き続き勉強に励む‥‥といっても、後背位や立位、あるいは側位、屈曲位といったものの解説まで読む必要はない。
　過去、体位ごとの長所や短所など、ただの１度も深く掘り下げて考えた憶えはないけれど、僕も脳味噌を少し働かせれば、大概のところは拾い出せる‥‥のではないかと思われる‥‥だけで、それほど自信があるわけではない。
　
　しかし、自信と時間を比べれば、後者のほうがもっと少ないのは明らか。僕の“脳力”試験は、家に帰ってから、各体位ごとの長所と短所を書き出してみれば、その時点で結果が判明するのだから、今は頁を次々に繰って、興味を惹かれる見出しを探すことを優先させる。

（おいおいおい、これはマジにマジかよ）
　星条旗と正常位の次に現われた見出しが、僕の瞳孔を釘付けにした。

『赤色や黄色を取り入れた変態的セックスなら、赤信号を大勢で渡るような危険性がないばかりか、夫婦円満の切り札にもなり得る。』

　
（いくら何でも、これはマジーんじゃないか？）
　網膜の上で、赤と黄色の信号が点滅を繰り返している。　
　だが、たとえ千塾の卒業生にとっては問題のある記述であっても、僕が読む分にはまったく差し障りがない。信号を緑というか青に切り替え、本文を読んでみる。

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　世間が「変態」と見なす行為は種類も多く、中には法律的・倫理的に許されない行為さえ幾つも含まれているのは、誰もが否定出来ない事実です。
　しかし、誰からも見られない場所を選び、夫婦間で行なう分には、健康を害したり、生命に危険を及ぼしたりする心配がない限り、全く何の問題が起きない事も又、紛れのない事実です。

　新婚時代を過ぎ、出産と子育てを始めれば、夫婦生活というものの現実が、理想より厳しい事を否応なしに実感させられるでしょう。夫婦の仲が冷めてきたと感じたり、目には見えない亀裂が入り始めた事を、女の直感と股間の粘膜が教えてくれたりする機会もある筈です。
　そんな時は、先ず一番に、変態的性行為の導入を考えて下さい。そして夫婦の危機を、何としてでも乗り越えて下さい。

　二人の仲が冷え切り、互いの間を不快な泥の川が流れ始めてからでは手遅れです。貴女が夫を導く形で変態の世界に足を踏み入れ、危機の芽を完全に摘み取らなければ、良妻賢母になる夢は、決して叶わないのです。

　もっとも、良妻賢母への王道を歩もうとするなら、先手を打っておくという意味で、新婚の内からセックスには、変態的要素を積極的に取り入れたほうが、より賢明だと言えましょう。
　何故なら、自分達は変態行為を行なっているという一種の“後ろめたさ”は、互いの心を深く結び付けるからです。
　心の深い結び付きがあれば、夫婦の間に他の女の割り込む余地はなくなり、逆に、妻のお股なりお尻に夫が肉刀を割り入れてくる機会も増えるというのが、夫婦の道理というものなのです。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　▼

（うーん‥‥）
　確かにそれは４キロメートル弱というか、一理あるかも知れないが、これを読む人たちが二十歳を少し過ぎたばかりの女性だと思えば、納得は得難いのではないかと思われる‥‥ことなんか、僕には関係なかった。
　難しいことは考えずに、先を読み進める。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　▽

　何か質問のある方は？　はい、そちらの貴女、質問をどうぞ。

〔質疑１−１〕
　雰囲気づくりや体位に工夫して、性交の回数が減らないようにするだけではダメですか？　もちろん性交時には括約筋を活躍させられるように、今この時も肛門をギュッギュッと締めたりして、準備は始めていますけど。
〔応答１−１〕
　性生活の充実というと、脳味噌がひとつの細胞で作られている類猿人は、まずセックスの回数を思い浮かべます。そしてその細胞を独力でふたつに分裂させた旧人類の場合は、回数の他に、体位や雰囲気や小道具（注：いわゆる“大人の玩具”は含まない）といった要素を加えます。
ただ男性の多くは、年を取るに従い、せっかくふたつに分裂させた細胞も、再びひとつになってしまうために、変類猿人になります。そうなると「女房と畳は新しい方が良い」という悪しき迷信に取り付かれ、「俺の性生活を充実させるためには浮気しかない」と考えるのです。
　そうした事態を未然に防ごうとするなら、先ずはまだ旧人類でしかない貴女が、進歩的な考えを持つ進人類へと進化しなければなりません。

〔質疑１−２〕
　でも、私が結婚を考えている彼は、お堅い会社勤めをしているせいか、見るからに真面目そうで……とても変態行為なんか、受け入れてくれそうにないんですが……って、人を上辺で判断しているようでは、良妻賢母になれませんよね。
〔応答１−２〕
　その点に気づけば大丈夫です。彼がお勤めから帰ってきたら、いつもの「すぐに御飯にする？　それとも先にお風呂にする？」ではなく、時には玄関で靴を脱いでいる彼に「ここで蛤食べる？　それとも晩御飯の前に、お風呂でソーセージをご馳走してくれる？」と尋ねてみたり、休日の朝は、彼が洗面を始めてから、全裸に前掛け一枚の姿で朝食の支度を始めたりしてみましょう。

〔質疑１−３〕
　それくらいなら簡単に出来そうですけど、でも彼が、玄関や台所で始めてくれない時は、どうしたらいいんでしょう。私のほうから“逆強姦”に及ぶのでは、彼をお尻に敷く事になりませんか？
〔応答１−３〕
　結果的に、いつもと変わらない場所で、普段と同じ時刻にしかセックスをしなかったとしても、貴女にとって、それは変態的要素を取り入れたセックスと言えるのです。
　後は、貴女のほんの少しの努力があれば、きっと彼も、注射器を見れば条件反射的に浣腸器を思い浮かべるようになるでしょうし、ホットドッグに専用容器からケチャップを絞り出す時は、貴女の月経に思いを馳せ、またマスタードも加えるようなら、貴女の肛門がヒクヒクする様子や、いよいよ便意を堪らえきれなくなった後の状況を、必ず連想するようになってくれます。

　ではここで、皆さんのお手元に配布した副読本三冊のうち、ピンクの表紙の副読本を、各自最後まで黙読して下さい。次の質疑応答は、それを皆さんが読み終えてから受け付けます。

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（副読本？）
　そんな物まであるとは知らなかった。でも、パンちゃんなら知っているかも知れない。

「パンちゃん。この本には副読本が付いてるらしいんだけど、知ってた？」
「副読本？　ああ、もしかしたら、あれがそうなのかも知れませんね。ちょっと待ってください」
　パンちゃんが仕事の手を止め、鞄から封筒を取り出した。

「これです」
「でもこれ‥‥」
　受け取ってはみたものの、封筒にはセロハンテープで封がされている。

「開けていいのかな」
「もちろんですよ。信書が入ってるわけじゃないんですから」
　テープをていねいに剥がし、封筒を傾ける。出てきたのは、ほとんど厚みのない本というか、薄い小冊子が３冊。表紙の色だけはピンク、黄、赤と異なるが、そこに印刷されているのは、どれも『副読本』の３文字だけ。裏表紙にはなにも印刷されていない。

（何だこれは）
　読めばわかると決まったものではないが、とりあえず読んでみなければ、なにもわからないことだけはわかるというもの。
“主読本”の中で、架空の質疑応答を展開する講師の指示に従い、ピンクの副読本を黙読開始だ。