姉ちゃんは優等生
保留守人 作
13.　



《……っぷはぁー》
　息が続かなくなり、ようやくして俊介が唇の密着を解いた。

　上下に体を重ね、見つめ合う姉弟。
　俊介は肩で息をしていたが、握り合った手はまだ解いていない。

　下になっている奈津子はどうかと言えば、しっかりと俊介の瞳を見据えている。
　思えば今日、俊介は何度かそんな姉の表情を見ていたような気がする。

　決して怒っているわけではない。
　かといって、悲しんでいるわけでもない。

　だがパッチリと見開かれた大きな瞳は愛くるしさを醸し出している反面、物怖じすることを知らない気の強い少女を雄弁に物語っている。
　そして、いかなる相手も飲み込んでしまうような魔性の力を持ち合わせているかのようだった。

　“無表情”と形容するのが妥当だろうか、加えて、おさげ髪から一転した大人びたショートボブの髪型は、何かゾクッとさせられるような謎めいた表情を助長させてもいた。

　いずれにせよ、突然勃発した姉弟のスキンシップが、単なる“おふざけ”から大いに逸脱してしまっていることは自覚できていた。
　だから俊介は奈津子がショックを受けていないかと、その心中を慮った。

　しかし、先に口を開いたの奈津子である。
「俊介、キスしたことあるの？」

「え…な…ないよ、なんで？」
「……だって、上手だから」
「そうかな、俺…わかんないけど」

　俊介は照れながらも、ある種の戸惑いを禁じえなかった。
　奈津子は明らか誰かとのキスの経験があり、それを比較しているのだと推察できたからだ。
　何ともいえない、複雑な心境になってしまう。

　息が整うと、俊介は今日ずっと気になっていたかわいい姉のオデコに数回軽いキスを施した。
　激しいディープキスをした後なのだから、照れくささは伴うものの、さほど抵抗感はなかった。

　それはまるで恋人をいたわるような行為であり、俊介が持つ男としての本能がそうさせたといえる。

「なんか今日の俊介……優しいね」
　見つめる奈津子が言う。

「そう？」
「うん」
「へへ、そんな事、同級生からも言われたことないよ」
「あら、結構人気あったのよ。私達の学年の女子の間では、俊介のこと……」
「え〜！　そんなの初耳」
「よく気が利くし、かわいいって」
「なんだ。かわいいって言われたってな、男なのに」
「いいじゃないの。好感を持たれるってことは」
「うん、まぁ、そうかもしれないけど……」

「ねぇ、俊介？」
「ん？」
「あのね……」
「……？」

「……重い」
「はっ！……ご、ごめん！」

　俊介は慌てて肘を突き、上体を軽く浮かせた。
　自分の全体重を奈津子に預けていることに気づいたのだ。
　
　すると、《クスッ……》と奈津子が表情を崩す。
　はにかんだ笑顔は、一連の行為を許してくれたものだと俊介には解釈できた。
　少しホッとしたところで俊介が思い切って聞いてみる。
「あの……姉ちゃんさ、聞いていい？」

「なあに？」
「……唐沢さん…だったっけ、姉ちゃんの彼氏。まだ付き合ってるの？」と、俊介としては、外堀から徐々に攻めて行くつもりだった。

「やだ、俊介までそんな事……」
「いや、みんな言ってるから、どうなのかなって思って……」
「元々ね、付き合ってるとか、そんなんじゃないの」
「じゃ、彼氏じゃないってこと？」
「少なくともわたしは、そんな風に思ってないわ」
「じゃ、他に好きな人とか、いるの？」

　しかし、俊介のその問いに対しは、奈津子は長い沈黙を保ち続けた。
　俊介が気まずさを感じたその時、逆に奈津子が聞いてきた。
「……俊介、エッチしたことある？」
「えっ！？……」

　俊介が知っている姉の口から出る言葉とは思えなかった。

「……ないに決まってるじゃん。姉ちゃんこそ、どうなのさ」
　動揺した俊介は深い考えもなく、反射的にそう言い返していたのだが、思わぬ姉の反応は、俊介を大いに狼狽させた。

　というのも、奈津子は視線を逸らし、また黙り込んでしまったのだ。

　俊介としては、瞬時に姉の口から『あるわけないでしょ』と、返ってくるものだと思い込んでいたのだ。
　正確に言うと、それが弟としての願いでもある。

「ねぇ、俊介？」と、再び奈津子が問う。

「ん…ん？」
「……当たってる」
「？？？……」

　はにかんだ表情で言っている奈津子の意味するところを理解するのには、数秒の時間を要した。
　そして、《ハァーッ！》と強く息を飲みながら、俊介は慌てて自分の腰を浮かせた。

　互いに着衣はあったが薄暗闇の部屋の中、ふたりでひとつの布団をかぶり、いわゆる正常位の体勢で、姉と弟は体を密着させていたのだ。
　トランクスの中で完全勃起していた俊介の肉棒の先端が、布越しにも奈津子の恥芯を射止めていた。

「あ…ごめん…なさい……」
　焦って再び謝る俊介。
　しかし、あろう事か、奈津子は地震で揺れたわけでもないのに、弟の背中を強く引き付けるようにして抱きしめたのである。

「あうっ…ね…姉ちゃん……」
　再び密着する姉弟の肉体。

「……興奮してるの？」
「うん。どうしてか、わかんないけど興奮してるみたい」

　すると、例の、吸い込まれそうな黒い瞳とゾクッとさせられる“無表情”が、抑揚の無い、まるで他人事のような声を出して弟をたしなめる。
「俊介のエッチ……」

「エ…へへ…へへへ……」
　力なく笑う俊介。
　笑ってごまかすほかない。
　全身の力が抜けるようだった。
　だがその俊介の頭を奈津子が押さえ、奈津子の意思が俊介の唇を求めた。
「あ、ぐゎっ…ぅ！」
　声が出てしまったのは俊介だ。

　姉の柔らかな唇肉と自分の唇が再度密着する。
　俊介は姉の誘導によるキスで極度の興奮状態となり、《プチュブチュ》と音をたて、ただただ奈津子の唇を貪った。

　俊介の激しいキスに奈津子が白い喉をのけ反らせる。
　弟は再び頭の中が真っ白になり、刹那にも記憶が飛んだように思えた。

「アン！」
　奈津子の声で我に返る。

　気が付いた時には布団の中で抱き付いたまま、両手で奈津子のパジャマのズボンを膝までズリ下げていたのだ。
　トランス状態にでも陥っていたとしか説明がつかない行為だ。

　さすがの奈津子も驚いて目をパチクリとさせている。
　だが俊介は、もはや行動を制御できる精神状態ではない。
　ズボンを姉の両脚から引き抜くと、それを床に投げ捨てた。

「ちょ…ちょっ…ちょっと…俊介っ……」

　奈津子に覆いかぶさっている荒い息の俊介は姉の上体を強く抱きしめ姉の抵抗を封じた。
　奈津子のナマ脚が、自分の太腿の皮膚と密着しているのを感じる。
　ほんのり暖かく、スベスベとした肌の感触。
　それは弟の性的興奮状態をさらに高めるものであり、暴走に拍車をかけるものだった。

　布団の中で俊介は、片手で自分のトランクスのウエストゴムを少しズリ下げると、完全勃起のペニスを露にした。さらに自分の足を交互に動かし、脚からそれを脱ぎ去るのだ。
　再び唇を重ねながら奈津子の肩をがっちりと抱きしめ、そして体を上下にゆすりだすと、俊介の勃起した先端は、たった一枚の薄い布きれ越しに、奈津子の秘所を攻め立てる行為となった。
　これは完全なペッティング行為であり、姉弟間ではタブーの領域だ。
　
　乱心状態の俊介は、行動によって姉に対する思いの丈をぶつけるしかなかった。
　強く姉の肩を抱き、最後に力いっぱい股間を押し付けた。

　弟のカチカチになった肉棒の先端が姉のモッコリとした中心部を突き刺す。
　その強さはショーツの柔らかい生地が奈津子のクレバスにめり込むほどだった。

「アッ…ハ…ハァ〜」
　奈津子が“喘ぎ声”ともとれる熱い息を漏らす。
　さらに俊介の首に腕を巻き付けた奈津子が数回腰を浮かせたような気がした。

（姉ちゃん！……まだ神崎には、ヤられてないよね？！）

　願いを心で叫び、感極まった俊介。
　だが突然、布団を撥ね除けるように体を起こした。
　上体を左右に振って、慌てて何かを探すように辺りを見回す。
　そして自分の脱ぎ捨てたトランクスを見つけると大慌てで自分の股間にあてがった。
　
「あぐっ！……出ちゃった」

　膝立ちで俊介が呟くと奈津子は瞼を大きく開いて驚き、ベッド上で体を起こすと俊介の体から逃れるように、そろえた両脚を引っ込めた。
　パジャマを身に着けていない生身の脚。

　三たび、俊介はドキリとする。
　それでも瞬時に、そのつま先からショーツの境目、悩ましい脚の付け根までを瞼の裏に焼き付けた。
　
「や…やだ、もう……」
　うつむく奈津子。

　本日２回目の“誤爆”である。
　いや、今回は予想できた射精であり、“確信犯”だ。

　俊介はトランクスの隙間から精液が垂れてこないよう、しっかり股間を押さえながらベッドから降りる。

「シャワー、浴びてくる」

　歩き出すと奈津子も慌てて弟の背中を追う。
「わたしも一緒に下に行く！」
「うん」
「待って。着替えのパンツとシャツ、出してあげるから」
「ありがと」

　股間を押さえながら階段を下りる俊介に、着替えの衣類を持った奈津子が続く。
　脱衣室の扉の前まで来たとき、俊介が振り返った。
　すると俊介の衣類を両手で押さえ持つ奈津子が、恥ずかしそうに下を向く。

《ヒィフ〜》
　風のような音源は俊介が息を飲んだ音だった。

　慌てていたせいだろうか、姉は俊介が脱がしたパジャマのズボンを身に着けていなかったのだ。
　明るい蛍光灯の下、この時初めて奈津子が身に着けていたジョーツは白ではなく、薄いレモン色であることに気づいた。

「どうする？　一緒に中、入る？」
　俊介が聞くと奈津子は無言で肯いた。

　ともかく、ふたりして脱衣室に入った俊介は床に“残骸”がこぼれ落ちないようにトランクスを脱ぐ。
　すると奈津子は背を向けながら、腕だけをこちらに差し出して言った。

「それ、こっちにかしなさい。わたしが水で流しといてあげるから」
「え？　でも…気持ち悪くないの？　いっぱい出てるよ」
「いいから、かしなさいって」

　姉らしい、いつもの命令口調に圧された俊介は、精液にまみれたトランクスをそっと奈津子に手渡した。
　脱衣室には洗面台のほか、掃除用のバケツや雑巾などが洗えるシンクがある。
　俊介もさっき、奈津子のパンツをそこで洗い流したのだ。

　それにしても今の奈津子の姿は弟にとって、あまりにも刺激が強すぎる。
　パジャマの裾は、ショーツで覆われた奈津子のお尻を隠しきれていない。
　また、透き通るような白い肌の太腿は意外なほど逞しかった。
　でも形が美しくも肉々しいふくらはぎとのバランスが取れていて、極めて完璧なる美脚であると評価していいだろう。
　
　俊介はまたムクムクとし始めたペニスに気づき、急いでＴシャツも脱いで浴室に入る。

　あえて扉は閉めなかった。
　決して面白がって奈津子に裸を見せようとした訳でなく、隠すことに意味が無いような気がしたからだ。
　ぬるめのシャワーで全身を洗い流しながら素朴な疑問が頭をよぎる。

（姉ちゃん、男の精液って、見たことあるのかな……）

　姉弟で過ごす異質な雰囲気が漂う密室。
　着衣越しにも姉と体を重ねた異常な体験が、何度も頭に思い浮かぶ。
　すると半立ち状態だったペニスがさらなる膨張を始めてしまった。
　シャワーを止め脱衣室に戻ったころにはフル勃起していたが、今さら隠してもしょうがない。
　なぜか姉にペニスを、しかもその勃起状態を見られることへの抵抗感が薄れているのが不思議だった。

　奈津子はちょうど洗濯機のスイッチを入れたところだった。
　すぐに俊介の勃起に気づいた奈津子は少しびっくりしたようだったが、着替えを俊介に渡しながら、困惑ぎみに言った。
「また…大きくなってるよ……」

「……うん。ごめん……」

　俊介が見つめる先は、下半身だけ下着姿の奈津子。
　パジャマのトップスの裾を引っ張り、恥ずかしそうにうつむいている姉の姿に萌えた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　……つづく
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2015年4月15日掲載
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