姉ちゃんは優等生　保留守人 作
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４．

「いらっしゃいませ。４名様ですね」
（……えっ？）

　店に入るなり出迎えてくれた店員の言葉で俊介は思わず振り返った。
　山田と中川のその後ろ、そこには紛れもなく神崎の姿がある。
　ポケットに手を突っ込み、ダルそうな態度は気に入らないが、奈津子と神崎が、二人きりにならなかったことの安堵感の方が大きかった。
「あ…はい、４人です」
　
　すぐさま俊介たちは窓際の６人席を案内され、誰がどう取り決めすることもなく、無言で４人が席についた。
　テーブルを挟んで対面のベンチシートのほぼ中央に神崎が腰掛ける。
　こちら側は窓際から山田、俊介、そして中川が詰めて座る。
　本来なら最後の中川が向こう側、神崎の隣に座ればいいようなものだが、心情を察するので俊介も何も言えなかった。
　ただ、こんな時にもヤツとの力関係が如実に表われているようで面白くはない。

　一通りのオーダーが済むと妙な沈黙がその場を支配した。
　気の合ういつもの３人だけなら、すぐに何かしらを話題にして喋り始めていただろう。
　或いは、例え沈黙が続いたとしても全く意に介さなかったと思う。
　だが神崎が居るというだけで、空気が張り詰めたようになっている。
　それでも俊介は神崎の出方を見たいと思い、意識して何も話さなかった。
　だが、やはりと言うべきか、沈黙を破ったのはダミ声の山田だった。

「ところで神崎君てさ、今も誰かと付き合ってるの？」
「え？　まあな」
「もう、その子とはエッチもしたの？」
（ちっ、何を聞いてるんだ、山田のバカ！）
　俊介は心の声を伝えるため、右ひじで山田を突き、言動をたしなめた。
　だが、
「付き合うって意味は、そういうことじゃないの？
　まあ、逆に付き合ってなくてもヤるときはヤるけどさ……」と、何のためらいもなくシャアシャアと言ってのけた神崎に一層の不快感を覚えた。

　さらに、こもった声の中川が、
「いいな、神崎君。まだ高一なのに女の体を知り尽くしてるみたいだね」と、付け加える。
（お前も言うか？　このアホ！）
　俊介が心で叫んでいると、
「フン」と、神崎が鼻で笑う。

　注文したドリンクがテーブルに届いてからも、誰と誰が付き合いだしたとか別れたとか、取るに足らない話題でその場をしのいでいるという状況だった。
　相変わらず神崎も『フン』だとか『ハッ？』だとか、俊介たちを完全に見下したような話し方をしている。

『もう止めようぜ』と、俊介が言おうと思った時、ダミ声が余計なことを聞いた。

「ねえねえ神崎君、年上の女の人とは付き合ったことある？」
「あー、今がそうかな」
「すげー！　ちなみに、いくつ年上なの？　その人」
「２こ。高三だよ」
「もしかして同じ名新学院の先輩とか？」
「フンっ……」
　神崎は再び、ひとを小馬鹿にしたように鼻を鳴らし、答えを曖昧にした。

　こもった声が、
「……もうその人とは、しちゃったの？」と……。

「だから言ってるじゃないか、さっきから……付き合ってるって」
「やっぱ、すんげー！　神崎君なら女の子とエッチする時のテクニックもすごいんだろうね」
「おい、止めろってば中川」

　俊介は中川を制したが、神崎はテーブルに肘を付き、身を前に乗り出してドスの利いた声を低く響かせた。
「教えてやろうか？　そん時のこと……」

「うんうん！　お願いしますよ神崎君！」

　神崎は少し周囲を見回してから、一段と声をひそめた。
「放課後、ほとんど誰も出入りしない特別教科室ばっかりの校舎があるんだけど、そこの３階の教室へ呼び出したんだ。ちょっと打ち合わせすることがあったんでね」
「学校でヤッったんすか？！」
　ダミ声が思わず大きな声を出し、慌てて自分の口を手で覆った。

「で、話が終わって教室を出るとき、後ろから抱き付いてやったんだ」
「い…いきなり…ですか？　キャーとか言われなかったの？」
「勿論びっくりはしてたさ。でもその前から、いろいろと伏線があったから、案外期待してたかも……相手もね。
　だって誰もいないってわかってる所に呼び出されて、のこのこ来たんだぜ」
「うんうん、それでそれで？」
「まず、『キスしよ』って耳元で言ってやったんだ、抱き付いたまま。
　最初は嫌がるフリをしてたけど、結局その子、自分で俺の方に向き直って目を閉じたわけ。
　意味わかる？　
　そうなりゃ、もう頂きだよね」
「すごいすごい！　さすがプレイボーイの神崎君」

「最初から舌を突っ込んで、口の中をグチュグチュかき回してやったよ。
　さすがにその子、ディープなやつは慣れてなかったみたいで、終わった後、しばらく呆然としてたな。
　ま、そういうとこが可愛いんだけどね。
　で、うつむいたまま『膝がガクガクしてる』って言うから、もう一度後ろから優しく抱きしめてやったのよ……しばらくわね」
　そこで一度、神崎はアイスコーヒーのストローに口を付けた。

　山田と中川の耳は完全に“ダンボ状態”だ。
　おまけに目をギラギラとさせ興奮状態にある。
　俊介でさえ、心に何か引っかかるものを感じながらも神崎の話に引き込まれつつあった。

「それでさりげなく……って言ったら変だけど、セーラー服の上からオッパイを鷲掴みにしてやったのさ。
　女ってのは、何でも後ろからやってやるほうが効き目があるんだぜ」

「きたきたーっ！」と、
　中川が手拍子をひとつ打って叫んだ。

「その子のビックリした顔が忘れられないね。
　でも意外とそういう時って、女は声が出せないもんなんだ。
　それで、不安げに振り向いてる顔に唇を近づけてやると、またあっさりキスを受け入れるんだよな、これがまた」

　山田が絵に描いたように生唾をゴクリと飲み込む音をたてたから、妙に可笑しかった。

「唇が離れないように右手で女の頭を押さえながら左手をセーラー服の中に潜り込ませるだろ、それで一気にブラジャーを捲り上げてやったよ。服の中でね……
　状況わかる？
　俺は後ろから抱き付いているんだぜ。
　女はもがいて離れようとするけど逃がしてやらな〜い……」
「なんか…ちょっと…レイプみたい」
「失敬だな。でも最初はちょっと強引にいかないとだめだな。
　特に年上女はプライドが高いから」
「なるほど、そうなんですね」
「そんで、左手の指先で乳首をコリコリッてやるとビクッと仰け反っちゃうわけ、その子が」
「はい……！」
「で、ついに泣きそうな声で言うわけよ。『ここじゃ、いや』ってね」

　俊介を挟んで山田と中川が驚いた表情で顔を向け合っている。

「ま、その言葉が、オチたって瞬間だね。
　男冥利に尽きるだろ？」
「なんか、すげぇーリアルだよ神崎君！」
「だから、これはホントの話だって……。
　…で、もちろん俺はそこで止めるつもりないから、次のステップに進めるわけ」
「うんうん！」

「右腕でしっかり体を抑えといて、左手でスカートのサイドファスナーをスッと下ろすだろ？
　フックを摘むようにして外したらスカートがストーンと床に落ちるわけ」
「……！」
「で、『パンツの中も見せて』って、わざと聞いてやったのよ。
　羞恥心を煽るためにね。
　当然嫌がるけど後ろから左手を前に回してパンツのゴムに親指を引っ掛けるだろ？
　そんでビヨーンと前のほうに引き伸ばしてやるのさ。
　そしたら肩越しからその子のモッサモサのマン毛が丸見えなわけ。
　それをわざとらしく『可愛い。いっぱい生えてるね』って言ってやったよ、ハハハハハ…」

　左隣で“ジューッ、ジューッ”と大きな音が聞こえた。
　中川が興奮のあまり、オレンジジュースが空になっているのに気が付かないのか、何度もストローで吸い続けている。

「あとはパンツを膝までずらしたら、今度は左手で体を押さえといて右手を女のケツの下から股の間に入れてやるの。それで指をこういう風にするだろ……」と、神崎は手振りを交えて続ける。

「……人差し指と薬指でヴァギナ開いて、そんで中指でチョンチョンとクリトリスを刺激してやるんだ。
　で、頃合を見計らって、その中指をズボッと一気に膣の中に入れて、こんな風に……マン汁かき出すように動かしてやるのさ」
　そう言って、実にいやらしそうな指の動きを宙で見せた。

「女の人は…声とか…出さないの？……」
　おずおずと山田が聞く。

「ああ、『いや、やめて』とか、口では言ってるさ。
　でも結局、立ったまま腰を前後に振り出すんだぜ。その子……
　想像してみろよ。
　西日が差してる静かな教室で、白いケツ丸出しで腰を振ってんだぜ。
　たぶん女は、それがどんだけエロい光景か自分でわかってないんだな。
　そのうち“グチュグチュ”って音も聞こえてくるし」

「あ、俺、もうダメ。鼻血出そう……」

「で、そうなると、ほとんどの女がこう言うんだ。
　半泣きで、『わたしだけ、恥ずかしい……』ってね」
「そ……そのひとも言ったんですか？」

　神崎はニヤけた口元で言った。
「ああ、言った。それで俺は一旦、股から手を抜いて女の目の前に見せてやったよ。
　ベトベトになってる俺の指先をね。
　指と指の間に糸、引いててさ、おまけにプーンと生臭いニオイがしてくるんだ」

『ふぉーっ』と興奮状態で中川が息を吸い込む。
　本当に山田と中川はわかりやすい。
　だから麻雀も弱いんだと俊介は思った。

「女は何も言えなくてうつむくだろ？
　俺は女のケツを見下ろしてたんだけど、いいケツしてるのよ、これがまた。
　だからお尻をパンと一発たたいてやった。いい音したぜ。
　そしたら涙目で振り返って、頬っペタをプゥって膨らませてやんの。
　それも可愛いから、ますます意地悪したくなってさ」
　再びストローに口をつける神崎。
「……で、どうしたの？　神崎君」

　神崎はおもむろに右手の中指だけを立てた。
「また左腕で上半身を捕まえといてさ、この指を尻の割れ目に差し込んでやったのさ」
「お…お尻…ですか？……」
「そしたらやっぱりっていうか、どんな女でも『そこはダメ』って言うんだな。
　だから『大丈夫、触るだけだから』とか言っちゃってさ、女の肛門に指先の指紋がある所を押し当てて、グリグリと揉みほぐしてやるんだよ、グリグリとね。
　でもケツの穴に指、突っ込んじゃだめだぞ。
　それはもっと後になってからだ。
　指がめり込まない程度にやるんだ、微妙な力加減でな……」

　神崎はそこで突き立てた中指を自分の鼻先にかざし、クンクンとニオイを嗅ぐ仕草をして、意味深な笑みを浮かべた。

「ガ…ガハハ…ハ」
　無理に笑おうとした山田の声も引きつっている。

「で、女は必死にケツをクネクネさせて逃げようともがいてるからさ、パッと腕を離してやったんだ。
　ま、それも計算通りなんだけど……
　そしたらさ、フラフラってよろけちゃって、おもけにパンツが足首までずり落ちてたもんだから、脚がもつれて最後はマングリ状態で倒れてやんの」
「マングリ状態？」
「そう、自分でマングリ返し、やってんのさ。こっちからは全部丸見えってわけ」
「……全部……見えちゃったんだ」
「かわいそうに女が床に横座りでシクシク泣きだしたからさ、『大丈夫？』って優しく声かけてから、お姫様だっこして机の上に寝かせてやったよ。
　膝から下の脚がブラーンとした感じでね。
　女は両手で股を隠してたけど、もう抵抗しなかった。だから俺は脚をＭ字に開いてやった。
　皮靴履いたままの足首に白いパンツが絡まってたよ」
「Ｍ字開脚ですね！」
「ホント、そんなエロビデオみたいなシーン……信じられないよ」

「俺がズボンとパンツ下ろしたら、女はマン毛を隠してた両手で、今度は顔を隠してさ。
　妙に男心を擽るんだな、そういう仕草って。エロ可愛いっていうか……」
「いいな神崎君は。そんな女子先輩とエッチできるなんて」

　俊介は中学３年の時行った修学旅行の記憶がふと脳裏に浮かんだ。
　それも入浴時の事である。
　ほとんどの男子がタオルで前を隠していたのにかかわらず、神崎はタオルを肩に掛け、堂々と大浴場を闊歩しいた。そのペニスと睾丸のでかさと言ったら半端なく、もし勃起したらどこまで大きくなるんだろうと、男の俊介でさえ心配になったほどだった。
　そんな神崎のペニスの餌食になった名新学院の３年生が本当にいるのだろうか。
　元々神崎はホラ吹きだという噂もある。
　だから俊介は神崎の話に対しては終始、疑心暗鬼であった。

　山田が聞く。
「……それで、入れたんですか？　そこで」

「ああ、勿論さ。股開いても抵抗しないんだぜ。
　入れてくださいって言ってるようなもんだから、逆に失礼だろ？　ここでやらなきゃ」
「でも、コンドームとか……」
「そんなの要らないよ。有無を言わせず生でズボッとぶち込んでやるのさ。
　女は必死で口押さえながらアンアン声出し始めるけど、突然、我に返って真顔で言うんだ、『外に出してね』って。
　女ってそういうところはちゃっかりしてるもんなんだよ」
「へぇ〜」
「それでちゃんと、外に出したんですか？」
「ああ、と言っても女の口の中にだけどね。
　最高に気持ち良かったよ、あの時は。
　本当にヤりたくて仕方ない女だったからな。
　ま、それが年上女との初体験ってわけ。どう？　面白かった？」
「すごいです。神崎君」
「その人の写真とか持ってないの？」
「あ、それは見せられない。悪いけど」
「そうですよね」
「あっ、俺、そろそろ行くわ」

　突然神崎は腕時計に目をやり、
「ほんじゃ、ごちそうさん……」と、俊介に言い残すと嵐のように立ち去っていった。

　あまりに素早い神崎の行動に、ポツンと残された３人はあっけにとられていた。

　ようやくして山田が、
「俺たちもそろそろ行きますか。青島も待ってることだし」と、両手で円を描き、麻雀パイを混ぜる仕草をした。
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2014年11月1日掲載
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