姉ちゃんは優等生


姉ちゃんは優等生保留守人作

１４．「は…早く着たら？」　狭い脱衣室内、うつむいたままの奈津子が言う。「…うん」　促されて俊介は、視線を落として立っている姉の目の前で、着替えのTシャツを頭から被り、片足ずつパンツのゴムに脚を通した。　ようやく勃起状態のペニスをトランクス内に“格納”したものの、ふたりの間に漂っている微妙な空気は消し去ることができないでいた。　それもそのはず、姉と弟はついに“擬似セックス”という行為に及んでしまったのだ。　お互いにそれが紛れも無くぺティングであったと認識している……。「姉ちゃん…気持ち悪くなかった？」「何が？」「精液」「……別に」　ツンとした趣で奈津子が脱衣室を出る。　追いかけるように俊介もあとに続いた。　姉はこのあと、どうするだろうか。　自分の部屋に戻る決心がついたかもしれないと俊介は思った。　辿って来た廊下を戻り、階段を上る。　フチが白いフリルで装飾された半袖から覗く白く柔らかそうな二の腕、赤白チェック柄のパジャマを上半身だけに纏った奈津子の後ろ姿は、はっきり言って悩ましい。　姉がこんな“行儀の悪い”姿を弟に見せていると母が知ったら、何と言うだろうか。　優秀な姉が母に叱られているところもたまには見てみたいという、弟としての少し意地悪な発想も芽生えたりする。　『たかがそれくらい』と思うことなかれ。　女子の躾に厳しい新堂家では、こんな些細なことでも“御法度モノ”なのである。　……閑話休題。　ステップを一段一段踏み上がる形良いふくらはぎが否応なしにも目に入る。　少し視線を上に移すと、ムチムチの太腿とショーツ越しのお尻がプリプリと躍動しているのが超至近距離に迫っていた。　また、激しく心臓が鼓動を始めた。　同時にセーラー服を着た少女のアヌスが写りこんだ“復活画像”を思い出し、いても立ってもいられなくなる。　今このとき、ショーツに手をかけ、一気にズリ下げてやろうかという強い衝動にかられ、頭が一瞬クラッとした。『もう、何するのよ！　俊介のエッチ！！』『へへへ……』　ひょっとしたらそんな風に、今なら冗談で済まされるのだろうか。　そんなことを妄想している間にも２階フロアにたどり着いた。「電気、消すわよ」　振り返らず奈津子は壁のスイッチに手を触れ、吹き抜けの天井からぶら下っている小洒落た照明器具の明かりを落とした。　意外にも奈津子は自室へは向かわず、迷わず俊介の部屋に戻った。（そうか、パジャマのズボンと枕はまだ俺の部屋だ……）　俊介はそんなことを考えていたが、姉は改めて、何か考え込むかのようにベッドのヘリに腰掛けた。　　室内の照明は初めから明るく灯っている。　さっきは気づかなかったが、俊介の下着をタンスから取り出すときに、奈津子が点けたのだろう。　どんな言葉を掛けようかと迷いながら俊介は姉の傍らに立った。　何かを口に出そうと息を吸い込んだとき、奈津子の方が、少し怖い顔つきで俊介を見上げた。　そして座っているベッドの右側をトントンと叩く。 <わたしの横に座りなさい> 　そういう意味であることはすぐにわかった。　おずおずと姉の指示に従う俊介。　奈津子の右隣、肩を並べるように腰を掛けた。　どんな時でも絶対的優位な立場にいる姉である。　この期に及んで、何か説教でも食らうのだろうか？　しかし、やはりとでも言うべきか、今日の奈津子はいつもと少し違っていた。「……まだ…膨らんでる」　唐突かつ困惑気味に言って、その頭（こうべ）を垂れた。　ショートカットの髪が恥ずかしそうにしている姉の横顔を隠す。「うん……」　俊介のトランクスの中は未だ半勃起状態を維持していた。 <フゥ～> 　俊介は息を吐き、そして何を思ったか、「じゃ～ん」と……。　すると、「ヤっ！……」　奈津子の小さな悲鳴があとに続いた。　このとき俊介はおどけた風に、奈津子の真横で自分のトランクスをズリ下げて見せていたのだ。　自分でも驚くほどの衝動的な行為だった。　わざと見せつけるように“半勃ち”の突起物を姉の目に晒している。　奈津子はただ、顔を横に背けていた。　それでも俊介の“暴挙”はまだ続く。　右手でパンツのゴムを引っぱり下げたまま、左手で、そんな姉の右手首を静かに握る。　奈津子の体がピクッと反応した。　俊介は様子を窺いながらも、掴んだ姉の右手を徐々に移動させ、ついには自分のペニスに到達させた。「キャっ！」　奈津子は驚きの声を上げ、反射的に手を引っ込めようとする。　だが、その抗おうとする力もそれほど強いものではなかった。　なぜなら俊介は、奈津子がその気になればすぐに拘束から逃れられるようにと、力加減には配慮しているつもりだったから。　実のところ俊介の方こそ、大きな声を上げそうになっていた。　初めて体温の違う自分以外の手がペニスに直接触れたのだ。　ヒンヤリとした姉の素手が半勃起のペニスに宛がわれている。　その快感たるや、絶大なものであった。　「……すごく…熱い……」　顔を背けたまま奈津子が言った。　姉が“拒否らない”のをいいことに、「もう少し、握るようにしてみたら？」と、　欲を出した俊介が言う。　すると、「こ…こうかしら……」　奈津子の手が、リレー競技用のバトンの筒を掴むような形になった。「あぅっ！」　予想以上の強い快感に、思わず唸る俊介。「やっ、やっ、ヤっ……」　今度は奈津子が焦ったような声を出した。　彼女の手の中で、俊介のペニスが更なる膨張を始めたからだ。　それでも奈津子は俊介の手を振り解こうとはしない。　さらに俊介は奈津子の手首を握ったまま、上下にゆっくりと動かしてみた。　ゆっくり、ゆっくりと、ピストン運動を加え続けるのだ。　そして、不意に俊介が手を離しても、奈津子の手の動きがすぐに止まることはなかった。　恥ずかしそうにうつむいているくせに、弟のペニスを自らの意志でシゴいている……。　決して慣性の法則が作用していたわけではないだろう。　「あ…あっ……あぐっ……」　堪らず前かがみになり俊介が声を漏らすと、奈津子が我に返ったように手を引っ込めた。「やだ…わたし……」　俊介の“筒”を掴んでいた右手を握りしめ、その拳を自分の胸に当てている。　弟は、うつむき加減に戸惑っている姉の横顔を見つめた。　チョンマゲ風に結ばれて、ピンと立ったの前髪がいじらしい。　しかし、互いの素肌の太ももが密着していて過敏なほどに俊介の官能を刺激していた。　何ともいえぬ切ない気持ちと、姉を全裸にしてみたいという欲望が交錯する。　だが、またここで、あのふたつの“作品”画像が俊介の脳裏でフラッシュバックするのである。　不本意にも奈津子が神崎にパンツを脱がされるシーンを妄想してしまう。　しかもその奈津子の表情がはにかんでいるというモノで……。　胸に当てている奈津子の拳に視線を移す。　その愛おしい白い手で、神崎の不潔でぶっといペニスを握っていたかもしれない？　俊介は、もう平常心を保つことができなくなっている。　そんな俊介が思わず口走る。「俺にもオッパイ、見せろよ」　低い声で、乱暴に言った。　奈津子がハッと俊介に振り返る。　だが、さらに続けて、「俺にも…ヤらせろ……」　すると俊介を見つめる奈津子が目を見開いて驚き、すぐにうつむいてしまった。　そして、うつむいたまま俊介の肩を叩く。　かなり強い力だった。　正直、痛かった。　そのあと、妙に沈黙が長く続いたものだから、俊介はバツが悪くなった。『ハハハ…嘘にきまってるじゃん、姉ちゃん』と、取り繕うつもりだった。　だが先に奈津子が再びこちらに顔を向けた。　それは無表情とも言うべき、真顔であった。　そして、低くしっかりとした口調でこう言ったのだ。「アンタ……コンドーム、持ってるの？」　俊介が息を飲む。　言葉の真意は理解できなかった。　吸い込まれそうな黒い瞳で自分を見つめている姉。　俊介は反射的に立ち上がって拳を握り、奈津子を見下ろした。　ようやくして、「…持ってるよ」と、何気ないテイで言ってみせ、小走りでクローゼットに駆け寄る。　そして、クリーニングも出さずに中に掛けてある学ランの内ポケットから、ひと包みのコンドームを取り出した。　使う当てもないのに、見栄で携帯しているのは山田と中川も同じだ。　手にすると、また小走りで奈津子の元まで戻り、そのパッケージを小刻みに振りながら言った。「ほら……ひとつ…だけだけど」　すると奈津子は表情を変えず無言でベッドに横になり、布団を被った。　パジャマのズボンは床に落ちたままだ。　　髪の毛だけを覗かせて、布団の中から奈津子が言う。「電気…消して」「う…うん…え？」「……電気よ」「あ…うん」　俊介はまだ頭の中が整理できていない。　それでもなんとかリモコンスイッチで常夜灯モードに切り替えた。　だが、奈津子がさらに言う。「……真っ暗にして」「真っ暗に？　…わかった」　姉に言われるがまま従う弟。　しかし暗闇の中に俊介はポツンとひとり、立ち尽くしてしまう。　心臓がバクバクして気を失いそうだ。　自分はどう振舞えばいいのか決心がつかず、体が動かない。　すると、奈津子が弟を呼んだ。「早く…来て……」 <ゴクリッ>　　暗闇の中、エアコンの静かな風の音に混じり、俊介の生唾を飲む音が響いていた。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　……つづく
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2016年7月9日掲載
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