姉ちゃんは優等生


姉ちゃんは優等生　保留守人作
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８．　シャンプーで洗髪したことは間違いないが、そのあと体を洗ったかどうかは覚えていない。　シャワーを浴びる前、自分が汚した姉のパンティをしっかり水洗いしたことだけは記憶している。　浴室から自室に戻った俊介は、仰向けでベッドへ倒れこんだ。　Tシャツにトランクスといういでたちで大の字になる。　壁掛けのデジタル時計が“PM１１：０５”を示しているが、その分表示が“０６”になる瞬間を見ていた。　時計が掛かっている机側の壁を見つめる俊介。　その分厚いコンクリートの壁を隔てた向こうは奈津子の部屋だ。　いつもの姉ならまだ受験勉強の真っ最中のはずだが、今はどうしているだろう。　ショックで勉強も手につかないかもしれない。　自分はどうかと言えば、恥ずかしいところを見られてしまった情けなさが、ただただ込み上げてくるのである。　かつて級友のひとりが、母親に“現場”を見られたときの体験談を話していたのを思い出した。　ソイツはその時の状況や、その後の気まずさを実に面白おかしく語っていて、皆して腹を抱えて笑ったのを覚えている。　その時は、まさか自分がそんなピエロを演じることになるとは思いもしなかった。　自分の立場で考えると、とても笑える心境には至らない。　一方で、なぜか奈津子に対する腹立たしさのような、或いは対抗心のような感情も沸いてくるのだ。　姉には寸分の非も無いかもしれない。　でも自分は死ぬほど恥ずかしい思いをしたのだからその仕返しに、何か奈津子の恥ずかしいところを覗いてやりたいというジコチューな感情だ。　　“リベンジ”の理想形を考えるなら奈津子のオナニーシーンを覗き見すること……。　だがその前に、世の年頃の女子高生たちがマスターベーションをするのかどうかという疑問が立ち塞がる。自分たち男子の殆どが毎夜“自家発電”を行っていることは推測できるが、女子たちがヤっているというのは噂ですら耳にしたことがない。　ましてや理性の塊のような姉である。　正直、あり得ないと心底で思うのだ。　あまりにも非現実的な企みに自分で失笑する俊介だった。　現実的に俊介が出来ることといえば、せいぜい物陰に隠れ、奈津子が脱衣場で裸になった頃合を見計らい、知らないフリを装って“突入”することぐらいだろう。　素っ裸な姉の姿くらいは見れるかもしれない。　奈津子は悲鳴をあげるだろうが、少しは溜飲を下げることができようか。　でも俊介にはわかっている。　そんな卑怯なマネまでして、自分が奈津子を傷つけることがないことを……。　実際には、弟のマスターベーションを目撃してしまった姉が大きな心の傷を負っていないかを心配する気持ちが一番大きかったのだ。　勇気を出して謝りに行くべきかもしれない。　本当はそうしたい。　でも気まずくて恥ずかしい。　やはり素直にはなれないでいる弟。　堂々巡りの思考回路は解決の糸口を見出してはくれなかった。　そんな時、また『作品１』のことが頭を過ぎった。　枕元に放置していたケータイを手に取り、画像を開く。　何度見ても、強烈な刺激を受ける写真である。　そしてどうしても頭の中では撮影の状況設定が、最も恐れているはずの、或る方向へと流れていってしまうのだ。　そう……女子生徒が奈津子であり、男が神崎であるというキャスティングだ。　奈津子が神崎に抱きかかえられ、下着を身に付けていない下半身で脚を強制的にＭの字に開脚されている。　奈津子は秘所を隠すことも忘れ、恥ずかしさのあまり両手で自分の顔を覆っているのだ。　すると神崎にはどのような光景が映っているだろうか。　神崎は奈津子の肩越しから、下着を纏っていない股間部を見下ろすことができるはずだ。　下腹部に生い茂る奈津子の陰毛。　もしかすれば男性器を迎え入れるための淫裂さえ露になっているかもしれない……。　不気味な不安に襲われているのとは裏腹に、俊介は無意識の内にパンツの中に手を忍ばせ、勃起したペニスを握り締めていた。　すると……、「うわぁちゃっ！！」　左手で持っていたケータイを咄嗟に投げ捨てていた。　マナーモードのケータイが《ビビッ、ビビッ》と短く、小刻みに震えたのだ。　俊介は瞬時にそれがメールの着信だとわかったが、タイミングがタイミングだっただけに自分でも滑稽に思えるほど大きく驚いてしまったのだ。　枕元に落ちたケータイを再び拾い上げ、画面を見る。『……着信メール……1件……あり……件名……作品２……』　文字の羅列が横方向にスクロールしている。（か…勘弁……してよ……）　それが俊介の偽らざる心境だった。　『作品１』というからには『２』もあるかもしれないとは薄々思っていたことだが、実際送りつけられると狼狽してしまう。　そしてこの時点で1回目の『作品１』も、何かの間違いで偶然送られてきたものではなく、意図的に俊介に送られてきたものだと考えるのが妥当だろう。　こうなったら添付ファイルは開くしかない。　俊介は覚悟して受信ボタンとクリップのアイコンを続けて押す。　映し出された画像はやはり息を呑むような写真だった。　カメラの視点は『作品１』とほぼ同じである。　違っているのは被写体である人物の位置とポーズだけだ。　上半身に白い長袖のセーラー服を着た女子生徒が、２台のベッドを跨ぐようにして、頭を手前に四つん這いになっているところを正面から撮影されている。　両サイドのベッドにそれぞれ左右の肘と膝を付き、あたかも宙に浮いて四つん這いになっているように見えるのだ。　頭を下げている女子生徒――恐らく少女――の三つ編みにした髪が２本、カーペットの床スレスレまでに垂れ下がっている。　左側のベッドに置かれたスカートとショーツもそのままで、少女は大胆にも背を反らすようにして、高々とお尻を突き上げている。　したがって、少女の白い肌をしたお尻の山がハート型の上部分のように見えているのだ。　そしてやはりエロさを演出するためのエッセンスなのか、両サイドのベッド上にある少女の足先は、白い靴下と黒い革靴を履いたままだった。　さらに、撮影しているカメラのアングルが、少女の頭と同じ高さであるためか、逞しいほどに感じる白いふとももがエロチックに映えており、とても肉欲をそそられる迫力ある映像となっている。　しかし、この画像にパンチが効いているのはそれだけではない。　驚くべきは大胆なポーズをとる少女のすぐ後方、ベッドとベッドの隙間には、例の白いカッターシャツに黒いズボンを履いた人物――恐らくは少年――が立っており、胸元でピンク色のケータイを構えているシチュエーションだ。　この『作品２』は、男なら誰しもその少年の視点に立ってみたいと思わずにはいられない構図になっている。　上半身と足元に女子高生としての清純さを演出している少女が、ケータイをカメラ代わりに構えた少年の目の前に、性器はおろかお尻の穴までを突き出すように丸出しにしている状況はあまりにもショッキングだ。　考えてみれば肛門は性器とは違い、男女平等に備わった排泄器官である。　それでいて男の自分でさえ、異性に見られるのは絶対に耐えられないと思うほど恥ずかしい部位、いわば“性的急所”であると俊介は感じる。　被写体の少女はどんな心境でこのようなポーズをとっているのだろうか。　セーラー服を冒涜するようなヌード写真だが、無責任な性的興奮だけは打ち消すことができなかった。　ただ、画像は少年の肩付近で途切れており、男女とも人物が誰であるかを特定できないようにはなっている。　だがここにも俊介を奈落の底に突き落とすかのような致命的アイテムは存在していた。　それは少年が構えている薄いピンク色のケータイである。　奈津子がもっている機種と“ドンピシャ”なのだ。　すなわち、この少女が奈津子であり、カメラを構えた少年が神崎であるという仮説が成り立ってしまうのである。　俊介が頭に描く最悪のシナリオはこうだ…… 　……既に肉体関係にあった神崎が奈津子にヌード写真を撮らせて欲しいと要求する。　しかし神崎に画像を持ち歩かれたり流出することを恐れて当然奈津子はそれを拒否をする。　どうしても写真にとってみたい神崎が、奈津子のケータイで撮影することを提案する。　撮影した画像をその場で見たらすぐ削除すると言えば奈津子も納得するかもしれない。　だが撮影現場には奈津子の知らない隠しカメラも備えられており、遠隔操作によってそのシャッターが切られているのである……。　俊介が今朝見た受信メールの送り主が神崎だとすれば、あまりにもそのシナリオが現実味を帯びてくるではないか。　しかもそんな危険なヌード画像が奈津子のケータイデータに留まらず、撮影者の手中にもあるということだ。　しかし、しかし、である……。「……あぁぁぁーっ！　くそーっ！」　俊介は頭をかきむしった。　まずもって奈津子が年下の神崎に体を許すわけがない。　百歩譲って、いや一千万歩譲って神崎と肉体関係に陥っていたとしても　賢明な姉がそんな破廉恥なポーズをカメラに収めるような遊びをするわけがない。　……突然、（あれ？　頭がフワフワする……）　寝転びながら俊介はそう思った。（……気のせい？）　きっと、不安と興奮の為、或いは寝不足が祟ったのだろう。　俊介は胸に手を当て、慎重に自分の体調に異変がないかを確認する。《ドバーン！》　大きな音とともに部屋の扉が勢いよく開いた。　驚きのあまり、ベッド上で上半身が反射的に起き上がる。「俊介っ！　大丈夫？！」　パジャマ姿でドデカい参考書を胸に抱えた奈津子が、血の気を失いつつも俊介の部屋に乱入してきていた。「え？！　え？　何が？……」　どうみても大丈夫じゃないのは奈津子の方だと俊介は思った。
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2014年11月22日掲載
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