| 姉ちゃんは優等生 保留守人 作 |
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| １８． 『……件名……作品３……』 スクロールしている文字を見つめたとき、自分がまるで、恐怖に怯えるサイコパス映画の主人公であるかのような錯覚に陥った。 だが、事件は“銀幕”の中で起こっているのではない。 “現実”という現場で起こっているのだ…… そこに逃げるという選択肢はない。 悪意のある、謎の送信者に目を背けることなく、毅然と対峙する以外に真実を知る手立てはない。 できるだけ平常心を保ちながら、添付ファイルを開く……。 ……「出た……」と、俊介は他人事のように小さく声を発した。 それは、送られてきた画像が想定内のモノであり、自分は至って平静なのだと、自身に言い聞かせているつもりなのであろう。 表示された写真画像は、奈津子のメモリカードにデータ痕跡を残していた削除済み画像を、ＰＣソフトによって復元した“あの画像”と、ほぼ同じ物だった。 “ほぼ”というのには、わずかに違いがあったからで、同じアングルで数カット撮ったうちの別の一枚だと思われる。 ただ、その“わずかな違い”というのが強烈だ。 ――少し離して置かれた２台のベッドの隙間をまたぐようにして、左右の腕と脚を開いて四つん這いになっている少女。 上半身だけに白いセーラー服を纏い、まるで宙に浮いているような彼女は背をエビ反りにさせ、背後から狙われているレンズに向けて裸のお尻を高々と突き上げている―― 彼女が身に着けているのは、白い生地がベースの夏季用セーラー服。 その白い三本の細いラインが入った濃紺の襟と、丸見えになった彼女のお尻の穴が同一画面上にクローズアップされた構図は、俊介がノートPCに落とした復元画像と同じである。 復元画像との相違点は、彼女の薄茶褐色のアヌスの下に、ドス黒い肌の肉棒がヴァギナに突き刺さっている様子までを写り込こませている点だ。 男はベッドの隙間で直立したまま少女に挿入し、シャッターを切っている。太いペニスは少女のクレバスを限界にまで割り広げているようで、ヴァギナの色かたちを確認することは出来ない。 また、無慈悲なペニスは膣内にほぼ埋没しており、少女の黒々とした陰毛と、男の赤茶けた不潔そうな陰毛とが絡むように密着していた。 もはや芸術性が皆無のエロゲス画像に“作品”と名乗る資格はない。 自虐的であることを承知の上で、被写体の少女を奈津子、送信者を神崎だと仮定すると、神崎は別カメラで奈津子のエロ画像を盗撮しただけでなく、奈津子のケータイカメラデータまでを、何らかの方法により、自分の手元に収めていたことになる。 そして画像に写り込んだ、膣内に挿入されている巨大ペニスの主こそが、ゲス画像の送信者であり……。 全身の力が抜けていく。 貧血のような症状も感じる。 ケータイを手にしたままよろよろと歩き、ベッドへ倒れ込むように仰向けになった。 姉のことが心配でたまらない。 明るく活発で周囲からの信頼も高い姉、奈津子。 “女子力”の高さもさることながら、特に性に関して慎ましく振る舞うことは、彼女には当然のように身についていたはずの“たしなみ”だ。 姉のふたつ年上で、現在大学生の先輩との恋の噂もどうやら周りが作り上げたゴシップに過ぎない。 何につけ、判断を誤ることのない聡明な奈津子が、よりによって年下の神崎とあのような痴態を演じるはずがなかった。 それが俊介の、姉に対する確固たる“常識”でもあった。 ……が、今となっては “希望的観測”に格下げとなってしまった感がある。 ベッドに仰向けになっている俊介は、じっと“作品３”を見つめていた。 ＜この、肛門を丸出しにして挿入されている少女が、姉ちゃんだとしたら……＞ 現在の奈津子の境遇を深刻に案じているにも関わらず、俊介のペニスは不条理な勃起を始めていた。 （姉ちゃん……） 頭を振って邪推を遮る。 ……自分が直面している懸案に対し、現段階で一番手っ取り早い解決方法とは……。 それはまず、被写体の少女が奈津子ではないという確証を掴むことだ。 すなわち、昨日は冗談でしかなかった“肛紋鑑定”を実行に移すことこそが自分に課すべき至上命題となった。 昨日、あの時の段階では、俊介が奈津子の肛門を見ることができる可能性なんて、サマージャンボで１等が当たるくらいの確率に等しかった。 しかし、その状況は一夜にして大きく変わった。 宝くじを連番で５枚買った時に末等が当選する確率までに引き上げられた感じだ（嬉） ……もしかすれば、今晩にでも姉ちゃんの肛門を見ることができるかもしれない……。 そう考えていた俊介の勃起度は、結局、マックスに達していた。 （そうだ、コンドーム、買いに行かないと……） 問題は、今夜も姉とセックスができる雰囲気が生まれるのかどうかだ。 それに、是が非でも明るい部屋でヤりたい……。 そのためには、恥じらい深い奈津子が弟にすべてを見せる覚悟も必要だった。 今朝の奈津子の様子から判断すると、ハードルは高そうに思えてならないが……。 だが、今の俊介は決して悲観的ではない。 たとえ今夜、姉とセックスができなくても、或いは奈津子が明るい部屋での行為を拒んだとしても、第二の手段を選ぶ余裕があった。 奈津子が寝ている間にこっそり、かつ、堂々とパンツを脱がせばいいだけだ。 むしろその方がゆっくりと“鑑定”できるかもしれない。 その場合、うつむけに寝ていてくれると随分助かる。 奈津子と俊介は既に肉体を交わした仲良し姉弟だ。 例え、“任務”の途中でバレたとしても、笑ってごまかせる間柄になっている……。 ≪バリバリバリバリ……≫ ≪パフパフ！……≫ 外から聞こえてきた騒音に、俊介は思わず手で顔を覆った。 「あいつら……」 “バリバリ音”は中川が兄から譲り受けた、品の無いゲンチャリの排気音。中川は三人の中で真っ先に１６歳になり、免許を取ったばかりである。 そして“パフパフ音”は山田がセンスのないデコチャリに取り付けた、これまた品の無い手動パフパフホーンだった。 ……“招かれざる客” というのはあまりに失礼だが、 今の俊介には彼らと向き合う“体力”がない。 重い腰を上げ、ベランダに出て見おろすと、かの二人組は、それぞれの“マシーン”にまたがって、満面の笑みを浮かべながら手を振っていた。 憎めないヤツらではあるのだが、 「はぁぁぁ〜」 諦観の溜め息を抑えることは出来なかった。 元来、両親が不在がちな新堂邸は、彼らによる突然の襲撃を被ることが珍しくないのだ。 「…いきなり電車、降りちゃうんだからさ、びっくりしたぜ」 結局、数分後には俊介の部屋で、そんなダミ声を聴いていた。 「ホントに、麻雀やるの、あれだけ楽しみにしてたのにさ……」 こもった声も健在だ。 昨日、俊介とはぐれてからずっと音信不通だったのを心配して、朝っぱらから押しかけて来た二人。 まだ朝だとはいえ、盛夏の候、手土産のアイスバー――ガリガリ君――は結構イケる。 彼らなりの気遣いに免じて、一本あたりの単価は、この際、考えないでおこう。 だみ声が、 「あっ！ それよりさ、さっき駅前のコンビニで新堂先輩と会ったんだ」 こもった声も、 「そうそう。髪型が変わってたから、最初、全然わからなかったんだ。もうびっくりしてさ、気絶しそうなくらいカワイかった……あのオカッパ頭」 二人の会話が続く。 「だからあの髪型、ショートボブって言うんだってば、中川……」 「うん、ショート“ポブ”。 それでさ、なんでこんな所に“広瀬○ず”がいるのかよって、感じだったよ……」 「いや、“○ず”よりずっと可愛いって。アイツみたいにイケズっぽくねーだろーが、新堂先輩って」 「うんうん、確かに」 「でさ、俊介、聞いてくれよ。先輩がさぁ、『まぁ、あなたたち。夏休みになっても朝が早いのね。土日まで補習授業、頑張ってたのに……フフッ』って、俺たちに言ってくれたんだけど、その表情がさ、もう、ゲーノー人顔負けって感じ。コイツなんか、そのあとすぐトイレに駆け込んじゃってさ、マスかいてやんの！ だよな？ 中川……」 「マスって？ 俺がなに…書いたの？」 「だから中川、新堂先輩をネタにしてオナってたんだろ？」 「デヘヘヘヘ……バレました？」 「な…なんだよ、図星かよ」 「でも、本当に可愛い過ぎるよ、あの髪型……」 「ああ、そうだな……」 「あんな可愛い顔しててさ、誰かにクリトリス…触られたら、感じちゃってアンアン言っちゃうのかな」 「おうっ！、そりゃそうよ。見てみたいなぁ、新堂先輩のクリトリス……。きっと真珠みたいに綺麗なんだろうな」 「新堂先輩も、鏡なんかで、自分のクリトリス、見たりしたことあるのかなぁ……」 俊介は嫌な予感がした。 そろそろ止めに入った方がいいだろうと考える。 しかし、 「はぁ〜…俺さ……」と、今までのテンションとは打って変わって、中川が急にションボリした様子を見せたので、俊介はそのタイミングを逃してしまう。 そんな中川が思い悩んだように続けた。 「…俺……新堂先輩の……お尻の穴だったら……舐めてもいいよ」 「……○×▼♯◇●！」（→俊介） 「ああ、俺だって、全然平気さ。むしろ、喜んで舐めちゃうよ、新堂先輩の肛門なら……ヘヘヘヘ……」と、同調して、だみ声までが蛇足を添える。 「もういいって！！」 昨日に続き、やはり最後に俊介が声を荒げることになった。 この三人が揃うと、どうしても“しっちゃかめっちゃか”になってしまう。 （姉ちゃんのクリトリスか……） やはり俊介も、ちょっと想像してしまった。 それから山田と中川は、昨日俊介と別れてからのことを語った。 ……「それで何回オマエに電話しても通じねーからさ、急きょ、河本を呼ぶことにしたんだぜ」 山田たちは予定通り青島と雀荘で落ち合ったが、どうしても三人打ちをする気にはなれず、８組の河本を誘ったらしい。 河本の名前が出た時点で、俊介は一気に不快感を覚えた。 奈津子が神崎のマンションから出てきたのを見たと吹聴しているヤツである。 だが俊介は、 「へえ〜、河本って麻雀やるんだ」と、そんな不快感を二人には悟られないよう努めていた。 ＜そんなことは全然気にしていないよ＞ というポーズである。 「いやそれがさ、めっちゃ強いのよ、河本のヤツ」 「そうそう、レンチャンレンチャンで歯が立たないんだ。やってて面白くないんだよな」と、こもった声も参入した。 「ああ、くやしいけど一枚うわてだったな」 「一枚も二枚もだよ。だって、あの青島が全然笑ってなかったんだよ」 ゲーム機やPCで対戦するのは別として、ゲンブツの牌を打つヤツは珍しいといわれるご時世だ。 山田が体育の授業でしか顔を合わさない８組の河本と、麻雀つながりで急速に親交を深めていたとしても何ら不思議ではない。 山田が今まで俊介に彼を紹介することをためらっていた理由も察しが付く。奈津子の良からぬ情報をもっている河本と、弟である俊介を引き合わせるのはどうしても気が引けたのだろう。 親友であるが故の止む無き所業だ。 さて、ほとんど会話が頭に入っていなかった俊介だが、話題を変えた山田の言葉で目が覚める。 「…んでさ、河本のヤツが言うのよ、人違いだったって……」 俊介は、＜ほら、来た！＞とばかりにピンと来た。 しかし、わざとトボけて、 「……何のことだよ」 「いやさぁ、神崎のマンションから新堂先輩が出てきたって言ってたけど、人違いだったらしいんだ」 「へぇ〜」 俊介は二人が持ってきたコミック誌に集中しているフリをして、無関心を装った。 本当は心の中でガッツポーズをキメていたのだ。 小躍りしてしまいそうなのを必死で堪えてもいた。 中川が補足する。 「確かに新堂先輩にそっくりだったらしいんだけど、アイツ、実際に先輩を見たことがあったわけじゃないからね。アイツの姉ちゃんから新堂先輩のいろんな写真、見せてもらってるうちに気付いたらしいよ。新堂先輩の方が１００倍かわいいって。全く迷惑な話だよ、俊介を心配させて…………あっ、あっ、当たった！！ うぐっ……」 最後に中川はガリガリ君のスティックに“当たり”の文字を発見して、喉を詰まらせていた。 「別に心配なんかしてねーよ、最初から……」 といいながらも、俊介が読んでいるフリを続けているコミック誌のページをめくるペースが異様に速くなっていた。 重くのしかかっていた胸のつかえが取れた感じて、本当に心の中がパッと明るくなった。 部屋の中まで明るくなったような気さえする。 「いいなぁ、俊介！」 山田が断りもなく、突然俊介のベッドに飛び乗り、うつ伏せで大の字になった。 そして、腰を振りながら、 「ここで、こうやって、ショートボブの新堂先輩と、近親相姦…ヤってるんだろ？」 「ハハハハッ！ そうなのか？ 俊介、いいな」 スティックを舐め上げていた中川も調子に乗る。 俊介はボーッとおバカな山田の腰振りを眺めていた。 そこに、奈津子が脚を踏ん張って、全裸で尻を振っている映像を網膜に付け加える。 そして、一点を見つめるように無表情で答えた。 「そうだよ、ゆうべ…そこでヤッたよ、姉ちゃんと……」 瞬時に山田が腰の動きを止め、反射的に俊介の顔をみる。 中川も口をポカンと開けてフリーズしていた。 ここぞとばかりに俊介が、サラッと付け加える。 「姉ちゃんが『入・れ・て……』って言うからさ」 その数秒後、 「ガハハハハッ！……いいね俊介。なんかリアル過ぎ〜っ」 「アハハハハッ……俺、また勃ってきちゃったよ」 山田と中川の大爆笑が炸裂した。 俊介の言葉を額面通りに受け取る者は誰もいない。 いや、もし相姦経験者が居合わせていたら、わからない？ そのあとも、しばらくはグダグダと話が続き、最後に山田と中川が奈津子の部屋を見せてくれと駄々をこねた。これはいつものことであり、ルーティンとなっている。 部屋の中に入らないことを条件に、扉の外から数秒間、覗かせてやる。すると二人は精一杯深呼吸をして、ようやく納得するのである。 かつて山田から、奈津子の使用済み下着を５万円で譲ってくれと懇願されたことがあったが、１万円でもなく１０万円でもないところに、妙なリアリティを感じたものだ。 詰まる所、山田が今日も麻雀をやろうと誘ってきたが、適当な理由をつけて断った。 俊介だって麻雀がやりたくないわけではない。 しかし、コンドームを“面の割れていない”隣町まで買いに行かねばならないし、少しでも夏休みの課題を進めておかなければ、姉とセックスができる可能性も下がる一方だ。 申し訳なかったが、今、彼らとつるんでいる暇は無かった。 “ まだそんな時間だったのだ。 嵐のように二人が去ったあとも俊介は考えた。 神崎のマンションから出てきたのが奈津子ではなかったとしても、疑惑が晴れたわけではない。 昨日の朝、偶然見てしまった姉の受信メールとケータイのメモリカードの復元画像をどう説明すればいいのか。 “奈津子さんの携帯を使用” “作品を二人だけで鑑賞” “その場ですぐ削除” メールのキーワードが教えてくれる情報は奇しくも、――奈津子がヌードモデルとなり、神崎が奈津子のケータイで撮影し、それを作品と呼ぶ。 そして二人で鑑賞したあとは削除して流出を防ぐ―― という風に解釈するのが順当であるかのように思えてならない。 ただ、その推理にも矛盾はある。 モデルの少女は髪が長い。 もし奈津子の言っていた話が嘘でなければ、彼女は３時頃に髪を切っていたはずだ。 病院を出たあと、神崎は俊介たちとファミレスで一緒だったわけで、あれから髪を切る前の奈津子と“作品”を撮影するのには物理的に無理がある。 姉が嘘をついていないことを信じたい。 いずれにせよ“肛紋鑑定”を決行せずして俊介の不安は解消されそうになかった。 俊介は思い立ったようにPCを立ち上げ、価格ドットコムで小型監視カメラを調べてみた。 意外にも１万円以下で高性能な物が買えることを知って、強いムラムラ感が沸き起こる。 ベッドの足元側に置いてある、模型を飾った小さな棚を見つめ、ほくそ笑んだ。 “鑑定”方法をめぐり、第三の手段を思いついた。 俊介は立ち上がる。 外出の目的は二つ。 まず、コンドームを手に入れること。 あと一つは無論、小型監視カメラを購入することである！ ハンガーにぶら下げてあったデニムパンツを履き、あまり目立たない“無難なTシャツ”を選んで頭から被る。 部屋を出て真直ぐ玄関に向かい、白い 但し、ケータイを忘れたことに気づき、一旦、部屋に戻る……。 俊介はバス停に向かいながら、通学定期が利用できる範囲内にある、大型ドラッグストアをケータイで検索した。 そして、姉との性交を思い浮かべ、どうすれば変態と思われずに自然体で奈津子の肛門を観察できるかをシミュレーションしていた。 （普通に考えたら、バックでヤるだけで見れるよな……） でも、どうやってそんな体位に持ち込めばいいのだろう。 やっぱり、＜姉ちゃん、バックでヤろうよ＞……なんて、直接的に言えばよいものなのか。 “セックス若葉マーク”の俊介は悩んだ。 そもそも、恥じらい深い奈津子が四つん這いになってくれるかどうかが疑問だ。 そんな時こそ、第三の手段が有効になる。 ベッドの足元側にカメラを仕掛けておいて……、 「クーっ、クックックッ……」 もはや、自分がいやらしい笑い声を漏らしていることにも気づいていない。 歩いていると、ズボンの中で既に半勃起状態のペニスが衣服に擦れ、ビンビンと感じてしまう。 へっぴり腰になったり、お腹を前に突き出したり、スネークダンスをしながら歩いているような俊介だった……。 ……つづく |
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| 2016年8月6日掲載 |
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